column 包括的歯科治療

予防歯科の専門家が教える、自宅ケアのよくある勘違い

2025.10.13

「毎日きちんと歯磨きをしているはずなのに、なぜかむし歯になってしまう…」

「歯ブラシだけで十分じゃないの?」

そう思っている方は少なくありません。実は、良かれと思って行っている自宅でのオーラルケアに、見落としがちな「勘違い」が潜んでいることがあります。今回は、予防歯科の専門家として、よくある3つの勘違いと、その正しい考え方についてお話しします。

1. 「強く磨けば、汚れが落ちる」という勘違い

歯磨きは、力を入れてゴシゴシ磨いたほうが汚れが落ちると思われがちです。しかし、これは大きな間違いです。強い力で磨くと、歯の表面にあるエナメル質が削れてしまったり、歯ぐきが傷つき、下がってしまう原因となります。歯周病が進行している場合は、さらに症状を悪化させることにもつながります。

強い力でのブラッシングが引き起こす問題は多岐にわたります。まず、歯と歯ぐきの境目が徐々に削れてしまう**「くさび状欠損(アブフラクション)」を引き起こす可能性があります。これは、歯の根元がV字型にえぐれてしまう状態のことで、この部分に汚れが溜まりやすくなるだけでなく、歯がしみる「知覚過敏」**の原因にもなります。一度削れてしまった歯の組織は元に戻りません。

正しい歯磨きは、強い力で磨くことではありません。歯ブラシの毛先が広がらない程度の軽い力で、歯と歯ぐきの境目に毛先を45度の角度で当て、小刻みに動かすことです。正しいブラッシングの目的は、歯にこびりついた汚れを削り落とすことではなく、細菌の塊であるプラーク(歯垢)を優しくかき出すことです。具体的な磨き方については、こちらの正しい歯磨きに関するページで詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

2. 「歯ブラシだけで、すべての汚れが取れる」という勘違い

どんなに丁寧に歯磨きをしても、歯ブラシの毛先が届かない場所があります。それが、歯と歯の間の狭い隙間です。この部分は、むし歯や歯周病の原因となるプラーク(歯垢)が溜まりやすく、歯ブラシだけでは全体の約6割しか除去できないと言われています。残りの4割の汚れを放置することは、リスクを放置することに他なりません。

プラークは単なる食べかすではなく、細菌が作るネバネバとした**「バイオフィルム」です。このバイオフィルムは、歯の表面や歯周ポケットの中に強固に付着するため、歯ブラシの毛先が届かなければ、決して取り除くことはできません。特に歯と歯の間の隙間は、歯周病菌が繁殖しやすい格好の隠れ家となります。歯と歯の間からむし歯が進行する「隣接面う蝕」**や、歯周病が発症・進行する主な原因は、この部分の磨き残しにあるのです。

そのため、歯ブラシに加えて、以下の補助清掃用具を併用することが必須です。

  • デンタルフロス:歯と歯の間のプラークを効果的に取り除く細い糸状の道具です。フロスを歯間に通したら、歯の側面に沿わせるように「C」の形にして、数回上下に動かすのが正しい使い方です。
  • 歯間ブラシ:歯ぐきが下がって隙間が広くなった部分や、ブリッジの下など、デンタルフロスが届かない部分に適しています。歯間の隙間の大きさに合わせて複数のサイズがあるため、ご自身の歯に合ったものを選ぶことが重要です。

どちらを使えばいいか分からない、使い方が知りたいという方は、こちらのデンタルフロスについてのコラムもご覧ください。

3. 「歯磨き粉はたくさん使うべき」という勘違い

テレビCMの影響もあり、歯ブラシ全体に歯磨き粉を乗せて磨くのが当たり前だと思っていませんか? 歯磨き粉を多くつけすぎると、すぐに泡立ちすぎてしまい、磨いている途中で「もう十分だ」と勘違いし、磨き残しが増える原因となります。また、泡が立ちすぎることで、歯ブラシの毛先がどこに当たっているのか分かりにくくなり、かえって磨き方が雑になることもあります。

さらに重要なのが、むし歯予防に効果的なフッ素です。フッ素は、歯の再石灰化を促し、歯を溶かす酸への抵抗力を高める働きがあります。この効果を最大限に引き出すには、歯の表面にフッ素が十分に触れる時間が必要です。歯磨き粉の量が多すぎてすぐに泡でいっぱいになると、磨く時間が短くなりがちで、フッ素が十分に作用しない可能性があります。歯磨き粉は、ブラシの毛先に1cm程度の少量で十分な効果を発揮します。

まとめ:大切なのは「プロのケア」と「正しいセルフケア」

歯の健康は、日々の地道な努力で維持されるものです。今回ご紹介した「勘違い」をなくし、正しい方法でケアを続けることが、お口の健康を守る第一歩となります。ご自宅でのセルフケアだけでは不安という方は、ぜひ定期的に歯科医院を訪れ、専門家によるクリーニングやチェックを受けるようにしましょう。

ご自身の正しいセルフケアと、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケア、この2つを両立させることで、むし歯や歯周病のリスクを最小限に抑えることができます。当院の予防歯科についてのページでは、プロフェッショナルケアの詳細もご紹介しています。

これまでの連載はこちらから

次回は、「健康な歯を保つために私たちができること」について、お話しします。

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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