毎日欠かさず歯磨きをしているのに、「歯茎から血が出る」「歯周病が進行している」と指摘されたことはありませんか?
その原因は、もしかすると使っている歯ブラシではなく、「磨き方」かもしれません。
特に歯周病がある場合、自己流の強いブラッシングは、病状を悪化させ、歯茎を傷つける危険性があります。
本記事では、歯周病ケアの基本となる2大ブラッシングテクニック「バス法」と「スクラビング法」を徹底比較し、あなたの口腔内に最適な磨き方を専門的な視点から解説します。
見出し1:なぜ磨き方を変える必要がある?歯周病が進行するメカニズム

1-1. 歯周病の本質:歯周ポケット内に潜むプラークとバイオフィルムの存在
歯周病の進行を止めるためには、日常的なプラーク除去(セルフケア)が不可欠です。プラークが硬化した歯石は、歯科医院でのプロケア(専門的処置)が必要ですが、問題の核心は、セルフケアで除去が難しい細菌の塊である「バイオフィルム」です。このバイオフィルムは強力な粘着力を持ち、「歯周ポケット」という死角に潜み、歯周病を進行させます。
1-2. 一般的な横磨き(スクラビング法)では除去が難しい理由
一般的な磨き方(スクラビング法)は、主に歯の平らな表面の汚れを落とすのに適しています。しかし、歯周病菌が潜む「歯と歯茎の境目(歯頚部)」や「歯周ポケットの入り口」は構造的に凹凸が多く、毛先が深く入り込みにくいという問題があります。
そのため、いくら一生懸命磨いても、病原菌が潜む最も重要な領域にはアプローチできていないのが現実です。
1-3. 歯茎を傷つける「オーバーブラッシング」の危険性
「しっかり磨かねば」という意識が強すぎるあまり、力を入れすぎてしまうことを「オーバーブラッシング」と呼びます。これは、デリケートな歯茎を傷つけ、以下のような症状を引き起こします。
- 歯肉退縮(歯茎下がり): 歯茎が削れて下がり、歯の根が露出する。
- 知覚過敏: 露出した根元が刺激に敏感になり、冷たいものがしみる。30代で「歯茎が下がった」と感じたら要注意!放置すると歯はボロボロに?高輪ゲートウェイ駅近くの歯科医院が教える、その真実と対策
特に炎症を起こしている歯茎は非常にデリケートであり、強い刺激は病状を悪化させる原因になります。
見出し2:歯周病に必須の専門技術:バス法(Bass Method)の基本と効果
2-1. バス法とは?:歯周ポケットの入り口を狙う「王道」の磨き方
バス法(Bass Method)は、歯周病予防と治療におけるセルフケアの「王道」とされるブラッシングテクニックです。その最大の目的は、歯周ポケットの入り口(歯肉溝)に毛先を正確に入れ込み、そこに潜む細菌の塊(プラーク、バイオフィルム)を直接掻き出すことにあります。
2-2. 【実践手順】バス法の正しいステップと力のコントロール
バス法を成功させる鍵は「角度」と「力」です。
- 角度の重要性: 歯ブラシの毛先を歯周ポケットに向けて、正確に45度に当てる必要があります。この角度で初めて毛先が歯肉溝の奥に届きます。
- 動かし方: スクラビング法のような大きな横移動ではなく、その場でごく小刻みに細かく振動させます(1箇所につき20回程度)。
- 力の加減: 力を入れすぎると歯茎を傷つけます。正確な角度と優しい力加減が必須です。推奨されるのは、100gの圧力の目安(歯茎が白くならない程度)です。
2-3. バス法がもたらす最大の効果
バス法は、以下のような点で歯周病治療に極めて有効です。
- プラーク除去効率: 歯周病菌の温床である歯周ポケットの入り口と、歯垢が溜まりやすい歯頚部を最も効果的に清掃できます。
- 歯肉への優しさ: 正しい力加減で行えば、歯肉への刺激を最小限に抑えつつ、炎症の原因だけを的確に除去できます。
2-4. 成功の鍵は「持ち方」:ペングリップ(鉛筆持ち)の必要性
バス法に必要な繊細な角度と力加減を実現するためには、歯ブラシの持ち方を「ペングリップ(鉛筆持ち)」にする必要があります。
手のひら全体で握る(パームグリップ)と、無意識に力が入りすぎてしまい、バス法のメリットである「優しい力」でのブラッシングができなくなります。ペングリップは、力の抑制と精密な操作性を提供し、バス法の習熟には欠かせません。
見出し3:多くの人が行いがちな:スクラビング法(横磨き)のリスクと適応
3-1. スクラビング法の定義と手軽さ
スクラビング法は、歯ブラシを歯の表面に垂直(90度)に当て、大きく横方向に往復させる磨き方です。手軽で、短時間で広範囲の歯の表面を磨くことができるため、一般的に広く行われています。健康な歯や歯列が整っている人の歯の表面の汚れ(着色や食物残渣)を落とすのには効果的です。
3-2. 歯周病患者におけるスクラビング法のデメリットとリスク
しかし、歯周病の患者様や、すでに歯茎に問題がある方がスクラビング法を強く行ってしまうと、深刻なデメリットが生じます。
- リスク①:歯肉退縮(歯茎下がり)の加速: 強い横圧がデリケートな歯茎を摩耗させ、歯肉退縮を加速させます。
- リスク②:楔状欠損(けつじょうけっそん): 歯の根元(歯頚部)にV字状の欠損(削れ)が生じ、知覚過敏や虫歯(根面う蝕)のリスクが高まります。
- リスク③:歯周ポケット内へのプラーク押し込み: 誤った横磨きは、プラークをポケットの奥深くに押し込んでしまい、炎症を悪化させる可能性があります。
3-3. 【結論】歯周病がある場合、スクラビング法は基本的に推奨されない
歯周病の進行を食い止めるという目的においては、歯周ポケット内部のプラークの除去効率と歯肉への優しさを両立したバス法が圧倒的に優位です。
もしスクラビング法を行う場合でも、力を極端に弱くし、歯の表面の汚れを軽く払う程度に留める必要があります。【歯科医推奨の磨き方】歯周病を防ぐ「鉛筆持ち(ペングリップ)」の科学。なぜ100gの圧が重要なのか?
見出し4:【進行度別】あなたの歯茎に適した「オーダーメイドの磨き方」
4-1. 歯周病の進行度に応じたブラッシング戦略
バス法は万能ですが、歯周病の進行度によって、力の入れ方や歯ブラシの選択を変える必要があります。
- 軽度歯肉炎の場合: 正しいバス法を習得し、プラークコントロールを徹底することで、セルフケアのみで炎症の改善を目指します。この段階では、出血を恐れず、毛先をポケットに入れることが重要です。
- 中度〜重度歯周炎の場合: 歯肉が敏感で出血しやすく、回復力も低下しています。この段階では特に優しい力(超ソフトなバス法)で、炎症を悪化させないようプラークを除去しつつ、歯科医院での専門処置(スケーリング、ルートプレーニング)との連携が不可欠です。
歯ブラシの毛の硬さについても、歯ブラシの毛の硬さは、歯周病の進行度によってどう変えるべき?か、歯科衛生士の指導を受けることが推奨されます。
4-2. バス法だけでは不十分:補助器具(フロス、歯間ブラシ)の徹底
歯ブラシで除去できるプラークは、口腔内全体の約6割程度です。バス法をマスターしたとしても、歯ブラシが構造的に届かない「歯と歯の間」(隣接面)の清掃は必須です。
デンタルフロスや歯間ブラシを併用することで、清掃効率は劇的に向上します。進行度や歯間スペースの大きさに合わせた適切な補助器具の選び方と使用法も、歯科医院で指導を受けるべき重要な項目です。
4-3. セルフケアの「答え合わせ」:歯科医院でのTBIの重要性
自己流で「完璧に磨けている」と勘違いしていても、実際には約4割の磨き残しがあるのが実情です。磨き方を変えたとしても、その効果は客観的な評価なしには分かりません。
歯科医院では、染め出し液を用いて磨き残しを可視化し、歯科衛生士による個別の歯磨き指導(TBI: Tooth Brushing Instruction)を行います。このTBIによって、患者様ごとに異なる口腔内の状況(歯並び、歯茎の状態)に合わせ、バス法の角度や力の加減を微調整し、習熟度を上げる必要があります。
まとめ
歯周病は、正しいセルフケアとプロフェッショナルケアの二人三脚で進行を止められる病気です。バス法は歯周病ケアの王道であり、歯周ポケット内のプラークを効率的に除去するために非常に有効ですが、その習得には歯科衛生士による正確な指導が不可欠です。自己判断で強い磨き方を続け、歯茎を傷つける前に、ぜひ専門的な診断と指導を受けてください。
「磨いている」と「磨けている」は違います。磨き残しをゼロに近づけることが、歯周病治療成功への最短ルートです。
よくある質問(FAQ)
患者様からよくいただく、歯周病対策と磨き方に関するご質問にお答えします。
Q1. バス法で磨くと歯茎から血が出ます。やめたほうがいいですか?
A. 痛みが強くなければ、優しく続けてください。 出血の多くは、歯茎が炎症を起こしているサインです。悪い血を出し、汚れを取り除くことで炎症は治まってきます。ただし、強く磨きすぎている可能性もあるため、数日経っても出血が止まらない場合は当院までご相談ください。
Q2. 電動歯ブラシでも「バス法」はできますか?
A. 音波ブラシであれば、バス法に近い効果が期待できます。 一般的な回転式の電動歯ブラシはスクラビング効果が高いため、歯周病ケアには「音波式」が適しています。毛先を45度に当てて、手では動かさずにスライドさせるのがコツです。機種によって使い方が異なるため、歯科医院での指導を受けることをお勧めします。
Q3. 歯周病予防には、どんな歯磨き粉がおすすめですか?
A. 研磨剤が少なく、薬用成分(殺菌成分)が含まれたジェルタイプがおすすめです。 歯周ポケットを集中的に磨くバス法では、研磨剤が多いと歯の根元を傷つけるリスクがあります。また、ジェルタイプは薬用成分がポケット内に留まりやすいため、歯周病ケアに最適です。
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参考文献
- Bass CC. An effective method of personal oral hygiene. J La State Med Soc. 1954;106(2):57-73. (バス法の提唱者による原著論文)
- Löe H, Theilade E, Jensen SB. Experimental gingivitis in man. J Periodontol. 1965;36:177-187. (プラークコントロールと歯肉炎の関係を示した古典的論文)
- Poyato-Ferrera M, Segura-Egea JJ, Bullón-Fernández P. Comparison of modified Bass technique with normal toothbrushing practices for efficacy in supragingival plaque removal. Int J Dent Hyg. 2003;1(2):110-114.
- 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編『歯周病治療の指針 2022』
- Lindhe J, Lang NP. Clinical Periodontology and Implant Dentistry. 6th ed. Wiley-Blackwell; 2015.
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯の磨き方」
