歯周病は、歯を支える組織が炎症を起こし、最終的に歯が抜け落ちてしまう病気です。初期段階であれば、歯石除去などの非外科的治療で改善が見込めますが、進行してしまった歯周病には、より積極的な歯周外科治療が必要となることがあります。
この記事では、歯周外科治療がなぜ必要なのか、どのような種類があるのか、治療のプロセスから術後のケア、そして治療がもたらす効果までを詳しく解説します。
1. なぜ「メス」が必要なのか?非外科的治療の限界と外科的アプローチの必要性
スケーリング・ルートプレーニングでは届かない「歯周病の深部」とは?
前回のコラムでルートプレーニングという歯周病治療について詳しく解説しましたが、残念ながら、この非外科的治療だけでは解決できない進行した歯周病が存在します。では、なぜ非外科的アプローチだけでは不十分なケースがあるのでしょうか?
歯周病が進行すると、歯と歯茎の間にできる歯周ポケットが深く、複雑になっていきます。こうなると、歯科医師や歯科衛生士が使用するスケーラーやキュレットといった専用の器具を使っても、ポケットの奥深く、特に歯の根の分岐部や複雑な形状のくぼみには物理的に到達するのが難しくなります。
このような「深部」には、非外科的治療では取り切れなかった歯肉縁下歯石が強固にこびりつき、その表面には強固なバイオフィルムが形成されています。このバイオフィルムの中には、毒性の強い歯周病菌がひしめき合い、さらに細菌が産生する毒素が歯根面を汚染し続けています。これらが、歯茎の炎症を慢性化させ、歯槽骨(歯を支える骨)の破壊を止めることができない主な原因となるのです。
また、歯周病が長期間にわたり進行すると、歯槽骨が単に吸収されるだけでなく、不規則な形で溶けてしまう**「複雑な骨欠損」**が生じます。この複雑な骨の形状もまた、器具での清掃を極めて困難にし、歯周病菌が潜伏し続ける温床となります。
これらの深部に残存する感染源が、炎症を継続させ、歯周病の進行を止まらない悪循環に陥らせてしまうため、より積極的な歯周外科治療という選択肢が必要となるのです。
進行度と症状で変わる「外科的アプローチ」の判断基準
歯周外科治療は、すべての歯周病に適用されるわけではありません。非外科的治療(スケーリング・ルートプレーニング)を十分に行ってもなお、炎症が改善しない、あるいは深い歯周ポケットが残存する場合に、次のステップとして検討されます。では、具体的にどのような状況で外科的アプローチが選択されるのでしょうか?
歯科医師は、以下の複数の要素を総合的に評価し、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立案します。
診断基準と判断材料
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歯周ポケットの深さ:
- 非外科的治療後も深い歯周ポケットが残る場合、そこは細菌が活動し続ける温床となります。器具の到達限界を超える深さのポケットは、外科的処置によって清掃し、ポケットを浅くする必要があると考えられます。
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複雑な骨欠損の形態:
- レントゲン写真や歯科用CTによって、歯を支える歯槽骨の破壊状況を詳細に確認します。骨の吸収が進行し、複雑な形状の骨欠損がある場合、非外科的治療では回復が困難です。特に、特定のタイプの骨欠損(例: 垂直性骨欠損)は歯周組織再生療法の良い適応症となるため、外科的アプローチが選択されます。
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歯の動揺度と進行性の骨破壊:
- 歯を支える骨が広範囲に失われ、**歯がグラグラと動いている(動揺している)**場合、放置すれば最終的に抜歯に至るリスクが高まります。外科治療によって、炎症を抑制し、残存する歯周組織を安定させる、あるいは再生を促すことで、歯の寿命を延ばすことを目指します。
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持続する炎症と出血:
- 適切な非外科的治療を行っても、歯茎の炎症が収まらず、出血が続く場合は、ポケットの深部に感染源が残っている可能性が高く、外科的な介入が必要となることがあります。
患者さんの状態と希望も重要な要素
診断基準だけでなく、患者さんの全身の健康状態も治療計画に大きく影響します。例えば、糖尿病のコントロール状況や、喫煙の有無は、治療の成功率や術後の治癒に大きく関わります。特に喫煙は、歯周組織の血流を阻害し、外科治療、特に再生療法の効果を著しく低下させることが多数の論文で指摘されており、治療前後の禁煙が強く推奨されます [1]。
また、患者さんが抱える審美的な悩み(歯茎のラインの不揃い、歯茎下がりなど)や、治療に対するご希望、日々の口腔衛生状態なども考慮に入れ、歯科医師が総合的に判断します。
このように、歯周外科治療は、患者さんの口腔内の状態、全身の健康、そして個々のニーズを綿密に評価した上で、最も効果的なアプローチを選択するために行われる、専門性の高い治療なのです。
2. 進行度別・目的別:歯周外科治療の具体的な種類と選択肢
感染源を徹底除去!歯周ポケットをなくす「切除療法」
歯周外科治療において、歯周病の根本原因である感染源を徹底的に除去し、深い歯周ポケットを物理的に浅くすることを目的とするのが「切除療法」です。この治療は、患者さんご自身がプラークコントロールしやすい口腔環境を整える上で非常に重要なアプローチとなります。
切除療法には、主に以下のような方法があります。
歯肉弁根尖側移動術(Apically Positioned Flap:APF)
この術式は、歯周ポケットを浅くするとともに、歯にしっかりと結合している付着歯肉の幅を確保または増加させることを目的とします。歯肉を切開・剥離した後、その歯肉弁を歯の根の先端方向(根尖側)に移動させて縫合します。これにより、深いポケットが解消されるだけでなく、歯磨きに強く、炎症に抵抗性のある付着歯肉を広範囲に獲得できるため、長期的な口腔衛生管理に貢献します。特に、歯周ポケットの底部が歯肉歯槽粘膜境(歯肉と頬や唇の粘膜の境目)に達している場合や、十分な付着歯肉が不足している場合に有効な選択肢となります [2]。
歯肉切除術(Gingivectomy)
この治療は、炎症によって腫れ上がって過剰になった歯肉(歯茎)を切除し、ポケットの壁となっている部分を取り除くことで、歯周ポケットを物理的に浅くする方法です。これにより、歯周ポケットの奥に隠れていた感染源が露出し、より徹底したクリーニングが可能になります。また、歯磨きがしやすくなるため、炎症の再発を防ぐ効果も期待できます。主に、骨の吸収が比較的少なく、歯肉の増殖が主な原因でポケットが深くなっているケースに有効とされます [3]。
歯肉整形術(Gingivoplasty)
歯肉整形術は、歯肉切除術と併用されることも多い治療法です。歯周病によって不自然な形になった歯肉のライン(例:でこぼこしている、クレーター状になっているなど)を、メスやレーザーを用いて生理的な(自然で健康的な)形態に整えます。これにより、食べカスやプラークが溜まりにくい滑らかな歯肉のラインを作り出し、日々のセルフケアの効率をさらに高めます。
骨整形術(Ostectomy / Osteoplasty)
歯周病が進行すると、歯を支える歯槽骨が不規則な形で溶けてしまい、凹凸が生じることがあります。骨整形術は、この不規則に破壊された骨の形態を修正し、滑らかな骨の表面を作り出すことで、歯周ポケットの改善とプラークコントロールのしやすさを向上させることを目的とします。骨を切除する「Ostectomy」と、骨の形を整える「Osteoplasty」があり、患者さんの骨の状態によって使い分けられます。
切除療法のメリットと注意点
メリットとしては、歯周ポケットの確実な減少により、感染源を効率的に除去できる点が挙げられます。これにより、歯肉の炎症が長期的に抑制され、口臭の改善にも繋がります。また、治療期間が比較的短く、術後の経過が予測しやすいという特徴もあります。
一方、注意点としては、歯肉を切除・移動させることで歯根が露出する可能性があり、一時的に知覚過敏が生じたり、歯が長く見えることで審美性に影響が出たりする場合があります。特に前歯部への適用においては、術後の見た目の変化を患者さんと十分に話し合い、理解を得ることが不可欠です [4]。
失われた歯周組織を回復!「再生療法」の最前線
歯周病がひどくなると、歯を支えている大切な**「あごの骨」(歯槽骨)や、歯と骨をつなぐ「歯根膜」といった組織が壊されて、失われてしまいます。昔は、一度失われたこれらの組織を元に戻すのは難しいとされていましたが、医療の進歩によって、これらを「再生」させる「歯周組織再生療法」**という画期的な治療が可能になりました。これは、単にバイ菌を取り除くだけでなく、歯をしっかり支える本来の組織を回復させることを目指す、一歩進んだ治療法です。
再生療法には、主に以下のような方法があります。
GTR法(組織誘導再生法)
GTR法は、歯周病によって破壊された骨欠損部に、**特殊な「メンブレン(膜)」**を挿入することで、歯周組織の再生を促す方法です。このメンブレンは、歯肉の細胞が骨欠損部へ侵入するのを物理的にブロックし、その代わりに歯根膜や歯槽骨を形成する細胞が優先的に増殖するためのスペースと時間を提供します。これにより、失われた歯周組織が本来あるべき姿で再生されることを目指します [5]。
エムドゲイン(Emdogain®)
エムドゲインは、歯の発生過程で重要な働きをする**「エナメルマトリックスタンパク質」**を主成分とする薬剤です。骨欠損部にこの薬剤を塗布することで、歯周組織の再生を誘導します。エムドゲインは、歯根面に塗布されると、細胞の増殖や分化を促し、セメント質、歯根膜、歯槽骨といった天然の歯周組織が形成されるための足場となる作用があると考えられています。これは、自然な歯の発生プロセスを模倣した再生アプローチと言えます [6]。
リグロス(Regroth®)
リグロスは、日本で開発された**「bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)」という成長因子**を主成分とする薬剤です。この薬剤を骨欠損部に塗布することで、血管新生を促進し、骨や歯根膜などの歯周組織の再生を強力にサポートします。リグロスは、2016年に保険適用となった比較的新しい治療選択肢であり、より多くの患者さんが再生療法を受けやすくなった点で注目されています [7]。
骨移植(Bone Graft)
骨移植は、歯周病によって失われた歯槽骨の形態を回復させるために、骨補填材を移植する治療法です。移植された骨補填材は、周囲の細胞が自身の新しい骨を形成するための「足場」として機能します。骨補填材には、患者さん自身の骨(自家骨)、他人の骨(同種骨)、動物の骨(異種骨)、人工の骨(合成骨)など、様々な種類があり、患者さんの骨の状態や欠損のタイプに応じて選択されます [8]。
再生療法の適応症と限界
歯周組織再生療法は、特に垂直性骨欠損など、特定の骨欠損の形態において高い効果が期待できます。しかし、全ての歯周病のケースに適用できるわけではありません。治療の成功率は、骨欠損の形状、患者さんの口腔衛生状態、喫煙の有無、全身疾患の有無などに大きく影響されます。特に喫煙は、再生療法の成功率を著しく低下させる要因となるため、治療を検討する際には禁煙が強く推奨されます [1]。
美しさと機能を追求する「歯周形成外科」の役割
歯周病の治療が終わった後や、元々の歯ぐきの状態によっては、見た目の問題や、歯磨きのしにくさといったお悩みが残ることがあります。このような時に役立つのが「歯周形成外科」という治療です。これは、病気を治すだけでなく、お口の**見た目(審美性)**を改善したり、**機能(例えば、歯磨きのしやすさや知覚過敏の軽減)を高めたりすることで、皆さんの生活の質(QOL)**を向上させることを目指します。
歯周形成外科には、主に次のような治療があります。
歯肉退縮(歯ぐき下がり)への対応
歯周病や年齢を重ねること、あるいは強すぎる歯磨きなどが原因で、歯ぐきが下がってしまい、歯の根っこが露出してしまうことがあります。これにより、見た目が悪くなるだけでなく、冷たいものが**「しみる」(知覚過敏)**症状が出たり、根っこが虫歯になりやすくなったりといった問題が生じます。
このような歯ぐき下がりに対して、私たちは次のような治療を行います。
遊離歯肉移植術(ゆうりしにく いしょくじゅつ)
これは、主に上あごの天井(口蓋)などから、ごく少量の健康な歯ぐきを採取し、歯ぐきが下がって薄くなってしまった部分に**「移植」する治療です。この治療の主な目的は、歯の周りの歯ぐきの厚みや強さを増やし、歯ブラシの刺激から根っこを守ったり、知覚過敏を和らげたりするといった機能的な改善**にあります [9]。
結合組織移植術(けつごうそしき いしょくじゅつ)
この方法は、歯ぐきの厚みと、より自然な色合いを取り戻したい場合に適しています。歯ぐきの表面ではなく、その下にある**「結合組織」**という部分を採取して、歯ぐきが下がった場所に移植します。特に、見た目を重視する前歯の部分で多く行われ、自然で美しい歯ぐきのラインを取り戻すのに大きく貢献します [10]。
歯冠長延長術(しかんちょう えんちょうじゅつ)
「笑ったときに歯ぐきが目立ちすぎる」(ガミースマイル)と感じる方や、虫歯治療や差し歯(被せ物)を作る際に、必要な歯の部分が歯ぐきの奥に隠れてしまっている場合に用いられる治療です。この治療では、歯ぐきやその周りの骨を少しだけ調整して、歯の見える部分(歯冠)を長くします。これにより、見た目のバランスが良くなるだけでなく、虫歯や被せ物の治療に必要な歯の部分を確保し、より適切な治療を行うことが可能になります [11]。
歯周形成外科のメリットと注意点
メリットとしては、見た目のコンプレックスが解消され、自信を持って笑えるようになることや、知覚過敏の軽減、そして歯磨きがしやすくなることでプラークコントロールが向上し、長期的な歯周病の予防に繋がることが挙げられます。
しかし、これらの治療は外科的な処置であるため、術後の回復期間が必要となります。また、一部の治療は健康保険が適用されない自費診療となる場合もありますので、治療を検討する際には、費用や術後の経過について、歯科医師から十分に説明を受けることが大切です。
あなたに最適な治療法は?専門家が導き出す「治療計画」
これまで様々な歯周外科治療の種類をご紹介しましたが、「結局、私にはどの治療が一番良いの?」と感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。実は、歯周病の治療は、一人ひとりの患者さんの状態や体の特徴によって、最適な方法が大きく異なります。まるで、一人ひとりにぴったりの服を仕立てるように、オーダーメイドの治療計画が不可欠なのです。
当院では、皆さんの大切な歯を守るために、専門家が以下のステップで精密な診断を行い、最適な治療計画を導き出します。
徹底した「精密診断」で現状を把握
最適な治療を選ぶためには、まずお口の中の状態を正確に把握することが何よりも重要です。
お口の中の詳しい診察
- 歯周ポケットの深さ測定: 歯と歯ぐきの境目にあるポケットの深さをミリ単位で測り、バイ菌の隠れ家となっている場所を特定します。
- 歯ぐきの炎症チェック: 歯ぐきの赤みや腫れ、出血の有無などを細かく確認します。
- 歯のぐらつき(動揺度)の確認: 歯がどれくらい動いているかを確認し、歯を支える骨の失われ具合を評価します。
最新の画像診断で「見えない部分」を可視化
- レントゲン写真・歯科用CT: 歯を支える**「あごの骨」(歯槽骨)がどれくらい溶けているか、その形はどうなっているかなどを詳しく調べます。特に歯科用CT**を使うと、骨の立体的な状態が正確にわかるため、外科治療を行う上で非常に重要な情報が得られます [12]。
- 口腔内写真: 治療を始める前のお口の中の状態を写真で記録します。これは、治療後の変化を比較したり、皆さんに現在の状態をわかりやすく説明したりするために役立ちます。
あなたに合った「最適な治療法」を見つける基準
これらの精密な検査結果と、皆さんのご希望を総合的に考慮し、最も効果的で安全な治療法を選択します。
歯周病の進行度と骨の形
深い歯周ポケットや、特定の形状の骨欠損(例:垂直性骨欠損)がある場合は、歯周組織再生療法が効果的な選択肢となります。一方で、骨の形が再生には向かない場合や、主に歯ぐきの腫れが原因の場合は、切除療法が優先されることもあります。
歯ぐきの状態
歯ぐきの厚みや強さ、歯ぐきが下がっている部分があるかなど、歯ぐきの状態によっては、歯周形成外科を検討することもあります。これは、見た目を美しくしたり、歯ぐきを強くしたりするために行われます。
全身の健康状態と生活習慣
皆さんの全身の健康状態も非常に重要です。例えば、糖尿病のコントロールが不十分だと、歯周病の治療効果が出にくかったり、術後の回復が遅れたりする可能性があります [1]。また、喫煙は歯周病を悪化させ、特に再生療法の成功率を著しく低下させることが多くの研究で示されていますので、治療を始める前に禁煙をお願いすることもあります [1]。
当院では、これらの診断結果や皆さんのご希望について、歯科医師がメリット・デメリット、治療期間、費用、そして考えられるリスクなどを分かりやすく丁寧にご説明します。皆さんが治療内容を十分に理解し、納得した上で安心して治療を受けられるよう、**「インフォームドコンセント」**を何よりも大切にしています。
3. 安心して臨むために:歯周外科治療の全プロセスと術後の過ごし方
治療成功への第一歩:徹底した「術前準備」の重要性
「歯周外科治療」と聞くと、少し不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、ご安心ください。治療を成功させ、スムーズな回復を促すためには、手術そのものだけでなく、その前の**「術前準備」**が非常に重要になります。この準備が、術後の経過や治療の長期的な結果を大きく左右すると言っても過言ではありません。
当院では、皆さんが安心して治療に臨めるよう、以下のステップで徹底した術前準備を行います。
初期治療で炎症をしっかり抑える
外科治療を行う前に、まずはお口の中の炎症をできる限り抑えることが大切です。そのため、歯周病の初期治療として、スケーリング(歯石除去)やルートプレーニング(歯根の表面をきれいにする処置)を徹底的に行います。歯ぐきに強い炎症が残ったまま手術を行うと、術後の回復が遅れたり、感染のリスクが高まったりする可能性があるからです。
この段階では、皆さんの毎日の歯磨きなど、ご自宅での口腔衛生管理も非常に重要になります。歯科衛生士が、皆さんの口腔内に合った正しい歯磨き方法やデンタルフロス、歯間ブラシの使い方を丁寧に指導し、セルフケアの質を高めていきます。
精密検査と治療計画の最終確認
手術に先立ち、私たちは再度、皆さんの口腔内の状態を細かくチェックします。
- 歯周ポケットの深さ測定や歯ぐきの状態の確認を最終的に行います。
- 必要に応じて、レントゲン写真や歯科用CTなどを用いて、歯槽骨(歯を支える骨)の状態をもう一度詳しく確認します [12]。
- そして、決定した歯周外科治療の種類(例えば、フラップ手術、再生療法、切除療法など)や、その治療によって得られる効果、考えられるリスク、治療にかかる期間や費用などについて、分かりやすく丁寧にご説明します。疑問や不安な点があれば、どんなことでもお気軽にご質問ください。皆さんが治療内容を十分に理解し、納得した上で治療に臨んでいただく**「インフォームドコンセント」**を何よりも大切にしています。
全身の状態もしっかりチェック
お口の中だけでなく、皆さんの全身の健康状態も治療の成功に大きく関わります。特に、以下のような点について詳しく確認させていただきます。
- 糖尿病や高血圧、心臓病などの持病がないか。
- 現在、服用しているお薬(特に血液をサラサラにする薬など)がないか [13]。
これらの情報に基づき、必要であれば、かかりつけの医科の先生と連携を取り、安全に手術を受けられる状態であるかを慎重に確認します。例えば、糖尿病を患っている方の場合は、血糖値が安定していることが術後の治癒に良い影響を与えるため、事前に血糖コントロールをお願いすることもあります [1]。
これらの徹底した準備を行うことで、歯周外科治療をより安全に、そして確実に成功へと導くことができるのです。
手術当日の流れ:麻酔から処置まで「痛みの不安」を解消
「歯周外科治療」と聞くと、「痛そう」「怖い」といった不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。ご安心ください。当院では、皆さんが手術中に不快な思いをしないよう、痛みのコントロールを最優先に考えています。
麻酔で手術中の痛みはほとんどなし
手術は、歯ぐきに局所麻酔を施してから行います。麻酔がしっかりと効けば、手術中に痛みを感じることはほとんどありません [14]。麻酔が効くまでに少し時間がかかりますが、その後は「触られているな」という感覚はあっても、痛みを感じることはありませんのでご心配いりません。麻酔が効いている間は、唇や舌が一時的にしびれたような感覚になることがありますが、これは麻酔が効いている証拠ですのでご心配いりません。
手術の具体的な流れ(一般的なフラップ手術を例に)
歯周外科治療にはいくつかの種類がありますが、ここでは最も一般的な**「フラップ手術」(歯肉剥離掻爬術)**を例にご説明します。
1. 歯ぐきの切開と剥離
麻酔が効いていることを確認したら、まず歯ぐきを慎重に切開し、歯槽骨(あごの骨)から少しだけ剥がします。これは、歯周ポケットの奥や、歯を支える骨の形を直接目で見て確認できるようにするためです。
2. 感染源の徹底除去
歯ぐきを開いて視野を確保したら、歯の根っこにこびりついた頑固な歯石、ネバネバしたバイ菌の塊(バイオフィルム)、そして炎症を起こした汚染された組織を、専用の器具を使って徹底的に除去します。この段階で、必要に応じて骨の形を整える骨整形を行ったり、失われた組織の再生を促す再生療法の材料(エムドゲインやリグロス、骨を補う材料など)を適用したりすることもあります [15]。
3. 歯根面の清掃・平滑化
バイ菌や汚れを取り除いた後、歯の根の表面をツルツルに磨き上げます。これにより、歯ぐきが再び歯にしっかりとくっつきやすくなり、健康な状態に戻るのを助けます。
4. 縫合と保護
すべての処置が終わったら、剥がした歯ぐきを元の位置に戻し、細い糸で丁寧に縫い合わせます。手術した部位はデリケートなので、必要に応じて、歯ぐきを保護するための柔らかい歯周パックを使用する場合もあります。
手術時間の目安と患者さんへの配慮
治療する歯の数や、行う手術の種類によって時間は異なりますが、一般的には一部位あたり30分〜1時間程度が目安です。
手術中は、痛みや不快感がないか、歯科医師やスタッフが常に皆さんの状態を確認し、適宜声をおかけします。もし、途中で何か気になることがあれば、遠慮なくお伝えください。安心して治療を受けていただけるよう、最大限の配慮をいたします。
術後の回復を早めるために:知っておくべき「注意点と過ごし方」
歯周外科治療は、歯周病を根本から治すための大切なステップですが、手術が終わった後の過ごし方も、治療の成功とスムーズな回復に大きく影響します。適切な術後ケアを行うことで、痛みや腫れを最小限に抑え、早く健康な状態に戻ることができます。
ここでは、術後に特に気を付けていただきたいことと、回復を早めるための過ごし方についてご説明します。
術後の一般的な症状とその対処法
手術後は、以下のような症状が出ることがありますが、これらは体が治ろうとしているサインでもあります。
痛み
麻酔が切れると、数時間から数日間は痛みを感じることがあります。ご安心ください、歯科医師から痛み止めが処方されますので、指示通りに服用してください。もし痛みが強い場合は、手術した場所を優しく冷やすと痛みが和らぐことがあります。
腫れ
手術部位が腫れることは避けられませんが、これは通常、手術後2~3日後がピークで、1週間程度で徐々に引いていきます [16]。ここでも冷却が効果的です。
出血
術後数時間は、唾液に少量の血が混じる**「にじみ出るような出血」**が見られることがありますが、これは正常な範囲です。ただし、強くうがいをしたり、手術部位を舌で触ったりすると、止血を妨げてしまうことがあるので、できるだけ優しく過ごしましょう。
知覚過敏
歯ぐきを切除したり、動かしたりする治療を受けた場合、一時的に歯の根っこが露出して、冷たいものなどが**「しみる」(知覚過敏)**症状が出ることがあります。多くの場合、時間とともに軽減しますが、気になる場合は知覚過敏用の歯磨き粉の使用や、歯科医院でのフッ素塗布などで対応できます。
食事・飲酒・喫煙に関する注意
- 食事: 麻酔が効いている間は、誤って唇や頬を噛んでしまう可能性があるので、食事は麻酔が完全に切れてからにしましょう。術後数日間は、手術部位に負担をかけないよう、柔らかく、刺激の少ない食事(おかゆ、うどん、スープ、ゼリーなど)を選ぶことが大切です。熱すぎるものや辛いものも避けましょう。
- 飲酒: お酒は血行を促進し、出血や腫れを悪化させる可能性があるため、術後数日間は控えてください。
- 喫煙: 喫煙は、歯周病治療の成功を阻害する最大の要因の一つです [17]。血流が悪くなり、術後の傷の治りを著しく遅らせるだけでなく、特に再生療法を受けた場合の成功率を大幅に低下させます [1]。治療を機に、できる限り禁煙することをおすすめします。
口腔ケア(歯磨き・うがい)の注意点
- 歯磨き: 手術部位は非常にデリケートなので、歯ブラシの毛先を直接当てないように注意し、周りの部分はいつも通り優しく丁寧に磨きましょう。他の部分は通常通り磨いて構いません。
- うがい: 歯科医師から処方された抗菌性のうがい薬がある場合は、指示通りに使用し、お口の中を清潔に保つことが大切です。ただし、強くガラガラとうがいをすると、縫い合わせた糸が取れたり、血餅(かさぶたのようなもの)が剥がれてしまったりする恐れがあるので、静かに含んで吐き出すようにしてください。
その他、日常生活での注意
- 安静: 術後数日間は、激しい運動や長時間の入浴、サウナなどを避け、できるだけ安静に過ごしましょう。体が温まると、出血や腫れが悪化することがあります。
- 処方薬の服用: 歯科医師から処方された抗生物質や痛み止めは、必ず指示通りに服用し、自己判断で中断しないようにしてください。抗生物質を途中でやめてしまうと、細菌感染のリスクが高まることがあります。
異常を感じたらすぐに連絡を
もし、我慢できないほどの激しい痛み、止まらない大量の出血、高熱、膿が出るなど、「いつもと違う」異常な症状が見られた場合は、迷わずすぐに歯科医院にご連絡ください。早めに対応することで、よりスムーズな回復につながります。
4. 歯周外科治療がもたらす効果:歯の寿命延長から全身の健康まで
ポケットの劇的改善!歯周病の進行を食い止める「根本治療」
歯周外科治療は、進行した歯周病でお悩みの方にとって、単に症状を和らげるだけでなく、病気の進行を食い止めるための**「根本治療」**となり得ます。この治療によって、お口の中の環境は劇的に改善し、さまざまな良い効果をもたらします。
最も顕著な効果の一つは、歯周ポケットの劇的な改善です。これまでの非外科的治療(スケーリングやルートプレーニング)では到達が難しかった深い歯周ポケットの奥には、しつこい歯石やネバネバしたバイ菌の塊(バイオフィルム)、そして細菌が産生する毒素がびっしりとこびりついています。これらが、歯ぐきの炎症を慢性的に引き起こし、歯槽骨(歯を支える骨)の破壊を進める元凶でした。
歯周外科治療では、歯ぐきを開いてこれら感染源を直接目で見て、徹底的に除去することができます [16]。これにより、歯周ポケットの深さは大幅に浅くなり、場合によっては健康な歯ぐきの溝(生理的溝)まで回復することもあります。バイ菌の隠れ家がなくなることで、長期間続いていた歯ぐきの炎症は鎮静化し、赤く腫れていた歯ぐきは健康的なピンク色へと引き締まります。この炎症の抑制こそが、それ以上の骨破壊を食い止める上で、決定的に重要なのです。
また、歯周ポケットが浅くなり、歯の根の表面がきれいになることで、皆さんがご自宅で行う毎日の歯磨きやデンタルフロス、歯間ブラシといったセルフケアの効果が格段に向上します [18]。ご自身で効率的にプラーク(歯垢)を取り除けるようになることが、治療によって得られた健康な状態を長く維持し、歯周病の再発を防ぐための大切な鍵となります。まさに、歯周外科治療は、歯周病の進行を止めるための、強力な土台作りの役割を果たすのです。
歯のぐらつきを安定化!失われた組織の回復が叶える「歯の寿命延長」
歯周病が進行すると、歯を支える土台である**「あごの骨」(歯槽骨)**がじわじわと溶かされてしまいます。骨が減っていくと、歯を支える力が弱まり、まるでグラグラする柱のように、**歯がぐらつく「歯の動揺」**が生じます。この状態を放っておくと、最終的には歯が抜け落ちてしまったり、食事の際に痛みを感じて満足に噛めなくなったりと、日常生活に大きな影響を及ぼしかねません。最悪の場合、大切な歯を抜かざるを得なくなることもあります。
しかし、歯周外科治療は、このような歯のぐらつきを安定させ、皆さんの歯を長く使えるようにするための大きな希望となります。特に、歯周組織再生療法(GTR法、エムドゲイン、リグロス、骨移植など)では、失われた歯槽骨や、歯と骨をつなぐ歯根膜といった組織を一部再生させることが可能です [19]。これにより、歯の支持組織が回復し、歯がしっかりと骨に支えられるようになるため、歯の動揺が安定化します。
たとえ、骨の再生が難しいケースであっても、歯周外科治療によって歯周ポケットの奥に潜む感染源を徹底的に除去し、それ以上骨が破壊されるのを食い止めることができます [20]。残っている歯周組織を健康な状態に保つことで、歯の寿命を延ばし、ご自身の歯をできるだけ長く使うことが可能になるのです。
歯が安定することで、お食事をしっかり噛めるようになり、食感や味をより楽しめるようになるでしょう。また、ぐらつきによる不安や痛みがなくなることで、日常生活のストレスも軽減されます。このように、歯周外科治療は、単に病気を治すだけでなく、歯の寿命を大幅に延ばし、皆さんの生活の質(QOL)を向上させることにも繋がる、非常に価値のある治療なのです。
口臭スッキリ!見た目も変わる「口腔内環境の劇的変化」
「もしかして、自分の口臭が周りに迷惑をかけているかも…?」そう不安に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、多くの口臭の原因は、進行した歯周病に潜んでいます。
歯周病がひどくなると、歯と歯ぐきの間の深い歯周ポケットの奥では、酸素を嫌う嫌気性歯周病菌というバイ菌たちが大繁殖します。これらのバイ菌は、食べカスや古くなった組織のタンパク質を分解する際に、まるで腐った卵のような、あるいは生ゴミのような、不快な臭いの元となる**「揮発性硫黄化合物(VSC)」**というガスを大量に作り出すのです [21]。どんなに歯磨きをしても、この深いポケットの奥のバイ菌は取り除けないため、口臭はなかなか改善しません。
しかし、歯周外科治療を受けることで、この厄介な口臭の悩みが大きく改善する可能性があります。歯周外科治療では、歯周ポケットの奥にこびりついた歯石や、しつこいバイ菌の塊(バイオフィルム)、そして汚染された歯の根の表面を徹底的にきれいにすることができます。これにより、口臭の主な原因であるVSCを産生するバイ菌が大幅に減少し、まるで魔法のように口臭が劇的にスッキリすることが多いのです。多くの患者さんが「口臭が気にならなくなった」と、その効果を実感されています。
さらに、歯周外科治療は、口臭の改善だけでなく、お口の中の**「見た目」にも嬉しい変化**をもたらします。
- 長引く炎症で赤く腫れぼったかった歯ぐきは、炎症が鎮まることで引き締まり、健康的なピンク色を取り戻します。
- 歯肉切除術や歯肉整形術を受けた場合は、不揃いだった歯ぐきのラインが整えられ、歯の見た目がすっきりして審美的な改善も期待できます。
これらの変化は、皆さんが自信を持って会話したり、笑顔を見せたりすることに繋がり、日々の**生活の質(QOL)**を大きく向上させるでしょう。歯周外科治療は、ただ病気を治すだけでなく、皆さんの「快適な日常」を取り戻すための大切な一歩なのです。
歯周病が改善すると「全身の健康」にも好影響が?
「歯周病は、口の中だけの病気でしょ?」そう思っていませんか?実は、歯周病は**「サイレントキラー(静かなる殺人者)」**とも呼ばれ、お口の中の問題にとどまらず、全身の健康に大きな影響を及ぼすことが、最新の研究で次々と明らかになっています。
歯周病が進行すると、歯ぐきの深い歯周ポケットの奥では、たくさんの歯周病菌が大暴れしています。これらのバイ菌や、歯ぐきの慢性的な炎症によって作られる炎症性物質が、歯ぐきの血管から血液の中に入り込み、全身を巡ってしまうのです。これが、さまざまな全身の病気と歯周病が深く関わるメカニズムです。
歯周病と全身の病気のつながり
糖尿病
歯周病と糖尿病は、お互いに影響し合う**「双方向性」**の関係にあります。歯周病が悪化すると、全身の炎症が悪くなり、血糖値のコントロールが難しくなります。逆に、糖尿病が悪化すると、歯ぐきの免疫力が低下して歯周病も進行しやすくなります。しかし、歯周外科治療によって歯周病が改善すると、血糖値の安定にも良い影響を与える可能性があることが示されています [1]。
心臓病・脳卒中などの心血管疾患
歯周病菌や炎症性物質が血管に入り込むことで、血管の壁に脂質などが溜まって硬くなる**「動脈硬化」を促進する可能性が指摘されています。これが進むと、心筋梗塞や脳梗塞**といった、命に関わる深刻な病気のリスクを高めてしまうのです。お口の中の炎症を抑えることが、これらの重大な病気の予防にも繋がると考えられています [22]。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
特にご高齢の方で注意したいのが、誤嚥性肺炎です。お口の中にいる歯周病菌などの細菌が、食べ物や唾液と一緒に誤って気管に入り込み、肺で炎症を起こして肺炎になることがあります。歯周外科治療で口腔内の細菌を減らし、清潔に保つことは、この誤嚥性肺炎の予防に非常に重要ですし、関連コラム「歯周病と全身疾患の関連性」もご覧ください [23]。
早産・低体重児出産
妊婦さんの歯周病は、お腹の赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。歯周病が進行している妊婦さんは、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性が示唆されています。妊娠を希望されている方や、妊娠中の方も、適切な歯周病ケアを受けることが、母子の健康を守る上で大切ですし、詳細については「妊娠中の歯科治療と歯周病」をご確認ください [24]。
このように、歯周外科治療によってお口の中の感染源と炎症をしっかりコントロールすることは、単にお口の健康を取り戻すだけでなく、上記のような全身の病気のリスクを減らし、皆さんの健康寿命を延ばすことにも繋がるのです。お口の健康は、全身の健康の入り口。この機会に、ご自身の歯周病と真剣に向き合ってみませんか。
5. 治療のその先へ:再発させないためのプロケアとセルフケア
治療はゴールではない!「メインテナンス期」の継続的サポート
「歯周外科治療を受けたから、もう歯周病は安心!」そう思われるかもしれませんね。確かに、歯周外科治療は、進行した歯周病を劇的に改善し、お口の健康を取り戻すための非常に重要な治療です。しかし、実はこの治療は**「スタートライン」に過ぎません。歯周病は、生活習慣病の一つであり、一度改善しても再発のリスク**が常に存在する病気だからです。
どんなに素晴らしい外科治療を受けても、その後のケアを怠ってしまうと、残念ながら歯周病は再び進行してしまう可能性があります。お口の中には常にバイ菌が存在し、メインテナンスをしないままでいると、また深い歯周ポケットができてしまったり、歯ぐきの炎症がぶり返してしまったりするのです。
そこで重要になるのが、治療後に続く**「メインテナンス期」です。この期間は、治療によって得られた健康な状態を長期的に維持し、歯周病の再発を防ぐ**ために、歯科医院と患者さんが協力して取り組む大切な時期となります [18]。
例えるなら、大病を乗り越えた後も、定期的な健康診断や、医師・栄養士のアドバイスに基づいた生活改善を続けるのと同じです。歯科の専門家が定期的に皆さんのお口の状態をチェックし、患者さんご自身では見落としがちな小さな変化(例えば、新しい歯石の付着、隠れた炎症の兆候、歯磨きの癖など)を早期に発見し、適切に対応することで、お口の健康を安定した状態に保つことができます。
この継続的なサポートこそが、皆さんの大切な歯を一生涯守っていくための鍵となるのです。
プロの目で徹底管理!歯周病「再発予防」のための定期検診とPMTC
歯周外科治療によって、お口の中の環境は劇的に改善されました。しかし、歯周病は生活習慣病であり、一度良くなっても、日々のケアを怠ると再発してしまうリスクがあります。この再発を防ぎ、治療で得られた健康な状態を長く保つためには、歯科医院での**「プロフェッショナルケア」**が不可欠です。
当院では、皆さんの大切な歯を一生涯守るために、以下の定期的なケアをおすすめしています。
定期検診で「早期発見・早期対応」
定期検診は、歯周病の再発や新たな問題の**「早期発見・早期対応」**のために最も重要なステップです。
- 歯周ポケットの深さチェック: 治療後に歯周ポケットが深くなっていないか、定期的に測定します。
- 歯ぐきの状態確認: 歯ぐきの赤み、腫れ、出血の有無などを細かくチェックし、炎症の兆候がないかを確認します。
- レントゲン写真: 必要に応じて、歯を支える**「あごの骨」(歯槽骨)**の状態に変化がないかを確認します。
- 歯磨き指導の再確認: 皆さんの日々の歯磨きが適切に行われているかを確認し、磨き残しが多い場所や、より効果的な歯磨きの方法について、歯科衛生士が丁寧にアドバイスします。
- かみ合わせのチェック: 歯周病の進行に影響を与えることがあるかみ合わせのバランスも確認します。
これらのチェックによって、もしわずかな変化や問題が見つかったとしても、それが小さいうちに対処できるため、大がかりな治療が必要になる前に食い止めることができます。
PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)で徹底除去
PMTCとは、歯科医師や歯科衛生士といった**「歯のプロフェッショナル」**が、専用の器具を使って、皆さんの歯を徹底的にクリーニングする処置のことです。
- 歯ブラシでは届かない汚れを除去: 歯磨きでは取りきれない歯の表面のバイ菌の塊(バイオフィルム)や、わずかな歯石を、特殊なブラシやゴム製のカップ、研磨ペーストなどを使って丁寧に除去します [18]。特に、歯周ポケットの入り口付近や、歯と歯の間、奥歯の溝など、ご自身では磨きにくい場所の汚れを徹底的にきれいにします。
- 歯の表面をツルツルに: PMTCによって歯の表面がツルツルになることで、汚れが再び付着しにくくなります。これは、バイ菌が歯に定着するのを防ぐ上で非常に効果的です。
- フッ素塗布: クリーニング後には、歯を強くし、虫歯予防にも効果的なフッ素を塗布することもあります。
PMTCは、単に汚れを取るだけでなく、お口の中をリフレッシュさせ、歯周病菌が活動しにくい環境を整えることで、再発予防に大きく貢献します。詳細については、「定期検診・予防歯科」のページをご覧ください。
定期検診の頻度
定期検診の頻度は、患者さんの歯周病の進行度やリスクによって異なりますが、一般的には3ヶ月〜6ヶ月に一度の来院をおすすめしています [25]。歯科医師や歯科衛生士と相談し、ご自身に最適な間隔で定期的に通院することが、健康な歯ぐきを維持するための最も確実な方法です。
毎日の積み重ねが鍵!歯周病に負けない「セルフケア術」
どんなに優れた歯周外科治療を受け、歯科医院でのプロフェッショナルケアを定期的に受けていたとしても、ご自身の**「セルフケア」(自己管理)が疎かになってしまうと、残念ながら歯周病は必ず再発**してしまいます。
歯周病は、毎日のお口のケアの積み重ねが結果を左右する病気です。プロのケアとセルフケアは、歯周病の再発を防ぐための**「両輪」**だと考えてください。毎日の地道な努力が、健康な口腔内を維持し、皆さんの大切な歯を守る鍵となるのです。
正しいブラッシングの基本をマスターする
効果的なセルフケアの最も基本となるのが、正しい歯磨きです。
- 歯ブラシの選び方:
- ヘッドは小さく、毛の硬さは「ふつう」か「やわらかめ」を選びましょう。
- 毛先が開いてきたら交換のサインです。月に一度を目安に交換してください。
- 磨き方:
- 歯と歯ぐきの境目、そして歯周ポケットの入り口を意識して、歯ブラシの毛先を45度の角度で当て、小刻みに優しく動かします。これを**「バス法」**といい、歯周病の改善に効果的とされています [26]。
- 強く磨きすぎると歯ぐきを傷つけたり、歯ぐき下がりを悪化させたりするので注意が必要です。
- 磨き残しがないか、鏡で確認する習慣をつけるとより効果的です。
デンタルフロスや歯間ブラシの活用は必須
歯ブラシだけでは、歯と歯の間や、歯周ポケットの奥の汚れは完璧には取り除けません。そこで、デンタルフロスや歯間ブラシといった補助的な清掃用具の活用が必須となります。
- デンタルフロス: 歯と歯の隙間が狭い場所に最適です。フロスを歯と歯の間にゆっくりと挿入し、歯の側面に沿わせて上下に数回動かすことで、歯垢(プラーク)や食べカスをかき出します。
- 歯間ブラシ: 歯と歯の隙間がある程度開いている場所に効果的です。ご自身の歯間のサイズに合ったものを選び、ゆっくりと挿入して前後に動かします。
これらの道具を使うことで、歯ブラシでは届かない約30〜40%の汚れを除去できると言われています [27]。毎日どちらか、または両方を使う習慣をつけましょう。
その他の補助的ケア用品
- 洗口液(マウスウォッシュ): 歯周病菌の増殖を抑える成分(例えば、殺菌成分CPCやCHXなど)が含まれた洗口液は、歯磨き後の補助的なケアとして有効です [28]。ただし、あくまで歯磨きやフロス・歯間ブラシの代わりにはなりません。
- 舌ブラシ: 舌の表面に付着する「舌苔(ぜったい)」は口臭の原因にもなります。舌ブラシで優しく清掃することで、口臭予防にもつながります。
全身の健康を意識した生活習慣の改善
口腔内のケアだけでなく、日々の生活習慣も歯周病の再発に大きく影響します。
- 禁煙: 喫煙は、歯周病の最大の危険因子であり、治療効果を著しく低下させ、再発リスクを格段に高めます [17]。歯周病の再発を防ぐためには、可能な限り禁煙することが何よりも重要です。
- バランスの取れた食生活: 免疫力を高め、歯ぐきの健康を維持するためには、ビタミンやミネラルが豊富なバランスの取れた食事が大切です。
- ストレス管理: ストレスは免疫力に影響を与え、歯周病を悪化させる可能性があります。適度な運動や趣味など、ご自身に合ったストレス解消法を見つけることも大切です。
これらの毎日の「積み重ね」が、歯周外科治療で得られたお口の健康を長く保ち、皆さんの健康寿命を延ばすことへと繋がっていきます。
6. 泉岳寺駅前歯科クリニックへ:進行した歯周病でお悩みの方へ
「もう手遅れかもしれない…」と諦めてしまう前に、ぜひ一度、泉岳寺駅前歯科クリニックにご相談ください。
当院は、皆さんの大切な歯と全身の健康を守るため、歯周病治療、特に専門性の高い歯周外科治療に力を入れています。
泉岳寺駅前歯科クリニックには、歯周病治療に精通した歯科医師と歯科衛生士が在籍しています。長年の経験と最新の知識に基づき、患者さん一人ひとりの状態を精密に診断し、最適な治療計画を立案します。
最新の設備と精密な治療
私たちは、より確実で質の高い治療を提供するために、最新の医療設備を導入しています。詳細は設備紹介ページをご覧ください。
- 歯科用CTスキャン: 歯を支えるあごの骨(歯槽骨)の状態を立体的に、かつ正確に把握し、治療の精度を高めます。
- マイクロスコープ(歯科用顕微鏡): 肉眼では見えないような歯周ポケットの奥の細菌や、歯根の微細な構造まで拡大して確認できるため、より精密な処置が可能になります。これにより、感染源の取り残しを防ぎ、治療の成功率を向上させます。
患者さんファーストの丁寧な説明
「何をされるんだろう?」「本当に治るのかな?」といった不安は当然です。当院では、インフォームドコンセントを何よりも重視しています。精密な検査結果に基づき、現在のお口の状態、考えられる治療法(切除療法、再生療法など)、それぞれのメリット・デメリット、治療期間、費用、そして術後の注意点まで、分かりやすく、丁寧にご説明します。疑問や不安な点があれば、どんなことでもお気軽にご質問ください。皆さんが心から納得し、安心して治療に臨めるよう、とことん向き合います。治療の流れはこちら。
痛みに最大限配慮した治療
「手術は痛そう…」という心配もご無用です。麻酔の方法や、術中の患者さんへの細やかな配慮を徹底し、できる限り痛みを抑えた治療を提供しています。不安なく治療を受けていただけるよう、常に快適な環境づくりに努めています。
あなたの歯の健康を、私たちにお任せください
進行した歯周病は、放置すれば歯を失うだけでなく、糖尿病や心臓病など全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、諦める必要はありません。適切な歯周外科治療と、その後の継続的なメインテナンスで、あなたの歯はきっと守れます。
「歯ぐきの腫れが続く」「歯がぐらつく」「口臭が気になる」など、どんな些細なことでも構いません。まずは一度、泉岳寺駅前歯科クリニックにご相談ください。
アクセス情報
泉岳寺駅前歯科クリニックは、東京都港区に位置し、アクセスしやすい場所にございます。
- 都営浅草線・京急本線 泉岳寺駅 A3出口より徒歩1分
- 高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスが良い立地です。
お一人で悩まず、ぜひ私たちと一緒に、健康な笑顔を取り戻しましょう。
歯周外科治療に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、歯周外科治療について患者さんからよくいただくご質問にお答えします。
Q1. 歯周外科治療は痛いですか?
A1. 手術中は、局所麻酔をしっかり行いますので、痛みを感じることはほとんどありません。麻酔が効いている間は「触られている」感覚はありますが、痛みは伴いませんのでご安心ください。麻酔が切れた後に多少の痛みが生じることはありますが、処方される痛み止めで十分にコントロールできます。
Q2. 手術後、どのくらいで普段通りの食事ができますか?
A2. 手術後数時間は麻酔が効いているため、食事は控えてください。麻酔が完全に切れてから、まずは柔らかく、刺激の少ない食事から始めましょう。術後1週間程度は、手術部位に負担をかけないよう、硬いものや熱すぎるもの、辛いものは避けることをおすすめします。徐々に普段の食事に戻していただけます。
Q3. 手術後、仕事や学校は休む必要がありますか?
A3. 手術の内容や患者さんの回復力にもよりますが、ほとんどの場合、翌日から通常の日常生活に戻ることが可能です。ただし、激しい運動や重労働は、出血や腫れを悪化させる可能性があるため、術後数日間は避けていただくようお願いしています。念のため、手術当日はゆったりとお過ごしいただけるよう、スケジュールを調整していただくのが良いでしょう。
Q4. 歯周外科治療を受ければ、もう歯周病になりませんか?
A4. 残念ながら、歯周外科治療は歯周病を完治させるものではなく、**「再発のリスクを大きく減らす」治療です。歯周病は生活習慣病のため、治療後も日々の丁寧なセルフケア(歯磨き、フロスなど)と、歯科医院での定期的なメインテナンス(プロフェッショナルケア)**が非常に重要になります。これらを継続することで、健康な状態を長く維持し、再発を防ぐことができます。
Q5. 費用はどのくらいかかりますか?保険は適用されますか?
A5. 歯周外科治療の種類や範囲によって費用は異なります。一部の治療(例:一般的なフラップ手術など)は保険が適用されますが、歯周組織再生療法(エムドゲイン、リグロスなど)や歯周形成外科の一部治療は、健康保険が適用されない自費診療となる場合があります。詳細な費用については、患者さんの口腔内の状態と治療計画に基づいてお見積もりいたしますので、まずはご相談ください。料金表はこちらのページでもご確認いただけます。
参考文献
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