歯科医師が教える!加齢で虫歯リスクが上がる本当の理由
歯ぐきが下がると何が起こる?「歯肉退縮」のメカニズム
「最近、歯磨きをしていると歯ぐきが下がって、歯が長くなったように感じる」。もしそう思われたら、それは**「歯肉退縮(しにくたいしゅく)」**という現象かもしれません。
歯肉退縮とは、文字通り歯ぐきが下がり、これまで歯ぐきに覆われていた歯の根元部分が露出してしまう状態です。この現象は、加齢による生理的な変化だけでなく、歯周病の進行や、歯をゴシゴシと強く磨きすぎる過度なブラッシングも大きな原因となります。
では、なぜ歯ぐきが下がると虫歯リスクが上がるのでしょうか?その答えは、歯の根元の特殊な構造にあります。
根元の虫歯「根面う蝕」はなぜ恐ろしいのか?
歯ぐきから露出した歯の根元にできる虫歯を**「根面う蝕(こんめんうしょく)」**と呼びます。これは、通常の歯の虫歯とは異なる特徴を持つ、非常にやっかいな虫歯です。
私たちの歯の頭部(歯冠)は、人体で最も硬い組織であるエナメル質で覆われています。これにより、食事で生じる酸や細菌から歯を守っています。
しかし、歯の根元は、セメント質というエナメル質よりも柔らかく、酸に非常に弱い組織でできています。
つまり、歯肉退縮によって歯の根元が露出すると、むき出しになったセメント質は、通常よりもはるかに速いスピードで虫歯菌の出す酸に溶かされてしまうのです。
さらに恐ろしいことに、根面う蝕は神経が通っている象牙質に近いため、自覚症状が出にくく、気づいたときには手遅れというケースも少なくありません。
次の章では、このような根面う蝕を防ぐための具体的な予防法について解説します。
専門家が実践!今日からできる根面う蝕の予防法
力を入れすぎはNG!正しいブラッシングのポイント
「毎日しっかり磨いているのに、どうして虫歯になるんだろう?」そう思われた方は、もしかするとブラッシングの**「力加減」が間違っているのかもしれません。特に、歯ぐきが下がって露出した根元部分は、歯冠よりも柔らかいセメント質でできているため、強い力で磨くと歯が削れてしまうリスク**があります。
歯磨きの理想は、力を入れずに歯垢(プラーク)を丁寧にかき出すことです。
ブラッシングのコツ
- 歯ブラシの選び方: 毛先が細く、柔らかい歯ブラシを選びましょう。硬い歯ブラシは歯ぐきを傷つける原因になります。
- 力の加減: 歯ブラシを鉛筆のように持ち、軽い力(150~200g程度)で磨くのが理想です。
- 磨き方: 歯と歯ぐきの境目に歯ブラシの毛先を当て、小刻みに動かす「バス法」を意識して丁寧に磨きましょう。
セルフケアだけでは不十分?プロのクリーニングの重要性
どんなに丁寧に歯を磨いても、歯ブラシの毛先が届きにくい場所(歯周ポケットの奥、歯と歯の間など)には、どうしても磨き残しが出てしまいます。特に、根面う蝕は歯周ポケットの奥から進行することが多く、セルフケアだけでの予防は困難です。
そこで重要になるのが、歯科医院での**「定期的なプロのケア」です。歯科医院では、専用の機器を用いて歯周ポケットの奥や歯の隙間まできれいにクリーニングするPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)**を行うことができます。これにより、日々の歯磨きでは取りきれないバイオフィルム(細菌の集合体)や歯石を除去し、虫歯になりにくい口腔環境を整えます。
食生活でリスクを減らす!唾液の力を活用する方法
実は、私たちの唾液には虫歯を予防する素晴らしい力があります。唾液には、食事で酸性に傾いた口の中を中和したり、歯から溶け出したミネラルを元に戻す**「再石灰化」**という作用があるのです。
唾液の力を引き出すポイント
- よく噛んで食べる: 噛む回数を増やすことで唾液の分泌が促されます。
- だらだら食べを避ける: 食べ物を口に入れている時間が長いと、歯が酸にさらされる時間が長くなり、虫歯リスクが高まります。
- キシリトールガムを噛む: 唾液分泌を促すだけでなく、虫歯菌の活動を抑える効果も期待できます。
これらの予防法を実践することで、加齢による虫歯のリスクを大幅に減らすことができます。
次の章では、当院で提供している治療や予防サポートについてご紹介します。
あなたの歯を守る!当院での治療・予防サポート
進行度別!根面う蝕の治療法
万が一、根面う蝕が進行してしまった場合でも、ご安心ください。当院では、虫歯の進行度合いやお口の状態に合わせて、最適な治療法をご提案します。
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初期の根面う蝕:
- 虫歯がごく浅い場合は、削らずにフッ素や再石灰化を促す薬剤を塗布して経過を観察します。
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進行した根面う蝕:
- 虫歯が神経に近づいている場合は、詰め物や被せ物による治療が必要になります。
- 当院では、虫歯になった部分を丁寧に除去し、見た目も美しく自然な仕上がりになる**セラミック**などの素材もご用意しております。
根面う蝕は、通常の虫歯と異なり、治療後も再発しやすい特徴があります。そのため、治療後の丁寧な予防ケアが非常に重要です。
虫歯ゼロを目指す!当院の専門的予防ケア
根面う蝕の予防には、日々のセルフケアに加え、歯科医院での専門的なケアが欠かせません。当院では、皆様の歯の健康を長期的にサポートするためのメニューをご用意しています。
フッ素塗布
フッ素には歯の再石灰化を促し、歯質を強化する効果があります。特に、酸に弱い根面にフッ素を塗布することで、虫歯への抵抗力を高めることができます。定期的なフッ素塗布は、根面う蝕予防の有効な手段です。
PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)
どんなに丁寧に歯磨きをしても、歯周ポケットの奥や歯並びの悪い部分には、どうしても磨き残し(プラーク)が残ってしまいます。PMTCは、歯科医師や歯科衛生士が専用の機器を使って、こうしたプラークや歯石を徹底的に除去するクリーニングです。お口の中全体がすっきりと清潔になり、虫歯や歯周病の予防に繋がります。
次章では、これまでの内容をまとめ、読者の皆様へのメッセージをお伝えします。
まとめ|一生自分の歯で!今すぐできるお口の健康習慣
加齢による歯肉退縮は、誰にでも起こりうる自然な変化です。しかし、それによって引き起こされる根面う蝕は、適切な知識と対策で十分に予防することができます。
この記事で解説した予防法をもう一度振り返ってみましょう。
- 正しいセルフケア: 力を入れすぎず、やさしいブラッシングを心がけましょう。
- プロによる専門ケア: 歯科医院での定期的なクリーニングで、磨き残しを徹底的に除去します。
- 食生活の見直し: 唾液の力を活用し、虫歯になりにくい口内環境を整えましょう。
根面う蝕は、一度進行すると治療が難しくなる厄介な虫歯です。しかし、早期に発見し、適切な処置を行うことで、悪化を防ぐことができます。
「痛くないから大丈夫」「まだ若いから大丈夫」と思わずに、ぜひこの機会に一度、お口の状態をチェックしてみませんか?
泉岳寺駅前歯科クリニックは、皆様がいつまでもご自身の歯で美味しく食事を楽しめるよう、全力でサポートいたします。少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
よくあるご質問
Q1:根面う蝕は痛むことはありますか?
A1: 根面う蝕は初期の段階では自覚症状がないことがほとんどです。歯の神経が通っている象牙質にまで進行すると、冷たいものがしみたり、痛みを感じることがあります。痛みが出る前に発見することが非常に重要です。
Q2:歯ぐきが下がってしまったら、元に戻すことはできますか?
A2: 一度下がってしまった歯ぐきを元の状態に戻すのは難しいとされています。しかし、正しいケアや歯科治療によって、それ以上の進行を防ぐことは可能です。歯周病が原因の場合は、その治療を行うことで歯ぐきの状態を改善できることもあります。
Q3:高齢者でなくても根面う蝕になることはありますか?
A3: はい、あります。歯周病や過度なブラッシングなど、歯肉退縮の原因が当てはまる場合は、年齢に関わらず根面う蝕になるリスクがあります。特に、歯列矯正後や、歯並びの乱れがある方は注意が必要です。
泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内
当院は、東京都港区高輪に位置し、**泉岳寺駅A3出口から徒歩1分**と、非常にアクセスしやすい場所にございます。高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもほど近く、お仕事帰りや買い物のついでにもお立ち寄りいただけます。
皆様のお口の健康を、いつまでも守るためのサポートをさせていただきます。お電話、またはWEBサイトからお気軽にご予約・ご相談ください。
参考文献
- Featherstone, J. D. B. (2000). The science and practice of caries prevention. Journal of the American Dental Association, 131(8), 887-899.
- Cury, J. A., & Tenuta, L. M. A. (2009). Enamel remineralization and cariostatic activity of fluoride. Caries Research, 43(1), 1-9.
- Kidd, E. A. M. (2005). The diagnosis and management of the “early” lesion of root caries. Journal of Dentistry, 33(1), 1-13.