column 包括的歯科治療

歯科医が定期検診を強く勧める理由

2025.10.10

「なぜ、むし歯でもないのに、わざわざ歯医者に行かなければならないの?」

そう思われる方も少なくないでしょう。歯科医院は「歯が痛くなってから行く場所」というイメージが根強くあります。しかし、私たち歯科医師は、歯が健康なうちにこそ、積極的に歯科医院へ足を運んでいただきたいと考えています。なぜなら、定期検診は単なる歯のチェックではなく、お口全体の健康、ひいては全身の健康を守る上で、何よりも重要な予防の砦となるからです。

私たちは、なぜこれほどまでに定期検診を強く勧めるのか?その3つの理由を、より詳しくお話しします。

理由1:自覚症状のない「隠れた病気」を早期に発見できる

歯の病気は、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。特に歯周病は、**「サイレントキラー(静かなる病気)」**とも呼ばれ、痛みや腫れといったはっきりとしたサインがないまま、静かに進行していきます。

  • 初期のむし歯: 歯の表面が少し溶け始めただけの初期むし歯は、痛みもありません。黒ずみや小さな穴が見つかっても、ほとんどの人は「大したことない」と放置してしまいがちです。しかし、この段階で発見できれば、削る必要のない簡単な処置や、歯の再石灰化を促すことで進行を食い止めることが可能です。
  • 初期の歯周病: 歯ぐきの軽い出血や腫れがあっても、「疲れているからかな?」と見過ごしてしまいがちです。この時点で歯科医院に来ていただければ、進行を食い止めるのは比較的容易です。しかし、放置すると、歯を支える顎の骨が少しずつ溶け始め、最終的には歯がグラグラになり、抜け落ちてしまうのです。

こうした初期症状は、普段の歯磨きでは見逃しやすく、発見した時にはすでに進行しているケースがほとんどです。しかし、定期検診では、歯科医師や歯科衛生士が専門的な知識と器具を使い、肉眼では見えない部分まで細かくチェックします。専用のプローブ(探針)で歯周ポケットの深さを測ったり、必要に応じてデジタルレントゲンを撮影したりすることで、歯ぐきの状態や、詰め物の下に隠れたわずかな隙間、歯の内部の小さな異変まで見つけ出すことが可能です。もし問題が見つかっても、初期の段階であれば簡単なクリーニングや小さな修復で済み、大掛かりな治療や、歯を失うという悲劇を回避することができます。これは患者様ご自身の身体的・経済的な負担を大きく軽減することにつながります。当院の予防歯科では、こうした早期発見に特に力を入れています。歯周病がどのように進行していくか、その恐ろしさについてはこちらのコラムでさらに詳しく解説しています。

理由2:プロのクリーニングで、お口の環境をリセットする

どんなに丁寧に歯磨きをしていても、歯ブラシだけではすべての汚れを取り除くことはできません。歯と歯の間、歯ぐきとの境目、奥歯の溝や裏側といった部分は、磨き残しがたまりやすい「プラークの温床」です。

これらの磨き残し(プラーク)が時間の経過とともに唾液中のミネラルと結合すると、非常に硬い歯石へと変化します。歯石はご自身の歯磨きでは決して落とすことができず、その表面はザラザラしており、さらに新たな細菌が付着しやすくなるという悪循環を生み出します。これが、むし歯や歯周病を再発させる大きな原因です。

定期検診で行う**PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)**は、この悪循環を断ち切るための最も効果的な方法です。専門の器具を使って、普段の歯磨きでは届かない歯石やバイオフィルム(細菌の集合体)を徹底的に除去します。超音波スケーラーで歯石を粉砕し、特殊なブラシとペースト、あるいは最新のエアフロー機器で歯の表面をツルツルに磨き上げます。これにより、むし歯や歯周病の原因を根本から取り除くだけでなく、細菌が付着しにくい環境を整えます。また、タバコやコーヒー、紅茶などによる頑固な着色汚れも除去できるため、歯本来の自然な白さと輝きを取り戻すことができます。当院のPMTCについて、さらに詳しい施術の流れや、その効果について知りたい方はこちらのページをご覧ください。

理由3:お口の健康は、全身の健康につながる

一見、関係がないように思えますが、お口の健康と全身の健康は密接につながっています。近年、歯周病菌が血液を通じて全身に広がり、糖尿病や心臓病、脳梗塞などの重大な疾患のリスクを高めることが明らかになっています。歯周病による歯ぐきの炎症は、全身の炎症反応を慢性的に引き起こすため、すでに持病をお持ちの方にとっては、その病状を悪化させる可能性もあるのです。

また、噛み合わせのバランスが崩れると、食事の際に特定の歯に過度な負担がかかり、歯が欠けたり、詰め物が外れたりする原因となります。さらに、顎関節症や、肩こり、頭痛、全身の歪みにつながることもあります。しっかり噛むことは脳への血流を促し、認知症予防にもつながると言われています。

定期検診は、これらのリスクを未然に防ぎ、健康寿命を延ばすための第一歩です。お口の中の健康を維持することは、美味しく食事を楽しみ、心から笑顔でいられる毎日を送るために不可欠です。私たちは、皆様の**「生涯の健康」**を守るパートナーとして、寄り添っていきたいと考えています。当院の診療コンセプトも合わせてご参照ください。

健康な歯を長く保つために、ぜひ定期的なメンテナンスを習慣にしてください。歯に関するお悩みやご相談がありましたら、お気軽にお声がけください。

これまでの連載はこちらから

次回は、「予防歯科の専門家が教える、自宅ケアのよくある勘違い」について、お話しします。

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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