column 歯周病

歯周組織再生療法で失われた歯周組織を回復!進行した歯周病への最終アプローチ

2025.07.31

「歯周病は国民病」。こんな言葉を耳にしたことはありませんか?実は、日本の成人の約8割が何らかの歯周病を抱えていると言われています。初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに病気が進行してしまうことから「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています[1]。

歯周病が進行すると、歯ぐきの炎症にとどまらず、最終的には歯を支える大切な骨(歯槽骨)や歯根膜といった組織が、まるで溶けるかのように破壊されてしまいます。こうなると歯がグラつき始め、食事の際に痛みを感じたり、最悪の場合、大切な歯を失ってしまったりする恐れもあるんです。

これまでの歯周病治療では、歯石除去やルートプレーニングといった非外科的な治療が中心でした。もちろんこれらは炎症を抑えるのに非常に効果的ですが、**一度破壊されてしまった骨や組織を元に戻すことは、残念ながらできませんでした。**深く複雑な歯周ポケットの奥に潜む感染源を完全に除去することも、従来の治療では限界があったんです。

しかし、医療の進歩は私たちに新たな希望を与えてくれました。それが、「歯周組織再生療法」です。この画期的な治療は、文字通り、失われた歯周組織を「再生」させることを目指します。従来の治療では不可能だった歯の温存機能回復を可能にし、進行した歯周病でお悩みのあなたにとって、まさに最終アプローチとなり得る治療法なんです。

この記事では、歯周組織再生療法がどのような治療なのか、なぜ今この治療が必要とされているのかを深く掘り下げて解説します。治療の種類やメカニズム、具体的なプロセス、そしてこの治療を受けることで得られる具体的なメリットまで、わかりやすくお伝えしますね。

「もう手遅れかもしれない…」と諦めかけている方も、ぜひこの記事を読み進めてみてください。あなたの歯を守るための、新たな希望が見つかるかもしれません。


1. 歯周組織はなぜ失われる?進行した歯周病の恐ろしさと従来の治療の限界

歯周病が骨や組織を破壊するメカニズムとは?

歯周病は、実は非常に恐ろしい病気です。その始まりは、歯と歯ぐきの境目に溜まるプラーク(歯垢)の中の歯周病菌。この細菌が歯ぐきに炎症を引き起こし、赤く腫れたり、出血しやすくなったりといった初期症状が現れます。しかし、多くの場合、この段階では痛みがないため、病気が静かに進行してしまうんです[2]。

炎症が慢性化すると、歯ぐきは歯から剥がれ、やがて歯周ポケットと呼ばれる深い溝を形成します。このポケットは歯ブラシが届きにくく、歯周病菌にとって格好の隠れ家となります。深くなったポケットの奥では、酸素を嫌う嫌気性歯周病菌がさらに繁殖し、強力な毒素を出し始めます。

この細菌の毒素や、それに対抗しようとする私たちの免疫反応が、結果として歯を支える土台となる歯槽骨歯根膜といった大切な歯周組織を破壊してしまうんです。骨が溶け始めると、歯を支える力が弱まり、まるで根っこが不安定になった木のように、歯がグラグラと動き出します。この状態を放置すれば、最終的には歯が抜け落ちてしまうという、避けたい結果へと繋がってしまうんです。

歯周病治療の「これまで」と「限界」

これまで、歯周病治療の基本は、炎症の原因となる歯石やプラークを取り除くことでした。

初期・中等度歯周病への有効なアプローチ

  • スケーリング: 歯の表面や歯周ポケットの比較的浅い部分に付着した歯石やプラークを、専用の器具で徹底的に除去します。
  • ルートプレーニング: 歯周ポケットが深くなった場合に行う処置で、歯根の表面にこびりついた歯石や細菌の毒素で汚染された部分を、専用の器具で丁寧に削り取り、歯根面を滑らかに整えます。これにより、歯ぐきが再び歯にしっかりと付着しやすくなります。

これらの治療は、歯ぐきの炎症を抑え、歯周病の進行を食い止める上で非常に有効です。しかし、これらの非外科的なアプローチには明確な限界がありました。

非外科的治療の限界

残念ながら、**一度溶けて失われてしまった歯槽骨や破壊された歯根膜を、スケーリングやルートプレーニングだけで元に戻すことはできません[3]。**また、深く複雑な形状をした歯周ポケットの奥や、歯根の分岐部といった場所には、どんなに熟練した歯科医師や歯科衛生士でも、器具が物理的に届きにくく、感染源を完全に除去するのが難しいという課題がありました。

外科的切除療法の役割と課題

歯周ポケットが非常に深い場合や、非外科的治療では改善が見られない場合には、**フラップ手術(歯肉剥離掻爬術)**といった外科的な切除療法が行われます。これは、歯ぐきを切開して開いてから、直接目で見て歯周ポケットの奥の感染源を徹底的に除去する治療です。

この方法は、深いポケットの炎症を抑えるのに非常に効果的ですが、失われた骨や組織そのものを再生させることを主目的とはしていません。むしろ、ポケットを物理的に浅くするために歯ぐきの一部を切除したり、位置を移動させたりするため、術後に歯ぐきが下がって歯根が露出し、一時的な知覚過敏が生じたり、見た目の変化(審美性)が気になるという課題が生じることもありました。

なぜ「再生」という選択肢が必要なのか?

このように、従来の歯周病治療は炎症をコントロールし、病気の進行を食い止めることに主眼を置いてきましたが、一度失われた歯槽骨や歯根膜といった重要な歯周組織を回復させることはできませんでした。

しかし、歯周病で歯がグラつき、最終的に抜歯を余儀なくされる状況を避けるためには、単に炎症を抑えるだけでなく、「失われたものをもう一度作り出す」というアプローチが不可欠です。歯周組織の再生は、歯がしっかりと骨に支えられる状態を取り戻し、歯のぐらつきを改善させ、何よりもご自身の歯を長く使い続けることを可能にします。

これは、単に口腔内の健康を取り戻すだけでなく、食事を美味しく楽しめる、自信を持って笑えるといった生活の質(QOL)を根本から向上させることに直結します。歯周組織再生療法は、まさに歯周病の進行を止め、健康な未来を守るための最終的かつ画期的なアプローチとして、今、大きな注目を集めているのです。


2. 歯周組織再生療法とは?「溶けた骨」をよみがえらせる画期的なメカニズム

歯周組織再生療法とはどんな治療?その目的と可能性

歯周組織再生療法は、歯周病によって破壊されてしまった歯槽骨セメント質、そして歯根膜といった、歯を支える上で不可欠な組織を外科的に「再生」させることを目指す、最先端の歯科治療です。従来の治療が炎症の除去や進行の抑制に重点を置いていたのに対し、この治療は失われた組織そのものを元の状態に近づけるという、より根本的な回復を目標としています。

この治療の最大の目的は、歯の支持組織を再構築することで、歯の安定性を向上させ、最終的に抜歯のリスクを軽減し、歯の寿命を延ばすことです[4]。これにより、患者さんはご自身の歯でしっかりと噛めるようになり、食生活や会話、笑顔といった日常生活の質(QOL)を大きく改善する可能性を秘めているのです。

失われた組織を誘導再生するGTR法

**GTR法(Guided Tissue Regeneration:組織誘導再生法)**は、歯周組織再生療法の代表的な手法の一つです。この方法は、歯周病によって骨が失われた部分に、特殊な「メンブレン(生体吸収性膜)」を設置することで、組織の再生を「誘導」します。

GTR法の再生メカニズム

  1. まず、手術によって歯ぐきを開き、溶けてしまった骨の欠損部を清掃します。
  2. 次に、その骨欠損部を覆うようにメンブレンを設置します。
  3. このメンブレンは、歯肉などの不要な細胞が欠損部に入り込むのを物理的にブロックする役割を果たします。
  4. その結果、骨や歯根膜を形成する細胞(骨芽細胞や歯根膜細胞)が、優先的にメンブレンの下のスペースで増殖するための十分な時間と空間が確保されます。
  5. これにより、失われた歯槽骨歯根膜が、本来あるべき場所に「誘導」されて再生されることを目指すのです。

GTR法は、特に特定の形態の骨欠損(垂直性骨欠損など)において高い効果が期待できるとされていますが、メンブレンの露出リスクなど、術後の管理が重要になる場合もあります[5]。

成長因子で骨と組織を育てるエムドゲインとリグロス

近年、歯周組織の再生をさらに強力にサポートする「成長因子」を用いた治療が注目されています。これらの薬剤は、特定のタンパク質の力で細胞の増殖や分化を促し、組織の再生を誘導します。GTR法と併用されることもあります。

エムドゲイン(Emdogain®)

エムドゲインは、歯の発生過程で重要な役割を果たすエナメルマトリックスタンパク質を主成分とするゲル状の薬剤です[6]。この薬剤を骨欠損部に塗布することで、天然の歯の形成過程を模倣し、セメント質、歯根膜、そして歯槽骨といった歯周組織の再生を誘導すると考えられています。その安全性は長年の研究で確立されています。

リグロス(Regroth®)

リグロスは、日本で開発され、2016年に保険適用となった比較的新しい薬剤です[7]。**bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)**というヒト由来の成長因子を主成分とし、骨欠損部に塗布することで、血管新生を促進し、再生に必要な細胞や栄養素が豊富に供給される環境を作り出します。これにより、骨や歯肉などの歯周組織の再生を強力にサポートします。保険適用されたことで、より多くの患者さんがこの画期的な治療を受けやすくなりました。

骨を補い再生を促す「骨移植」の役割

歯周病によって広範囲にわたって歯槽骨が失われてしまった場合や、骨の形態を整える必要がある場合には、「骨移植」が選択肢となります。これは、骨の欠損部に骨補填材を移植することで、骨の再生を促す「足場」や「空間」を提供する治療法です。

骨補填材の種類と再生メカニズム

  • 自家骨(患者さん自身の骨): 患者さん自身の顎の骨などから採取するため、生体親和性が最も高く、良好な再生が期待できます[8]。
  • 他家骨・異種骨: 人為的に加工・処理されたヒト由来や動物由来(ウシなど)の骨で、安全性が確保されています。
  • 人工骨: 合成された材料で、時間が経つと自身の骨に置き換わるタイプなどがあります。

これらの骨補填材は、移植された部位で周囲の骨細胞の増殖を促し、徐々に患者さん自身の新しい骨へと置き換わっていきます。GTR法や成長因子と組み合わせて、より効果的な骨再生を目指すことも多くあります。

あなたに最適な再生療法は?治療選択のポイント

「これだけ多くの再生療法がある中で、自分にはどれが最適なの?」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。歯周組織再生療法は、患者さん一人ひとりの口腔内の状態によって、最適なアプローチが異なります。

主な治療選択の基準

  • 骨欠損の形態と深さ: 特に垂直性骨欠損など、再生療法に適した特定の形態であるかどうかが重要です。歯科用CTを用いた精密な検査で、骨の立体的な状態を正確に把握します[8]。
  • 患者さんの全身状態: 糖尿病のコントロール状況や、特に喫煙の有無は、再生療法の成功率に大きく影響します。喫煙は血流を阻害し、治癒を著しく遅らせるため、禁煙が強く推奨されます[9]。
  • 費用と保険適用: 治療の種類によっては、保険適用外の自費診療となる場合があるため、患者さんのご希望と合わせて検討します。

当院では、これらの診断結果に基づき、患者さんのご希望やライフスタイルも考慮しながら、それぞれの治療法のメリット・デメリット、予測される効果、治療期間、費用などを分かりやすく丁寧にご説明します。疑問や不安な点は、どんなことでもお気軽にご質問ください。患者さんが納得し、安心して治療に臨めるよう、インフォームドコンセントを何よりも大切にしています。


3. 再生治療のすべて:精密診断から成功へ導く治療プロセスと術後のケア

再生療法の成功を左右する「術前準備」の重要性

歯周組織再生療法は、ただ手術をすれば成功するというわけではありません。治療の成否は、手術前の準備段階で大きく左右されます。この術前準備こそが、安全かつ効果的な再生治療を実現するための最も重要なステップなんです。

精密診断の徹底

治療を始める前に、まず患者さんのお口の状態を徹底的に検査します。具体的には、歯周ポケットの深さ、歯ぐきの炎症状態、歯の動揺度などを詳細に診察します。

特に重要なのが、歯科用CTを用いた三次元的な骨欠損の評価です。レントゲンだけでは分かりにくい骨の形態や量、周囲の歯周組織との関係性を正確に把握することで、どの再生療法が最適か、どのように手術を進めるべきかを綿密に計画できます[8]。口腔内写真も撮影し、治療前後の変化を客観的に記録していきます。

基本治療による炎症の徹底抑制

外科手術を行う前に、歯ぐきの炎症をできる限り抑えることが必須です。炎症が残ったまま手術をしてしまうと、術後の治りが遅れたり、感染のリスクが高まったりする可能性があるためです。

そのため、スケーリングルートプレーニングを徹底し、歯周病の原因となるプラークや歯石を徹底的に除去します。この段階で炎症をコントロールすることで、再生療法が最大限の効果を発揮できる環境を整えます。

口腔衛生指導と患者さんの協力

再生療法の成功には、患者さんご自身の協力が欠かせません。歯科衛生士が、正しいブラッシング方法やデンタルフロス歯間ブラシといった補助清掃用具の効果的な使い方を丁寧に指導します。術前から高いレベルのセルフケアを習得し、実践していただくことが、治療の成功、そして術後の良好な経過に繋がる重要な鍵となるんです。

全身状態の評価とリスク管理

患者さんの全身の状態もしっかりと確認します。例えば、糖尿病や高血圧などの持病の有無、服用しているお薬(特に血液をサラサラにする抗凝固剤など)について詳しくお伺いします。

特に強調しておきたいのが喫煙です。喫煙は、歯周組織の血流を著しく阻害し、骨や組織の再生能力を低下させるため、再生療法の成功率を大幅に下げてしまう最大の要因とされています[9]。そのため、再生療法を検討される方には、**術前からの禁煙を強くお願いしています。**必要に応じて、医科の専門医と連携し、全身状態を最適にコントロールしながら治療を進めることもあります。

治療当日の流れと痛みを最小限に抑える工夫

「手術」と聞くと、痛みへの不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、ご安心ください。再生療法は、患者さんの痛みを最大限に考慮して行われます。

麻酔による痛みの管理

手術部位には、効果的な局所麻酔を丁寧に行います。麻酔がしっかりと効けば、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。麻酔が効いている間は、触られている感覚や、わずかな圧迫感がある程度で、多くの方がリラックスして治療を受けられています。

手術の具体的なステップ(一般的な再生療法を例に)

  1. 歯肉の切開・剥離: 骨欠損部を直接目で見て確認できるように、歯ぐきを慎重に切開し、優しく剥がしていきます。これにより、これまで器具が届かなかった深い部分まで確実にアクセスできます。
  2. 感染源の徹底除去: 露出した歯根面の歯石や、歯周病菌の塊であるバイオフィルム、そして炎症によって変性した組織を、専用の器具で徹底的に清掃・除去します。これは、再生を促す上で最も重要なステップの一つです。
  3. 歯根面の処理: 再生を促すために歯根の表面を滑らかに整える処置を行います。
  4. 再生材料の適用: 骨の欠損部に、GTR膜、エムドゲイン、リグロス、あるいは骨補填材といった適切な再生材料を正確に適用します。
  5. 歯肉の縫合と保護: 最後に、開いた歯ぐきを元の位置に戻し、非常に細い糸で丁寧に縫い合わせます。必要に応じて、手術部位を保護するための歯周パックを装着する場合もあります。

手術時間は治療範囲にもよりますが、通常は数十分から1時間程度が目安です。当院では、患者さんの状態や不安に常に配慮し、お声がけをしながら慎重に治療を進めていきます。

術後の回復を早める!自宅での過ごし方と注意点

手術後の過ごし方は、再生療法の成功と早期回復に大きく影響します。以下の点に注意して、ご自宅で過ごしてください。

術後の一般的な症状とその対処法

  • 痛み: 麻酔が切れた後に、鈍い痛みを感じることがあります。処方された痛み止めを服用することで、多くの場合コントロール可能です。患部を優しく冷やすことも有効です。
  • 腫れ: 手術後2~3日をピークに、顔や歯ぐきが腫れることがあります。これは一般的な反応であり、心配いりません。通常、1週間ほどで徐々に引いていきます。
  • 出血: 唾液に血が混じる程度のにじむような出血が見られることがあります。強くうがいをしたり、手術部位を触ったりすると出血が止まりにくくなるので注意しましょう。
  • 知覚過敏: 一時的に歯がしみる症状が出ることがありますが、時間とともに軽減していくことがほとんどです。

食事・飲酒・喫煙に関する具体的な注意

  • 食事: 麻酔が完全に切れてから食事を始めてください。手術後数日間は、柔らかく、刺激の少ないもの(熱すぎるもの、辛すぎるもの、硬すぎるもの、粘着性のあるものなど)を選びましょう。手術部位と反対側で噛むように心がけてください。
  • 飲酒: 血行促進作用があるため、出血や腫れを悪化させる可能性があります。術後数日間は飲酒を控えてください
  • 喫煙: 再生療法の成功を大きく左右する要因であるため、血流を悪化させ、再生を妨げ、感染リスクを高めます[9,10]。当院では、再生療法後の絶対的な禁煙を強くお願いしています。

口腔ケア(歯磨き・うがい)の注意点

  • 手術部位の歯磨き: 手術した部位は、傷口を刺激しないよう、ブラシを直接当てて磨くのは避けましょう。それ以外の部分は、通常の力で丁寧に磨いてください。
  • うがい: 処方された抗菌性洗口液を指示通り使用してください。ただし、強くゆすぎすぎると、傷口にできた血餅(かさぶたのようなもの)が剥がれてしまい、治癒が遅れる原因となります。静かに含んで、そっと吐き出すようにしましょう。

日常生活での注意

  • 安静: 手術後は、激しい運動や長時間の入浴、サウナなど、血行が良くなる行動は数日間控えて、できるだけ安静に過ごしましょう。
  • 服薬: 処方された抗生物質や痛み止めは、指示通り最後まで服用し、感染予防を徹底してください。

異常を感じた際の対応

もし、我慢できないほどの痛み、止まらない出血、高熱、手術部位からの膿など、異常を感じた場合は、すぐに当院へご連絡ください。不安なことはどんなことでもご相談いただけるよう、サポート体制を整えています。


4. 再生療法がもたらす効果:歯の寿命延長と全身の健康への波及

失われた歯周組織の回復で、歯のぐらつきを安定化

歯周組織再生療法の一番の目的は、歯周病によって「溶けてしまった骨(歯槽骨)」や、歯と骨をつなぐ大切な組織である歯根膜を再生させることです。まるで地盤沈下した土地を元に戻すように、この治療によって歯が再び強固な土台にしっかりと支えられるようになります。

その結果、これまで歯周病でグラグラと動揺していた歯が劇的に改善され、安定を取り戻します。「もう抜歯しかない」と宣告されてしまった歯でも、再生療法によってご自身の歯を救い、使い続けられる可能性が大きく広がるんです。歯が安定すると、食事の際にしっかりと噛めるようになるのはもちろん、歯が動くことによる不快感や痛みからも解放され、毎日の生活の質(QOL)が大きく向上します。

歯の寿命を延ばし、抜歯リスクを大幅に低減

歯周組織再生療法は、単に歯ぐきの炎症を抑えるだけでなく、歯周病が進行する「負のサイクル」を根本から断ち切る治療です。失われた歯周組織を再生し、歯を強固に支持することで、患者さんご自身の歯の寿命を大幅に延ばし、将来的な抜歯のリスクを劇的に低減できます[4]。

インプラントなどの人工的な歯も素晴らしい選択肢ですが、やはりご自身の歯に勝るものはありません。再生療法は、できる限りご自身の歯を長期間機能させ、健康な口腔内環境を維持するための、非常に有効なアプローチなんです。適切なメインテナンスとセルフケアを継続することで、再生された歯周組織の状態を良好に保ち、歯周病の再発を防ぎながら、歯を生涯にわたって守れる可能性が高まります。

お口だけでなく全身も健康に?歯周病と全身疾患の深い関係

歯周病は、実は口腔内だけの問題ではありません。歯周ポケットで増殖した歯周病菌や、慢性的な炎症によって生じる炎症性物質は、歯ぐきの血管から血液中に侵入し、全身を巡ることが最新の研究で明らかになっています[11]。これにより、全身の様々な病気の発症や悪化に影響を及ぼす可能性があるんです。

特に、歯周病との関連性が指摘されている主な全身疾患には、以下のようなものがあります。

歯周病が関与する主な全身疾患

  • 糖尿病: 歯周病が悪化すると、全身のインスリンの働きが悪くなり、血糖コントロールが難しくなります。逆に、糖尿病が悪化すると歯周病も進行しやすくなるという「双方向性」の関係が確認されています[12]。歯周組織再生療法によって口腔内の炎症が改善されると、血糖値の安定にも良い影響を与える可能性が示唆されています。
  • 心血管疾患(心筋梗塞・脳梗塞など): 歯周病菌や炎症性物質が動脈硬化を促進し、心臓病や脳卒中のリスクを高める可能性があります[13]。口腔内の炎症を抑えることは、これらの重大な病気の予防にも繋がると考えられています。
  • 誤嚥性肺炎: 特に高齢者の方において、口腔内の歯周病菌が誤って気管に入り込む「誤嚥」によって、肺炎を引き起こすリスクが高まります[14]。再生療法によって口腔内環境が改善されることは、誤嚥性肺炎の予防にも貢献します。
  • 早産・低体重児出産: 妊婦さんの歯周病が、低体重児出産や早産のリスクを高める可能性も指摘されており、妊娠中の口腔ケアの重要性が増しています[15]。

このように、歯周組織再生療法によって口腔内の感染源が大幅に減少し、慢性的な炎症が抑制されることで、上記のような全身疾患のリスク低減にも貢献できる可能性があるんです。口腔の健康は、全身の健康寿命を延ばすための非常に重要な要素であることを、ぜひ知っておいていただきたいと思います。


5. 再発させない!再生効果を持続させるためのプロケアとセルフケア

治療効果を維持する「メインテナンス期」の重要性

歯周組織再生療法によって、失われた歯周組織を回復できたとしても、これで治療がすべて終わりではありません。歯周病は、糖尿病や高血圧と同じように、生活習慣が深く関わる慢性疾患(生活習慣病)です。そのため、治療によって一度改善しても、日々のケアや生活習慣が不適切だと、残念ながら再発してしまうリスクが常にあります。

再生療法は、健康な歯周組織を取り戻すための「スタートライン」に過ぎないのです。治療によって得られた良好な歯周組織の状態を長期的に維持し、歯周病の再発を効果的に防ぐこと。これが、治療後のメインテナンス期の最大の目的となります。

この大切なメインテナンス期は、歯科医院で行うプロフェッショナルケアと、患者さんご自身が行うセルフケアの「両輪」が不可欠です。どちらか一方が欠けても、高い治療効果を維持することは難しいでしょう。

歯周病の再発を防ぐ「プロフェッショナルケア」の力

ご自宅でのセルフケアだけでは、どうしても完璧には汚れを取りきれません。そこで重要になるのが、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアです。

定期検診の役割

  • 早期発見・早期対応: 再生療法後の歯周ポケットの深さ、歯肉の炎症、歯の動揺度など、口腔内の変化を定期的にチェックします。X線写真(レントゲン)などを用いて、再生された骨の状態や、新たな骨吸収の兆候がないかを早期に発見します。これにより、もし再発の兆候が見られても、早い段階で対処でき、深刻な状態になるのを防げます[16]。
  • 噛み合わせのチェック: 歯周病の再発要因として、不適切な噛み合わせが挙げられることもあります。定期検診では、噛み合わせのバランスも評価し、必要に応じて調整することで、歯や歯周組織への過度な負担を防ぎます。

PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)

  • バイオフィルムの徹底除去: 毎日の歯磨きでは取りきれない、歯の表面や歯周ポケット内に形成されるしつこいバイオフィルム(細菌の塊)や、微細な歯石を、歯科医師や歯科衛生士が専用の器具を用いて徹底的に除去します[17]。特に、再生療法を行ったデリケートな部位や、歯周ポケットの入り口付近は、専門家による丁寧なクリーニングが不可欠です。
  • 汚れの再付着防止: 歯の表面をツルツルに磨き上げることで、汚れの再付着を防ぎ、歯周病菌が活動しにくい環境を維持する効果を説明します。

歯科衛生士による専門的な指導

患者さん一人ひとりの口腔内の状態や、歯ブラシの癖に合わせた、より効果的なブラッシング指導を継続的に行います。また、デンタルフロス歯間ブラシといった補助清掃用具の適切な選び方や使用法についても、定期的にアドバイスすることで、ご自宅でのセルフケアの質を高めます。

一般的に、再生療法後は、歯周病のリスクに応じて3ヶ月〜6ヶ月に一度の定期的な来院が推奨されます。

毎日の「セルフケア」が、健康な歯周組織を守る鍵

プロフェッショナルケアだけでは、歯周病を完全にコントロールすることはできません。歯周組織再生療法で健康を取り戻した歯周組織を維持するには、患者さんご自身による毎日の質の高いセルフケアが、何よりも重要です。

正しいブラッシングの徹底

  • 適切な歯ブラシの選択: ヘッドの大きさや毛の硬さ(軟らかめ~普通)、そしてご自身の口腔内に合った形状の歯ブラシを選びましょう。歯ブラシは1ヶ月に1回を目安に交換してください。
  • 効果的な磨き方: 歯と歯ぐきの境目、特に歯周ポケットの入り口に毛先を45度の角度で当て、小刻みに優しく振動させるバス法などの効果的な磨き方を身につけましょう。歯ぐきを傷つけないよう、力を入れすぎないことが大切です。

補助清掃用具の活用

歯ブラシだけでは、歯と歯の間や、歯周ポケットの奥深くの汚れは十分に除去できません。

  • デンタルフロス: 歯と歯が接している部分のプラークを除去するために不可欠です。正しい使い方をマスターし、毎日使用しましょう。
  • 歯間ブラシ: 歯と歯の間の隙間が大きい場合に効果的です。ご自身の歯間に合ったサイズを選び、歯ぐきを傷つけないよう慎重に使用してください。

これらの補助清掃用具を毎日使うことで、歯周病菌の隠れ家を徹底的に排除し、再生された歯周組織を清潔に保てます。

その他の口腔ケア用品

洗口液(マウスウォッシュ)は、補助的に使用することで口腔内全体の細菌数を減らし、より良好な口腔環境を保てます。ただし、これらは歯磨きの代わりにはなりません。舌ブラシも、舌苔(ぜったい)を除去し、口臭予防に役立ちます。

生活習慣の改善

歯周病は生活習慣病であるため、日々の習慣を見直すことも、再生効果を維持する上で極めて重要です。

  • 喫煙: 歯周病の最大の危険因子であり、血流を悪化させ、歯周組織の治癒と再生を著しく阻害します[10]。再生療法後の絶対的な禁煙は、治療効果を最大限に引き出し、再発を防ぐために不可欠です。
  • バランスの取れた食生活: 免疫力を高め、歯周組織の健康を維持するために、ビタミンやミネラルを豊富に含むバランスの取れた食事を心がけましょう。
  • ストレス管理: ストレスは免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる可能性があります[18]。適度な運動や趣味などで、ストレスを上手に解消することも大切です。
  • 十分な睡眠、適度な運動など、全体的な健康維持が口腔内環境にも繋がることを簡潔に説明します。

結び:諦めないで!進行した歯周病でお悩みなら、まずご相談を

歯周病が進行し、「もう自分の歯は諦めるしかないのだろうか」「抜歯するしかない」と深く悩んでいらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、どうか希望を捨てないでください。これまでの章で詳しく解説したように、歯周組織再生療法は、単に歯周病の症状を一時的に抑えるだけではありません。溶けて失われた歯槽骨や歯根膜といった大切な歯周組織を、再び「再生」させることを目指す、画期的な治療法なのです。

この治療は、あなたの歯の寿命を大幅に延ばし、抜歯のリスクを劇的に低減できる可能性を秘めています。ご自身の歯でしっかりと噛める喜びを取り戻し、自信を持って笑えるようになる。そして、口腔内の健康が全身の健康へと繋がり、より豊かな生活を送るための「最終アプローチ」として、私たちはこの治療を皆様にご提供したいと考えています。

泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

当院は、歯周病治療、特に歯周組織再生療法を含む高度な歯周外科治療に力を入れています。経験豊富な歯科医師と歯科衛生士が、患者さん一人ひとりの状態を精密に診断し、最新の設備と確かな技術で、最適な治療をご提供いたします。

当院の歯周組織再生療法について、より詳しく知りたい方はこちらのページをご覧ください。

歯周組織再生療法

  • 歯周病治療に特化した専門性: 歯周病のメカニズムを深く理解し、患者様それぞれに合わせたオーダーメイドの治療計画をご提案します。
  • 最新の設備: 歯科用CTによる三次元的な精密診断や、マイクロスコープを用いた高精度な治療により、肉眼では見えない部分まで確実に処置を進めます。当院の設備についてはこちらをご覧ください。
  • 丁寧なカウンセリング: 治療に対する不安や疑問に寄り添い、メリット・デメリット、費用などを分かりやすく丁寧にご説明し、患者様が納得して治療に臨めるよう努めます。当院の特徴はこちらでご確認いただけます。

アクセス情報

当院は、東京都港区に位置しており、主要な駅からのアクセスも非常に便利です。

  • 都営浅草線・京急線 泉岳寺駅A3出口より徒歩1分

高輪ゲートウェイ駅や品川駅からもアクセスしやすい場所にございます。詳しいアクセス方法はこちらをご覧ください。

ご自身の歯を生涯にわたって使い続けるために、私たち泉岳寺駅前歯科クリニックが全力でサポートいたします。どんな些細なことでも構いません。まずはお気軽にご連絡ください。お問い合わせはこちらからどうぞ。


FAQ:歯周組織再生療法に関するよくある質問


Q1. 歯周組織再生療法は痛いですか?

A1. 歯周組織再生療法の手術中は、十分な局所麻酔を行うため、**痛みを感じることはほとんどありません。**術後の痛みも処方される痛み止めで十分にコントロール可能です。詳細は本文中の【治療当日の流れと痛みを最小限に抑える工夫】をご参照ください。


Q2. 治療後、どれくらいで歯周組織は再生されますか?

A2. 歯周組織の再生には時間がかかります。一般的に、骨や歯根膜といった組織が安定するまでには数ヶ月から1年程度かかるとされています。治療直後に劇的な変化を感じるわけではありませんが、ゆっくりと時間をかけて組織が回復していきます。この間は、定期的な検診と丁寧なセルフケアが非常に重要です。


Q3. 再生療法を受ければ、もう歯周病になりませんか?

A3. 歯周組織再生療法は、一度破壊された組織を回復させる画期的な治療ですが、歯周病そのものが再発しないわけではありません。歯周病は生活習慣病であるため、治療後も日々の丁寧なセルフケアと、歯科医院での定期的な**プロフェッショナルケア(メインテナンス)**が不可欠です。これらのケアを継続することで、再生された組織を健康に保ち、歯周病の再発リスクを最小限に抑えることができます。詳細は本文中の【再発させない!再生効果を持続させるためのプロケアとセルフケア】をご覧ください。


Q4. 歯周組織再生療法に保険は適用されますか?

A4. 歯周組織再生療法には、いくつかの種類があります。使用する材料や治療法によって、**保険が適用される場合と適用されない場合(自費診療)があります。**例えば、成長因子の一つである「リグロス」は条件を満たせば保険適用が可能です。詳しくは本文中の【あなたに最適な再生療法は?治療選択のポイント】をご確認いただくか、当院にご相談ください。


Q5. 喫煙していても再生療法は受けられますか?

A5. 喫煙は再生療法の成功に大きく影響します。治療効果を最大限に高めるため、術前の禁煙を強く推奨しています。詳細は本文中の【術前準備の重要性】をご覧ください。


参考文献

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監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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