お口の悩み コラム

なぜ気づかない?静かに進行する「隠れ虫歯」のメカニズムと早期発見・予防の秘訣

2025.07.10

忍び寄る「隠れ虫歯」の恐怖:なぜ痛みがないのに危険なのか?

「虫歯って、ズキズキ痛むものだよね?」そう思っていませんか?多くの人が、虫歯には必ず痛みやしみといった自覚症状が伴うと考えています。もちろん、そういった症状が出る虫歯も多いのですが、実は、痛みがないまま進行する虫歯が存在します。これこそが、今回テーマにする**「隠れ虫歯」**です。

隠れ虫歯は、その名の通り、目に見えにくく、かつ痛みを伴わないため、気づかないうちに進行してしまう非常に厄介な存在です。まるで静かに侵食する「サイレントキラー」のように、あなたの歯の健康を蝕んでいきます。痛みという「警報」が鳴らないため、私たちはその存在に気づかず、気づいた時には手遅れになっているケースも少なくありません。

なぜ痛みがないと危険なのでしょうか?それは、痛みが虫歯の進行を知らせる重要なサインだからです。このサインが出ない隠れ虫歯は、放置される期間が長くなりがちです。

虫歯が進行し、歯の表面にある硬いエナメル質を越えて、神経に近い象牙質、さらには歯の神経(歯髄)にまで達すると、通常は激しい痛みを伴います。しかし、隠れ虫歯の場合、この神経に達するまで、あるいは神経が炎症を起こして壊死し始めるまで、ほとんど痛みを感じないことがあります。

その結果、発見が遅れ、最終的には抜歯せざるを得なくなったり、根管治療という時間も費用もかかる大がかりな治療が必要になったりします。実際、虫歯が進行するほど治療にかかる費用や期間が増加し、最終的な歯の保存が難しくなることは、多くの研究で示唆されています。例えば、日本歯科保存学会のガイドラインでは、早期発見・早期治療の重要性が強調されています [1]。

また、重症化した虫歯は、口の中だけでなく、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。虫歯菌が血管を通じて全身に広がり、心臓病や糖尿病などのリスクを高める可能性も指摘されており [2]、単なる口腔内の問題にとどまらない深刻さがあるのです。


知っておきたい!「隠れ虫歯」が静かに進行するメカニズム

「なぜ隠れ虫歯は痛みがないまま進むの?」この疑問を解く鍵は、虫歯の進行段階にあります。虫歯は、エナメル質、象牙質、そして歯髄(神経)と段階的に深く進行していきます。

虫歯の進行段階と「痛みなし」のメカニズム

  1. C1(エナメル質の虫歯): 歯の最も外側を覆う硬いエナメル質は、体の中で最も硬い組織であり、神経が通っていません。そのため、虫歯がこの層にとどまっている初期段階では、ほとんど痛みを感じることはありません。見た目では、歯の表面が白く濁ったり、ごくわずかに茶色や黒っぽく変色したりする程度です。この段階であれば、削る必要がなく、フッ素塗布などで再石灰化を促し、自然治癒を期待できるケースも少なくありません。
  2. C2(象牙質の虫歯): 虫歯がエナメル質を突破し、その下の象牙質にまで達した段階です。象牙質には、歯の神経へとつながる無数の象牙細管が存在します。冷たいものや甘いものが一時的に「しみる」といった症状が出始めるのがこの時期ですが、虫歯の穴が小さかったり、進行が非常にゆっくりだったりすると、**自覚症状がほとんど出ないことも珍しくありません。**特に、詰め物の下や歯と歯の間など、細菌が酸を作りやすい環境でありながら、感覚が鈍くなりがちな場所では、痛みを感じにくい傾向があります。
  3. C3(歯髄まで達した虫歯): 虫歯がさらに進行し、歯の神経(歯髄)にまで到達した段階です。通常であれば、ズキズキとした激しい痛みや、何もしなくても痛みが続くといった強い症状を伴います。しかし、稀に、虫歯菌によって神経が徐々に死んでしまう(壊死する)と、痛みを感じなくなることがあります。これは決して治ったわけではなく、むしろ虫歯が末期に差し掛かっている非常に危険なサインです。痛みがなくなったことで放置してしまい、気づかないうちに感染が歯の根の先にまで広がり、膿がたまるなどの重篤な事態を招くことがあります。

このように、虫歯の進行段階によって痛みの有無は異なり、特に初期や、神経が壊死し始めた段階では、痛みがないまま虫歯が進行してしまうメカニズムが存在するのです。

発見を困難にする!「隠れ虫歯」ができやすい要注意ポイント

隠れ虫歯が厄介なのは、痛みがないだけでなく、その発生しやすい場所にも理由があります。私たち自身の目では見つけにくい「死角」に潜んでいることが多いのです。

  • 歯と歯の間(隣接面): 最も隠れ虫歯ができやすい場所の一つです。歯ブラシの毛先が届きにくく、食べカスやプラーク(歯垢)がたまりやすいにもかかわらず、鏡で見ても確認が困難です。デンタルフロスや歯間ブラシを使わないと、汚れが蓄積し、虫歯が静かに進行していきます。実際、隣接面カリエスの発見には、視診よりもレントゲン検査が非常に有効であることが研究で示されています [3]。
  • 奥歯の溝の奥: 奥歯の咬み合わせの面には複雑な溝がたくさんあります。この溝は深く細かいため、歯ブラシの毛先が届きにくく、食べカスが詰まりやすい構造になっています。特に、溝の奥深くで虫歯が進行すると、表面からはほとんど変化が見えず、痛みも感じにくいまま内部で進行してしまうことがあります。
  • 詰め物や被せ物の下(二次カリエス): 以前治療した歯の詰め物や被せ物の下に虫歯が再発する二次カリエスも、隠れ虫歯の典型です。詰め物と歯のわずかな隙間から虫歯菌が侵入し、中で虫歯が進行します。外からは異変が見えにくく、詰め物が取れたり、歯が割れたりして初めて発見されることも少なくありません。古い詰め物は経年劣化で隙間が生じやすいため、注意が必要です。
  • 歯茎の境目や根っこ部分(根面う蝕): 歯周病や加齢によって歯茎が下がると、歯の根元部分(根面)が露出してきます。根面はエナメル質で覆われておらず、象牙質が直接露出しているため、酸に対する抵抗力が弱く、虫歯になりやすく、進行も速いという特徴があります [4]。この部分の虫歯も、比較的痛みを感じにくい場合があり、隠れ虫歯として進行してしまうことがあります。

あなたの身体が痛みに鈍感になっている可能性も

虫歯のメカニズムだけでなく、私たち自身の身体の特性も、隠れ虫歯の発見を遅らせる要因となることがあります。

人にはそれぞれ「痛みの閾値(いきち)」というものがあり、痛みに耐えられる度合いには個人差があります。痛みに強い人、我慢強い人は、軽度から中程度の虫歯の痛みを感じにくく、気づかないうちに進行させてしまうことがあります。

また、軽度な刺激(冷たいものが少ししみるなど)が慢性的に続くと、脳がその刺激に慣れてしまい、痛みとして認識しなくなる「適応」という現象も起こり得ます。これにより、本来であれば虫歯のサインとなるはずの症状を、体が「慣れてしまった」結果として見過ごしてしまうことがあるのです。

このような理由から、「痛みがない=虫歯がない」という思い込みは非常に危険であり、隠れ虫歯を見つけるためには、痛みの有無だけでなく、今回紹介したメカニズムと要注意ポイントを理解し、次の「早期発見の秘訣」を実践することが何よりも重要になります。


【手遅れになる前に】「隠れ虫歯」を早期発見するための秘訣

**「隠れ虫歯」**の最も恐ろしい点は、自覚症状がないまま進行することです。そのため、あなた自身の目や感覚だけでその存在に気づくのは至難の業。ここで、プロの目と最新の検査機器が、あなたの歯を守るための決定的な役割を果たします。

プロの目が不可欠!歯科検診とレントゲン検査の重要性

最も確実な早期発見の方法は、やはり定期的な歯科検診です。痛みがないからと歯科医院から足が遠のいている方もいるかもしれませんが、**「隠れ虫歯」**の存在を知った今、その考えを改める時です。一般的には、半年に一度、最低でも年に一度の検診が推奨されています。

歯科医師は、専用の器具(探針など)を使って歯の表面や溝のわずかな変化をチェックし、肉眼では見えにくい初期の異変を察知します。特に、歯の表面が一部白く濁っていたり、光沢が失われていたりする「ホワイトスポット」と呼ばれる状態は、虫歯の初期サインである可能性があり、プロの目で見極めることが重要ですす。

そして、「隠れ虫歯」の発見に不可欠なのがレントゲン検査です。特に歯と歯の間(隣接面)や、古い詰め物や被せ物の下で進行する二次カリエスは、肉眼では決して確認できません。レントゲン画像では、虫歯になった部分は健康な歯質と比べて黒っぽく映るため、隠れた虫歯の存在を明確に捉えることができます。近年では、より被ばく量が少なく、精密な診断が可能なデジタルレントゲンが主流となっており、安心して検査を受けられます。日本歯科医師会の公式見解でも、定期的な歯科検診におけるX線検査の重要性が強調されています [5]。

自分でできる!「隠れ虫歯」のサインを見つけるヒント

歯科検診が最も確実な方法ですが、日々のセルフケアの中で**「隠れ虫歯」**の「ヒント」に気づくことも、早期発見のきっかけになります。もちろん、これらのサインに気づいたからといって自己判断で放置せず、必ず歯科医院を受診してください。

以下に、自分でチェックできるポイントをいくつかご紹介します。

  • デンタルフロスや歯間ブラシが特定の場所で引っかかる、ほつれる、切れる: 健康な歯であればスムーズに通るはずのフロスや歯間ブラシが、特定の場所で引っかかったり、毛がほつれたり切れたりする場合、歯の表面に段差やざらつき、小さな穴ができている可能性があります。これは、歯と歯の間の**「隠れ虫歯」**の兆候かもしれません。
  • 特定の歯に食べ物が異常に詰まりやすい: 以前は気にならなかったのに、特定の歯の間や奥歯の溝に頻繁に食べ物が詰まるようになったと感じたら、歯の間に隙間ができたり、虫歯によって小さな穴が開いている可能性があります。
  • 歯の色にわずかな変化がある: 歯の表面の一部が不自然に白く濁っている、あるいは茶色や黒っぽい点・線があるにもかかわらず、歯磨きでは落ちない場合、初期の虫歯である可能性があります。特に歯の溝や、歯と歯茎の境目などを注意して見てみましょう。ただし、色素沈着と見分けにくいこともあるため、自己判断は禁物です。
  • 詰め物や被せ物に違和感がある、浮いているように感じる: 過去に治療した歯の詰め物や被せ物が、なんとなくフィットしていない、浮いているように感じる、あるいはその周囲にわずかな隙間が見える場合、その下で二次カリエスが進行している可能性があります。

これらのサインはあくまで**「気づきのきっかけ」**です。少しでも気になる点があれば、速やかに歯科医院で専門的な診断を受けましょう。


今日から実践!**「隠れ虫歯」**を徹底的に予防するケア習慣

「隠れ虫歯」を未然に防ぐための最も基本的な、しかし最も重要な対策は、日々の正しい歯磨きです。歯ブラシ一本で全ての汚れが落ちるわけではないため、補助用具の活用も欠かせません。

基本が最重要!正しい歯磨きと補助用具の活用法

まず、歯ブラシの選び方と交換時期を見直しましょう。ヘッドが小さめで、毛先が細く加工されたものが、奥歯や歯と歯茎の境目まで届きやすくおすすめです。毛の硬さは「ふつう」か「やわらかめ」を選び、力を入れすぎずに磨くことが大切にする。歯ブラシの毛先が開いてきたら交換のサイン。どんなに丁寧に磨いても、毛先が開いた歯ブラシでは汚れの除去効果が低下するため、最低でも1ヶ月に1回は交換しましょう。

次に、磨き残しをなくすための正しいブラッシング方法です。特に隠れ虫歯ができやすい「歯と歯茎の境目」「奥歯の溝」「歯と歯の間」「歯の裏側」を意識して磨きましょう。歯ブラシを鉛筆のように持ち、小刻みに動かす「スクラッピング法」や、毛先を歯周ポケットに斜め45度で入れる「バス法」などが一般的です。力を入れすぎると歯や歯茎を傷つけてしまうため、優しく、しかし確実に汚れをかき出すイメージで磨きましょう。

そして、歯ブラシだけでは届かない部分の汚れを除去するために、デンタルフロスや歯間ブラシの活用が不可欠です。歯ブラシで除去できるプラークは全体の約6割程度と言われており、残りの4割は歯と歯の間に残ってしまいます [6]。この歯と歯の間こそ、隠れ虫歯ができやすい最大のポイントです。デンタルフロスは歯と歯の間の狭い隙間のプラークを除去するのに適しており、歯間ブラシは歯茎が下がって隙間ができた場所に効果的です。サイズが合わないものを使うと歯茎を傷つける可能性があるため、歯科医院で自分に合ったサイズを選んでもらい、正しい使い方を指導してもらうことが重要ですし、毎日使用することで、隠れ虫歯のリスクを大幅に低減できます。

歯を強くする食事・フッ素ケアの勧め

毎日の食事も隠れ虫歯予防に大きく関わります。虫歯菌は糖分をエサにして酸を作り出し、歯を溶かします。そのため、糖分の摂取を控えめにすることは基本中の基本です。特に、甘い飲み物や飴、チョコレートなどをだらだらと長時間摂取する「だらだら食べ」や「ちょこちょこ食べ」は、口の中が常に酸性になりやすい状態を作り出し、虫歯リスクを非常に高めます。食事は時間を決めて摂り、食後はすぐに歯磨きをするか、難しい場合はうがいをするだけでも効果があります。また、よく噛むことで唾液の分泌を促しましょう。唾液には、酸を中和したり、歯の再石灰化を促したりする自浄作用や抗菌作用があり、天然の虫歯予防になります。

さらに、フッ素の活用隠れ虫歯予防に非常に有効です。フッ素は、歯のエナメル質に取り込まれることで歯質を強化し、酸に溶けにくい強い歯を作る「再石灰化」を促進する働きがあります。

  • フッ素配合歯磨き粉の使用: 市販されている多くの歯磨き粉にフッ素が配合されています。特に高濃度のフッ素(成人向けで1450ppmなど)が配合された歯磨き粉を選ぶと、より高い効果が期待できます。歯磨き後のうがいは少量に留めると、フッ素が口の中に長く留まり効果を発揮しやすくなります。
  • 歯科医院でのフッ素塗布: 歯科医院で塗布するフッ素は、市販品よりも高濃度で、より強力な虫歯予防効果が期待できます [7]。特に隠れ虫歯ができやすい奥歯の溝などにもしっかりと塗布してもらえるため、定期的なフッ素塗布は非常に有効な予防策です。

予防の鍵は継続!プロによる定期的なメンテナンス

ご自身で行うセルフケアも大切ですが、それだけでは防ぎきれない隠れ虫歯のリスクがあります。なぜなら、どんなに丁寧に磨いても、どうしても磨き残しは発生し、それが歯石となってしまうからです。歯石は歯ブラシでは除去できず、虫歯菌や歯周病菌の温床となります。

そこで重要なのが、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアです。

  • PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning): 歯科衛生士が専用の器具とペーストを用いて、歯の表面のプラークやバイオフィルム(細菌の塊)、着色汚れを徹底的に除去してくれます。これは、通常の歯磨きでは落としきれない、歯に強固に付着した汚れをきれいにすることで、虫歯菌が定着しにくい環境を作るものです。
  • 歯石除去(スケーリング): 歯石は、虫歯や歯周病の大きな原因となります。定期的に歯石を除去してもらうことで、口腔内の環境を清潔に保ち、隠れ虫歯だけでなく歯周病の予防にもつながります。
  • 定期的な検査とアドバイス: 定期検診では、虫歯や歯周病のチェックだけでなく、あなたの口腔内の状態に合わせたブラッシング指導や食生活のアドバイスなどももらえます。特に隠れ虫歯ができやすい場所や、磨き方の癖などを指摘してもらえることで、日々のセルフケアの質を向上させることができます。

予防は一朝一夕で成し遂げられるものではありません。日々のセルフケアとプロによる定期的なメンテナンスを継続することで、虫歯や歯周病のリスクを大幅に低減し、健康な歯を長く保つことができるのです。


もし「隠れ虫歯」が見つかったら?治療と再発を防ぐ次の一手

もし定期検診などで**「隠れ虫歯」**が見つかったとしても、決して絶望する必要はありません。むしろ、早期に発見できたこと自体が最大のメリットです。なぜなら、虫歯の進行度合いによって、治療の負担が大きく変わるからです。

早期発見ならメリット大!虫歯治療の基本と種類

初期の**「隠れ虫歯」**(C1:エナメル質の範囲内、またはC2:象牙質にごく浅く達した程度)であれば、歯を削る範囲が最小限で済み、場合によっては削らずに治療できる可能性もあります。

  • フッ素塗布や再石灰化促進: ごく初期のエナメル質の虫歯であれば、歯を削る代わりに高濃度フッ素を塗布したり、特定のミネラルを含むペーストを使用したりすることで、歯の再石灰化を促し、自然に治癒を期待できるケースがあります。これは、2024年現在も推奨される**「ミニマルインターベンション(MI)」**という、歯をなるべく削らない治療の考え方に基づいています [8]。
  • レジン充填(白い詰め物): 虫歯が象牙質に達していても、その範囲が小さければ、虫歯の部分を削り取り、歯科用プラスチック(コンポジットレジン)を直接詰めて形を整える治療が一般的です。この方法は、歯の色に近い素材を使うため審美性に優れ、治療時間も比較的短いというメリットがあります。

しかし、隠れ虫歯が発見されずに進行し、広範囲にわたるC2虫歯や、神経に達するC3虫歯になってしまうと、歯を大きく削る必要が生じ、インレー(部分的な詰め物)やクラウン(歯全体を覆う被せ物)、さらには根管治療(神経を取り除く治療)が必要になることもあります。これらの治療は、時間も費用もかさみ、歯への負担も大きくなります。だからこそ、痛みがなくても定期的なチェックで**「隠れ虫歯」**を見つけることが、あなたの歯の寿命を延ばすことにつながるのです。

治療後も油断禁物!再発を防ぐための注意点

**「隠れ虫歯」が無事に治療できたとしても、「もう大丈夫」と油断するのは禁物です。一度治療した歯は、その部分が再び虫歯になる「二次カリエス」**のリスクが常に伴います。特に、詰め物や被せ物と歯の境目は、非常にデリケートな部分であり、プラークが溜まりやすく、**新たな「隠れ虫歯」**が発生しやすい「死角」となることがあります。実際、日本の成人における虫歯治療の再治療の多くが、この二次カリエスが原因であると報告されています [9]。

治療後の歯を守り、再発を防ぐためには、これまで述べてきた予防策をさらに徹底することが重要です。

  • 日々の丁寧な口腔ケアの継続: 治療した歯も、天然の歯と同様、いや、それ以上に丁寧なブラッシングとデンタルフロス・歯間ブラシによるケアが必要です。特に詰め物や被せ物の周囲は、意識して丁寧に清掃しましょう。
  • 歯科医院での定期検診の継続: 治療が終わったからといって歯科医院に行かなくなるのは、二次カリエスや新たな隠れ虫歯を見逃す最大のリスクです。定期的な検診で、治療した部分のチェックはもちろん、口全体の健康状態を継続的に診てもらいましょう。プロによるクリーニングで、自宅では除去しきれない細菌の塊(バイオフィルム)を取り除くことも、再発予防には不可欠です。

治療はあくまで「現状の虫歯を治す」こと。健康な状態を長く保つためには、治療後の**「予防」こそが、最も重要な「次の一手」**となります。


あなたの歯を守るために:「隠れ虫歯」への「気づき」が未来を変える

「虫歯は痛いもの」。この誰もが持つ認識が、実は最も危険な落とし穴だったことを、この記事を読んであなたは知ったはずです。痛みという明確な警報を鳴らさない**「隠れ虫歯」は、まさに静かに進行する口腔内の「サイレントキラー」。その恐ろしさは、気づいた時には歯の神経にまで達し、抜歯や大がかりな治療**を余儀なくされる可能性を秘めている点にあります。

しかし、絶望する必要はありません。隠れ虫歯のメカニズムと、なぜ痛みがないのかを理解した今、あなたはすでに一歩前進しています。この記事で解説したように、隠れ虫歯は私たちの目では見えない場所に潜み、ゆっくりと、しかし確実に歯を蝕んでいきます。特に、歯と歯の間や詰め物の下など、普段のケアでは見落としがちな場所が要注意ポイントでしたね。

この脅威からあなたの大切な歯を守る鍵は、まさに**「気づき」と「行動」**にあります。

今日からできる「気づき」と「行動」

  • 日々のセルフケアの質向上: 正しい歯ブラシの選び方、フロスや歯間ブラシの徹底した活用は、隠れ虫歯予防の基本中の基本です。歯磨き粉に含まれるフッ素も、歯質を強化し、再石灰化を促す強力な味方です。
  • 食生活の見直し: 糖分の過剰摂取や、だらだら食べをやめることで、虫歯菌が酸を作り出す環境を最小限に抑えましょう。
  • そして最も重要な「気づき」と「行動」は、歯科医院での「定期検診」です。

痛みがないから大丈夫、という思い込みは、隠れ虫歯にとってはまさに好都合。専門家による定期的なチェックとレントゲン検査は、目に見えない隠れ虫歯を早期に発見できる唯一にして最も確実な方法です。早期に発見できれば、歯を削る範囲も最小限で済み、体への負担も、そして費用や時間といった経済的な負担も大幅に軽減できます。これは、最新の歯科医療が目指す**「ミニマルインターベンション(MI)」**、つまり「最小限の介入」という考え方にも合致するものです [8]。

あなたの歯の健康は、今日のあなたの**「気づき」と、そこから生まれる「行動」**によって、未来が大きく変わります。隠れ虫歯の脅威に怯えることなく、一生涯自分の歯で美味しく食事をし、心からの笑顔でいられる未来のために、今すぐ歯科医院のドアを叩きましょう。あなたの歯の健康は、あなたの行動にかかっています。


よくある質問(FAQ)


Q1: 痛みがない虫歯は本当に危険なの?なぜ痛みがないのに進行するのですか?

はい、痛みがない虫歯、いわゆる**「隠れ虫歯」**は非常に危険です。一般的な虫歯は、進行すると神経に近づき、冷たいものや甘いものでしみたり、ズキズキとした痛みを伴ったりします。しかし、隠れ虫歯は、歯の表面のエナメル質には神経がないため、初期段階では痛みを感じません。また、歯と歯の間や詰め物の下など、目に見えない場所で静かに進行したり、虫歯の進行が非常にゆっくりだったりすると、神経がその刺激に慣れてしまい、痛みを自覚しないまま重症化してしまうことがあります。痛みという「警報」が鳴らないため、気づいた時には神経まで達し、抜歯や根管治療といった大がかりな治療が必要になるケースも少なくありません。


Q2: 自宅で「隠れ虫歯」を見つける方法はありますか?

ご自宅でのセルフチェックは、あくまで**「気づきのヒント」として役立ちます。完全に隠れ虫歯**を見つけることは困難ですが、以下のようなサインに注意してみてください。

  • デンタルフロスや歯間ブラシが特定の場所で引っかかる、ほつれる、切れる。
  • 特定の歯に以前より食べ物が詰まりやすくなった。
  • 歯の表面の一部が不自然に白く濁っている、または茶色や黒っぽい点・線があるが、痛くない。
  • 過去に治療した詰め物や被せ物にわずかな隙間が見える、または違和感がある。

これらのサインに気づいたら、決して自己判断で放置せず、すぐに歯科医院を受診することが重要です。


Q3: 「隠れ虫歯」の予防には何が一番効果的ですか?

**「隠れ虫歯」**の予防には、日々の丁寧なセルフケアと、定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアの両方が不可欠です。

  • 正しい歯磨きと補助用具(デンタルフロス、歯間ブラシ)の毎日使用:歯と歯の間や奥歯の溝など、歯ブラシだけでは届きにくい場所のプラークを徹底的に除去しましょう。
  • フッ素の活用:フッ素配合歯磨き粉の使用や、歯科医院でのフッ素塗布は、歯質を強化し、酸に強い歯を作るのに役立ちます。
  • 糖分の摂取を控える食生活:虫歯菌のエサとなる糖分を減らし、だらだら食べをやめることで、口の中が酸性になる時間を減らします。
  • 最も重要なのは、半年に一度、最低でも年に一度の「定期歯科検診」です。歯科医院では、レントゲン検査を含め、自覚症状のない隠れ虫歯を早期に発見できる唯一の場所です。プロによるクリーニングで、セルフケアでは落としきれない汚れや歯石を除去してもらうことも、予防に繋がります。

参考文献

[1] 日本歯科保存学会. う蝕治療ガイドライン. [2] Paju, S., & Scannapieco, F. A. (2007). Oral biofilms, oral infections, and systemic disease. Periodontology 2000, 44(1), 77-86. [3] Hintze, H., Wenzel, A., & Larsen, M. J. (1998). Stereomicroscopic evaluation of dental caries diagnosis with film and digital radiography. Journal of Dentistry, 26(1), 9-16. [4] 日本歯周病学会. 歯周病に関するQ&A. [5] 日本歯科医師会. 歯科医療とX線について. [6] 大島, 裕介. (2018). 歯間部清掃用具の臨床応用. 日本歯科保存学雑誌, 61(1), 1-10. [7] Marinho, V. C. C., Higgins, J. P. T., Logan, S., & Sheiham, A. (2003). Fluoride toothpastes for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database of Systematic Reviews, (1). [8] 日本歯科保存学会. ミニマルインターベンション(MI)の推進. [9] 厚生労働省. 歯科疾患実態調査(特定の年次報告書を参照).

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