歯周病 コラム

もしかして歯周病?進行度をセルフチェック!軽度・中度・重度でどう違う?

2025.07.06

「もしかして、これって歯周病?」

歯磨き中にふと鏡を見たら歯茎が腫れている、なんとなく口臭が気になる…。そんな小さな変化に気づいたあなたは、すでに歯周病の初期サインをキャッチしているかもしれません。歯周病は、日本人の成人の約8割が罹患していると言われる国民病。しかし、初期段階ではほとんど痛みがないため、「サイレントキラー(静かなる病気)」とも呼ばれ、気づかないうちに進行してしまうことが少なくありません。

でもご安心ください。この記事では、ご自身で簡単にできる歯周病セルフチェックのポイントをご紹介します。あなたの歯茎からのSOSを見逃さず、早期発見・早期治療へと繋げていきましょう。


歯周病かも?セルフチェックで初期サインを見つけよう

歯磨き中の出血、もしかして歯周病のサイン?

「歯磨き中に血が出るのは、強く磨きすぎているからだろう」 そう思っていませんか?実は、それは歯周病の最も一般的な初期サインの一つです。

健康な歯茎は、歯ブラシが当たっても簡単には出血しません。しかし、歯周病菌によって歯茎に炎症が起きていると、わずかな刺激でも血管が傷つき、出血しやすくなります。この出血は、歯茎が「助けて!」と炎症のサインを送っている証拠なのです。

  • チェックポイント:
    • 歯ブラシの毛先に血がにじむ
    • フロスや歯間ブラシを使うと出血する
    • 硬いものを食べたときに出血することがある

少量だからと放置せず、このような出血が続く場合は、歯周病が始まっている可能性が高いと認識しましょう。

口臭の変化に要注意!見落としがちな初期症状

「なんだか最近、口がネバつく」「口臭が気になる」と感じたら、それも歯周病のサインかもしれません。特に朝起きた時に口の中が気持ち悪い、一日中口臭が気になる、といった場合は要注意です。

歯周病菌は、口の中で**「揮発性硫黄化合物(VSC)」**と呼ばれるガスを作り出します。このガスこそが、独特の不快な口臭の原因なのです。歯周病が進行すると、このVSCの量が増え、口臭もより強くなる傾向があります。

  • チェックポイント:
    • 朝起きた時に口の中が特にネバつく
    • 家族や友人から口臭を指摘されたことがある(直接言われなくても、なんとなく避けられている気がする、など)
    • 一日中、口の中がスッキリしない、嫌なニオイがする

口臭は自分では気づきにくい症状ですが、もしかしたら歯周病菌が活発に活動しているサインかもしれません。

歯周病のセルフチェック:あなたの歯周病リスクを今すぐ診断

ご紹介したサイン以外にも、歯周病の兆候はいくつかあります。以下のチェックリストで、あなたの歯周病リスクを診断してみましょう。当てはまる項目が多いほど、歯周病が進行している可能性が高くなります。

  • あなたの歯周病セルフチェックリスト
    • 歯茎が赤く腫れている、またはぶよぶよしている
    • 歯磨き中やフロス使用時に頻繁に出血する
    • 口臭が気になる、または指摘されたことがある
    • 朝起きた時に口の中がネバネバする
    • 歯茎が下がって歯が長く見えるようになった気がする
    • 歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなった
    • 歯が浮いたような感じがする、または少しぐらつく
    • 冷たいものや熱いものが歯にしみることがある
    • 歯茎を押すと膿(うみ)が出ることがある

もし、これらのチェック項目に一つでも当てはまるものがあれば、それは歯周病がすでに始まっているか、進行しているサインかもしれません。早期発見があなたの歯を守るための第一歩です。次の章では、歯周病がなぜ進行するのか、そのメカニズムを詳しく解説します。


歯周病ってどんな病気?進行のメカニズムを解説

歯周病」という言葉はよく聞くけれど、具体的にどんな病気で、どうやって進行していくのか、意外と知らない方も多いのではないでしょうか。この章では、あなたの歯茎や骨をじわじわと蝕む歯周病の正体と、その進行メカニズムを分かりやすく解説していきます。なぜ歯周病が「サイレントキラー」と呼ばれるのか、その理由もここでお話ししますね。

歯周病の正体とは?歯茎と骨を蝕むサイレントキラー

歯周病は、単なる歯茎の炎症ではありません。歯を支える土台となる**歯茎(歯肉)や、その奥にある歯槽骨(しそうこつ)**という骨が、細菌感染によって炎症を起こし、徐々に破壊されていく病気です。

なぜ「サイレントキラー」と呼ばれるかというと、初期の段階ではほとんど痛みなどの自覚症状がないからなんです。日本臨床歯周病学会の報告によれば、30歳以上の日本人のうち約8割が歯周病にかかっているか、その予備軍であると言われています。痛みがないからと放置しているうちに、気づけば歯がぐらぐらになり、最終的には歯を失うことにもなりかねません。

また、歯周病は口腔内だけの問題に留まりません。近年の研究では、歯周病菌が血液を通じて全身に運ばれ、糖尿病心臓病(動脈硬化、心筋梗塞など)脳梗塞、さらには誤嚥性肺炎早産など、さまざまな全身疾患のリスクを高める可能性が指摘されています。

歯周病菌が引き起こす炎症の連鎖

では、なぜ歯周病は起こるのでしょうか?その元凶となるのは、お口の中に潜む細菌の塊、つまり「プラーク(歯垢)」と、それが石灰化した「歯石」です。

歯磨きが不十分だと、歯と歯茎の境目や歯の表面にプラークが溜まります。このプラークの中にいる歯周病菌(特にPorphyromonas gingivalisなどの嫌気性菌)が毒素を出し、まず歯茎に炎症を引き起こします。これが**「歯肉炎」**と呼ばれる初期段階です。この時点ではまだ歯槽骨への影響はありません。

しかし、歯肉炎を放置すると、炎症はさらに深部へと広がっていきます。歯周病菌や炎症物質が歯茎の奥深くへと侵入し、最終的に歯を支える大切な歯槽骨を溶かし始めるのです。こうなると「歯肉炎」から**「歯周炎」**へと進行し、歯がぐらつき始めたり、歯茎から膿が出たりといった、より深刻な症状が現れるようになります。

歯周ポケットの深さが示す歯周病の進行度

歯科医院で「歯周ポケットの深さを測りますね」と言われた経験はありませんか?この「歯周ポケット」こそが、歯周病の進行度を知る上で非常に重要な指標となります。

歯と歯茎の境目には、本来1~2mm程度の浅い溝があります。これが健康な「歯肉溝」です。しかし、歯周病菌が侵入して炎症が起こると、歯茎が腫れたり、歯槽骨が溶けて下がったりすることで、この溝が深くなり、**「歯周ポケット」**へと変化します。

歯周ポケットが深くなればなるほど、歯周病菌は酸素の少ない深い場所でさらに繁殖しやすくなり、炎症や骨破壊が加速するという悪循環に陥ります。歯科医が専用の器具(プローブ)を使って歯周ポケットの深さを測るのは、あなたの歯周病が今どの段階にあるのかを正確に把握するためなのです。

健康な歯肉溝は1~2mm程度ですが、歯周病が進行するにつれて3mm、4mm、そして6mm以上と深くなっていきます。次の章では、この歯周ポケットの深さも目安に、あなたの歯周病が今どの段階にあるのかを具体的に診断していきます。


進行度を徹底診断!あなたの歯周病は今どの段階?

「私の歯周病、今はどのくらいの段階なんだろう?」 歯周病は、その進行度によって症状もリスクも大きく異なります。この章では、ご自身の口腔内の状態をより具体的に把握できるよう、歯周病の進行段階を一つずつ詳しく解説していきます。それぞれの段階で現れる特徴的な症状や、ご自身で確認できるセルフチェックのポイントを知ることで、あなたの歯周病が今どの位置にあるのかを診断してみましょう。

歯肉炎:早期発見で完治も夢じゃない!

特徴と状態 歯肉炎(Gingivitis)は、歯周病の最も初期の段階です。この時点では、炎症は歯茎(歯肉)のみに限定されており、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)にはまだ影響が出ていません。プラーク(歯垢)が歯と歯茎の境目に蓄積し、細菌の毒素によって歯茎が炎症を起こしている状態です。

この段階の最大の利点は、適切な治療とセルフケアを行うことで、健康な歯茎の状態に完全に回復する可能性があることです。言わば、歯周病への「最終警告」であり、ここでの対処が非常に重要になります。

主な症状

  • 歯茎の赤みと腫れ: 健康なピンク色ではなく、赤みがかったり、ぶよぶよと腫れたりします。
  • 歯磨き時の出血: 歯ブラシやフロスを使うと簡単に出血します。痛みはほとんど感じないことが多いため、見過ごされがちです。
  • 軽度の口臭: 細菌の活動により、わずかに口臭を感じることがあります。

セルフチェックのポイント

  • 歯茎の色は健康なピンク色ですか、それとも赤みがかって腫れていますか?
  • 歯磨きやフロスを使った際に、定期的に出血がありますか?
  • 歯茎は引き締まっていますか、それとも少しぶよぶよしていますか?

目安となる歯周ポケットの深さ: 2~3mm程度(健康な歯茎の目安は1~2mmです)。

軽度歯周炎:骨破壊の始まり、放っておくと危険!

特徴と状態 歯肉炎を放置すると、炎症は歯茎の奥深くへと進行し、軽度歯周炎(Mild Periodontitis)へと移行します。この段階から、いよいよ歯を支える土台である歯槽骨の破壊が始まります。歯周ポケットがさらに深くなり、歯周病菌が骨を溶かす物質を放出し始めるのです。

一度溶け始めた骨は、特別な治療をしない限り自然に元に戻ることはありません。そのため、この段階での適切な介入が、歯の寿命を左右します。

主な症状

  • 歯茎の腫れ・出血の悪化: 歯肉炎よりも頻繁に、より多量の出血が見られるようになります。
  • 歯茎が下がる: 炎症と骨の吸収により歯茎が少し下がり始め、歯の根元が露出し、歯が長く見えることがあります。
  • 冷たいものがしみる(知覚過敏): 歯茎が下がることで、歯の根元(象牙質)が露出し、冷たい飲食物などでしみる症状が出ることがあります。
  • 口臭の増強: 歯周ポケットが深くなり、嫌気性菌が増殖することで、口臭がさらに強くなります。

セルフチェックのポイント

  • 歯茎が明らかに下がって、歯の根元が見える箇所がありますか?
  • 以前よりも冷たいものや甘いものが歯にしみるようになりましたか?
  • 歯磨き時の出血が以前より頻繁になりましたか?

目安となる歯周ポケットの深さ: 3~4mm程度

中等度歯周炎:歯のぐらつき、膿、見過ごせないサイン

特徴と状態 軽度歯周炎がさらに進行すると、**中等度歯周炎(Moderate Periodontitis)**になります。この段階では、歯槽骨の破壊が半分近くまで進んでいることが多く、歯を支える力が著しく弱まってきます。炎症は慢性化し、歯周ポケットはさらに深くなります。

歯のぐらつきが感じられ始めるため、日常生活にも影響が出始めます。放置すれば、歯を失うリスクが非常に高まります。

主な症状

  • 歯茎からの排膿: 歯周ポケットの奥で細菌が繁殖し、炎症が激しくなることで、歯茎を押すと膿(うみ)が出てくることがあります。
  • 歯のぐらつき(動揺): 歯を支える骨が失われることで、歯が少しぐらつき始め、指で押すと動くのがわかることがあります。
  • 噛む機能の低下: 歯がぐらつくため、硬いものが噛みにくくなったり、噛むと痛みを感じたりすることがあります。
  • 強い口臭: 排膿や細菌の増殖により、口臭がかなり強くなり、周囲に指摘されることもあります。
  • 歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなる: 歯茎がさらに下がり、歯周ポケットが広がることで、隙間に食べ物が挟まりやすくなります。

セルフチェックのポイント

  • 歯茎から黄色っぽい膿が出たことがありますか?
  • 歯を指で触ってみて、以前よりぐらつく感じがしますか?
  • 硬いものを噛むと歯が浮くような違和感や痛みを感じますか?

目安となる歯周ポケットの深さ: 4~6mm程度

重度歯周炎:歯を失う前に知るべき最終段階

特徴と状態 歯周病が最も進行した状態が**重度歯周炎(Severe Periodontitis)**です。この段階では、歯槽骨の半分以上、あるいはほとんどが破壊されてしまっています。歯を支える骨がほとんど残っていないため、歯は著しくぐらつき、口腔内の機能が大きく損なわれます。

この段階まで進むと、歯を保存することが非常に困難になり、抜歯が選択されるケースも多くなります。しかし、現代の歯科医療では、重度歯周炎でも可能な限り歯を残すための専門的な治療も存在します。

主な症状

  • 歯の著しいぐらつきと脱落: 歯が非常に大きくぐらつき、食事はもちろん、会話にも支障が出ます。放置すれば、自然に歯が抜け落ちてしまうこともあります。
  • 強い痛みと激しい排膿: 歯茎の炎症が非常に強いため、常に痛みを感じたり、大量の膿が出続けたりします。
  • 深刻な口臭: 歯周ポケット内の細菌が異常に増殖し、重度の口臭を発生させます。
  • 食事の困難: 歯がぐらつくため、ほとんどのものが噛めなくなり、食事が困難になります。
  • 全身への影響のリスク増大: 重度の歯周病は、心血管疾患や糖尿病などの全身疾患に影響を与えるリスクがさらに高まります。

セルフチェックのポイント

  • 歯が手で触っても明らかにぐらぐら動きますか?
  • 歯茎が常に腫れていて、激しい痛みや膿がありますか?
  • 食事がほとんどできない、または強い痛みを感じますか?

目安となる歯周ポケットの深さ: 6mm以上


歯周病の進行度別:最適な治療法と自宅ケアの全知識

「私の歯周病はどの段階なんだろう?」前章でご自身の状態をセルフチェックできた方は、次に「じゃあ、何をすればいいの?」と考えるでしょう。この章では、歯周病の進行度に応じた最適な治療法と、ご自身で毎日できる効果的な自宅ケアについて、具体的な方法を解説していきます。

歯周病は、歯科医院でのプロフェッショナルな治療と、毎日のご自宅での丁寧なケアが両輪となって初めて改善が見込める病気です。それぞれの段階でどのような治療が必要になるのかを理解し、今日からできるケアを始めていきましょう。

歯肉炎・軽度歯周炎の治療:プロのクリーニングと正しい歯磨き

歯周病の初期段階である歯肉炎や、軽度の骨吸収が始まったばかりの軽度歯周炎は、比較的シンプルかつ効果的な治療で改善が期待できます。

歯科医院での治療

  • PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング): 歯科衛生士が専門の器具を使い、歯ブラシでは届きにくい歯の表面や歯周ポケットの浅い部分に付着したプラーク(歯垢)やバイオフィルム、着色汚れを徹底的に除去します。これにより、歯周病菌の温床をなくし、歯茎の炎症を抑えます。
  • スケーリング(歯石除去): 歯にこびりついた歯石は、歯周病菌の格好の住処となります。歯石の表面はザラザラしているため、さらにプラークが付着しやすくなります。歯科医師や歯科衛生士が超音波スケーラーやハンドスケーラーを使い、歯肉縁上(歯茎の上)と歯肉縁下(歯茎の中)の歯石を丁寧に取り除きます。

自宅でのケア(セルフケア) 歯科医院での処置と並行して、ご自宅での毎日のケアが非常に重要です。

  • 正しいブラッシング: 歯と歯茎の境目に毛先を当て、小刻みに動かす「バス法」や「スクラビング法」など、ご自身の口腔内に合った正しい磨き方を歯科衛生士から指導してもらい、実践しましょう。歯周病が改善しない原因の多くは、この正しいブラッシングができていないことにあります。
  • デンタルフロスや歯間ブラシの活用: 歯ブラシだけでは、歯と歯の間のプラークを約6割しか除去できないと言われています。残りの約4割のプラークを除去するために、デンタルフロス歯間ブラシを毎日使うことが不可欠です。ご自身の歯と歯の隙間に合ったサイズの歯間ブラシを選びましょう。
  • 洗口液(マウスウォッシュ): 補助的な役割として、抗菌成分を含む洗口液を使用するのも良いでしょう。ただし、これだけで歯周病が治るわけではないため、あくまでブラッシングやフロスの補助として活用してください。

中等度歯周炎の治療:外科的処置も視野に

中等度歯周炎になると、歯肉炎や軽度歯周炎よりも専門的で、時には外科的な処置も検討されます。

歯科医院での治療

  • ルートプレーニング: 歯周ポケットが深くなると、歯根の表面に歯石が深く付着し、細菌毒素で汚染されます。ルートプレーニングは、スケーリングで除去しきれない深い部分の歯石や、細菌に汚染された歯根の表面を滑らかにし、細菌の再付着を防ぐ処置です。これにより、歯茎が歯根に再び付着しやすくなります。
  • 歯周外科治療(フラップ手術など): ルートプレーニングだけでは改善が見込めない、特に歯周ポケットが深い(概ね5mm以上)場合や、複雑な形状の歯根に歯石が付着している場合に行われます。歯茎を切開して剥がし、直接歯根や歯槽骨の状態を目で確認しながら、徹底的にプラークや歯石を除去します。これにより、深い歯周ポケットを減少させ、清掃しやすい環境を整えます。
  • 歯周組織再生療法: 骨の吸収が進んでしまった箇所に対して、失われた歯槽骨や歯根膜などの歯周組織の再生を促す治療法です。エムドゲインなどの薬剤を使用したり、骨補填材を填入したりする方法があります。ただし、全てのケースで適用できるわけではありません。

自宅でのケア(セルフケア) この段階では、ご自宅でのケアの重要性がさらに増します。

  • 徹底したセルフケア: 歯科医院での治療効果を最大限に引き出し、再発を防ぐためには、歯科衛生士の指導に基づいたより丁寧で徹底したブラッシング、フロス、歯間ブラシの使用が不可欠です。
  • 定期的なメンテナンスの継続: 治療が終わった後も、歯周病は再発しやすい病気です。数ヶ月に一度の定期的な歯科検診とプロフェッショナルクリーニングを継続し、お口の状態を維持することが何よりも大切です。

重度歯周炎の治療:失われた組織の再生と抜歯の選択

重度歯周炎は、歯周病が最も進行した段階であり、歯を失うリスクが非常に高まります。しかし、諦める必要はありません。専門的な治療により、歯を救える可能性も残されています。

歯科医院での治療

  • 高度な歯周外科治療: 歯周組織再生療法を適用できるケースであれば、骨や歯周組織の再生を試みます。しかし、骨の破壊が広範囲に及んでいる場合や、歯周病の状態によっては再生が難しいこともあります。
  • 抜歯: 残念ながら、歯周病が重度に進行し、歯を支える骨がほとんど失われてしまった場合、その歯を残すことが困難になることがあります。他の歯への影響や、痛み、機能の問題を考慮し、抜歯が唯一の選択肢となることもあります。
    • 抜歯後には、インプラント、ブリッジ、義歯など、失われた歯を補うための治療法が検討されます。
  • 全身疾患との連携: 重度歯周炎は全身の健康状態と密接に関連しているため、必要に応じて医科との連携を図りながら治療を進めることもあります。

自宅でのケア(セルフケア) この段階では、歯科医院での専門的な治療が中心となりますが、ご自宅でのケアも治療効果の維持に欠かせません。

  • 歯科医師の指示に厳密に従う: 治療計画や自宅でのケアについて、歯科医師や歯科衛生士から受けた指示を忠実に守ることが非常に重要です。
  • 残された歯の維持: 抜歯を避けるためにも、残された歯の周囲のプラークコントロールを徹底し、さらなる進行を防ぐことが最優先となります。

歯周病ケアの鍵!効果的な自宅でのセルフケア術

歯周病の治療と予防において、ご自宅でのセルフケアは非常に重要な役割を担っています。歯科医院でのプロフェッショナルケアの効果を長持ちさせ、再発を防ぐためには、日々の継続が不可欠です。

  • 正しいブラッシングの基本をマスター:
    • 歯ブラシの選び方: ヘッドが小さく、毛先が細くて柔らかいものを選びましょう。
    • 磨き方: 歯と歯茎の境目に毛先を45度の角度で当て、小刻みに優しく振動させるように磨きます。力を入れすぎると歯茎を傷つけてしまうので注意が必要です。
  • デンタルフロスと歯間ブラシの徹底活用:
    • 歯と歯の間、歯と歯茎の境目は、歯ブラシだけではどうしても磨き残しが出やすい部分です。
    • デンタルフロスは、歯と歯の間の狭い隙間に効果的です。C字型に歯に巻き付けて、歯の側面をこするように動かしましょう。
    • 歯間ブラシは、歯と歯の隙間が比較的広い場合に適しています。適切なサイズのブラシを選び、隙間に沿って出し入れします。
    • これらの補助清掃用具を毎日使用することが、プラークコントロールの質を格段に向上させます。
  • 定期的な歯科検診の習慣化:
    • どんなに完璧なセルフケアをしていても、どうしても磨き残しや歯石は蓄積してしまいます。
    • 3ヶ月~半年に一度を目安に歯科医院で定期検診を受け、専門家によるクリーニング(PMTCやスケーリング)を受けるようにしましょう。これにより、歯周病の早期発見・早期治療、そして再発予防に繋がります。

専門家が解説!歯科医院での正確な診断が重要な理由

「セルフチェックで歯周病のサインが見つかったけど、これだけで判断していいのかな?」

そう思われた方は大正解です。ご自身での歯周病セルフチェックは、お口の異変に気づく大切なきっかけになります。しかし、残念ながらそれだけで歯周病の正確な状態を把握し、適切な治療に進むことはできません。

この章では、なぜ歯科医院での専門的な診断が不可欠なのか、そしてどのような検査によってあなたの歯周病の状態が明らかになるのかを詳しく解説します。大切な歯を守るために、ぜひ最後まで読み進めてください。

なぜセルフチェックだけでは不十分なのか?

歯周病は、見た目だけでは判断できない部分で進行する病気です。セルフチェックの限界は、主に以下の3点にあります。

  1. 初期症状の見過ごしやすさ: 歯周病は、自覚症状がほとんどないまま進行することが多いため、「サイレントキラー」と呼ばれます。歯茎の腫れや出血も、初期の段階ではごくわずかで、プロの目で見なければ見過ごしてしまうことが少なくありません。
  2. 深部の状態把握の限界: 歯周病は、歯茎の表面だけでなく、歯周ポケットの奥深くや骨の中で進行するため、肉眼や簡単な器具ではその正確な状態を把握できないことを説明します。ご自身では見えない部分で、病気が着々と進行している可能性があるのです。
  3. 自己判断によるリスク: インターネット上の情報だけで自己判断し、歯科受診を遅らせてしまうと、病状が悪化し、治療がより困難になるリスクが高まります。例えば、歯茎の出血を単なる磨きすぎと判断し、正しいケアを怠ってしまうケースも少なくありません。

これらの理由から、少しでも歯周病のサインを感じたら、必ず歯科専門医による正確な診断を受けることが、あなたの歯を守るための最善策となります。

歯周病の精密検査:歯科医院で行われる診断プロセス

歯科医院では、歯周病の進行度を正確に把握するために、いくつかの専門的な検査が行われます。これにより、あなたの口腔内の状態を「見える化」し、最適な治療計画を立てることが可能になります。

  1. 視診と触診:
    • 歯科医師や歯科衛生士が、まずお口の中全体を丁寧に観察します。歯茎の色(健康なピンク色か、赤みがあるか)、腫れの有無出血の有無、そして**歯のぐらつき(動揺度)**などを視覚や触覚で確認します。
  2. 歯周ポケット測定:
    • 最も重要な検査の一つです。細い針のような専用の器具「歯周プローブ」を使い、歯と歯茎の境目にある歯周ポケットの深さを1本1本測定します。この数値が、歯周病の進行度を客観的に示す重要な指標であることを強調します。測定時に出血があるかどうかも記録されます。
  3. レントゲン検査:
    • 歯茎の下に隠れている歯槽骨の状態を確認するために行われます。レントゲン写真により、歯槽骨がどのくらい吸収(溶けて)してしまっているか、また歯石がどの範囲に付着しているかなどが明確に分かります。骨の破壊状況は、歯周病の重症度を判断する上で不可欠な情報です。
  4. 歯の動揺度検査:
    • 歯がどの程度ぐらついているかを客観的に評価します。歯をピンセットなどで軽く挟んで揺らし、その動きの度合いを0~3の段階で評価します。動揺度が大きいほど、歯を支える骨が失われていることを示します。

これらの検査結果を総合的に判断することで、あなたの歯周病が「歯肉炎」「軽度歯周炎」「中等度歯周炎」「重度歯周炎」のどの段階にあるのかを正確に診断し、その状態に合わせた最適な治療法を提案することが可能になります。

早期発見・早期治療が歯を守る最善策

歯周病は、進行すればするほど治療が難しくなり、時間も費用もかかります。そして何よりも、大切な歯を失うリスクが高まります。

  • 進行度と治療の難易度:
    • 歯肉炎の段階であれば、専門的なクリーニングと適切なブラッシング指導で、健康な状態に回復させることが十分可能です。
    • しかし、中等度や重度歯周炎まで進行してしまうと、外科的な処置や、場合によっては抜歯が必要になるなど、治療の選択肢が限られてきてしまいます。
  • 歯を失うリスクの回避: 歯周病は、日本の成人における歯を失う主な原因の一つです。早期に発見し、適切な治療を開始することで、歯槽骨のさらなる破壊を防ぎ、ご自身の歯を長く使い続ける可能性を大幅に高めることができます。
  • 全身の健康への影響: 前述の通り、歯周病は糖尿病や心血管疾患など、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。早期に歯周病をコントロールすることは、全身の健康維持にも繋がります。

「まだ大丈夫だろう」と先延ばしにせず、少しでも気になる症状があれば、迷わず歯科医院のドアを叩きましょう。あなたの歯の健康を守るための第一歩は、正確な診断から始まります。


まとめ:あなたの歯の健康を守るために今できること

ここまで、歯周病がどのような病気で、どのように進行し、そして各段階でどのような症状や治療法があるのかを詳しく解説してきました。もしかしたら、ご自身の口腔内の状態に当てはまる項目があり、不安を感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。

**歯周病は、「サイレントキラー(静かなる病気)」**です。痛みなどの強い自覚症状が少ないまま、ゆっくりと、しかし確実にあなたの歯を支える骨を蝕んでいきます。歯肉炎、軽度、中度、そして重度へと進行するにつれて、治療はより複雑になり、時間も費用もかさみます。そして最終的には、大切な歯を失ってしまうという悲しい結末を招くこともあります。

しかし、絶望する必要はありません。

この病気は、早期に発見し、適切な治療を始めることで、その進行を止め、多くの場合は歯を守ることが可能です。

ご自身でできる歯周病セルフチェックは、お口の異変に気づくための非常に有効な第一歩です。歯磨き中の出血、口臭の変化、歯茎の腫れなど、少しでも気になるサインがあれば、それはあなたの歯茎からのSOSかもしれません。

ですが、セルフチェックはあくまで目安です。歯周病は歯周ポケットの深さや歯槽骨の破壊状況など、専門家でなければ正確に判断できない要素が多々あります。そのため、最も重要なのは、歯科医院での精密な検査と診断を受けることです。歯科医師や歯科衛生士は、専用の器具やレントゲンを使い、あなたの歯周病の進行度を正確に見極め、最適な治療計画を立ててくれます。

「まだ大丈夫だろう」「もう少し様子を見よう」と先延ばしにすることは、歯周病を悪化させる一番のリスクです。

あなたの歯の健康は、全身の健康にも深く関わっています。歯周病の予防と早期治療は、単に歯を守るだけでなく、糖尿病や心臓病などのリスクを低減することにも繋がるのです。

今日、この記事を読んだあなたは、歯周病について多くの知識を得ました。その知識をぜひ行動に繋げてください。

もし、少しでも歯周病のサインに心当たりがあるのなら、今すぐかかりつけの歯科医院に連絡を取り、診察の予約を入れましょう。そして、治療が終わった後も、歯科医院での定期的な検診とプロフェッショナルケアを習慣化することで、健康な口腔内環境を維持し、一生涯ご自身の歯で食事を楽しみ、笑顔で過ごせる未来へと繋がります。

あなたの歯は、あなたの健康の基盤です。この機会に、ご自身の歯の健康に真剣に向き合い、専門家のサポートを受けて、健やかな毎日を取り戻しましょう。


参考文献

  1. Naito T, et al. Bidirectional Relationship between Periodontal Disease and Diabetes Mellitus: An Update of the Scientific Evidence. J Periodontol. 2021 Jul;92(7):909-918.
  2. Pihlstrom BL, et al. Periodontal diseases. Lancet. 2005 Nov 19;366(9499):1809-20.
  3. American Academy of Periodontology. Glossary of Periodontal Terms. 4th ed. Chicago, IL: American Academy of Periodontology; 2001.
  4. Tonetti MS, et al. Periodontitis and atherosclerotic cardiovascular disease: Consensus report of the Joint Workshop by the European Federation of Periodontology and European Society of Cardiology Working Group on Atherosclerosis and Vascular Biology. J Clin Periodontol. 2021 Apr;48(4):487-495.
  5. American Academy of Periodontology. In-office patient care. Position Paper. J Periodontol. 2001 Nov;72(11):1621-33.
  6. Seymour GJ, et al. Periodontal disease in Australia and New Zealand: an update. Aust Dent J. 2011 Sep;56 Suppl 1:12-21.
  7. Cobb CM. Non-surgical pocket therapy: mechanical and antimicrobial aspects. Periodontol 2000. 1990;2:45-56.
  8. Greenstein G, et al. Diagnostic radiography in periodontics. J Periodontol. 2004 Nov;75(11):1534-45.
  9. Petersen PE, Ogawa H. The global burden of periodontal disease: Towards an integrated oral and general health agenda. Periodontol 2000. 2021 Feb;85(1):10-13.
Page top