「なぜ、むし歯でもないのに、わざわざ歯医者に行かなければならないの?」
そう思われる方も少なくないでしょう。歯科医院は「歯が痛くなってから行く場所」というイメージが根強くあります。しかし、私たち歯科医師は、歯が健康なうちにこそ、積極的に歯科医院へ足を運んでいただきたいと考えています。なぜなら、定期検診は単なる歯のチェックではなく、お口全体の健康、ひいては全身の健康を守る上で、何よりも重要な予防の砦となるからです。
私たちは、なぜこれほどまでに定期検診を強く勧めるのか?その3つの理由を、より詳しくお話しします。
理由1:自覚症状のない「隠れた病気」を早期に発見できる
歯の病気は、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。特に歯周病は、**「サイレントキラー(静かなる病気)」**とも呼ばれ、痛みや腫れといったはっきりとしたサインがないまま、静かに進行していきます。
- 初期のむし歯: 歯の表面が少し溶け始めただけの初期むし歯は、痛みもありません。黒ずみや小さな穴が見つかっても、ほとんどの人は「大したことない」と放置してしまいがちです。しかし、この段階で発見できれば、削る必要のない簡単な処置や、歯の再石灰化を促すことで進行を食い止めることが可能です。
- 初期の歯周病: 歯ぐきの軽い出血や腫れがあっても、「疲れているからかな?」と見過ごしてしまいがちです。この時点で歯科医院に来ていただければ、進行を食い止めるのは比較的容易です。しかし、放置すると、歯を支える顎の骨が少しずつ溶け始め、最終的には歯がグラグラになり、抜け落ちてしまうのです。
こうした初期症状は、普段の歯磨きでは見逃しやすく、発見した時にはすでに進行しているケースがほとんどです。しかし、定期検診では、歯科医師や歯科衛生士が専門的な知識と器具を使い、肉眼では見えない部分まで細かくチェックします。専用のプローブ(探針)で歯周ポケットの深さを測ったり、必要に応じてデジタルレントゲンを撮影したりすることで、歯ぐきの状態や、詰め物の下に隠れたわずかな隙間、歯の内部の小さな異変まで見つけ出すことが可能です。もし問題が見つかっても、初期の段階であれば簡単なクリーニングや小さな修復で済み、大掛かりな治療や、歯を失うという悲劇を回避することができます。これは患者様ご自身の身体的・経済的な負担を大きく軽減することにつながります。当院の予防歯科では、こうした早期発見に特に力を入れています。歯周病がどのように進行していくか、その恐ろしさについてはこちらのコラムでさらに詳しく解説しています。
理由2:プロのクリーニングで、お口の環境をリセットする
どんなに丁寧に歯磨きをしていても、歯ブラシだけではすべての汚れを取り除くことはできません。歯と歯の間、歯ぐきとの境目、奥歯の溝や裏側といった部分は、磨き残しがたまりやすい「プラークの温床」です。
これらの磨き残し(プラーク)が時間の経過とともに唾液中のミネラルと結合すると、非常に硬い歯石へと変化します。歯石はご自身の歯磨きでは決して落とすことができず、その表面はザラザラしており、さらに新たな細菌が付着しやすくなるという悪循環を生み出します。これが、むし歯や歯周病を再発させる大きな原因です。
定期検診で行う**PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)**は、この悪循環を断ち切るための最も効果的な方法です。専門の器具を使って、普段の歯磨きでは届かない歯石やバイオフィルム(細菌の集合体)を徹底的に除去します。超音波スケーラーで歯石を粉砕し、特殊なブラシとペースト、あるいは最新のエアフロー機器で歯の表面をツルツルに磨き上げます。これにより、むし歯や歯周病の原因を根本から取り除くだけでなく、細菌が付着しにくい環境を整えます。また、タバコやコーヒー、紅茶などによる頑固な着色汚れも除去できるため、歯本来の自然な白さと輝きを取り戻すことができます。当院のPMTCについて、さらに詳しい施術の流れや、その効果について知りたい方はこちらのページをご覧ください。
理由3:お口の健康は、全身の健康につながる
一見、関係がないように思えますが、お口の健康と全身の健康は密接につながっています。近年、歯周病菌が血液を通じて全身に広がり、糖尿病や心臓病、脳梗塞などの重大な疾患のリスクを高めることが明らかになっています。歯周病による歯ぐきの炎症は、全身の炎症反応を慢性的に引き起こすため、すでに持病をお持ちの方にとっては、その病状を悪化させる可能性もあるのです。
また、噛み合わせのバランスが崩れると、食事の際に特定の歯に過度な負担がかかり、歯が欠けたり、詰め物が外れたりする原因となります。さらに、顎関節症や、肩こり、頭痛、全身の歪みにつながることもあります。しっかり噛むことは脳への血流を促し、認知症予防にもつながると言われています。
定期検診は、これらのリスクを未然に防ぎ、健康寿命を延ばすための第一歩です。お口の中の健康を維持することは、美味しく食事を楽しみ、心から笑顔でいられる毎日を送るために不可欠です。私たちは、皆様の**「生涯の健康」**を守るパートナーとして、寄り添っていきたいと考えています。当院の診療コンセプトも合わせてご参照ください。
健康な歯を長く保つために、ぜひ定期的なメンテナンスを習慣にしてください。歯に関するお悩みやご相談がありましたら、お気軽にお声がけください。
これまでの連載はこちらから
- 第46回:治療がゴールではない。「メンテナンス」こそが成功の鍵
- 第45回:ホワイトニングで歯を白くする前に知ってほしいこと
- 第44回:美しい歯は、健康な歯。セラミック治療で得られるメリット
- 第43回:自信のある笑顔は、歯並びから。包括的な矯正治療のすすめ
- 第42回:歯周病とインプラントを組み合わせた包括的治療の可能性
- 第41回:インプラントは怖い?不安を安心に変える当院の取り組み
- 第40回:インプラントは単なる人工歯ではない。「第二の人生」を取り戻す治療です
- 第39回:歯周病治療は本当に痛い?
- 第38回:歯周病治療を成功させる「精密なクリーニング」とは
- 第37回:歯周病の専門家がが語る「歯周病治療の本当のゴール」
- 第36回:包括的治療の土台となる「歯周病治療」の重要性
- 第35回:【当院の信念】泉岳寺駅前歯科クリニックが「包括的な治療」にこだわる理由
- 第34回:歯科医が本音で語る「一生自分の歯でいる」ための第一歩
- 第33回:「保険診療と自費診療、歯科医が考える本当の違いとは」
- 第32回:包括的な治療は『高額』?いいえ、それは『健康寿命を伸ばす選択』です
- 第31回:治療の『ゴール』を共有する、当院のカウンセリング
- 第30回:患者さんが『納得』するまで、私たちは何度でも説明します
- 第29回:治療計画は『オーダーメイド』。あなたの希望を教えてください
- 第28回:【院長メッセージ】なぜ、当院はカウンセリングに時間をかけるのか
- 第27回:治療は二人三脚。私たちは、患者さんの『想い』を最優先します第26回:【当院の診断プロセス】『全体を診る』ための徹底した検査
- 第25回:当院があなたの『お口のかかりつけ医』であるために
- 第24回:【患者さんの声】「もっと早く来ていればよかった」と感じた方へ
- 第23回:包括的な治療を支える最新の設備とチーム医療
- 第22回:当院スタッフが語る、日々の診療で大切にしていること
- 第21回:【院長紹介】私が包括的な治療に人生をかける理由
- 第20回:噛み合わせの乱れは、歯の寿命を縮める!?
- 第19回:歯周病は、歯ぐきの腫れや出血だけじゃない
- 第18回:歯を失ったまま放置すると、なぜ「ドミノ倒し」が起きるのか?
- 第17回:インプラント治療:失った歯を補うための最良の選択肢
- 第16回:歯並びを整える:矯正治療がもたらす笑顔と健康
- 第15回:歯周病治療の『次のステップ』:再発を防ぐための大切なこと
- 第14回:歯周病と全身の病気:心臓病・肺炎・糖尿病との関係
- 第13回:親知らずの抜歯:本当に必要なの?
- 第12回:口臭の原因と対策:エチケットを超えた健康のサイン
- 第11回:セラミック治療のメリット・デメリットと選び方
- 第10回:噛み合わせの重要性:全身の不調を改善する可能性
- 第9回:痛みの少ない治療を目指す当院の取り組み
- 第8回:治療の選択肢:インプラント・ブリッジ・入れ歯の選び方
- 第7回:歯周病は沈黙の病気?自覚症状のないまま進行する怖さ
- 第6回:治療後のアフターケア:メンテナンスが『最後の治療』である理由
- 第5回:治療費への不安を解消する『当院の料金体系』
- 第4回:治療のゴールを共有するカウンセリングの重要性
- 第3回:包括的な治療の第一歩:精密な診断がすべてを変える
- 第2回:部分的な治療が招くドミノ倒しの危険性
- 第1回:なぜ、歯の治療は繰り返すのでしょうか?
次回は、「予防歯科の専門家が教える、自宅ケアのよくある勘違い」について、お話しします。