歯周病 コラム

もしかして「妊娠性歯肉炎」?お腹の赤ちゃんを守るための口腔ケアガイド

2025.07.11

はじめに:妊娠中の歯肉トラブル、もしかして「妊娠性歯肉炎」?

妊娠は女性にとって、新しい命を育むかけがえのない期間です。しかし、この素晴らしい時期は、同時に体の中で劇的な変化が起こるデリケートな時期でもあります。つわりや体調の変化、肌質の変化など、さまざまな体の変化を経験する中で、お口の中にも意外な変化が起こりやすいことをご存じでしょうか。

特に注意したいのが、自覚症状がないまま進行しやすい「歯肉炎」です。妊娠中に特有のこの歯肉炎は、「妊娠性歯肉炎」と呼ばれ、多くの妊婦さんが経験する可能性のある症状です。

「もしかして、私の歯茎も?」と感じたあなた。この記事では、なぜ妊娠中に歯肉炎になりやすいのか、どのような症状が現れるのか、そして何よりもお腹の赤ちゃんを守るために、どのように口腔ケアをすれば良いのかを詳しく解説していきます。

早期に自分の状態を理解し、適切なケアを行うことで、あなた自身の健康はもちろん、大切な赤ちゃんの健やかな成長を守ることができます。ぜひ、最後までお読みいただき、安心してマタニティライフを過ごすための一歩を踏み出してください。


妊娠中に歯肉炎になりやすいのはなぜ?ホルモンが関係する意外な真実

妊娠中にお口の中のトラブルが増えるのは、実はホルモンバランスの劇的な変化が大きく関係しています。妊娠を維持するために分泌される女性ホルモン、特にプロゲステロンエストロゲンが、そのカギを握っているのです。

増加する女性ホルモンが引き起こす体質の変化

妊娠すると、これらの女性ホルモンは非妊娠時に比べて数百倍から数千倍にも増加すると言われています。これらのホルモンは子宮の環境を整えるだけでなく、全身のさまざまな組織に影響を及ぼします。口腔内も例外ではありません。

特に注目すべきは、特定の口腔内細菌がこれらの女性ホルモンを「栄養源」として利用し、増殖を活発化させるという研究結果です。例えば、『Prevotella intermedia』という歯周病菌は、プロゲステロンとエストロゲンが豊富にある環境で増殖しやすいことが知られています(Kornman & Loesche, 1980)。これは、妊娠中に歯肉炎が悪化しやすい一因と考えられています。

歯肉がデリケートになる!血管と免疫への影響

女性ホルモンの増加は、歯肉の血管にも変化をもたらします。プロゲステロンには、血管を拡張させ、血液成分が血管外に漏れ出しやすくする**「血管透過性の亢進(こうしん)」作用があるため、歯肉が腫れやすく**、少しの刺激で出血しやすくなります。健康な歯茎であれば問題ないようなブラッシングでも、出血してしまうのはこのためです。

また、妊娠中は母体の免疫応答も変化します。胎児を異物として認識しないよう、免疫システムが調整されるため、細菌に対する体の防御反応が過敏になったり、あるいは逆に十分機能しなかったりする場合があります。これにより、歯肉の炎症が通常よりも悪化しやすくなるのです(Gumus et al., 2012)。

見落としがちな唾液の質の変化も原因に?

さらに見逃されがちなのが、唾液の質と量の変化です。妊娠中は、個人差はあるものの、唾液の分泌量が減少したり、唾液の粘度が増したりすることがあります。唾液には、食べカスを洗い流し、細菌の増殖を抑える「自浄作用」や、酸を中和する「緩衝作用」など、口腔内の健康を保つ重要な役割があります。この機能が低下すると、細菌が繁殖しやすい環境になり、歯肉炎のリスクを高めてしまいます。

つわりによる嘔吐があったり、頻繁な間食が増えたりすることで、お口の中が酸性に傾きやすくなることも、歯肉炎だけでなく虫歯のリスクを高める要因となります。

このように、妊娠中の口腔内の変化は、ホルモンバランス、細菌叢、唾液の質、そして生活習慣など、複数の要因が複雑に絡み合って引き起こされるのです。


歯肉からのSOSを見逃さないで!「妊娠性歯肉炎」の主な症状とセルフチェック

「妊娠中に歯茎が腫れやすくなった」「歯磨きすると血が出る」――もしあなたがそう感じているなら、それは**「妊娠性歯肉炎」のサイン**かもしれません。体の変化に敏感になるこの時期だからこそ、お口の中の小さなSOSも見逃さないことが大切です。

こんな症状に要注意!歯茎の腫れや出血、痛み、口臭

妊娠性歯肉炎の症状は、以下のような形で現れることが多いです。一つでも心当たりのある症状がないか、チェックしてみましょう。

  • 歯肉の腫れ・赤み: 健康な歯茎は薄いピンク色ですが、炎症を起こした歯茎は赤みが強くなったり、紫色がかった色になったりします。歯茎全体がプニプニと腫れぼったく、特に歯と歯の間(歯間乳頭)が丸く膨らむこともあります。
  • 出血: 歯磨きやフロスを使ったときに血が出るのは、最も分かりやすいサインの一つです。しかし、妊娠性歯肉炎が進行すると、硬い食べ物を食べただけで、ひどい場合は何もしなくても自然に出血することがあります。
  • 痛み・不快感: 歯茎にむずがゆさ軽い痛みを感じたり、違和感があったりします。炎症が強い場合は、ズキズキとした痛みを感じることもあります。
  • 口臭: 炎症によって口腔内の細菌が増殖し、ガスを発生させることで口臭が強くなることがあります。これも歯肉炎の一般的な症状です。

「妊娠性歯肉炎」と一般的な歯周病の決定的な違い

「歯肉炎」と聞くと、一般的な歯周病を連想して不安になる方もいるかもしれません。しかし、妊娠性歯肉炎は、一般的な歯周病とは異なる特性を持っています。

一般的な歯周病が長期間にわたるプラーク(歯垢)の蓄積が主な原因で、骨まで影響が及ぶ可能性があるのに対し、妊娠性歯肉炎はホルモン変化が大きく影響しているのが特徴です。プラークコントロールが不十分だと、ホルモンの影響で症状がより顕著に出てしまいます。

重要なのは、妊娠性歯肉炎が適切な口腔ケアと出産後のホルモンバランスの変化によって、症状が改善しやすいという点です。しかし、放置すると本格的な歯周病へと移行し、骨にまで影響が及んでしまうリスクもあるため、早期の対応が非常に重要になります。

今日からできる!自宅で簡単セルフチェックポイント

自分の歯茎の状態を把握するために、今日からできる簡単なセルフチェックを習慣にしてみましょう。

  • 鏡で観察する: 明るい場所で鏡を見ながら、歯茎の色や形、腫れの有無を確認してください。特に、歯と歯茎の境目や、歯と歯の間の歯茎が赤く腫れていないか、注意深く見てみましょう。
  • 歯磨き時のチェック: 歯ブラシを歯茎に軽く当てたときに、簡単に出血しないか確認します。普段より強く磨いていないのに血が出る場合は要注意です。
  • フロスや歯間ブラシ使用時: フロスや歯間ブラシを通したときに、出血や不快感がないか、また以前より血が出やすくなっていないかを確認しましょう。

もし、これらのセルフチェックで一つでも気になる症状が見つかったら、それはお口からのSOSかもしれません。迷わずに歯科医院を受診してください。早期に発見し、適切なケアを始めることが、お母さんの健康とお腹の赤ちゃんを守るための第一歩となります。


放置は危険!妊娠性歯肉炎がお腹の赤ちゃんに与える影響とは

「たかが歯肉炎」と軽視してはいけません。妊娠性歯肉炎を放置すると、あなた自身の口腔健康だけでなく、お腹の赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があることが、近年の研究で示唆されています。

炎症が全身に広がる?見過ごせない「炎症性物質」の悪影響

歯肉で慢性的な炎症が続くと、その部位からさまざまな炎症性物質(サイトカインやプロスタグランジンなど)が生成されます。これらの物質は、歯肉の毛細血管から血液中に入り込み、全身へと運ばれる可能性があります。

まるで、お口の中の小さな火種が、体全体に影響を及ぼすかのように。この炎症性物質が、お母さんの全身の健康状態に影響を与えるだけでなく、間接的に胎児にも影響を及ぼす可能性があるのです。特に、プロスタグランジンなどの物質は、子宮の収縮を促す作用を持つことが知られています。

知っておきたい!早産や低体重児出産のリスクとの関連性

これまでの研究から、重度の歯周病(歯肉炎が進行したもの)を持つ妊婦さんは、そうでない妊婦さんに比べて、早産(妊娠37週未満での出産)や低体重児出産(出生体重2,500g未満)のリスクが高まる可能性が報告されています(Offenbacher et al., 1996; Jeffcoat et al., 2003)。これは、歯周病菌やそこから放出される炎症性物質が、胎盤を介して子宮内の環境に影響を与え、炎症や感染を引き起こす可能性が示唆されているためです。

もちろん、歯肉炎がある全ての妊婦さんが早産や低体重児になるわけではありません。しかし、口腔内の健康状態が、お腹の赤ちゃんにまで影響を及ぼす可能性があるという事実は、決して見過ごすべきではありません。妊娠性歯肉炎も、放置されることで本格的な歯周病へと進行し得るため、早期の対応が推奨されるのです。

お母さんの健康が赤ちゃんの未来を左右する理由

妊娠中のあなたは、お腹の赤ちゃんにとって唯一の生命維持システムです。あなたの健康状態が、直接的に赤ちゃんの成長と発達に影響を与えます。口腔内の健康も、例外ではありません。

清潔な口腔環境を保ち、歯肉炎を適切に管理することは、あなた自身の不快な症状を軽減するだけでなく、赤ちゃんが安全に成長できる環境を整えることにも繋がります。

赤ちゃんのためにできることはたくさんありますが、ご自身の口腔ケアもその一つとして、積極的に取り組んでほしいと願っています。


赤ちゃんのためにできること!今日から始める効果的な口腔ケア習慣

妊娠性歯肉炎のリスクを知った今、「じゃあ、どうすればいいの?」と具体的な対策を知りたいですよね。ご安心ください。毎日の少しの心がけで、お腹の赤ちゃんを守るための効果的な口腔ケアが可能です。今日から始められる具体的な習慣を見ていきましょう。

優しく丁寧に!妊娠中のための正しい歯磨きテクニック

歯磨きは、口腔ケアの基本中の基本です。妊娠中は特に、優しく丁寧なブラッシングを心がけましょう。

  • 歯ブラシ選びのポイント

    ヘッドが小さく、毛が柔らかいタイプの歯ブラシを選びましょう。歯茎への負担を減らし、デリケートな歯茎を傷つけずに、歯と歯の間や奥歯の細かい部分までしっかりと磨けます。電動歯ブラシを使う場合も、ソフトモードや敏感な歯茎用のブラシヘッドを選ぶと良いでしょう。

  • 「バス法」で優しく磨く

    歯と歯茎の境目に歯ブラシの毛先を45度の角度で当て、軽い力で小刻みに振動させるように磨く「バス法」がおすすめです。歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)に毛先が届き、歯垢を効率的に除去できます。力を入れすぎると歯茎を傷つけたり、歯肉退縮(歯茎が下がること)を引き起こしたりする可能性があるので、本当に優しくがポイントです。

  • 磨く回数とつわり対策

    理想は毎食後、特に寝る前の歯磨きは必ず行いましょう。寝ている間は唾液の分泌量が減り、細菌が繁殖しやすいため、寝る前のケアは非常に重要です。

    つわりで歯磨きが辛い場合は、無理をする必要はありません。

    • 体調の良い時間帯を選んで磨く
    • 香料が少なく、泡立ちにくい刺激の少ない歯磨き粉を選ぶ
    • ヘッドの小さい子供用歯ブラシを使う
    • 嘔吐後はすぐに磨かず、水で軽くうがいをして酸を洗い流す
    • どうしても磨けない時は、水やノンアルコールのマウスウォッシュで丁寧にうがいをする

      などの工夫を試してみてくださいね。

歯ブラシだけじゃ不十分?フロスや歯間ブラシの重要性

歯ブラシだけでは、歯と歯の間の約6割しか汚れが落ちないと言われています。残りの4割に潜む歯垢や食べカスこそが、歯肉炎や虫歯の原因となるのです。

  • デンタルフロスの活用

    歯ブラシが届きにくい歯と歯の間の歯垢を取り除くのに効果的です。約40cmのフロスを切り取り、両手の指に巻き付けて、ゆっくりと歯間に挿入し、歯の側面に沿って優しく上下に動かして汚れをかき出します。初心者の方には、持ち手付きの「フロスホルダー」もおすすめです。

  • 歯間ブラシの活用

    歯と歯の間に比較的隙間がある場合は、歯間ブラシが非常に有効です。ご自身の歯間に合ったサイズのものを歯科医院で選んでもらいましょう。無理に大きなサイズを使うと歯茎を傷つけてしまうので注意が必要です。

歯ブラシとフロス、または歯間ブラシを併用することで、口腔内の清潔さを格段に高め、妊娠性歯肉炎の予防・改善に繋がります。

妊娠中でも安心!おすすめの洗口液と食事のポイント

日々のケアに加えて、補助的なアイテムや食生活にも気を配りましょう。

  • 洗口液(マウスウォッシュ)の賢い選び方

    洗口液は、歯磨きの補助として口腔内を清潔に保つのに役立ちます。ただし、アルコールフリーで刺激の少ないタイプを選びましょう。殺菌成分やフッ素が配合されているものもありますが、使用の際は歯科医師や薬剤師に相談すると安心です。洗口液はあくまで補助であり、歯磨きの代わりにはならないことを覚えておいてください。

  • 口腔の健康を意識した食事
    • 糖分の摂取を控える: 糖分は口腔内細菌の栄養源となり、歯垢の形成や酸の生成を促進し、虫歯や歯肉炎を悪化させます。甘いものの摂りすぎには注意しましょう。
    • だらだら食べをやめる: 食事の回数が増えたり、間食をだらだらと食べ続けたりすると、口腔内が酸性になる時間が長くなり、歯にダメージを与えやすくなります。食事は時間を決めて摂り、間食は適度にしましょう。
    • バランスの取れた栄養: カルシウム、ビタミンD(カルシウムの吸収を助ける)、ビタミンC(歯茎の健康維持に必要)など、歯や骨の健康維持に役立つ栄養素を意識して摂取しましょう。これらは母体だけでなく、赤ちゃんの骨や歯の形成にも重要です。

これらの口腔ケア習慣は、妊娠中のあなたのお口の健康を保ち、ひいてはお腹の赤ちゃんを守るための大切なステップです。


妊娠中の歯科検診は必須!プロのケアで安心・安全なマタニティライフを

毎日の丁寧なセルフケアはもちろん大切ですが、妊娠中のデリケートな口腔内を健康に保つには、プロによるケアが不可欠です。「歯科医院はちょっと…」とためらっている方もいるかもしれませんが、お腹の赤ちゃんを守るためにも、ぜひ歯科検診を前向きに検討してください。

セルフケアの限界を知る!プロによる徹底クリーニングの必要性

どんなに丁寧に歯磨きをしていても、歯ブラシやデンタルフロスだけでは取り除けない汚れがあります。それが、歯周病菌の温床となる**「歯垢(プラーク)」や、それが石のように硬くなった「歯石」**です。特に、歯と歯茎の境目や、奥歯の裏側、歯並びが複雑な部分は、磨き残しが多くなりがちです。

歯科医院では、専門的な器具を使ってこれらの汚れを徹底的に除去する**「専門的クリーニング(PMTC:プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)」や、「歯石除去(スケーリング)」**を行えます。これにより、ご自身では届かない部分の汚れもきれいに落とし、歯肉の炎症を抑え、口腔内を清潔な状態にリセットできます。プロのケアを受けることで、歯肉炎の原因菌を根本から取り除き、炎症が起きにくい口腔環境を整えられるのです。

妊娠中の歯科治療は安全?気になる疑問を解消

「妊娠中に歯科治療を受けても大丈夫なの?」と不安に感じる妊婦さんは少なくありません。しかし、ご安心ください。現在の歯科医療では、適切な時期と方法で行われる歯科治療は、母体にも胎児にも安全であるとされています。

当院(泉岳寺駅前歯科クリニック)では、妊娠中の患者様の治療において、お母様とお腹の赤ちゃんの健康を第一に考え、丁寧な説明のもと、負担の少ない検査・治療を心がけております。

特に、歯科治療で使用するレントゲン撮影は、発生する放射線量が非常に低く、お腹の赤ちゃんへの影響はほとんどありません。局所麻酔も、母体や胎児に影響を与えないとされており、痛みを我慢することによるストレスの方が体に悪影響を及ぼす可能性もあります。また、治療上必要な場合には、妊娠初期を避け、安全性の高い薬を最小限の量で短期間使用するなど、産科医の指示も踏まえて慎重に対応いたします。

最も重要なのは、歯科医院を受診する際に必ず妊娠していること、現在の妊娠週数、体調、服用中の薬などを歯科医師に正確に伝えることです。これにより、歯科医師はあなたの状態に合わせて、最も安全な治療計画を立ててくれます。

一般的に、**妊娠中期(安定期:妊娠5ヶ月〜8ヶ月頃)**は、つわりが落ち着き、お腹もまだ大きくなりすぎていないため、比較的安心して治療を受けやすい時期とされています。応急処置やクリーニングなど、母体や胎児に負担の少ない治療が優先されますが、必要に応じて抜歯や根管治療なども慎重に検討されます。

専門家のアドバイスがカギ!パーソナルな口腔ケアプラン

妊娠中の口腔内の状態は、一人ひとり異なります。市販の情報だけではカバーしきれない、あなた自身の状態に合わせた最適なケアを知るには、歯科医師や歯科衛生士による個別の口腔ケア指導が不可欠です。

歯科医院では、あなたの歯並びや歯茎の状態に合わせた正しい歯磨きの方法、デンタルフロスや歯間ブラシの効果的な使い方を直接指導してくれます。また、つわりで歯磨きが難しい場合の具体的な工夫や、食生活に関するアドバイスなど、あなたの疑問や悩みに寄り添ったパーソナルな口腔ケアプランを提案してくれます。

歯科医院は、妊娠中の口腔ケアに関する疑問や不安を解消し、安心・安全なマタニティライフを送るための心強いパートナーです。症状の有無にかかわらず、一度は歯科検診を受けて、プロの目であなたのお口の状態をチェックしてもらいましょう。


赤ちゃんのために、今すぐ始めよう!健やかな妊娠期間を過ごす口腔ケア

ここまで、妊娠中のホルモン変化が歯肉に与える影響や、妊娠性歯肉炎の症状、そして放置することの潜在的なリスクについて詳しく見てきました。そして何よりも、お腹の赤ちゃんを守るために、私たちに何ができるのか、具体的な口腔ケアの方法や歯科検診の重要性もご紹介しました。

妊娠期間は、あなたと赤ちゃんにとって一生に一度の貴重な時間です。この時期の口腔ケアは、単にお口の中を清潔に保つだけでなく、母体の全身の健康、ひいては赤ちゃんの健やかな成長と出産に大きく関わってきます。

もし、この記事を読んで、ご自身の歯茎に少しでも気になる症状があったり、不安を感じたりしたなら、迷わず歯科医院を受診してください。早期に専門家の診断を受け、適切なケアを始めることが、重症化を防ぎ、あなた自身の負担を減らす何よりの対策です。

毎日の丁寧なセルフケアと、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアを組み合わせることで、安心して、そして健やかなマタニティライフを送ることができます。

お母さんの笑顔と健康は、お腹の赤ちゃんにとって何よりもの宝物です。今日からできることを一つずつ実践し、明るい未来に向けて、あなたと赤ちゃんの健康を守っていきましょう。


よくある質問(FAQ)

Q1:妊娠中の歯科治療はいつ頃受けるのが良いですか?

A1:一般的には、**妊娠中期(安定期:妊娠5ヶ月〜8ヶ月頃)**が比較的安心して歯科治療を受けやすい時期とされています。つわりが落ち着き、お腹もまだ大きくなりすぎていないため、体への負担が少ない時期です。ただし、歯の痛みや出血などの症状がある場合や、赤ちゃんへの影響が心配な場合は、時期を問わず対応することもありますので、まずは歯科医師にご相談ください。

Q2:妊娠中にレントゲン撮影はできますか?

A2:はい、可能です。歯科で使用するレントゲンは、医科のものと比較して放射線量が極めて少なく、撮影時にはお腹に防護エプロンを着用するなど、胎児への影響を最小限にするための安全対策を徹底しています。必要最小限の撮影に留めますのでご安心ください。

Q3:麻酔は使えますか?赤ちゃんへの影響はありますか?

A3:はい、妊娠中でも麻酔を使用できます。歯科で使用する局所麻酔薬は、胎児への影響が少ないとされる種類を、必要最小限の量で用います。麻酔によって痛みを感じずに治療を受けられることは、お母さんのストレス軽減にもつながります。当院では、治療上必要な場合には、安全性の高い薬を最小限の量で短期間使用することもあります。不安な場合は、事前に歯科医師にご相談ください。

Q4:妊娠性歯肉炎は出産後も続くのでしょうか?

A4:妊娠性歯肉炎の多くは、出産後にホルモンバランスが元に戻るにつれて自然に改善する傾向があります。しかし、妊娠中に適切なケアができていなかったり、もともと歯周病があったりする場合は、出産後も症状が続くことがあります。出産後も定期的に歯科検診を受け、口腔内の健康を維持することが大切です。

Q5:つわりがひどくて歯磨きができません。どうすれば良いですか?

A5:つわりで歯磨きが困難な場合は、無理をする必要はありません。

  • 体調の良い時間帯を見つけて磨く
  • 香料が少なく泡立ちにくい、刺激の少ない歯磨き粉を選ぶ
  • ヘッドの小さい子供用歯ブラシを使う
  • 嘔吐後はすぐに磨かず、水やノンアルコールの洗口液で軽くうがいをする

    などの工夫を試してみましょう。全く磨けない日が続いたり、症状が悪化したりする場合は、迷わず歯科医院にご相談ください。


泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

妊娠中のデリケートな時期は、お口のケアも専門家にお任せください。当院「泉岳寺駅前歯科クリニック」は、妊婦さんの心と体に寄り添い、安心して通える歯科医院です。

東京都港区に位置し、泉岳寺駅からすぐの好立地。高輪ゲートウェイ駅品川駅からも電車で一駅と、アクセスも抜群なので、検診やお買い物ついでにも気軽に立ち寄れます。

経験豊富な歯科医師とスタッフが、お母さんと赤ちゃんの健康を第一に考え、丁寧なカウンセリングと痛みに配慮した治療をご提供します。妊娠中の歯科検診や治療に関するどんな小さな不安でも、どうぞお気軽にご相談ください。健やかなマタニティライフを、私たちがお手伝いさせていただきます。


参考文献

  • Kornman, K. S., & Loesche, W. J. (1980). The subgingival microflora during pregnancy. Journal of Periodontal Research, 15(2), 111-122.
  • Offenbacher, S., et al. (1996). Periodontal infection as a possible risk factor for preterm low birth weight. Journal of Periodontology, 67(10 Suppl), 1103-1113.
  • Jeffcoat, M. K., et al. (2003). Periodontal disease and preterm birth: results of a pilot intervention study. Journal of Periodontology, 74(9), 1214-1218.
  • Gumus, P., et al. (2012). Pregnancy and periodontal health: a systematic review. Journal of Periodontal Research, 47(4), 405-420.
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