インプラントは、失った歯を補うための優れた治療法として、まるで自分の歯のように食事を楽しめることから、「第二の永久歯」とも呼ばれています。しかし、そのインプラントの寿命を脅かす、インプラント周囲炎という恐ろしい病気が存在します。
インプラント周囲炎は、天然の歯がなる歯周病とよく似た病気です。インプラントと歯ぐきの隙間に溜まった細菌が炎症を引き起こし、徐々に進行していきます。初期の段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに病気が進行してしまうケースが少なくありません。
インプラント周囲炎はなぜ怖い?
インプラント周囲炎には、天然の歯周病よりも進行が速いという非常に危険な特徴があります。天然の歯の根元には「歯根膜」という組織があり、これがクッションのような役割を果たし、細菌の侵入をある程度食い止めてくれます。しかし、インプラントにはこの歯根膜がありません。そのため、一度細菌に感染すると、炎症が直接インプラント周囲の骨にまで達してしまい、あっという間に進行してしまうのです。
なぜ初期段階での発見が重要なのか
インプラント周囲炎が進行すると、インプラントを支えている顎の骨が溶けてしまいます。骨が溶けてしまうと、インプラントがグラグラと不安定になり、最悪の場合、抜け落ちてしまうリスクがあるのです。
一度溶けてしまった骨を元に戻すことは非常に難しく、大がかりな治療が必要となります。しかし、初期の段階であれば、専門的なクリーニングや投薬などの比較的簡単な処置で改善できる可能性が高いのです。だからこそ、インプラント周囲炎はセルフチェックによる早期発見が何よりも重要になります。わずかな歯ぐきのサインを見逃さず、日頃からインプラントの状態を意識することが、ご自身のインプラントを長く健康に保つための鍵となるのです。
見逃し厳禁!インプラント周囲炎の初期サイン
インプラント周囲炎は、初期段階では自覚症状がほとんどないことが最も厄介です。痛みや腫れがなくても、水面下でゆっくりと病気が進行していることがあります。しかし、ごくわずかなサインに気づくことができれば、手遅れになる前に適切な処置が可能です。日々のセルフチェックで、インプラント周囲からの小さなSOSサインを見逃さないようにしましょう。
歯ぐきの色と形をチェックする
健康な歯ぐきは、薄いピンク色で引き締まっています。しかし、インプラント周囲炎が始まると、歯ぐきの色や形に変化が現れます。
- 歯ぐきの色が赤く、または濃い赤色になっている:これは炎症が起きているサインです。インプラント周囲だけでなく、その周辺の歯ぐきも一緒にチェックしましょう。
- 歯ぐきが腫れて丸みを帯びている:健康な歯ぐきはインプラントと隙間なくフィットしていますが、炎症が起きると腫れやむくみでふくらんで見えます。鏡で左右を見比べると、変化に気づきやすいでしょう。
歯磨きやフロスで出血しないか確認する
健康な歯ぐきは、適切に歯磨きやデンタルフロスを行っても出血することはありません。もしインプラントの周りを磨いた時に、少しの力で出血する場合は、炎症が始まっている可能性が非常に高いです。出血は、インプラント周囲炎の初期段階で現れる最も重要なサインの一つです。痛みを伴わないことが多いため、「少し血が出ただけ」と軽視されがちですが、これは歯周病の原因菌が歯ぐきの中で活動している明確な証拠です。
- 歯ブラシに血がにじむ
- デンタルフロスに血が付着する
- うがいをしたときに血が混ざる
ぐらつきや口臭をチェックする
インプラント周囲炎が進行すると、インプラント自体にも変化が現れます。
- ぐらつき:インプラントを指先や舌で軽く押してみて、グラグラしないか確認しましょう。インプラントは顎の骨としっかり結合しているため、通常は動きません。もし少しでも動くようであれば、骨が溶けている可能性が考えられます。
- 口臭:インプラント周囲から、いつもと違う嫌な臭いがしないか確認しましょう。これは、インプラントと歯ぐきの隙間に溜まった細菌が繁殖し、ガスを発生させているサインです。
異変に気づいたら?すぐに取るべき対処法
インプラント周囲炎のセルフチェックで、もしも少しでも気になるサインが見つかったら、自己判断はせず、すぐに歯科医院を受診することが最も重要です。放置すると、せっかく入れたインプラントが抜け落ちてしまうリスクがあるからです。まずは、当院のインプラント治療ページもご参照ください。
絶対にやってはいけないNG行動
- 自己判断で強く磨くこと:炎症を起こしている歯ぐきを力任せに磨くと、かえって傷つけ、症状を悪化させる危険があります。
- インプラントを触る・揺すること:グラつきが気になっても、無理に触ったり、揺すったりすることは、インプラントと骨の結合をさらに損なうことになりかねません。
- 市販のうがい薬だけで済ませること:これらはあくまで補助的なものであり、根本的な原因である細菌を取り除くことはできません。
歯科医院での治療内容
早期に歯科医院を受診すれば、インプラント周囲炎の治療は比較的簡単で済みます。
- 初期段階の場合:専用の器具を使って、インプラント周囲のプラークや歯石を徹底的にクリーニングします。
- 進行している場合:炎症が骨にまで及んでいる場合は、歯周外科手術が必要になることがあります。溶けた骨の再生を促す治療や、インプラント周囲の感染組織を除去する処置などが行われます。最近では、レーザー治療や抗菌剤を用いたインプラント周囲炎治療も導入されています。
毎日のケアがインプラントを守る!予防のポイント
インプラント周囲炎は、治療後も再発するリスクが高い病気です。ご自身のインプラントを長持ちさせるためには、毎日の正しいケアと、プロによる定期的なメンテナンスが不可欠です。
正しい歯磨きとデンタルフロスの使い方
インプラント周囲を清潔に保つには、天然歯とは少し異なる工夫が必要です。
- 歯ブラシの選び方:インプラント周囲の歯ぐきを傷つけないよう、やわらかい毛先の歯ブラシを選びましょう。
- 磨き方のコツ:歯ブラシをインプラントと歯ぐきの境目に45度の角度で当て、小刻みに動かす「バス法」が有効です。
- デンタルフロスや歯間ブラシの活用:歯ブラシだけでは届きにくい、インプラントと天然歯の間や、インプラントの土台部分の汚れを徹底的に除去することが重要です。
定期的なメンテナンスの重要性
どんなに毎日のセルフケアを頑張っていても、ご自身では落としきれない汚れが必ずあります。歯科医院での定期検診は、専門医がインプラントの状態をチェックし、専用の器具で徹底的にクリーニングする、とても大切な機会です。最新の研究では、インプラントの周囲の歯ぐきは、天然歯よりもプラークが溜まりやすく、炎症が起きやすいことがわかっています([1])。だからこそ、プロの専門家によるメンテナンスが不可欠なのです。
よくある質問(FAQ)
Q1:インプラントを入れたら、もう虫歯や歯周病にはならないんですよね?
A1: インプラント自体が虫歯になることはありません。しかし、インプラント周囲には細菌が溜まりやすく、インプラント周囲炎という歯周病に似た病気にかかるリスクがあります。歯周病に関する詳しい情報は、当院の歯周病治療ページもご覧ください。
Q2:歯ぐきから少し血が出ただけですが、歯科医院に行くべきですか?
A2: はい、すぐに歯科医院を受診することをおすすめします。歯ぐきからの出血は、インプラント周囲炎の初期サインである可能性が高いです。放置すると、症状が進行してインプラントが抜け落ちてしまうリスクがあります。
Q3:インプラント周囲炎の治療には、どのくらいの費用がかかりますか?
A3: 治療内容によって費用は異なります。初期の炎症であれば、保険診療の範囲内でクリーニングや投薬治療を行う場合が多いです。しかし、進行して外科的な処置が必要になると、自費診療となるケースがあります。
東京都港区でインプラント治療をお探しなら当院へ
この記事で解説したように、インプラントを長持ちさせるには、日々のセルフケアと専門的なメンテナンスが欠かせません。
当院**「泉岳寺駅前歯科クリニック」では、患者様一人ひとりに合わせた丁寧なインプラントの治療とケアを提供しています。インプラント周囲炎のセルフチェック**で少しでも気になる点があれば、お気軽にご相談ください。
当院は東京都港区にあり、泉岳寺駅A3出口から徒歩1分というアクセスしやすい場所にございます。高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスが良く、お仕事帰りや買い物ついでにもお立ち寄りいただけます。
インプラントに関するお悩みや不安がございましたら、当院の医院情報・アクセスページをご覧いただくか、直接お電話でお問い合わせください。
参考文献
- Heitz-Mayfield, L. J. A. (2008). Peri-implant diseases: diagnosis and risk indicators. Journal of Clinical Periodontology, 35(8 Suppl), 292–304. (DOI: 10.1111/j.1600-051X.2008.01275.x)