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虫歯菌の正体:ミュータンス菌とラクトバチラス菌が引き起こす虫歯のメカニズムと予防法

2025.08.12

虫歯はなぜできる?二つの「真犯人」の正体

「甘いものを食べすぎると虫歯になる」「歯磨きをサボると虫歯になる」

多くの方がそう考えているでしょう。しかし、これらは虫歯になるためのきっかけに過ぎません。

実は、私たちの口の中には、虫歯を引き起こす二つの「真犯人」が存在します。それが、ミュータンス菌とラクトバチラス菌です。これらの細菌が連携して活動することで、あなたの歯は少しずつ溶かされてしまいます。

この記事では、虫歯の本当の原因であるミュータンス菌とラクトバチラス菌の役割と、それぞれの菌の活動を止めるための科学的な予防法を解説します。これを読めば、今日から実践できる効果的な虫歯対策がわかるでしょう。


ミュータンス菌:虫歯の「攻撃隊長」が引き起こす最初の被害

虫歯の最初の引き金を引くのがミュータンス菌です。この細菌は、私たちが口にした甘いものが大好きで、虫歯の「攻撃隊長」としてその活動を開始します。

ミュータンス菌はどこにいる?:虫歯の「初期病巣」

ミュータンス菌は、歯の表面にあるごく小さな溝や、歯と歯の間など、歯ブラシが届きにくい場所に潜んでいます。食後、これらの場所に残った糖分をエサとして、菌は増殖を始めます。

菌が増えると、彼らは自らを外界から守るためにネバネバとした**「バイオフィルム」(歯垢)**を形成します。バイオフィルムは単なる食べかすではなく、ミュータンス菌をはじめとする細菌が住みつく「マンション」のようなものです。このバイオフィルムが、後の虫歯の進行に大きく関わることになります。虫歯のメカニズムについて、さらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

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実は危険!ミュータンス菌が作り出す「酸」と「歯垢」

ミュータンス菌が糖分を分解する際に生成されるのが、乳酸などの強力な**「酸」**です。この酸が、歯の表面を覆う硬いエナメル質を溶かし始める現象を「脱灰」と呼びます。

この段階では、まだ歯に穴は開いていません。歯が白く濁ったり、透明感が失われたりする程度です。この初期の脱灰は、唾液の力で再石灰化(溶けた歯が元に戻ること)することもあります。しかし、ミュータンス菌が作ったバイオフィルムは、この酸を長時間にわたって歯の表面に留めてしまいます。その結果、再石灰化が追いつかなくなり、やがて歯に小さな穴が開いてしまうのです。これが、虫歯の始まりです。


ラクトバチラス菌:虫歯の「増悪犯」が進行を加速させるメカニズム

ミュータンス菌によって歯の表面が溶かされ、小さな穴が開いてしまった虫歯の初期段階。この酸性の環境を待ち望んでいたかのように活動を開始するのが、ラクトバチラス菌です。この菌は、虫歯をさらに深く、そして広範囲に進行させる「増悪犯」として知られています。

虫歯が進行した環境が大好き!ラクトバチラス菌の好む場所

ラクトバチラス菌の最大の特徴は、酸性の環境で活発に増殖することです。ミュータンス菌が作り出した酸によって脱灰が進み、pHが低くなった場所は、ラクトバチラス菌にとってまさに最高の住処となります。特に、既に虫歯になってしまった歯の穴の中や、歯の修復物の隙間などに潜り込み、その数を増やしていきます。

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なぜ虫歯が深くなる?ラクトバチラス菌の追い打ち攻撃

ラクトバチラス菌もミュータンス菌と同様に、糖分を分解してを作り出します。しかし、彼らが活動する場所はすでにエナメル質が破壊された象牙質などの柔らかい部分です。象牙質はエナメル質よりも酸に弱いため、ラクトバチラス菌が作り出す酸によって急速に溶かされてしまいます。

これにより、虫歯は歯の表面だけでなく、内部に向かって深く進行していきます。虫歯が「痛い」と感じるようになるのは、この象牙質にまで虫歯が進行し、神経に近付いてきたサインであることが多いのです。

ミュータンス菌が虫歯の「引き金」を引くのに対し、ラクトバチラス菌は虫歯を「深刻化」させる役割を担っていると言えるでしょう。この二つの菌の連携が、あなたの歯を蝕んでいくのです。


二大虫歯菌を撃退!今日からできる効果的な予防法

ミュータンス菌とラクトバチラス菌、それぞれの働きを理解した上で、最も重要なのは「どうすれば効果的に予防できるか」です。科学的な根拠に基づいた、今日からできる予防法をご紹介します。

【対策1】ミュータンス菌を寄せ付けない食生活と歯磨き

ミュータンス菌の活動を抑えるには、彼らの**「エサ」となる糖分をコントロール**することが最も重要です。

  • 食生活の見直し: 砂糖や炭水化物をだらだらと摂る習慣は、常に口の中を酸性に保つことになり、ミュータンス菌の増殖を促します。間食を控え、食事の時間以外は水を飲むなどして、口の中のpHを中性に保つように意識しましょう。
  • 正しい歯磨き: ミュータンス菌が作るバイオフィルム(歯垢)は、歯磨きで物理的に除去するしかありません。歯と歯茎の境目や、歯のすき間を丁寧に磨くことが不可欠です。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを併用することで、歯ブラシだけでは届かない部分のバイオフィルムを徹底的に取り除きましょう。

【対策2】ラクトバチラス菌の増殖を防ぐフッ素と定期検診

一度虫歯ができてしまった場所で増殖するラクトバチラス菌には、また別の対策が必要です。

  • フッ素の活用: 歯の再石灰化を促し、エナメル質を強化するフッ素は、虫歯の進行を防ぐ上で非常に効果的です。フッ素入りの歯磨き粉を使用するほか、定期的に歯科医院でフッ素を塗布してもらうことで、歯の酸に対する抵抗力を高めることができます。
  • プロの介入: 虫歯が進行してしまった環境で活動するラクトバチラス菌は、自分自身では対処が難しい存在です。そのため、歯科医院での定期検診が非常に重要になります。プロによるクリーニング(PMTC)で歯垢を徹底的に除去し、初期の虫歯を早期に発見することで、ラクトバチラス菌が増殖する隙を与えないようにしましょう。日本小児歯科学会も、フッ化物(フッ素)の活用や定期的な歯科健診が虫歯予防に有効であると推奨しています。

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まとめ:虫歯予防は「菌」を知ることから始めよう

ここまで、虫歯の真犯人であるミュータンス菌ラクトバチラス菌の働きについて解説してきました。

虫歯は単なる不注意から起こるものではなく、これらの菌が連携して歯を溶かしていく「細菌感染症」だということがお分かりいただけたかと思います。

  • ミュータンス菌:糖分をエサに「酸」を作り出し、虫歯の最初の引き金を引く**「攻撃隊長」**。
  • ラクトバチラス菌:ミュータンス菌が作った酸性の環境で増殖し、虫歯をさらに進行させる**「増悪犯」**。

この二つの菌の特性を理解することが、効果的な虫歯予防の第一歩です。

虫歯予防は、単に歯磨きをするだけでなく、食生活の見直しでミュータンス菌のエサを断ち、フッ素を活用して歯を強化し、定期的な歯科検診という、それぞれの菌の特性に合わせた複合的なアプローチが不可欠です。

今日からこれらの知識を実践し、健康な歯を一生保ちましょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. 虫歯菌は誰にでもいるのですか?

はい、口の中には誰でもミュータンス菌やラクトバチラス菌が存在します。これらの菌が虫歯を引き起こすかどうかは、菌の量、食生活、歯磨きの習慣、唾液の質など、さまざまな要因によって決まります。

Q2. 子どもと大人で虫歯菌は違いますか?

基本的な菌の種類は同じですが、活動の仕方に違いがあります。特に、子どもの口にミュータンス菌が定着しやすい時期(感染の窓)があり、この時期のケアが将来の虫歯リスクを大きく左右すると考えられています。

Q3. 一度できた虫歯は自然に治りますか?

残念ながら、一度穴が開いてしまった虫歯が自然に治ることはありません。初期の「脱灰」の段階であれば、フッ素の活用や正しいケアで再石灰化が期待できますが、穴が開いてしまった場合は歯科医院での治療が必要です。


泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

虫歯予防や治療についてご不安な点がございましたら、ぜひ当院にご相談ください。

泉岳寺駅前歯科クリニックでは、患者様一人ひとりに合わせた丁寧なカウンセリングと、科学的根拠に基づいた予防・治療を提供しています。

  • アクセス: 泉岳寺駅A3出口から徒歩1分と、駅からのアクセスが非常に便利です。
  • 主要駅からのアクセス: 東京都港区に位置しており、高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスが良いため、お仕事帰りやお買い物のついでにもお立ち寄りいただけます。

最新の設備と専門知識を持ったスタッフが、皆さまのお口の健康をサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。


参考文献

  1. Featherstone, J. D. B. (2000). The science and practice of caries prevention. Journal of the American Dental Association, 131(7), 887-899.
  2. Takahashi, N., & Nyvad, B. (2011). The role of bacteria in the caries process: ecological perspectives. Journal of Dental Research, 90(3), 297-303.
  3. Marsh, P. D. (2003). Are we at the threshold of a new era in the prevention of dental caries? Caries Research, 37(2), 1-13.
  4. Kidd, E. A. M., & Fejerskov, O. (2013). Changing concepts in caries management. Dental Clinics of North America, 57(4), 585-592.

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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