column むし歯

口呼吸が虫歯リスクを高める?口腔内の乾燥が招く問題

2025.08.31

あなたは口を開けて眠っていませんか?口呼吸は、単なるクセだと思われがちですが、実は虫歯や歯周病のリスクを急増させる深刻な問題です。特に、睡眠中は無意識のうちに口呼吸になりやすく、口腔内が乾燥した状態が長時間続きます。この状態こそ、口腔トラブルを引き起こす根本原因なのです。


虫歯リスクを急増させる「口呼吸」の正体とは?

唾液が持つ“3つの力”が失われる

口呼吸によって口腔内が乾燥すると、唾液が持つ重要な働きが損なわれます。唾液は、単なる水分ではありません。私たちの口の健康を守るために、以下のような3つの強力な役割を果たしています。

1. 自浄作用

食事の食べかすや、虫歯の原因となる細菌を洗い流す働きです。口呼吸で唾液の量が減ると、これらの汚れが口内に残りやすくなり、細菌が繁殖しやすい環境が整ってしまいます。

2. 再石灰化作用

食事をすると、口の中は酸性に傾き、歯のエナメル質が溶け始めます。これを「脱灰(だっかい)」と呼びます。唾液には、溶けかかったエナメル質を修復する「再石灰化」の働きがあります。口呼吸で唾液が不足すると、この修復作用が追いつかず、虫歯が進行しやすくなります。

3. 殺菌作用

唾液には、リゾチームやラクトフェリンといった抗菌物質が含まれており、虫歯菌や歯周病菌の増殖を抑える働きがあります。口腔内乾燥は、この自然な殺菌力を弱め、細菌が活動しやすい環境を作ってしまうのです。

虫歯菌にとっての「絶好の環境」が生まれる

口呼吸によって口腔内が乾燥すると、歯の表面だけでなく、歯と歯の間、歯周ポケットなど、あらゆる場所に虫歯菌が付着しやすくなります。さらに、唾液が減少することで、食事によって酸性に傾いた口腔内を中和する働き(緩衝作用)が弱まります。

2010年に発表された日本の研究論文では、口呼吸をしている人は鼻呼吸をしている人に比べて、口腔内のpHが低い状態(酸性)が続くことが報告されています¹。この酸性の状態こそ、虫歯菌が活発に酸を作り出し、歯を溶かすのに最適な環境なのです。

口呼吸が招く口腔内乾燥は、健康な口腔環境を維持する上で欠かせない唾液の力を奪い、虫歯菌が繁殖しやすい「絶好の環境」を作り出してしまうのです。


虫歯だけじゃない!口呼吸が招く深刻なトラブル

口呼吸が引き起こす問題は、虫歯だけではありません。口腔内乾燥は、口の健康全体を損なう原因となり、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。

口臭や歯周病も引き起こす?

口腔内乾燥は、口の自浄作用や殺菌作用を低下させるため、口臭歯周病のリスクも高めます。

口呼吸によって唾液が減ると、舌の表面や歯周ポケットに細菌が繁殖しやすくなります。これらの細菌が、口臭の主な原因である「揮発性硫黄化合物(VSC)」を作り出します。また、乾燥した口腔内歯周病菌にとっても格好の繁殖場所となります。2021年の日本の論文では、口呼吸をしている人は鼻呼吸の人に比べて、歯周病の指標である歯周ポケットの深さが有意に大きいことが報告されています²。


今すぐできる!口呼吸をやめるための簡単セルフチェック

自分が無意識に口呼吸をしているかどうか、気になりますよね。まずは、以下の簡単なチェックリストで、ご自身の習慣を振り返ってみましょう。

1. 朝、起きたときに口がカラカラに乾いている

就寝中に口が開いていると、唾液が蒸発し、口腔内乾燥が起きます。朝、喉に違和感がある、声がかすれる、といった場合も口呼吸のサインかもしれません。

2. 日中、ぼーっとしているときに口が開いている

テレビを見ているとき、スマートフォンを触っているとき、無意識のうちに口が半開きになっていないか鏡でチェックしてみましょう。これは、口周りの筋力が低下している可能性も示唆しています。

3. 唇が荒れやすく、乾燥している

唇は唾液や空気で常に湿っているため、口呼吸をすると乾燥しやすくなります。リップクリームが手放せない、唇の皮がむけやすいといった症状も、口腔内乾燥の兆候です。

4. 鼻が詰まりやすい、鼻で呼吸しづらい

物理的に鼻呼吸がしにくいと感じる場合は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎など、鼻の疾患が原因で口呼吸になっている可能性があります。

このチェックリストに当てはまる項目が多い方は、無意識のうちに口呼吸をしている可能性が高いと言えるでしょう。次の章で、具体的な改善策をご紹介します。


口呼吸を治すために今日から始める3つの習慣

口呼吸を改善するには、日々の小さな習慣を意識することが大切です。ここでは、今日からすぐに始められる具体的な対策をご紹介します。

鼻呼吸を習慣化するトレーニング法

まずは、日中の活動中に鼻呼吸を意識することから始めましょう。

1. 「あいうべ」体操

口周りの筋肉を鍛えることで、自然に口が閉じやすくなり、鼻呼吸を促します。

  • 「あー」:口を大きく開く
  • 「いー」:口を横に大きく広げる
  • 「うー」:唇をすぼめる
  • 「べー」:舌を思い切り前に出す

これを1セットとし、1日30回を目安に行ってみましょう。地道な継続が、口呼吸の改善につながります。

2. 意識的に口を閉じる

仕事中や家事の最中など、ふとした瞬間に口が開いていないか意識的に確認します。気づいたらすぐに口を閉じる癖をつけるだけで、徐々に鼻呼吸が習慣化されていきます。

鼻の通りを良くするためのヒント

物理的に鼻が詰まっていて口呼吸になってしまう場合は、根本的な原因を解決する必要があります。

  • 耳鼻咽喉科を受診する:アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因の場合、適切な治療を受けることで鼻の通りが良くなります。
  • 鼻うがいをする:鼻腔内の花粉やウイルス、ホコリなどを洗い流し、鼻の通りを改善します。
  • 加湿器を使う:空気が乾燥すると鼻の粘膜も乾燥し、鼻詰まりを引き起こしやすくなります。加湿器を使って部屋の湿度を適切に保つことが有効です。

睡眠中の口呼吸対策

寝ている間の口呼吸を防ぐためには、専用のアイテムを活用するのも一つの方法です。

  • 口閉じテープ(マウステープ):唇にテープを貼ることで、就寝中の口の開きを防ぎます。
  • 横向きで寝る:仰向けで寝ると重力で舌が喉に落ち込み、口呼吸になりやすい傾向があります。横向きで寝ることで、これを防ぐことができます。

まとめ:健康な歯と体を守る「鼻呼吸」のすすめ

本記事では、口呼吸口腔内乾燥を招き、虫歯歯周病口臭といったさまざまなトラブルを引き起こすメカニズムについて解説しました。単なるクセと軽視されがちな口呼吸が、実はあなたの口腔と全身の健康に深く関わっていることをご理解いただけたかと思います。

健康な歯と体を守る上で、唾液が持つ「自浄作用」「再石灰化作用」「殺菌作用」は欠かせません。この大切な機能を最大限に活かすためには、鼻呼吸を習慣化することが最も効果的な方法です。

「今さら鼻呼吸なんて難しい」と感じるかもしれませんが、そんなことはありません。今日からできる「あいうべ」体操や、口閉じテープの活用など、小さな一歩から始めることができます。もし、鼻呼吸がどうしても難しいと感じる場合は、アレルギー性鼻炎などの原因が隠れているかもしれません。一度、歯科医院や耳鼻咽喉科を受診して、専門家の意見を聞いてみるのも良いでしょう。

健康な口腔内環境は、全身の健康のバロメーターです。今日から意識的に鼻呼吸を心がけ、健やかで自信に満ちた毎日を送りましょう。


FAQ(よくある質問)

Q. 口呼吸は、大人になってからでも治せますか?

A. はい、大人になってからでも改善は可能です。日中の意識的なトレーニングや、睡眠中の対策を継続することで、鼻呼吸を習慣化することができます。ただし、鼻炎など根本的な原因がある場合は、医療機関での治療が必要となります。

Q. 鼻呼吸を意識すると、かえって息苦しく感じてしまいます。

A. 最初は息苦しさを感じるかもしれませんが、それは口呼吸に慣れてしまっているためです。慣れるまでは無理のない範囲で、少しずつ鼻呼吸をする時間を増やしていきましょう。鼻の通りが悪い場合は、鼻うがいや耳鼻科の受診を検討してください。

Q. 口呼吸で、すでに虫歯や歯周病になってしまったかもしれません。

A. すでに虫歯歯周病が進行している可能性がある場合は、歯科医院での早期治療が不可欠です。口呼吸を改善しつつ、専門家による適切な治療を受けることで、口腔内の健康を取り戻すことができます。


泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

口呼吸虫歯歯周病についてお悩みの方は、ぜひ一度、当院にご相談ください。 当院は、東京都港区にあり、高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスが便利な場所にございます。

  • 住所:東京都港区三田3-10-1 アーバンネット三田ビル1階
  • アクセス:都営浅草線・京急線「泉岳寺駅」A3出口から徒歩1分

患者様一人ひとりに合わせた丁寧なカウンセリングと治療で、皆さまの口腔の健康をサポートいたします。 ご予約は、お電話またはWebサイトから承っております。お気軽にお問い合わせください。


参考文献

¹ Fushima, K., Kikuchi, S., Fujimoto, S., & Hoshi, K. (2010). Effects of mouth breathing on dental caries prevalence and salivary pH. Japanese Journal of Dental Health, 60(2), 173-179.

² Kishi, M., Maekawa, Y., Takada, K., & Takagi, Y. (2021). Relationship between mouth breathing, oral hygiene, and periodontal status in young adults. Journal of Oral Science, 63(1), 54-58.

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
Page top