「インプラント治療をすれば、もう歯のトラブルとは無縁だ」「インプラントは一生ものだから安心」
もしあなたがそう考えているなら、それは少し危険な考えかもしれません。インプラントは確かに、天然歯のように食事や会話を楽しむことができる優れた治療法です。しかし、インプラントを長持ちさせるためには、治療が完了してからが本当のスタートなのです。
天然歯と同じように、インプラントも毎日の適切なセルフケアと、歯科医院での専門的なプロケア、つまりメンテナンスが欠かせません。このメンテナンスを怠ると、せっかく手に入れたインプラントを失うリスクがあるのです。
本記事では、なぜインプラントにメンテナンスが必要なのか、特に歯科医院でのプロケアがなぜ不可欠なのかを詳しく解説します。インプラントを長く、そして快適に使い続けるための知識を深めていきましょう。
怖い病気「インプラント周囲炎」をご存知ですか?
インプラントを失う最大の原因は、インプラント周囲炎という病気です。これは、インプラントの周りの歯肉や骨が、細菌感染によって炎症を起こす状態を指します。
この病気の恐ろしいところは、自覚症状に乏しいため、気づいた時にはかなり進行しているケースが少なくないという点です。
インプラント周囲炎は、天然歯が罹患する歯周病と似た病気ですが、決定的な違いがあります。天然歯には神経があるため、炎症が起きると痛みを感じやすいのですが、インプラントには神経がないため、病気が進んでも痛みを感じにくいのです。また、天然歯と異なり骨に直接結合しているため、一度細菌が侵入すると、骨の吸収が急激に進む傾向があります。このリスクの高さは、国際的な歯周病の学会でも認識されています([Sanz, M. et al., 2020])。
インプラント周囲炎についてもっと詳しく知りたい方は、「インプラントを入れたら歯周病にならない?『第二の歯周病』インプラント周囲炎の賢い予防策」もご覧ください。
自宅でのセルフケアだけではインプラントを守りきれない理由
インプラントのメンテナンスにおいて、毎日の丁寧なセルフケアは非常に重要です。しかし、それだけでは不十分なのが現実です。残念ながら、歯ブラシだけではインプラントの周囲に付着したすべての汚れを取り除くことはできません。
歯ブラシだけでは届かないインプラントの死角
インプラントは天然歯と異なり、複雑な形状をしています。特に、人工歯と歯茎の境目や、インプラント本体と上部構造(人工歯)を繋ぐ部分には、歯ブラシの毛先が届きにくく、プラーク(歯垢)が溜まりやすい「死角」が存在します。
インプラント周囲炎の最大の原因は、このプラーク内に潜む細菌です。2017年の研究([Renvert, S. & Quirynen, M., 2017])でも、インプラント周囲炎の主な原因がプラーク内の細菌性バイオフィルムであることが明らかにされています。
頑固な歯石はプロの力でしか除去できない
プラークが歯磨きで取り除かれずに残ってしまうと、やがて唾液中のミネラルと結合して硬い歯石へと変化します。この歯石は、一度形成されるとセルフケアでは除去することができません。
歯石は表面がザラザラしているため、さらにプラークが付着しやすくなり、細菌の温床となります。この悪循環がインプラント周囲炎を急速に進行させるのです。歯科医院でのプロケア、特に歯科衛生士による専門的なクリーニングでなければ、この頑固な歯石を安全かつ効果的に除去することはできません。
歯科医院でのプロケアが、あなたのインプラントを守る3つの理由
インプラントを長期間にわたって安定して使用するためには、プロである歯科医師や歯科衛生士による定期的なプロケアが不可欠です。
理由1:専門器具による徹底的なプラーク・歯石除去
ご自身でのブラッシングでは届かない、インプラントと歯茎の境目にはプラークや歯石が蓄積しやすくなります。歯科医院では、インプラントの表面を傷つけない専用のチタン製スケーラーなどを用いて、これらの汚れを徹底的に除去します。
理由2:インプラントの状態を正確に診断する定期検診
インプラント周囲炎は自覚症状が少ないため、ご自身で早期発見することは非常に困難です。定期検診では、歯科医師が以下の項目を専門的にチェックします。
- 歯肉の状態: 歯肉の腫れや出血の有無を確認します。
- インプラントの安定性: インプラント本体や人工歯のぐらつき、ネジの緩みがないかを確認します。
- レントゲン撮影: 肉眼では見えないインプラント周囲の骨の状態を定期的に確認し、骨吸収の兆候がないかをチェックします。
理由3:一人ひとりに合ったセルフケアの個別指導
インプラントの本数や位置、口腔内の状態は、患者さん一人ひとり異なります。歯科医院のプロケアでは、単にクリーニングを行うだけでなく、お口の状態に合わせた最適なセルフケアの方法を具体的に指導してもらえます。このような個別指導を受けることで、日々のセルフケアの質が格段に向上し、インプラント周囲炎の予防効果を高めることができます。
インプラントを長持ちさせるための「未来への投資」とは
インプラントをメンテナンスするということは、単に汚れを取り除くことだけではありません。それは、将来にわたって健康な口腔環境を維持し、食事や会話を心から楽しむための「未来への投資」なのです。
定期検診で早期に問題を発見し、適切な処置を施すことで、インプラント周囲炎のリスクを最小限に抑え、高額な再治療を避けることができます。この「未来への投資」は、あなたの笑顔と健康な毎日を守るために、最も確実で賢い選択と言えるでしょう。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. インプラントのメンテナンスはどのくらいの頻度で通う必要がありますか?
A. 通常は3〜6か月に一度のペースで定期検診をおすすめしています。
Q2. メンテナンスには健康保険は適用されますか?
A. インプラントのメンテナンスは原則として自費診療となります。
Q3. メンテナンスを怠ると、インプラントはどうなりますか?
A. 最悪の場合、インプラントを撤去しなくてはならなくなる可能性があります。
泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内
東京都港区にある泉岳寺駅前歯科クリニックでは、インプラント治療後の大切なメンテナンスをサポートしています。
当院は都営浅草線・京急線「泉岳寺駅」A3出口から徒歩1分とアクセスに優れています。また、高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスが良く、近隣にお住まいの方だけでなく、お勤めの方にも通いやすい立地です。
インプラントを長く快適に使いたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。私たち専門家が、あなたの未来の健康を支えるお手伝いをさせていただきます。
参考文献
- Sanz, M., Chapple, I. L., et al. (2020). Periodontology 2000, 83(1), 1-16. Periodontal and peri-implant diseases classification and definitions: a narrative review for the practicing clinician.
- Renvert, S., & Quirynen, M. (2017). Journal of Clinical Periodontology, 44(8), 770-779. Risk indicators for the development of peri-implantitis: a systematic review.