【症例紹介】お口全体の総合的な歯科治療(インプラント・歯周再生・全顎矯正・審美)

【症例紹介】60代女性:オープンバイト(開咬)を伴う崩壊した咬合の全顎的な再構築
「左上の歯がない部分にインプラントを入れたい」という主訴でご来院された患者様の症例です。 精密検査の結果、単に欠損部を補うだけでは解決できない「根本的な噛み合わせの問題」が判明したため、矯正治療を含む全顎的な治療(フルマウスリコンストラクション)を行いました。
1. 初診時の状態と診断
【当院の診断ポイント:オープンバイト(開咬)による噛み合わせの崩壊】
患者様は「左上の欠損部にインプラントを入れたい」というご希望でしたが、当院で行った精密検査の結果、お口全体の健康を守るために、まず解決すべき「根本的な問題」が判明しました。
それが「オープンバイト(開咬)」です。
■図解:オープンバイト(開咬)が奥歯を壊す仕組み
」によって、奥歯にどのような過重な力がかかり、歯周病や歯の破折リスクが高まる-640x350.jpeg)
上下の前歯が噛み合わない状態である「オープンバイト(開咬)」は、単に見かけの問題ではありません。この図のように、医学的に非常に重大なリスクを抱えています。
正常な噛み合わせ(左): 前歯と奥歯で、噛む力をバランスよく支えています。
オープンバイト(中): 前歯が当たらず、すべての噛む力が奥歯だけに集中してしまいます。
その結果、奥歯には「過重な負担」がかかり続け、図の右側にあるような2つの大きなリスクを招きます。
歯周病リスクの増大: 集中した力が骨に伝わり、歯周病の進行(骨の吸収)を加速させ、抜歯のリスクを高めます。
歯の破折リスクの増大: 歯そのものが負担に耐えきれず、欠けたり折れたりしやすくなります。
この患者様の場合も、左下の奥歯がすでに重度歯周病で保存が危ぶまれる状態でしたが、その根本原因はこのオープンバイトによる奥歯への過重負担にありました。
もし、この問題を放置したまま、ご希望の場所にインプラントだけを埋めていたら、数年後にインプラントや他の健康な歯も、この過重な負担によって壊れてしまっていた可能性が非常に高いと診断しました。
そのため、当院では「欠損部を補う(インプラント)」だけでなく、噛み合わせの土台を根本から立て直す「全顎的な治療」が必要不可欠であると結論づけました。


2. 治療計画のポイント
「あえてインプラントをしない」という選択
主訴であった左上の欠損部については、インプラントではなく**「矯正治療」**によってご自身の奥歯を前に移動させることでスペースを閉じる計画としました。これにより、異物を入れずにご自身の天然歯だけで歯列を回復させています。
オープンバイトの根本改善
最大の課題であるオープンバイトを矯正で改善。前歯が正しく噛み合うことで、奥歯への過度な負担を分散させ、お口全体の長期安定を図りました。
3. 治療内容の詳細
| 治療カテゴリー | 内容 |
|---|---|
| 全顎矯正治療 | ワイヤー装置を用い、オープンバイトを改善して前歯の接触を確立。左上の欠損スペースも矯正による歯体移動で閉鎖しました。 |
| インプラント治療 | 右下顎の欠損部に対し2本のインプラントを埋入。骨が薄い箇所には骨移植(GBR)を行い、土台を強固にしました。 |
| 歯周再生療法 | 歯周病が進行していた左下第2大臼歯に対し、エムドゲインおよび骨移植を併用した再生療法を行い、抜歯を回避しました。 |
| 精密審美修復 | 経年劣化した既存の被せ物や変色歯に対し、高強度かつ天然歯のように美しいジルコニアクラウンを計18本装着しました。 |
〜一生モノの噛み合わせを創るステップ〜
本症例では、「ただ歯を入れる」のではなく、将来にわたって機能するお口の環境を作るため、約5年5ヶ月(通院約140回)をかけて以下のステップで計画的に治療を進めました。
STEP 1
約1年
OHI(正しいブラッシングの指導)、スケーリング・SRP(歯石・感染物質の除去)、むし歯治療、根管治療(神経の治療)
建築でいう「地盤固め」の期間です。お口の中の細菌を減らし、炎症をコントロールしなければ、この後のインプラントや外科治療は成功しません。まずは1年かけて徹底的にクリーンな土台を作り、再評価を行います。
STEP 2
【左下】エムドゲインと骨移植を用いた歯周再生療法
【右下】骨造成を伴うインプラント埋入、4ヶ月後の2次手術(遊離歯肉移植術)
重度の歯周病によって溶けてしまった骨や歯茎を再生させ、ご自身の歯の寿命を延ばします。また、インプラントを長持ちさせるために不足している骨を補い、丈夫な歯茎を移植して強固な土台を構築しました。
STEP 3
約2年6ヶ月
ワイヤーを用いた矯正治療(再生療法から10ヶ月後に開始)
奥歯にすべての負担が集中してしまう原因であった「オープンバイト(開咬)」を改善します。前歯が正しく噛み合い、奥歯を守る「理想的な噛み合わせのバランス」を構築するための、本症例における最も重要な工程です。
STEP 4
ジルコニアクラウン等による被せ物の装着
矯正治療で整えた噛み合わせのバランスに合わせ、経年劣化した被せ物などを、耐久性と審美性に優れた材質(ジルコニア)で最終的に修復します。ミリ単位の調整を行い、機能面・審美面を完成させます。
GOAL
現在〜
担当歯科衛生士による定期的なプロフェッショナルケア
5年半かけて再構築したお口の環境を、10年、20年と長持ちさせるためのフェーズです。現在も定期的に通院いただき、良い状態を維持しています。
4. 治療結果・データ


- 治療期間: 約5年5ヶ月
- 通院回数: 約140回
- 治療費用(税込): 総額 約3,883,000円
- 矯正治療:715,000円
- インプラント(2本):1,254,000円(埋入、骨移植、二次手術、上部構造含む)
- 歯周再生療法:132,000円
- ジルコニアクラウン(18本):1,782,000円
- ※本症例はすべて自由診療(保険適用外)です。
- ※費用は治療当時の当院の基準であり、現在の費用や患者様のお口の状態により変動します。
5. 歯科医師からのコメント
当院の包括的歯科治療における最大のテーマは、**「壊れない噛み合わせの器(土台)を作ること」**にあります。
初診時、患者様は「歯がない部分にインプラントを入れたい」とご希望されていました。しかし精密検査の結果、前歯が噛み合わず奥歯にすべての負担が集中してしまう「オープンバイト(開咬)」という、お口全体の根本的な問題があることがわかりました。
もし、この噛み合わせの不均衡を残したまま部分的なインプラント治療を行っていた場合、過度な負担によって、せっかく入れたインプラントやご自身の健康な歯が、将来的にダメージを受けてしまうリスクが非常に高い状態でした。
そのため当院では、欠損部だけを診るのではなく、お口全体のバランスを整える全顎的な治療計画をご提案いたしました。約5年5ヶ月という長い治療期間となりましたが、患者様と二人三脚で治療を進めた結果、前歯が機能し奥歯を守るという「理想的な噛み合わせ(相互保護咬合)」を再構築することができました。
一時的な機能回復ではなく、10年、20年先も美味しくお食事を楽しんでいただくための土台づくりこそが、当院の大切にしている診療理念です。
6. 主なリスク・副作用
- 矯正治療: 装置装着時の痛みや違和感、発音への影響。清掃性低下による虫歯・歯周病リスク。歯根吸収や歯肉退縮の可能性。保定装置(リテーナー)未装着による後戻り。
- 外科手術(インプラント・歯周外科等): 術後の腫れ、痛み、出血、内出血の可能性。清掃不良によるインプラント周囲炎のリスク。骨結合や再生が想定通りに進まない可能性。
- 審美歯科(ジルコニア): 健康な歯を削る必要性(状況により神経処置が必要)。強い衝撃や極度の食いしばりによる極稀な破損リスク。