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「骨が元に戻る?」歯周組織再生療法(EMD)の驚くべき可能性

2025.08.21

失われた「骨」は再生するのか? 歯周組織再生療法が拓く、歯周病治療の未来

歯磨きをすると血が出る、歯がグラグラする、朝起きると口の中がネバネバする……。このような症状に心当たりのある方は、歯周病が進行しているかもしれません。歯周病は、歯を失う最大の原因と言われています。なぜなら、歯を支えている**歯槽骨(しそうこつ)**が溶けてしまう病気だからです。

従来の歯周病治療は、主に「これ以上悪化させないこと」が目的でした。しかし、一度溶けてしまった骨は元に戻らず、最終的には歯が抜け落ちるのを待つしかありませんでした。そんな常識を覆すのが、近年注目されている歯周組織再生療法です。


骨が溶けても諦めない! 歯周組織再生療法とは

歯周病が進行すると、歯と歯茎の間に「歯周ポケット」と呼ばれる溝が深くなります。このポケットの中で歯周病菌が繁殖し、歯の根を支える歯槽骨を徐々に破壊していきます。骨が溶けてしまうと、歯は文字通り「土台」を失い、グラグラと動くようになり、やがて抜け落ちてしまうのです。この状態を放置すると、やがて噛むことすら困難になり、全身の健康にも悪影響を及ぼすことがわかっています。

歯周組織再生療法は、破壊された歯槽骨や、歯と骨をつなぐ歯周靭帯などの組織を「もう一度つくり直す」ことを目指す治療法です。これは、単に病気の進行を止めるだけでなく、失われた機能そのものを取り戻すという画期的なアプローチと言えます。

もちろん、完全に元の状態に戻るわけではありません。しかし、失われた骨を部分的にでも再生させることで、歯の安定性を大幅に高め、抜歯を回避できる可能性が飛躍的に向上します。この歯周病治療の進化は、長年多くの人が諦めていた「自分の歯を長く使い続ける」という希望を現実のものにしようとしています。


歯周病治療の常識を変える! 骨再生を促すEMD

歯周病治療は、かつては歯のぐらつきを止めることが主な目的でした。しかし、近年では失われた歯槽骨を再生させる画期的な治療法が登場しています。その一つが、**EMD(エナメルマトリックスタンパク質誘導法)**です。

骨再生を促す「特別なタンパク質」EMD(エナメルマトリックスタンパク質誘導法)

EMD(Enamel Matrix Derivative:エナメルマトリックスタンパク質誘導法)は、歯の発生過程で重要な働きをするエナメルマトリックスというタンパク質を応用した治療法です。一般的には**エムドゲイン®**という製品名で知られています。この治療法では、エムドゲイン®をジェル状にして、歯周病で骨が失われた部分に塗布します。この薬剤に含まれるタンパク質が、歯周組織の再生に必要な細胞を呼び寄せ、細胞の増殖や分化を促す「再生のスイッチ」のような役割を果たします。例えるなら、植物がよく育つように、良い土壌に栄養剤をまくようなものです。

薬剤を塗るだけで済むため、外科的な負担が少ないのが特徴です。また、自然な再生プロセスを誘導するため、再生された組織がより機能的なものになることが期待されています。


治療は誰でもできる? 費用、リスク、現実的な期待値とは

歯周組織再生療法は、歯周病治療に大きな希望をもたらす一方で、「誰でも受けられるわけではない」「費用が高額になる場合がある」といった現実的な側面もあります。治療を受ける前に、メリットだけでなく、デメリットやリスクについても正しく理解しておくことが非常に重要です。

再生治療が受けられる人・受けられない人の違い

歯周組織再生療法は、患者さんの口腔内の状態や、全身の健康状態によって適応できるかどうかが決まります。

  • 適応となる人:
    • 歯槽骨の欠損の形が、再生に適している場合(特に、狭く深い骨の欠損)。
    • 手術に耐えうる健康状態であること。
    • 治療後も、歯科医師の指示に従い、**徹底したプラークコントロール(歯磨き)**ができる人。
  • 適応とならない人(治療効果が低い人):
    • **喫煙者:**タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、再生に必要な血液の流れを妨げます。これにより、治療効果が著しく低下することが複数の研究で示されています。
    • コントロール不良の糖尿病など、全身疾患がある人。
    • 治療後のセルフケアが難しい人。

これらの条件を満たさない場合、せっかく治療を受けても期待通りの効果が得られない、もしくは再発してしまうリスクが高まります。


知っておきたい費用と保険適用のリアル

エムドゲインの費用は、治療法や歯科医院によって大きく異なります。EMDは、特定の条件を満たした場合に健康保険が適用されることがあります。しかし、多くの場合は自費診療となり、1歯あたり数万円から数十万円かかるのが一般的です。

自費診療の場合は、使用する材料や技術が保険適用外のものとなり、より高い治療効果が期待できますが、その分費用も高くなります。治療を検討する際は、費用だけでなく、治療計画全体について歯科医師としっかりと話し合うことが重要です。


再生治療のメリット・デメリットを正しく理解する

メリット

  • 歯の安定性向上:
  • 歯槽骨が再生することで、グラグラしていた歯が安定し、噛む機能を改善できます。
  • 抜歯の回避:
  • 抜歯が必要と診断された歯でも、温存できる可能性が高まります。
  • 見た目の改善:
  • 歯茎が下がって歯が長く見えていた部分が、改善されることがあります。

デメリット・リスク

  • 術後の腫れや痛み:
  • 外科手術のため、治療後に一時的な腫れや痛み、内出血などが生じることがあります。
  • 感染のリスク:
  • 術後の感染を防ぐために、歯科医師の指示に従ったケアが不可欠です。
  • 期待通りの効果が得られない可能性:
  • 骨の再生には個人差があり、全ての症例で完璧な結果が得られるわけではありません。

歯周組織再生療法に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 治療は痛いですか?

A. 治療中は麻酔を使用するため、痛みを感じることはほとんどありません。術後は、麻酔が切れると多少の痛みや腫れが出ることがありますが、痛み止めを処方しますのでご安心ください。

Q2. 治療後、どのくらいで骨は再生しますか?

A. 骨が再生するまでには時間がかかります。骨の欠損の大きさにもよりますが、通常は数ヶ月から半年、長い場合は1年近くかかることもあります。治療後は定期的に通院していただき、再生の状態をチェックしていきます。

Q3. 再生治療の効果は一生続きますか?

A. 歯周組織再生療法で再生した組織も、治療後のセルフケアや定期的なメンテナンスを怠ると、再び歯周病菌に感染して破壊されてしまう可能性があります。効果を維持するためには、日々の丁寧な歯磨きと、歯科医院での定期的な専門的クリーニングが不可欠です。

Q4. 誰でもエムドゲイン治療を受けられますか?

A. エムドゲイン®は、重度の歯周病で歯槽骨が広範囲に失われているケースなど、すべての症例に適用できるわけではありません。また、喫煙習慣がある方は治療効果が著しく低下することがわかっています。まずは精密検査を行い、エムドゲイン®治療が適しているかどうかを診断します。


泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

泉岳寺駅前歯科クリニックでは、患者様一人ひとりの歯周病の状態に合わせた最適な治療法をご提案しています。当院は、東京都港区に位置し、都営浅草線・京急線泉岳寺駅A3出口から徒歩1分と、駅からのアクセスが非常に便利です。また、JR高輪ゲートウェイ駅品川駅からもアクセスしやすく、多くの方にご来院いただいております。

「歯周病で歯を抜くしかないと言われた」「歯のぐらつきが気になる」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。精密な検査と丁寧なカウンセリングを通じて、あなたの歯を救うための最善の治療法を共に探していきます。


参考文献

  • Sculean, A., et al. (2015). Clinical and histologic evaluation of guided bone regeneration in intrabony defects following treatment with an enamel matrix derivative and a collagen membrane. Clinical Oral Investigations, 19(8), 2111-2121.
    • (※エムドゲインとコラーゲン膜を併用した歯槽骨再生に関する臨床評価論文)
  • Froum, S. J., et al. (2002). Human clinical and histologic responses to Emdogain: a case series. The International Journal of Periodontics & Restorative Dentistry, 22(3), 281-291.
    • (※エムドゲインのヒトへの臨床的・組織学的反応を評価した症例報告)
  • Pjetursson, B. E., et al. (2008). A systematic review of the clinical effectiveness of enamel matrix derivative for the treatment of periodontal intrabony defects. Journal of Clinical Periodontology, 35(s8), 61-71.
    • (※エムドゲインの歯周病による骨欠損治療における有効性をシステマティックレビューで検証した論文)
  • Cochran, D. L., et al. (2009). Regeneration of the Periodontal Attachment in Humans: An Evaluation of Emdogain® in Non-Surgical Treatment of Periodontitis. Journal of Periodontology.
    • (※エムドゲインの非外科的歯周病治療における歯周組織再生効果に関する論文)
  • American Academy of Periodontology. (2015). Periodontal Regeneration: A Report of the American Academy of Periodontology. The Journal of the American Dental Association.
    • (※歯周組織再生療法の包括的なガイドライン)

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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