それ、放置しないで!インプラントのぐらつき・痛みは要注意。すぐに受診すべき危険なサインと対処法
インプラントは、適切にケアすれば半永久的に使える「第二の永久歯」です。しかし、どれだけ丁寧に扱っていても、思わぬトラブルが起こる可能性はゼロではありません。
特に**「ぐらつき」や「痛み」は、インプラントがあなたに送る重要なSOSサイン**です。これらを放置してしまうと、最悪の場合、せっかく入れたインプラントを抜くことにもなりかねません。
この記事では、インプラントのぐらつきや痛み以外にも、見過ごされがちな危険なサインを詳しく解説します。
そのぐらつき、放置しないで!インプラントが発する5つのSOSサイン
ぐらつき、痛み…これってインプラント?
インプラントのぐらつきには、2つのパターンがあります。1つは、歯茎の上に被せた人工歯(上部構造)だけがぐらつく場合。もう1つは、人工歯と顎の骨に埋まっているインプラント体全体がぐらつく場合です。
前者の場合は、人工歯を固定しているネジが緩んでいるだけのことが多く、比較的簡単な処置で治せる可能性が高いです。しかし、後者の場合は、インプラントを支える骨が溶けている危険なサインかもしれません。
また、痛みも重要なサインです。
- 噛んだ時にだけ痛む:噛み合わせの不調や、歯ぎしり・食いしばりによる過度な負担が原因の可能性があります。
- 何もしなくてもズキズキ痛む:インプラント周囲で炎症が起きている可能性があり、急いで歯科医院を受診する必要があります。
インプラント周囲の「腫れ」「出血」「排膿」は要注意
これらの症状は、インプラント周囲炎の典型的な初期症状です。特に次のような症状に心当たりはありませんか?
- 歯磨きやフロスをすると、インプラントの周りの歯茎から血が出る
- 歯茎が赤く腫れて、ブヨブヨしている
- 歯茎を指で押すと、膿(うみ)が出てくる
インプラント周囲炎は、初期段階では自覚症状が少ないため、気づいた時にはかなり進行しているケースが少なくありません。膿が出るような状態は、インプラント周囲の炎症がかなり悪化しているサインです。
噛み合わせの変化、違和感も危険なサイン
インプラントを装着してから、以前と比べて噛み合わせに違和感がある、特定の食べ物を噛むと変な感覚がするといった経験はありませんか?
これは、インプラント周囲の骨が少しずつ吸収されたり、上部構造に問題が生じたりしている可能性があります。小さな違和感であっても、放置するとインプラントに過度な負担がかかり、深刻なトラブルに発展することがあります。
なぜ起こる?インプラントトラブルの知られざる原因
インプラントのぐらつきや痛みの背景には、さまざまな原因が潜んでいます。これらの原因を正しく理解することが、トラブルの予防と早期解決につながります。
この章では、インプラントの健康を脅かす主な原因について、最新の知見と合わせて解説します。
インプラント周囲炎とは?骨が溶ける恐ろしい病気
インプラントトラブルの最大の原因として挙げられるのが、「インプラント周囲炎」です。これは、天然歯の歯周病と非常によく似た病気で、インプラントの周囲に付着した歯周病菌が原因で炎症が起こり、インプラントを支える顎の骨が徐々に溶けていく病態です。
天然歯には、歯根膜というクッションのような組織があり、炎症の広がりをある程度抑えることができます。しかし、インプラントにはこの歯根膜がなく、一度炎症が起こると骨に直接炎症が広がりやすいという特徴があります。このため、インプラント周囲炎は進行が早く、自覚症状がないまま手遅れになるケースも少なくありません。
近年の研究では、インプラント周囲炎のリスク因子として、喫煙、糖尿病、不適切な口腔衛生、インプラント治療歴、歯周病の既往歴などが指摘されています(※1)。特に、過去に歯周病を患っていた方は、インプラント周囲炎のリスクが高いため、より一層の注意が必要です。当院では、日本歯周病学会の認定医が在籍しており、歯周病の専門的な観点からインプラント周囲炎を予防・治療します。詳しくは「当院の歯周病治療」をご覧ください。
要注意!歯ぎしりや食いしばりによるインプラントへの負担
歯ぎしりや食いしばりといった、日常的な癖もインプラントトラブルの大きな原因となります。インプラントは天然歯とは異なり、咬む力を吸収・分散する機能がありません。そのため、強い力がかかると、その力が直接インプラント周囲の骨に伝わってしまいます。
過剰な力が継続的に加わることで、インプラントを支えている骨に微細なひびが入ったり、骨が吸収されたりすることがあります。また、インプラントの上部構造を固定しているネジが緩む原因にもなり、ぐらつきや痛みを引き起こします。
睡眠中の歯ぎしりや食いしばりは無意識に行われるため、自覚するのが難しいことがあります。就寝時にマウスピースを装着するなど、歯科医師に相談して適切な対策を講じることが重要です。
見過ごされがちなインプラント部品の破損・不具合
インプラントの部品自体に問題があるケースも、稀に存在します。上部構造が破損したり、それを固定するネジが緩んだりすることがあります。
これらの問題は、インプラントの治療を受けた直後から数年後に現れることがあります。インプラントメーカーの品質管理の問題や、不適切な設計、噛み合わせの不調などが原因として考えられます。
このような場合は、インプラント周囲炎とは根本的に治療法が異なります。自己判断で様子を見ず、まずはインプラント治療を受けた歯科医院に相談することが最も確実な対処法です。当院では歯科用CTやマイクロスコープを用いた精密な検査で、トラブルの原因を正確に特定します。詳しくは「精密治療」のページもご覧ください。
放置するとどうなる?インプラントを失う最悪のシナリオ
インプラントのぐらつきや痛みは、身体が発する「これ以上放置してはいけない」という警告です。
「少しぐらついているだけ」「痛みも一時的なものだろう」と自己判断して放置してしまうと、インプラント周囲炎は静かに、しかし確実に進行していきます。そして、取り返しのつかない事態を招くことになります。
放置することで起こる、最悪のシナリオとは?
- インプラント周囲の骨がさらに溶ける
インプラント周囲炎が進行すると、インプラントを支える顎の骨がどんどん溶けてしまいます。骨の量が不足すると、インプラントを支えきれなくなり、ぐらつきがさらにひどくなります。
- インプラントの脱落(抜歯)
骨が溶け、インプラントが支えを失うと、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまいます。これはインプラント周囲炎の最も悲しい結末です。インプラントは非常に高価な治療であり、脱落は金銭的にも精神的にも大きな負担となります。
- 再治療が困難に、あるいは不可能に
一度インプラントが脱落してしまうと、再治療は非常に難しくなります。骨が大きく失われているため、再度のインプラント埋入には、**大掛かりな骨造成手術(骨を増やす手術)**が必要となることがほとんどです。場合によっては、骨の量が足りず、再治療自体が不可能になることもあります。当院では「歯周組織再生療法」にも対応していますので、ご相談ください。
インプラントは、あなたの健康と笑顔を取り戻すための大切なパートナーです。異変に気づいたら、「もう少し様子を見てみよう」は絶対に避けてください。トラブルが軽微なうちに対処することが、インプラントを長く快適に使うための最善策なのです。
危険なサインに気づいたら、すぐに歯科医院へ!
「インプラントがぐらつく」「なんだか痛い」。そんなSOSサインに気づいた時、最も大切なことは「自己判断しない」ことです。
インプラントは非常にデリケートな治療であり、トラブルの原因を特定するには専門的な知識と検査が必要です。この章では、危険なサインに気づいた時に取るべき行動と、歯科医院での検査・治療の流れについて解説します。
自己判断はNG!まずはかかりつけ医へ連絡を
「このくらいなら大丈夫だろう」と安易に考えてしまうと、症状が悪化し、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。特に、インプラント周囲炎は放置すればするほど、治療が難しくなり、最終的に抜歯を余儀なくされます。
インプラントの異変に気づいた際は、まずインプラント治療を受けたかかりつけの歯科医院にすぐに連絡を入れましょう。歯科医師に現在の症状を伝え、できるだけ早く診察の予約を取ることが重要です。
専門医の受診も検討すべきケースとは?
かかりつけの歯科医院で対応できるケースがほとんどですが、以下のような場合は、インプラント治療を専門とする歯科医師への相談も視野に入れると良いでしょう。
- 難易度の高い再治療が必要な場合:骨の量が大きく不足しているなど、大掛かりな外科手術が必要なケース。
- 原因が特定できない場合:複数の歯科医院で診てもらったが、原因がはっきりしない場合。
- セカンドオピニオンを求める場合:治療方針に不安がある場合や、他の選択肢を知りたい場合。
専門医に相談することで、より詳細な診断と、最適な治療方針の提案を受けられる可能性があります。当院の「ドクター紹介」もぜひご覧ください。
歯科医院での検査と治療の流れ
歯科医院を受診すると、通常以下のようなステップで検査と治療が進められます。
- 問診・視診
- 症状やインプラントを埋入した時期などを詳しく聞き取ります。
- 患部の状態を直接目で見て確認します。
- レントゲン・CT検査
- 骨の状態やインプラントの周囲に炎症が起きていないかを詳細に確認します。CT検査は、3次元的に骨の状態を把握できるため、より正確な診断に不可欠です(※2)。
- 診断と治療方針の説明
- 検査結果に基づいて、トラブルの原因と現在の状況を分かりやすく説明します。
- 治療の選択肢や、それぞれのメリット・デメリット、費用などについて詳しく説明します。
- 治療の実施
- 歯科医師の説明に納得した上で、治療が開始されます。初期のインプラント周囲炎であれば、専門的なクリーニングや投薬で改善できることが多いです。
トラブルを防ぐ!インプラントを長持ちさせるための予防法
「インプラントのぐらつきや痛みを経験したくない」「できるだけ長くインプラントを使いたい」。そう考えるのは当然のことです。
インプラントを長く健康に保つには、トラブルが起きてから対処するのではなく、未然に防ぐ**「予防」**が何よりも重要です。この章では、自宅でできる日々のケアと、歯科医院での定期的なメンテナンスの重要性について解説します。
毎日のセルフケアがカギ!正しいブラッシング方法
インプラントの周りには、天然歯と同じように歯垢(プラーク)が付着します。この歯垢に含まれる細菌が、インプラント周囲炎を引き起こす原因となります。インプラント周囲炎を予防するには、毎日の丁寧なブラッシングが不可欠です。
インプラントの周りは特に汚れがたまりやすいので、歯ブラシの毛先をしっかりと当て、やさしい力で小刻みに動かしましょう。歯ブラシは、インプラント周囲を傷つけないよう、毛先が柔らかいものを選ぶのがおすすめです。
意外と重要?デンタルフロスと歯間ブラシの使い方
歯ブラシだけでは、インプラントと天然歯の隙間や、インプラントと歯茎の境目の汚れを完全に除去することは困難です。そこで役立つのが、デンタルフロスや歯間ブラシです。
- デンタルフロス:インプラントと天然歯の隙間が狭い場合に有効です。
- 歯間ブラシ:隙間が広い場合に使いやすく、効率的に歯垢を除去できます。
インプラント専用のフロスや歯間ブラシも市販されていますので、歯科医師や歯科衛生士に相談して、ご自身に合ったものを選びましょう。
インプラントを守る!定期メンテナンスの重要性
どんなに自宅で完璧にケアしているつもりでも、セルフケアだけでは限界があります。インプラントを長持ちさせるためには、歯科医院での定期的なメンテナンスが欠かせません。
歯科医院では、専用の器具を使ってセルフケアでは落としきれない歯石や汚れを除去します。また、インプラントの状態や噛み合わせを定期的にチェックすることで、自覚症状のない初期のトラブルを早期に発見し、対処することができます。
日本口腔インプラント学会も、インプラントの長期安定のためには、歯科医師による定期的なプロフェッショナルケアが不可欠であると提言しています(※3)。「予防・メンテナンス」のページも合わせてご覧ください。
インプラントを「入れたら終わり」ではなく、「入れた後が始まり」と考えて、セルフケアとプロフェッショナルケアの両立を心がけましょう。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. インプラントのぐらつきや痛みは、どれくらいで受診すべきですか?
A. インプラントのぐらつきや痛みを感じたら、すぐに受診してください。
インプラント周囲炎は、初期には自覚症状がほとんどありません。ぐらつきや痛みが現れた時点では、病状がかなり進行している可能性があります。放置するとインプラントを抜かなければならなくなるため、できるだけ早く歯科医院に相談することが重要です。
Q2. ぐらつきの原因が、ネジの緩みだけだった場合、治療費はかかりますか?
A. ネジの緩みだけであれば、再調整や締め直しのみで完了し、治療費がかからない場合もあります。
これは医院の方針や保証内容によって異なります。詳しくは、インプラント治療を受けた歯科医院にご確認ください。
Q3. 他院でインプラント治療を受けましたが、診てもらえますか?
A. はい、他院で治療されたインプラントでも、もちろん診察させていただきます。
インプラントのメーカーや種類によっては、当院で対応できない場合もありますが、まずは一度ご相談ください。詳しくは「当院の診療の流れ」や「よくある質問」もご覧ください。
インプラントのお悩みは泉岳寺駅前歯科クリニックにご相談ください
インプラントのぐらつきや痛み、違和感にお悩みではありませんか?
当院は、精密な診断と丁寧な治療で、患者様のインプラントを長く健康に保つお手伝いをします。他院でインプラントを治療された方のご相談も承っておりますので、どうぞお気軽にご来院ください。
泉岳寺駅前歯科クリニックは、東京都港区にあり、都営浅草線・京急線「泉岳寺駅」A3出口から徒歩1分とアクセス抜群です。JR「高輪ゲートウェイ駅」や「品川駅」からもアクセスが良いため、お仕事帰りや買い物のついでにもお立ち寄りいただけます。
まずはお電話、またはWebからご予約ください。
Webサイトはこちら:https://sengakuji-ekimae-dental.com/
参考文献
- Lang, N. P., & Berglundh, T. (2011). Consensus Report of Group 1 of the 6th European Workshop on Periodontology and Implant Dentistry. Journal of Clinical Periodontology, 38(s11), 182–185.
インプラント周囲炎の診断基準やリスク因子に関するコンセンサスレポート。本記事の「インプラント周囲炎」の章に反映。
- Misch, C. E. (2008). Contemporary Implant Dentistry. Elsevier Health Sciences.
インプラント治療の包括的な教科書。歯科用CTなど、診断と治療に関する一般的な手法の記述に参考。
- 日本口腔インプラント学会. インプラント治療の安心・安全のために – 患者様へのお願い.
インプラント治療の長期維持における定期メンテナンスの重要性を提言しており、記事の「予防・メンテナンス」の章に反映。