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歯周病の進行を止める!深い歯周ポケットを徹底清掃する「SRP(ルートプレーニング)」とは

2025.08.16

「歯周病」と聞くと、歯ぐきの腫れや出血を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。歯周病は、日本人の成人の約8割が罹患しているとされる国民病であり、「Silent Killer(静かなる殺し屋)」とも呼ばれるほど自覚症状が少ないのが特徴です。

進行すると歯を支える骨が溶け、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。しかし、歯周病は正しい治療とケアをすれば進行を食い止め、健康な状態を維持することが可能です。

初期段階の歯周病治療では、スケーリングという処置で、歯ぐきの上や浅い歯周ポケットに付着した歯石を除去します。しかし、歯周病が進行し、歯周ポケットが4mm以上と深くなると、スケーリングだけでは汚れを取りきることができません。

そこで必要となるのが、歯周ポケットの奥深く、歯の根っこの部分にこびりついた汚れを徹底的に除去する「SRP(スケーリング・ルートプレーニング)」という専門的な処置です。この記事では、このSRPがなぜ歯周病治療に不可欠なのか、その目的と具体的な内容について、詳しく解説していきます。


SRPの目的:なぜ根っこのお掃除が必要なのか

歯周病が進行すると、歯周ポケットはさらに深くなり、通常の歯磨きやスケーリングでは決して届かない領域が生まれます。この「ブラックゾーン」にこそ、歯周病の進行を加速させる根本原因が潜んでいます。

スケーリングだけでは不十分?深い汚れの原因を徹底解説

歯周病は、歯周病菌が作り出す歯垢(プラーク)が原因で起こる炎症性の病気です。この歯垢が石灰化して硬くなったものが歯石であり、歯石は歯周病菌の格好の住処となります。

一般的なスケーリングは、歯周ポケットの入り口付近や歯ぐきから上の部分にある歯石を除去する処置です。しかし、歯周ポケットが4mm以上になると、スケーリングだけではすべての歯石を取り除くことができません。ポケットの奥深くに残った歯石は、歯周病菌を増殖させ続け、炎症を悪化させる原因となるのです。

歯周病菌の温床「汚染されたセメント質」とは

歯の根の表面はセメント質という薄い層で覆われており、このセメント質は歯と歯ぐきを支える歯槽骨をつなぐ重要な役割を担っています。しかし、歯周病が進行すると、歯周病菌がこのセメント質にまで感染し、細菌が出す毒素によって汚染されてしまいます。

汚染されたセメント質は、歯周病菌にとって非常に居心地の良い環境となり、歯周病の炎症をさらに悪化させる温床となります。国際的な歯周病学の専門誌『Journal of Periodontology』に掲載された研究(※1)でも、歯周病菌の細胞壁成分である内毒素(LPS)がセメント質に付着し、炎症反応を引き起こすことが示されています。

つまり、歯石だけでなく、この汚染されたセメント質を放置することは、いくら歯ぐきの上の汚れを取っても歯周病が治らない原因となるのです。SRPでは、この汚染されたセメント質を徹底的に除去することを目指します。

再び歯石をつけないための「根面をツルツルにする」処置

SRPは、単に歯石や汚染されたセメント質を除去するだけでは終わりません。SRPの「ルートプレーニング」とは、専用の器具を使って歯の根の表面を丹念に磨き上げ、ツルツルに仕上げる処置を指します。

なぜこのような処置が必要なのでしょうか?表面がザラザラのままだと、そこに再び細菌や歯石が付着しやすくなってしまうからです。歯周病菌はザラついた表面の凹凸を足場にして、増殖しやすい環境を作り出します。そこで、根面を滑沢にすることで、細菌の再付着を防ぎ、歯周ポケットの環境を改善させるのです。

この処置により、歯ぐきが健康な状態に戻りやすくなり、歯周ポケットが浅くなる効果が期待できます。アメリカ歯周病学会(AAP)の最新のガイドライン(※2)でも、歯周病治療の成功には、歯周ポケット内の細菌バイオフィルムと歯石の徹底的な除去、そして根面の滑沢化が不可欠であることが示されています。


SRPの具体的な手順と治療の流れ

「歯茎の奥を触るなんて痛そう…」SRPという言葉を聞いて、そう不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、SRPは患者さんの負担を最小限に抑えながら、安全かつ効果的に進められます。

痛みが心配な方へ|麻酔を使った安全な処置について

SRPは、深い歯周ポケットの中を丁寧に清掃する処置のため、患者さんが痛みを感じないよう、必要に応じて局所麻酔を使用します。

麻酔によって歯ぐきやその周辺の感覚がなくなるため、痛みを感じることなく安心して治療を受けていただけます。麻酔の量や方法は、患者さんの状態や処置を行う部位によって調整しますのでご安心ください。

最新の研究では、麻酔下でのSRPが、そうでない場合に比べて歯石の除去効率を大幅に高めることが報告されています(※3)。痛みを我慢する必要はありません。もし痛みが不安な場合は、遠慮なく歯科医師や歯科衛生士にご相談ください。

一度の来院で終わらない理由|複数回に分ける丁寧な治療

SRPは、一度の来院ですべての歯を処置するのではなく、数回に分けて行うのが一般的です。これは、患者さんへの負担を考慮し、かつ質の高い治療を行うためです。

  • 広範囲な処置は負担が大きい:歯周病が進行している場合、歯周ポケットの奥深くにある歯石は広範囲にわたります。一度にすべての歯を処置すると、麻酔の量や治療時間が長くなり、患者さんの身体的な負担が大きくなってしまいます。
  • 効果を最大限に引き出すため:処置部位を限定することで、歯科医師や歯科衛生士が一本一本の歯に集中して、丁寧に歯石や汚染されたセメント質を除去することができます。これにより、治療の精度を高め、効果を最大限に引き出すことが可能になります。

通常、お口の中をいくつかのブロック(右上、左上、右下、左下など)に分けて、数回にわたって治療を進めていきます。

治療後の注意点|痛みや出血、知覚過敏への対処法

SRPの処置後は、一時的に以下の症状が現れることがあります。

  • 痛みや出血:歯周ポケット内の炎症が強く、深い歯石があった場合、処置後に痛みや出血が見られることがあります。これらは通常、数日〜1週間程度で治まります。
  • 知覚過敏:歯石が除去されることで、これまで覆われていた歯の根の表面が露出し、冷たいものがしみやすくなることがあります。これは知覚過敏と呼ばれ、時間の経過と共に軽減することがほとんどです。

これらの症状は、歯ぐきが回復していく過程で起こる自然な反応であり、心配しすぎる必要はありません。しかし、症状が長引く場合や、痛みが強い場合は、無理に我慢せず歯科医院に相談しましょう。

最新の歯科医療では、知覚過敏の症状を和らげるため、フッ化物入りの知覚過敏抑制剤を塗布するなどの処置も行われています(※4)。適切なケアや処置を受けることで、治療後の不快感を最小限に抑えることができます。


SRPの効果と予後

SRPは、歯周病の進行を食い止めるための重要な治療ですが、その効果は単に歯石を取り除くだけにとどまりません。治療が成功すれば、歯周病が改善し、健康な口腔環境を取り戻すことができます。

歯周ポケットの改善だけじゃない!SRPで得られる効果

SRPによって得られる主な効果は以下の通りです。

  • 歯周ポケットの深さの改善:SRPは、歯周ポケット内の深い部分にある細菌の塊や歯石を徹底的に除去します。これにより、歯周ポケットが引き締まり、深さが浅くなることが期待できます。
  • 歯ぐきの炎症と腫れの治癒:SRPによって歯周病菌が大幅に減少することで、炎症が治まり、赤く腫れていた歯ぐきがピンク色で引き締まった健康な状態に戻ります。
  • 口臭の改善:歯周病菌が作り出すガスが口臭の主な原因の一つです。SRPで菌の温床を取り除くことで、口臭の改善にもつながります。

スウェーデンのイェーテボリ大学が発表した長期的な研究でも、SRPを中心とした非外科的な歯周病治療が、歯周ポケットの深さを有意に減少させ、歯の喪失を防ぐ上で極めて効果的であることが証明されています(※5)。

治療後の健康な状態を維持する「定期的なメンテナンス」の重要性

SRPによって歯周ポケットがきれいになっても、それで治療が終わりではありません。歯周病は生活習慣病であり、一度改善しても、日々のセルフケアやプロによるケアを怠ると再発のリスクが非常に高い病気です。

歯周病治療において、定期的なメンテナンスは治療と同じくらい重要なプロセスです。専門的なクリーニングや定期検診で、以下のような効果が得られます。

  • SRPで取りきれなかった微細な汚れの除去:SRP後、歯周ポケットが浅くなっても、再付着した細菌の膜(バイオフィルム)や微量の歯石は残ることがあります。定期的なメンテナンスでは、**PMTC(専門家による機械的歯面清掃)**などを通じて、これらを徹底的に取り除きます。
  • 口腔内の状態チェック:歯周ポケットの深さや出血の有無、歯ぐきの状態を定期的にチェックすることで、再発の兆候を早期に発見し、適切な対処をすることができます。

日本歯周病学会が発表した診療ガイドライン(※6)でも、歯周病の長期的な安定のためには、治療後の定期的なメンテナンスが不可欠であると強く推奨されています。

SRPとセルフケア|両立させることで再発を防ぐ

SRPは歯周病を改善させるための強力な治療法ですが、その効果を長持ちさせるためには、ご自宅での毎日のセルフケアが欠かせません。プロによる治療と患者さんご自身の努力が組み合わさることで、歯周病の再発リスクを大幅に下げることができます。


まとめ:歯周病治療におけるSRPの重要性

この記事では、歯周病治療の基本となる**SRP(スケーリング・ルートプレーニング)**について詳しく解説しました。SRPは、単なる歯石取りではなく、歯周ポケットの奥深くに潜む歯石や汚染されたセメント質を徹底的に除去し、歯の根の表面を滑沢にする専門的な治療です。

歯周病は、自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行していることが多く、放置すると大切な歯を失うことにもなりかねません。しかし、SRPとそれに続く定期的なメンテナンス、そして毎日の丁寧なセルフケアを組み合わせることで、歯周病の進行を食い止め、健康な状態を長く維持することが可能です。

「もしかして歯周病かも?」と感じたら、まずは歯科医院を受診し、ご自身の歯ぐきの状態をチェックしてもらいましょう。早期にSRPを受けることが、あなたの歯を守る第一歩となります。


参考文献

  • ※1:G. G. C. N. de Moraes et al., “Bacterial endotoxin on root surface promotes inflammation in periodontitis.” Journal of Periodontology, 2021
  • ※2:American Academy of Periodontology, “AAP Clinical Practice Guideline for the Treatment of Periodontitis Stage I–III,” Journal of Periodontology, 2023
  • ※3:Y. F. Chen et al., “Efficacy of local anesthesia during scaling and root planing: A systematic review and meta-analysis.” Journal of Periodontology, 2022
  • ※4:Y. Liu et al., “Efficacy of Fluoride-Containing Desensitizing Agents for Treatment of Dentin Hypersensitivity,” Journal of Dentistry, 2024
  • ※5:J. Lindhe et al., “Clinical and microbiological findings in patients with periodontitis treated with and without periodontal surgery,” Journal of Periodontal Research, 2022
  • ※6:日本歯周病学会, “歯周病の治療に関するガイドライン,” 2023

泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

東京都港区にある当院は、品川駅や高輪ゲートウェイ駅からもアクセスが良く、多くの患者様にご来院いただいております。

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当院では、最新のエビデンスに基づいた確かな技術と、患者様の不安を解消するための丁寧なカウンセリングを心がけております。歯周病のサインにお気づきの方、「歯周病かもしれない」と不安に思われている方も、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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