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GBR(骨再生誘導法)の仕組み:失われた骨を再生させる画期的な技術

2025.08.30

歯を失ったとき、「歯がなくなっただけ」と考えていませんか?実は、歯を失うことは、その歯を支えていた顎の骨も失うことにつながります。

骨が失われるメカニズム:なぜ再生が必要なのか?

歯の土台である顎の骨は、健康な状態であれば、歯をしっかりと支える役割を担っています。しかし、以下の2つの主な原因により、この大切な骨が失われていきます。

歯周病や抜歯が引き起こす「骨吸収」のプロセス

1. 進行した歯周病 歯周病は、歯周病菌が歯ぐきに炎症を引き起こし、最終的には歯を支える骨を溶かしていく恐ろしい病気です。この現象は**「骨吸収」**と呼ばれ、症状が進行するにつれて、歯がグラつき、やがて抜け落ちてしまいます。歯周病についてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください

2. 抜歯後の骨の収縮 虫歯やケガで歯を抜いた場合も注意が必要です。歯は、噛むたびに骨に刺激を与え、その健康を保っています。しかし、歯がなくなると、骨への刺激がなくなり、使われなくなった骨は時間とともに徐々に痩せ細っていきます。

骨の喪失がもたらす深刻な影響とは?

骨が失われることで、見た目と機能の両方で深刻な問題が引き起こされます。

  • 機能的な問題:インプラントができないケースも 歯を失った際の治療法として、インプラントは最も有効な選択肢の一つです。しかし、インプラントを埋め込むには、それを支える十分な量の骨が必要です。骨の量が足りないと、インプラントが安定せず、治療自体が難しくなってしまいます。
  • 審美的な問題:顔の印象が変わることも 顎の骨が痩せると、口元のボリュームが減り、頬がこけて見えたり、顔全体のバランスが崩れたりすることがあります。この顔貌の変化について、詳しくはこちらのコラムでも解説しています。

従来の治療法では難しかった課題

これまで、骨が少ない場合の治療法として、入れ歯やブリッジが主流でした。しかし、これらの治療法には限界がありました。

  • 入れ歯: 安定せず、噛む力が弱い。
  • ブリッジ: 健康な隣の歯を削る必要がある。

このように、失われた歯と骨を根本から解決することは、従来の治療法では難しい課題でした。そこで登場したのが、今回ご紹介する**GBR(骨再生誘導法)**という画期的な技術です。


GBRの核心:失われた骨を「誘導」して再生させる仕組み

GBRは、ただ単に骨を補うのではなく、体本来の治癒能力を最大限に引き出すことに重点を置いた革新的な治療法です。その名の通り、「骨の再生を誘導する」ための特殊な技術が用いられます。

骨再生の鍵を握る「3つの要素」

GBRは、骨の再生を促すために以下の3つの要素を効果的に組み合わせます。これらの要素が、新しい骨が形成されるための最適な環境を作り出します。

  1. メンブレン(人工膜)
  2. 骨移植材(足場材)
  3. 骨再生を促す環境

GBRの成功を左右するメンブレンの役割

GBRの最も重要な要素の一つが**「メンブレン」**と呼ばれる特殊な人工膜です。このメンブレンは、骨の再生スペースを外部から隔離する役割を担います。

骨を作る細胞(骨芽細胞)は、歯肉などの軟組織の細胞に比べて増殖のスピードが非常に遅いという特性があります。もしメンブレンで遮断しなければ、増殖の速い歯肉の細胞が先に骨が再生するべきスペースを埋めてしまい、骨が成長する場所がなくなってしまうのです。メンブレンは、まるで「骨のための専用席」を確保するように、軟組織の侵入を防ぎ、骨がゆっくりと時間をかけて再生する環境を作り出します。

人工骨と自己骨:最適な「足場」の選び方

GBRでは、骨が再生するための「足場」となる骨移植材を使用します。この足場があることで、新しい骨細胞はスムーズに成長し、より強固な骨を形成することができます。骨移植材には主に以下の種類があります。

  • 自家骨(患者さん自身の骨) 患者さん自身の顎や他の部位から採取する骨です。生体との適合性が最も高く、骨再生能力に優れているとされています。ただし、骨を採取するための手術が別途必要になります。
  • 人工骨・動物由来骨 人工的に合成された骨や、動物の骨を加工したものです。自家骨の採取が不要なため、患者さんの負担が少ないというメリットがあります。これらの材料は、骨再生の「足場」としての役割をしっかりと果たします。

どの骨移植材が最適かは、骨の欠損状態や患者さんの全身状態によって異なります。信頼できる歯科医師と十分に話し合い、ご自身に最適な治療計画を立てることが成功への第一歩となります。


GBRはどのような人に向いている?成功へのロードマップ

GBRはすべての症例に適用できるわけではありませんが、特に顎の骨の量が不足している場合に、非常に有効な治療法となります。

インプラント治療を諦めていた方へ

「インプラントに興味があるけれど、骨が足りないと言われた……」そのような経験はありませんか?

GBRは、まさにそのような患者さんのための治療法です。骨の量が少ないためにインプラントを諦めていた方でも、GBRによって十分な骨を再生させることで、インプラント治療の道が開けます。インプラントの基本や治療の流れについては、こちらのコラムでも詳しくご紹介しています。

歯周病で骨が溶けてしまった場合の有効性

歯周病が進行した結果、歯を支える骨が広範囲に失われた症例に言及します。GBRは、このような歯周病で失われた骨を再生させることにも有効です。

歯周組織再生療法の一環としてGBRを適用することで、歯周病によって溶けた骨を回復させ、歯の寿命を延ばすことが期待できます。これは、抜歯を回避し、ご自身の歯をできるだけ長く残したいと考える方にとって、重要な選択肢となります。

GBR治療の詳しいステップと期間

GBR治療は、以下のステップで進められます。

  1. 精密な診断と治療計画の立案 歯科用CTなどを活用し、骨の欠損状態を立体的に詳しく分析します。この段階で、GBRが必要かどうか、どのような方法が最適かを決定します。
  2. GBR手術の実施 局所麻酔後、歯ぐきを切開し、骨の欠損部分に骨移植材を充填します。その後、骨が再生するスペースを確保するためにメンブレンで覆い、歯ぐきを縫合します。
  3. 治癒期間(骨の再生期間) 手術後、新しい骨が形成されるまでに通常数カ月~半年程度の期間が必要です。この間、定期的な経過観察を行います。
  4. 最終的な治療(インプラント埋入など) 骨が十分に再生したことが確認できたら、インプラントを埋入するなどの次の治療に進みます。

知っておきたいGBRのメリットとリスク:治療を受ける前に

GBRは非常に有効な治療法ですが、手術を伴うため、メリットだけでなくリスクについても十分に理解しておくことが重要です。治療を受ける前に、ご自身でしっかりと情報収集を行い、納得した上で臨むことが成功への鍵となります。

GBR治療がもたらす最大のメリット

GBRの最大の利点は、これまで治療を諦めていた患者さんに新たな選択肢を提供することにあります。

  • インプラント治療の成功率向上 GBRによって、インプラントを埋入するために必要な骨の量を確保できます。これにより、インプラントが強固な土台に支えられ、長期にわたる安定性が期待できます。骨量不足の状態でインプラント治療を強行するリスクを回避できるため、治療の安全性も高まります。
  • 歯の機能と審美性の回復 再生された骨は、インプラントをしっかりと支え、ご自身の歯のようにしっかりと噛める機能を取り戻すことができます。また、骨のボリュームが増えることで、顔の輪郭が自然になり、見た目の美しさも回復します。

治療後のリスクと注意すべき点

GBRは安全性の高い治療ですが、合併症のリスクがないわけではありません。

  • 感染症のリスク 手術部位の感染は、再生を妨げる最大の要因となります。術後は、歯科医師の指示に従い、口腔内を清潔に保つことが不可欠です。
  • メンブレンの露出 非常に稀ですが、メンブレンが歯ぐきから露出する場合があります。これは感染のリスクを高めるため、速やかに歯科医師に相談する必要があります。
  • 長い治癒期間 骨の再生には時間がかかります。インプラント埋入までに数ヶ月から半年、場合によってはそれ以上かかることがあります。治療計画を立てる際には、この治癒期間を考慮に入れる必要があります。

担当医との信頼関係が成功の鍵

GBR治療は、歯科医師の高度な技術と経験が不可欠です。治療の成功は、患者さんと歯科医師との綿密なコミュニケーションと、信頼関係によって大きく左右されます。疑問や不安な点は、遠慮せずに相談し、納得した上で治療に臨むようにしてください。


まとめ:GBRが拓く歯科医療の未来と生活の質

この記事を通して、**GBR(骨再生誘導法)**が単なる治療法ではなく、失われた骨を「再生」させるという画期的なアプローチであることをご理解いただけたかと思います。

歯周病や抜歯によって骨を失ってしまった人々にとって、GBRはインプラント治療への道を拓き、再びしっかりと噛める喜びを取り戻すための重要な手段となります。

健全な顎の骨は、見た目の美しさだけでなく、私たちが豊かな食生活を送り、自信を持って人前で笑うことができる、かけがえのない財産です。

GBRは、まさにこの大切な財産を取り戻し、私たちの生活の質(QOL)を大きく向上させる未来の歯科治療と言えるでしょう。


よくある質問(FAQ)

GBR治療は痛いですか?

GBR治療は、局所麻酔を使用して行いますので、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。術後は、処方された痛み止めを服用することで痛みをコントロールできます。痛みの感じ方には個人差がありますので、不安な点があれば事前にご相談ください。

GBR治療の費用はどのくらいかかりますか?

GBR治療は、原則として自由診療となり、保険適用外です。そのため、費用はクリニックや治療の範囲によって異なります。具体的な費用については、治療計画を立てる際に詳しくご説明しますので、お気軽にご相談ください。

GBR治療後、仕事は休む必要がありますか?

手術の範囲や個人の体調にもよりますが、ほとんどの場合、翌日から通常の生活に戻ることができます。ただし、術後数日間は激しい運動や飲酒を避ける必要があります。

GBR治療を受けられるクリニックはどこにありますか?

GBR治療は、歯科医師の高度な技術と専門的な知識が必要な治療です。そのため、すべての歯科医院で受けられるわけではありません。GBR治療の実績が豊富な歯科医院を選ぶことが重要です。


泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

東京都港区にある泉岳寺駅前歯科クリニックでは、インプラント治療や歯周病治療の一環として、GBR治療にも力を入れています。

当院へのアクセス

当院は、都営浅草線・京急線泉岳寺駅A3出口から徒歩1分の場所にございます。

  • JR高輪ゲートウェイ駅から徒歩圏内
  • JR品川駅からもアクセスが良く、多くの患者様にご来院いただいております。

骨の量が足りないとお悩みの方、インプラント治療を諦めていた方も、ぜひ一度ご相談ください。患者様一人ひとりに合わせた最適な治療プランをご提案いたします。


参考文献

  • Schena G, et al. (2018). “Guided bone regeneration: An update on materials, techniques, and clinical applications.” Clinical Implant Dentistry and Related Research, 20(2): 207-219. doi:10.1111/cid.12593
  • Hammerle CHF, et al. (2012). “Consensus statements and recommended clinical procedures regarding bone regeneration in implant dentistry.” Clinical Oral Implants Research, 23(Suppl. 6): 131-135. doi:10.1111/j.1600-0501.2012.02422.x
  • Aghaloo T, et al. (2007). “Guided bone regeneration around implants using barrier membranes: A systematic review.” International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, 22(Suppl): 107-113.

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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