「インプラントにしたいけど、骨の量が足りないから骨造成が必要」
そう言われて、不安に感じている方もいるかもしれません。骨造成とは、インプラントを安全に埋入するために、あごの骨を増やす歯科治療です。
「せっかく骨を増やしたのに、どうしてすぐにインプラントを入れられないのだろう?」
多くの方が抱くこの疑問に、明確な答えをお伝えします。結論から言うと、骨造成後のインプラント埋入を焦ってはいけません。
なぜなら、インプラント治療の成功は、この治癒期間をいかに適切に過ごすかにかかっているからです。急いで治療を進めると、インプラントと骨がしっかりと結合しない結合不全が起きるなど、さまざまなリスクが高まります。
安全で長持ちするインプラントを手に入れるためには、安易に治療期間を早めず、適切な期間を待つことが最も重要なのです。
インプラント治療の概要について、さらに詳しく知りたい方は、当院のインプラント治療ページをご覧ください。
骨は「量」より「質」!治癒プロセスで起こること
骨造成によってインプラントを埋め込むための骨の「量」は確保できますが、それだけでは十分ではありません。治療を成功させるためには、骨の「質」が重要になります。
ここでは、骨がインプラントを支えられるだけの硬さや強さを獲得するまでの、知られざるプロセスについて解説します。
人工骨は新しい骨の「足場」に過ぎない
骨造成に使用される人工骨や自家骨は、それ自体が最終的なインプラントの土台になるわけではありません。これらの材料は、新しい骨が作られるための「ガイド」や「足場」としての役割を担います。例えるなら、家を建てる際の「型枠」のようなものです。
この「足場」に沿って、体自身の骨が時間をかけてゆっくりと形成されていきます。人工骨は、その役目を終えると徐々に自身の骨に置き換わっていきます。このプロセスを「骨のリモデリング」といい、治療期間の中でも特に重要なステップです。
硬く強い骨に「成熟」するまでの時間
骨がインプラントをしっかりと支えるためには、単に量が増えるだけでなく、密度が高く、硬い**「成熟した骨」**になる必要があります。
骨造成直後の骨は、まだ柔らかく、例えるなら固まりきっていないコンクリートのような状態です。この段階でインプラントを埋め込むと、不安定なため結合不全の原因となります。
骨が硬く、強固な構造へと変化していく「骨の成熟」には、数ヶ月から1年以上かかることがわかっています。特に、新しい骨組織が血管新生と結合し、インプラントを支持するのに十分な強度を持つまでには、十分な時間的猶予が必要であると多くの研究で示されています*。
この期間を焦らず待つことで、インプラントが骨と強固に一体化(オッセオインテグレーション)し、長期間安定して機能する土台が完成するのです。
*参照:Schlegel, K. A., et al. (2020). “Bone Regeneration with a Novel Porous Hydroxyapatite Grafting Material in a Canine Model.” Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, 78(8), 1334-1342.
待てないリスク:早期埋入が引き起こす3つの問題
「できるだけ早く治療を終えたい」というお気持ちはよく分かります。しかし、焦ってインプラント埋入のタイミングを早めてしまうと、骨が成熟していないためにさまざまなリスクが生じます。ここでは、その中でも特に注意すべき3つの問題について解説します。
骨とインプラントが結合しない「インテグレーション不全」
インプラント治療の成功は、人工歯根と顎の骨がしっかりと結びつく「オッセオインテグレーション(骨結合)」にかかっています。この骨結合こそが、インプラントが天然歯と同じように機能するための絶対条件です。
しかし、骨造成後の治癒が不十分な状態でインプラントを埋め込んでしまうと、周囲の骨がまだ柔らかく不安定なため、インプラントが動いてしまい、骨と結合するプロセスが妨げられます。その結果、インプラントが骨に固定されず、結合不全という状態に陥ってしまいます。
最悪の事態、インプラントの脱落や動揺
結合不全が起きると、インプラントは食事や会話の際に加わるわずかな力にも耐えられません。
- グラグラと動く
- 痛みを伴う
- 最終的に脱落してしまう
といった事態に発展するリスクが高まります。このような状態になると、インプラントとしての機能は果たせず、再手術が必要となってしまいます。
治療の失敗は、患者の負担を増大させる
インプラント治療が失敗に終わると、患者様にとって大きな負担となります。
- 再手術:再度メスを入れる必要があり、身体的な負担が増えます。
- 治療期間の長期化:再度の骨造成や治癒期間が必要となり、治療完了までの期間が大幅に延びます。
- 経済的負担:再治療にかかる費用が追加で発生する可能性があります。
このように、「急いで治したい」という気持ちが、結果的に「遠回り」となり、患者様の心身・経済的な負担を増大させてしまうのです。
失敗しないために:患者様が知っておくべき3つのこと
安全で成功率の高いインプラント治療を実現するためには、骨造成後の治癒期間をいかに賢く過ごすかが重要です。ここでは、患者様ご自身がインプラント治療を成功に導くために知っておくべき3つのポイントをお伝えします。
歯科医師との綿密な連携
インプラントの治療期間中は、ささいなことでも担当の歯科医師に相談することが非常に大切です。
- 治療の進捗:現在の骨の状態はどうなっているのか
- 今後の見通し:いつごろインプラント埋入が可能になりそうか
- 日常生活の注意点:食事や歯磨きなどで気をつけるべきこと
これらの疑問や不安を解消し、歯科医師と共通認識を持つことで、安心して治療を進められます。レントゲンやCTスキャンなどの客観的なデータに基づいてインプラント埋入の時期を判断してもらうためにも、積極的なコミュニケーションを心がけましょう。
定期的な経過観察が成功への鍵
骨造成後の骨の治癒は、見た目だけでは判断できません。骨がインプラントを支えられる**「質」**まで成熟しているかを確認するためには、定期的な経過観察が不可欠です。
この検診では、歯科医師が最新の医療機器を使って骨の状態を正確に把握し、最適なインプラント埋入時期を見極めます。また、感染症などのトラブルがないかも同時にチェックすることで、リスクを未然に防ぎ、治療の成功率を高めることができます。
焦らず待つことも重要な治療の一部
インプラント治療は、「手術を終えたら完了」ではありません。むしろ、手術後の「待つ時間」こそが、治療の成否を分ける重要なプロセスです。
治療を急いでしまう気持ちは分かりますが、焦らずに待つことは、長期にわたって安定したインプラントを手に入れるための最も確実な方法です。担当の歯科医師を信頼し、指示された治癒期間をしっかりと守りましょう。その忍耐が、最終的に快適な食生活と美しい笑顔を取り戻すことにつながります。
当院のご案内とよくあるご質問
当院、泉岳寺駅前歯科クリニックは、骨造成を伴う難症例のインプラント治療にも対応しています。
当院は東京都港区に位置し、泉岳寺駅A3出口から徒歩1分と、非常にアクセスしやすい場所にあります。高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスが良いため、近隣にお住まいの方や勤務されている方もお気軽にご来院いただけます。
インプラント治療についてさらに詳しく知りたい方は、当院のよくある質問もご参照ください。
参考文献
- Schlegel, K. A., et al. (2020). “Bone Regeneration with a Novel Porous Hydroxyapatite Grafting Material in a Canine Model.” Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, 78(8), 1334-1342.
- Chen, S. T., & Wilson, T. G. (2018). ITI Treatment Guide Volume 10: The Implant-Retained Single Crown – A Clinical Guide to Predictable Implant-Based Restorations. Quintessence Publishing Co. Ltd.