column 包括的歯科治療

歯周病とインプラントを組み合わせた包括的治療の可能性

2025.09.24

歯周病とインプラント:包括的治療で失われた歯と健康を取り戻す

歯を失った際の治療法としてインプラントが広く知られるようになりましたが、その成功を左右する最も重要な要素に「歯周病」の存在があります。歯周病は、単に歯茎の炎症に留まらず、インプラント治療を検討する方にとって、その成否を分ける決定的な要因となり得ます。当院では、この深い関連性を理解し、単なる失われた歯の補綴に留まらない、お口全体の健康を長期的に見据えた包括的治療を提案しています。

歯周病がインプラントに与える影響

歯周病は、歯周病菌によって歯茎に炎症が始まり、自覚症状が少ないまま歯を支える顎の骨がゆっくりと溶かされていく病気です。この骨の損失は、インプラント治療を行う上で二つの大きな問題を引き起こします。

  1. インプラントを埋入する土台の不足: インプラントは顎の骨にしっかりと結合(オッセオインテグレーション)することで、天然歯のような安定した噛み心地を実現します。しかし、歯周病が進行して骨が溶けてしまうと、インプラントを埋め込むための十分な骨量が確保できなくなります。骨が少ない状態で無理にインプラントを埋入しても安定せず、将来的な脱落のリスクが高まります。当院では、インプラントを安全かつ確実に埋入するために、CTスキャンによる精密な診断と、必要に応じた骨造成(GBR)を行っています。骨造成によってインプラント治療の可能性を広げることが可能です。
  2. インプラント周囲炎のリスク: 歯周病の原因菌は、天然歯だけでなく、インプラントの周囲にも感染します。これにより引き起こされるのがインプラント周囲炎です。天然の歯の歯周病と非常に似ており、インプラント周囲の歯茎に炎症が起き、最終的にはインプラントを支える骨が溶けてしまいます。インプラントには神経がないため痛みを感じにくく、気づいた時にはかなり進行しているケースが少なくありません。インプラント周囲炎が進行すると、最終的にはインプラントが抜け落ちてしまう原因となります。当院では、インプラント周囲炎のリスクを最小限に抑えるための予防策を重視しています。

包括的治療へのアプローチ

当院では、インプラント治療を単なる「失った歯を補う」治療とは考えていません。患者さんの生活の質を長期的に向上させるための「包括的治療」として、以下のような流れで治療を進めます。

  1. 精密な検査と総合的な診断: まず、高性能な歯科用CTスキャンを用いて、歯茎や顎の骨の状態を立体的に詳しく調べます。歯周病の進行度、骨の量や質、そしてインプラントを安全に埋入できる場所があるかを正確に診断します。また、口腔内全体の診査を行い、他の虫歯や噛み合わせの問題も同時に確認することで、お口全体を一つのシステムとして捉えた治療計画を立てます。
  2. 徹底した歯周病治療: インプラント治療を行う前に、まずはお口の中の環境を根本から整えることが最も重要です。歯周病が進行している場合は、プラークコントロールの指導や、スケーリング・ルートプレーニング(SRP)による歯石除去を行います。重度の場合は、歯周外科手術や、骨の再生を促す歯周組織再生療法を併用し、歯周病菌を徹底的に除去します。このプロセスにより、インプラントを成功させるための健康な地盤を築き、将来的なリスクを大幅に減らすことができます。歯周病のより詳細な治療法については、当院の歯周病治療ページをご覧ください。
  3. 最適なインプラント治療計画: 歯周病の治療が完了し、口腔環境が整った段階で、インプラント治療へと移行します。CTデータとデジタル技術を駆使し、患者さん一人ひとりの骨の状態に合わせた最適なインプラントの種類、埋入位置、本数を綿密に計画します。この段階で、インプラントの埋入位置を正確に誘導するサージカルガイドを使用することで、治療の安全性と精度を高めます。インプラント治療の詳細は、当院のインプラント治療ページにてご確認いただけます。
  4. 治療後の長期的なメンテナンス: インプラントは人工物ですが、インプラント周囲炎のリスクは天然歯以上と言われています。そのため、治療が完了した後も、定期的なメンテナンスが不可欠です。専門的なクリーニングやセルフケア指導を通じて、インプラント周囲炎を予防し、インプラントを長持ちさせるためのサポートを継続します。当院のメンテナンスは、単にインプラントの状態を確認するだけでなく、残っているご自身の歯を含めたお口全体の健康を維持するための重要なプロセスです。

まとめ

インプラント治療は、失われた歯を補い、噛む機能や見た目を回復し、生活の質を大きく向上させる素晴らしい治療法です。しかし、インプラントを長期的に機能させるためには、治療前の歯周病治療が不可欠です。当院では、歯周病の治療をインプラント治療の前提と位置づけ、患者さんの生涯にわたるお口の健康を第一に考えた包括的な治療をご提供しています。

歯周病で歯を失ってしまった方、またはインプラント治療を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。私たちは、患者さんのお口の状態を総合的に診断し、最も安全で、最も効果的な治療計画をご提案します。

これまでの連載はこちらから

次回は、「自信のある笑顔は、歯並びから。包括的な矯正治療のすすめ」について、お話しします。

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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