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インプラントを入れたら歯周病にならない?「第二の歯周病」インプラント周囲炎の賢い予防策

2025.09.01

インプラントを入れたら歯周病にならない?その答えは

「インプラントを入れたら、もう歯周病になる心配はない」。そう考えている方は多いのではないでしょうか?

高額な費用を払って手に入れたインプラント。それは、まるで天然の歯が蘇ったかのような感覚を与えてくれる素晴らしい治療法です。しかし、残念ながら、その考えは少し違います。

インプラントは人工物であるため、天然歯が罹患する「歯周病」になることはありません。これは事実です。しかし、インプラントの周りには天然の歯と同じように歯ぐきや骨が存在します。そして、そこに歯周病菌が感染することで、天然歯の歯周病と酷似した炎症が起こるのです。

これを私たちは「インプラント周囲炎」と呼びます。


歯周病より怖い?「インプラント周囲炎」の正体と天然歯との違い

インプラント周囲炎は「第二の歯周病」と呼ばれますが、その進行は天然歯の歯周病よりも速く、より厄介な一面を持っています。

進行が早い!気づきにくいインプラント周囲炎の恐ろしさ

天然歯が歯周病になった場合、歯と骨の間にある歯根膜というクッションのような組織が炎症の進行をある程度遅らせてくれます。そのため、初期の段階で歯ぐきの腫れや出血といった自覚症状が現れやすく、治療を開始するきっかけになりやすいのです。

しかし、インプラントにはこの歯根膜が存在しません。インプラントは直接、顎の骨と結合しているため、細菌感染が始まると炎症が骨にダイレクトに伝わり、急速に進行してしまいます。

また、インプラント周囲炎の最大の恐ろしさは、初期段階では自覚症状がほとんどないことです。痛みや腫れがほとんどなく、気づいた時にはすでに手遅れで、インプラントを支える骨がかなり溶けてしまっているケースも少なくありません。

インプラントはなぜ感染に弱い?天然歯にはない「歯根膜」の秘密

この進行速度の違いは、天然歯に備わっている歯根膜の「秘密」にあります。歯根膜は単なるクッションではありません。外部からの細菌の侵入を防いだり、異物から歯を守るための免疫機能も備えているのです。

インプラントにはこの防御機能がないため、ひとたび細菌が侵入すると非常に無防備な状態になってしまいます。


インプラント周囲炎になるのはなぜ?知っておくべき3つの原因

インプラント周囲炎は、主に次の3つの原因によって引き起こされます。これらの原因を理解し、対策を講じることがインプラントを長持ちさせるための鍵となります。

1. 清掃不足による「プラークの蓄積」

天然歯の歯周病と同様、インプラント周囲炎の最大の原因は、歯磨きが行き届かないことによるプラーク(歯垢)の蓄積です。特にインプラントは、上部構造(人工歯)とインプラント本体の境目、歯ぐきとの境目など、複雑な構造をしているため、プラークが溜まりやすくなっています。このプラークが時間の経過とともに硬くなり歯石となると、通常の歯磨きでは除去が非常に困難になります。歯石はさらに細菌の温床となり、炎症を悪化させてしまうのです。

2. 構造上の問題と力学的ストレス

インプラント周囲炎は、天然歯にはない構造的な弱点からも影響を受けます。天然歯は、歯根膜という組織が外部からの衝撃を吸収するクッションの役割を果たしていますが、インプラントにはそれがありません。そのため、噛み合わせのバランスが悪いなど、インプラントに過度な力が加わると、そのストレスが直接、周囲の骨に伝わり、炎症を引き起こす要因となることがわかっています。

3. 喫煙、糖尿病などの全身疾患

喫煙は、インプラント周囲炎の最大のリスク因子の一つです。タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血流を悪化させ、歯ぐきの免疫力を低下させます。これにより、細菌に対する抵抗力が弱まり、炎症が起こりやすくなります。実際に、喫煙者は非喫煙者と比較してインプラント周囲炎のリスクが2倍以上高いという研究結果が多数報告されています(Heitz-Mayfield, 2008)。

また、糖尿病もリスクを高める要因です。血糖値が高い状態が続くと、免疫細胞の機能が低下し、感染症全般にかかりやすくなります。歯周病と糖尿病が密接に関係していることはよく知られていますが、インプラント周囲炎も同様に関係していることが最新の研究で明らかになっています。


もう怖くない!今日から始めるインプラントの賢い予防策

インプラント周囲炎は、適切なケアを行うことで十分に予防できる病気です。日々のセルフケアと、歯科医院でのプロフェッショナルケアを組み合わせることが、インプラントを長持ちさせるための最も賢い方法です。

専用ブラシが鍵!インプラントのための正しいセルフケア

インプラントのセルフケアは、天然歯の歯磨きとは少し異なります。インプラントの周囲は、天然歯よりも複雑な構造をしているため、専用のケア用品を活用することが大切です。

1. 歯ブラシの選び方

  • インプラント専用ブラシ:インプラントの形状に合わせて設計された専用のブラシを選びましょう。
  • タフトブラシ:毛先が短く、密集しているブラシです。インプラントと歯茎の境目や、人工歯の隙間など、通常の歯ブラシでは届きにくい部分をピンポイントで磨くのに非常に有効です。

2. ブラッシングの方法

  • やさしく丁寧に:歯茎を傷つけないよう、力を入れすぎず、毛先で汚れを掻き出すように小刻みに動かすのがコツです。
  • 角度を意識する:インプラントと歯茎の境目に45度の角度でブラシを当て、丁寧に磨きましょう。

デンタルフロスや歯間ブラシ、清掃方法の決定版

歯ブラシだけでは、歯と歯の間のプラークを完全に除去することはできません。インプラントを守るためには、歯間清掃用具の活用が不可欠です。

1. デンタルフロスの活用

  • インプラント専用フロス:通常のフロスよりも太く、スポンジ状になっているタイプがあります。インプラントの隙間にしっかりとフィットし、プラークを効率よく除去できます。

2. 歯間ブラシの選び方と使い方

  • サイズ選びが重要:インプラントと天然歯の間、インプラント同士の間など、隙間のサイズに合った歯間ブラシを選びましょう。無理に太いものを使うと、歯茎を傷つけてしまう可能性があります。
  • 歯科医院での指導:ご自身の口腔内の状態に最適な歯間ブラシのサイズや使い方については、歯科医師や歯科衛生士に相談し、指導を受けることを強くおすすめします。

あなたのインプラントを守る「生命線」とは?プロのメンテナンスの重要性

日々の丁寧なセルフケアも大切ですが、それだけではインプラントを完全に守ることはできません。インプラントを長持ちさせるための真の「生命線」は、歯科医院でのプロフェッショナルケアにあります。

セルフケアだけでは不十分な理由

どんなに上手に歯磨きをしても、プラークの磨き残しは必ず発生します。特にインプラント周囲は構造が複雑なため、セルフケアだけでは限界があるのです。

また、インプラント周囲炎は初期段階では自覚症状がほとんどありません。自分では気づかないうちに病気が進行していることがほとんどです。そのため、定期的に専門家によるチェックを受けることが、早期発見・早期治療につながります。

インプラントを長持ちさせる「プロのメンテナンス」の秘密

歯科医院でのプロフェッショナルケアは、インプラントを守るための最も確実な方法です。

1. 専門家による徹底したクリーニング

  • 専用の器具を使用:歯科医院では、インプラントの表面に傷をつけない専用の器具を使い、セルフケアでは除去できない頑固なプラークや歯石を徹底的に取り除きます。
  • バイオフィルムの除去:細菌が固まってできる「バイオフィルム」は、通常の歯磨きでは落とせません。専門家によるクリーニングで、このバイオフィルムを破壊し、インプラント周囲炎のリスクを大幅に下げます。

2. 定期的な検査

  • レントゲン検査:肉眼では見えないインプラント周囲の骨の状態を、定期的なレントゲン検査でチェックします。骨の吸収が始まっていないか早期に発見することで、手遅れになる前に対処が可能です。
  • 噛み合わせのチェック:インプラントにかかる過度な力が、周囲の組織に炎症を引き起こすことがあります。歯科医師が噛み合わせのバランスを調整し、インプラントへの負担を軽減します。

これらの定期的なプロのメンテナンスは、高額な再治療を避けるための最も賢い投資です。インプラントを一生のパートナーにするためにも、日々のセルフケアと併せて、定期的な歯科検診を習慣にしましょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. インプラントを入れたら、歯ブラシはもう普通のもので大丈夫ですか?

A1. いいえ、インプラントの周りは天然の歯とは構造が違うため、専用のケアが必要です。インプラントと歯茎の境目や、人工歯の隙間を効率よく磨けるタフトブラシや、インプラント専用のデンタルフロスの活用をおすすめします。正しい使い方は、ぜひ歯科医院でご相談ください。

Q2. 毎日丁寧に歯磨きしていれば、歯科医院に行かなくても大丈夫ですか?

A2. 残念ながら、セルフケアだけでは不十分です。どんなに丁寧に磨いても、磨き残しは必ず発生し、それがインプラント周囲炎の原因となります。また、インプラント周囲炎は自覚症状が出にくいため、気づかないうちに病気が進行していることがほとんどです。インプラントを長持ちさせるためには、3〜6ヶ月に一度の定期的なプロフェッショナルケアが不可欠です。

Q3. インプラント周囲炎になってしまったら、どうすればいいですか?

A3. インプラント周囲炎は、早期に発見して治療を開始すれば、進行を食い止めることが可能です。まずは歯科医院で、インプラント周囲のクリーニングや、適切なブラッシング指導を受けることが重要です。進行している場合は、インプラントの周囲の炎症を取り除く外科的な処置が必要になることもあります。


インプラント周囲炎の予防・治療は当院へお任せください

東京都港区にある泉岳寺駅前歯科クリニックでは、インプラント治療後のメンテナンスに特に力を入れています。

当院は、泉岳寺駅A3出口から徒歩1分と、駅からのアクセスが非常に便利です。また、JR高輪ゲートウェイ駅品川駅からもアクセスが良く、広域からお越しいただきやすい立地です。

インプラントを長持ちさせるための定期的なプロフェッショナルケアはもちろん、他院でインプラント治療を受けられた方のメンテナンスも承っております。お口の健康を守り、快適な毎日を送るために、ぜひ一度ご相談ください。


参考文献

  • Heitz-Mayfield, L. J. A. (2008). Peri-implant diseases: diagnosis and risk indicators. Journal of Clinical Periodontology, 35(8s), 292-304.

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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