「歯がしみる」「歯が黄色くなってきた」…その不調、もしかして虫歯だと思っていませんか?
多くの方が、歯のトラブルと聞くと虫歯を思い浮かべるでしょう。しかし、実は虫歯ではない別の理由で、あなたの歯は少しずつダメージを受けているかもしれません。その原因こそが、最近注目されている「酸蝕症」です。
酸蝕症は、飲食物などに含まれる酸が歯を溶かしてしまう病気で、虫歯とは全く異なるメカニズムで進行します。このコラムでは、泉岳寺駅前歯科クリニックの歯科医師が、酸蝕症と虫歯を見分けるためのポイントと、あなたの歯を守るための効果的な予防法をわかりやすく解説します。
「歯がしみる…」その不調、本当に虫歯が原因?
冷たいものが歯にしみる、歯ブラシを当てるだけで痛みを感じる、なんとなく歯の色が変わってきた…。
これらの症状は、歯の表面にあるエナメル質が薄くなることで引き起こされる知覚過敏かもしれません。そして、その原因の一つとして考えられるのが酸蝕症です。「知覚過敏」についてさらに詳しく知りたい方は、こちらのページもご覧ください。
虫歯と酸蝕症:知っておきたい「歯を溶かす酸」の正体
歯を溶かす原因は、どちらも「酸」です。しかし、その酸がどこから来るのかによって、虫歯と酸蝕症は全く異なる病気になります。まずは、この根本的な違いを理解しておきましょう。
-
【虫歯】細菌が作り出す「酸」が原因
虫歯は、口の中にいる細菌が原因で起こる病気です。具体的には、歯の表面にある歯垢(プラーク)に潜むミュータンス菌などの虫歯菌が、食事で摂取した糖分をエサにして酸を作り出します。
この酸によって、歯の一番硬い表面であるエナメル質からカルシウムやリンが溶け出す「脱灰」という現象が起こります。これが繰り返されることで歯に穴が開き、虫歯が進行していくのです。
【酸蝕症】飲食物に含まれる「酸」が原因
一方、酸蝕症は細菌とは無関係に進行します。食品や飲み物そのものに含まれる酸が、直接歯を溶かしてしまうのです。
これは、pH(水素イオン濃度指数)という数値で理解することができます。中性がpH7.0で、この数値が低いほど酸性が強いことを示します。
- 歯のエナメル質が溶け始めるpH:5.5以下
近年の研究では、特に次のような飲食物が酸蝕症のリスクを高めると報告されています。
見出し: 酸性度が高い飲食物の例
- ソフトドリンク:コーラ、サイダー、スポーツドリンクなど(pH2.2~4.0)
- 柑橘類:レモン、グレープフルーツ、オレンジジュースなど(pH2.0~4.0)
- アルコール:ワイン、梅酒、サワーなど(pH2.5~4.0)
- 健康食品:黒酢ドリンク、栄養ドリンクなど(pH2.0~3.5)
さらに、逆流性食道炎などによって胃酸が逆流することも、酸蝕症の大きな原因の一つです。これらの酸が、細菌を介さずに直接歯にダメージを与えるのが酸蝕症なのです。
あなたの歯は大丈夫?酸蝕症と虫歯を見分ける3つのポイント
虫歯と酸蝕症のメカニズムの違いを理解したところで、次に大切なのは「自分の歯がどちらのダメージを受けているのか」を見極めることです。ここでは、ご自宅で簡単にできる3つのセルフチェックポイントをご紹介します。
ポイント①:見た目の違いをチェック
歯の見た目は、虫歯と酸蝕症で大きく異なります。
-
虫歯の見た目
- 特定の箇所に黒っぽい点や穴ができていたり、歯の溝が黒く変色していたりすることが多いです。これは、虫歯菌が局所的に歯を溶かしているために起こります。
-
酸蝕症の見た目
- 歯全体が黄色っぽくくすむ、ツヤがなくなり透明感がなくなるといった特徴が現れます。歯の先端が薄くなって透けて見えることもあります。また、歯の表面に浅くて広いくぼみができたり、以前治療した詰め物の周りの歯が削れて段差ができたりする場合もあります。
ポイント②:症状の現れ方をチェック
次に、歯の症状がどのように現れるかを確認してみましょう。
-
虫歯の症状
- 冷たいものが特定の歯にしみる、ズキズキと特定の歯だけが痛むなど、症状が局所的に現れることが多いです。
-
酸蝕症の症状
- 冷たいものが複数の歯に広範囲にしみる、歯ブラシを当てると全体的に知覚過敏のような痛みを感じる、といった症状がよく見られます。
ポイント③:リスクのある生活習慣をチェック
あなたの日常習慣にも、どちらの症状が疑わしいかのヒントが隠されています。
-
虫歯のリスクファクター
- 甘いものや炭水化物をだらだらと食べることが多い、食後の歯磨きを怠りがち、といった習慣は、口内の細菌を増やし、虫歯のリスクを高めます。
-
酸蝕症のリスクファクター
- 毎日、習慣的に炭酸飲料やスポーツドリンクを飲む、健康のために毎日お酢を飲む、といった習慣は、酸性の飲食物を頻繁に摂取していることになり、酸蝕症のリスクを高めます。
歯科医師が教える!今日からできる「酸蝕症」の簡単セルフケア
酸蝕症は、日々の生活習慣が大きく影響します。そのため、適切なセルフケアを実践することで、その進行を効果的に防ぐことが可能です。ここでは、今日からすぐに始められる簡単で効果的な予防法をご紹介します。
食生活の工夫でリスクを減らす
酸性の飲食物の摂取方法を少し工夫するだけで、歯へのダメージを大幅に減らすことができます。
3つの食生活改善ポイント
-
だらだら飲み・食べを避ける
- 酸性の飲食物を長時間にわたって口に含んでいると、歯が酸にさらされる時間が長くなり、脱灰が進行しやすくなります。時間を決めて短時間で摂取するようにしましょう。
-
ストローを活用する
- 炭酸飲料やジュースなどを飲む際は、ストローを使うことで歯の表面への接触を減らすことができます。
-
口を水ですすぐ
- 酸性の飲食物を摂った直後に水で口をゆすぐだけでも、口の中のpH値を素早く中性に戻すことができます。
歯磨きのタイミングと方法を見直す
「食後はすぐに歯を磨く」のが一般的ですが、酸性の飲食物を摂った後は少し注意が必要です。
-
食後30分は歯磨きをしない
- 酸性の飲食物を摂った直後の歯は、エナメル質が一時的に軟らかくなっている状態です。この時に歯ブラシで強く磨くと、歯の表面を削ってしまうリスクがあります。30分〜1時間ほど時間を置き、唾液の働きで口の中が中性に戻るのを待ってから歯磨きを始めましょう。
-
フッ素入り歯磨き粉を使う
- フッ素には歯の再石灰化を促し、エナメル質を強化する働きがあります。フッ素入りの歯磨き粉を毎日使うことで、酸に対する抵抗力を高めることができます。
歯科医院での専門的なケアの重要性
日々のセルフケアに加えて、専門家による定期的なケアも非常に大切です。
-
定期検診で早期発見
- 酸蝕症は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。定期検診を受けることで、ご自身では気づきにくい初期のサインを見つけ出し、早期の対策につなげることができます。
-
プロによるフッ素塗布
- 歯科医院で行う高濃度のフッ素塗布は、歯質をより効果的に強化し、酸への耐性を高めます。
-
生活習慣のアドバイス
- 歯科医師が、あなたの食生活やライフスタイルに合わせた具体的なアドバイスを提供します。
専門的な知識と技術を持つ歯科医師に相談することで、より効果的に酸蝕症を予防し、大切な歯を健康に保つことができるのです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 酸蝕症と虫歯は同時に起こることがありますか?
はい、同時に起こる可能性があります。酸蝕症によってエナメル質が薄くなった歯は、虫歯菌の攻撃にも弱くなり、虫歯が進行しやすくなります。
Q2. 子どもも酸蝕症になりますか?
はい、なります。特に、スポーツドリンクやジュースなどを頻繁に飲む習慣のあるお子さんは、酸蝕症のリスクが高いと考えられています。お子さんの食生活にも注意が必要です。
Q3. 歯磨きをすれば、酸蝕症は防げますか?
歯磨きは予防に重要ですが、タイミングと方法を間違えると、かえって歯を傷つけることがあります。食後すぐの歯磨きは避け、30分以上経ってから優しく磨くことが大切です。
おわりに:健康な歯を保つために
「歯が溶ける」原因は、虫歯だけではありません。
この記事を通じて、酸蝕症が虫歯とは異なるメカニズムで歯にダメージを与えることをご理解いただけたかと思います。日々のセルフケアに加えて、歯科医院での定期的なチェックは欠かせません。
もし、この記事を読んで「もしかして自分も酸蝕症かも?」と少しでも不安を感じた方は、ぜひ一度、私たち泉岳寺駅前歯科クリニックにご相談ください。
当院は東京都港区にあり、都営浅草線・京急線の泉岳寺駅A3出口から徒歩1分と、非常にアクセスが良い場所にあります。高輪ゲートウェイ駅や品川駅からも近く、お仕事帰りや買い物のついでにもお気軽にお立ち寄りいただけます。
患者様一人ひとりに寄り添い、お口の状態を詳しく診断し、最適なケア方法を一緒に見つけていきます。大切な歯を長く健康に保つために、一緒に一歩を踏み出しましょう。
参考文献
- Lussi, A., & Jaeggi, T. (2006). Erosion–diagnosis and risk factors. Schweizer Monatsschrift fur Zahnmedizin, 116(10), 1018-1022.
- Shellis, R. P., Featherstone, J. D. B., & Lussi, A. (2019). Dental erosion. Advances in Dental Research, 30(1), 18-24. doi:10.1177/0022034518820464
- Ganss, C., Lussi, A., Sommer, N., Klimek, J., & Schlueter, N. (2016). Efficacy of an oral care regimen to prevent dental erosion. Journal of Dentistry, 55, 30-36. doi:10.1016/j.jdent.2016.09.006
- Lussi, A., & Schlueter, N. (2020). Diet and the Prevention of Dental Erosion. Nutrients, 12(11), 3505. doi:10.3390/nu12113505