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20代で「歯ぐき下がり」はなぜ起こる?知覚過敏と見た目の悩みを徹底解説

2025.09.04

「歯周病は、年をとってからかかる病気でしょ?」そう思っていませんか?

実は、歯周病は決して年配の人だけの病気ではありません。特に10代後半から20代にかけて、歯ぐきが下がってしまうという悩みを抱える方が増えています。鏡を見たとき、以前より歯が長くなったように見えたり、冷たいものが歯の根元に触れたときに「キーン」と染みたり…。それは、あなたの歯ぐきが後退し始めているサインかもしれません。

本記事では、若いうちから歯ぐきが下がってしまう意外な原因と、それによって引き起こされる見た目や機能の悩みを徹底的に解説します。そして、将来の健康な口元のために、今すぐできる具体的な対策をお伝えします。


20代でも「歯ぐき下がり」は起こる!意外な3つの原因

歯ぐきが下がる原因は、加齢だけではありません。特に20代に多い、知らず知らずのうちに行っている生活習慣や、見過ごされがちな病気が大きく関係しています。

強すぎる歯磨きが歯ぐきを後退させる

良かれと思って毎日行っている歯磨きが、実は歯ぐきを傷つけているかもしれません。日本の多くの人は「歯をきれいに磨くには、力を入れてゴシゴシ磨くもの」と教わってきました。しかし、硬い歯ブラシで強い力で磨くことは、歯垢を落とすどころか、歯ぐきに物理的なダメージを与え、徐々に削り取ってしまう原因となります。

この「ゴシゴシ磨き」によって歯ぐきが後退する現象を「歯肉退縮(しにくたいしゅく)」といいます。一度下がってしまった歯ぐきは、自然に戻ることはありません。歯ブラシの毛先がすぐに開いてしまったり、歯磨きのたびに歯ぐきから血が出たりする場合は、磨き方が強すぎるサインかもしれません。

矯正治療や解剖学的構造が原因になることも

歯ぐき下がりは、特定の治療やもともとの骨格に起因することもあります。

特に歯科矯正治療は、歯並びを整える上で歯を大きく動かすため、歯が歯槽骨(しそうこつ)という歯を支える骨の範囲(ボーンハウジング)から逸脱してしまうと、その部分の歯ぐきが下がってしまうリスクがあります。また、生まれつき歯ぐきや歯槽骨が薄い方も、歯肉退縮が起こりやすい傾向にあります。

矯正治療を始める前には、歯や歯ぐきの状態を事前にしっかりと確認し、歯肉退縮のリスクについて歯科医師と話し合うことが非常に重要です。

もしかして歯周病?見過ごされがちな初期サイン

「歯周病は年配の人がなる病気」というイメージが強いですが、実は若年性歯周炎という、若い世代に多く見られる歯周病も存在します。これは、自覚症状が少ないまま進行することが多く、気づいたときには歯ぐきが大きく下がっていることも珍しくありません。

歯ぐきが下がるのは、歯周病菌が歯と歯ぐきの隙間(歯周ポケット)で増殖し、歯ぐきに炎症を起こし、最終的に歯を支えている骨(歯槽骨)を溶かしてしまうためです。歯ぐきの赤みや腫れ、歯磨き時の出血、口臭などが初期のサインです。単なる歯ぐき下がりだと安易に考えず、歯科医院での診断を受けることが重要です。

最新の研究では、歯肉退縮(歯ぐき下がり)を放置すると、進行性の疾患となり、歯周病の悪化リスクが高まることが示されています。特に、露出した歯の根元は歯垢や歯石が蓄積しやすく、これがさらに歯周病の進行を加速させる原因となります。


見た目の悩みだけじゃない!歯ぐき下がりが引き起こす2つの問題

歯ぐき下がりは、単に「歯ぐきが下がったな」で終わる問題ではありません。見た目の印象を大きく変えるだけでなく、お口の健康そのものを脅かす深刻な問題につながります。ここでは、歯ぐき下がりが引き起こす具体的な悩みについて掘り下げていきましょう。

歯が長く見える?根元が黒ずんで見える?見た目の変化

歯ぐきが下がると、隠れていた歯の根元部分が露出し、これまでよりも歯が長く見えてしまいます。特に、前歯の歯ぐきが下がると、笑顔の印象が大きく変わってしまうため、人との会話や写真撮影に自信を持てなくなる方も少なくありません。

さらに、露出した歯の根元部分は、歯の一番硬い部分であるエナメル質ではなく、「象牙質」という柔らかい組織でできています。象牙質は、スポンジのように細かい穴がたくさん空いており、コーヒーや紅茶、赤ワインなどの色素が非常に沈着しやすいという特徴があります。これにより、歯の根元が茶色や黒ずんで見え、せっかくきれいに磨いても、見た目の印象が損なわれてしまうのです。

冷たいものがキーン!「知覚過敏」が起こるメカニズム

歯ぐき下がりのもう一つの大きな悩みは「知覚過敏」です。冷たい飲み物やアイス、さらには冬の冷たい空気を吸い込んだときに、歯の根元に「キーン」という鋭い痛みが走った経験はありませんか?

この痛みは、露出した象牙質が原因で起こります。象牙質には、歯の中心にある神経(歯髄)へとつながる無数の microscopic tubules(微細な管)、つまり「象牙細管」が通っています。通常は歯ぐきに覆われている象牙細管が露出することで、冷たさなどの刺激が直接神経に伝わり、瞬間的な痛みを引き起こすのです。

知覚過敏を放置すると、冷たいものを避けるようになり、結果的にバランスの悪い食生活になったり、痛みを恐れて歯磨きがおろそかになったりする悪循環に陥ることもあります。正しいケアを怠ることで、さらに歯周病が進行してしまうリスクも高まるため、早めの対処が重要です。


20代から始める「歯ぐきを守る」3つの対策

「もう歯ぐきが下がってしまったから、手遅れかも…」そう諦める必要はありません。歯ぐきが下がってしまった後でも、進行を食い止め、これ以上悪化させないための効果的な対策はたくさんあります。今日から始められる3つの習慣をご紹介します。

正しいブラッシングで「脱・ゴシゴシ磨き」

歯ぐき下がりを防ぐ上で、最も重要なのは毎日の歯磨き方法の見直しです。歯磨きは力を入れてゴシゴシ磨くのではなく、「優しく、丁寧に」が鉄則。目安は、歯ブラシのヘッドが歯ぐきに触れたときに、毛先がわずかにしなる程度の強さ(およそ150g)です。

実践!正しい歯磨きのコツ

  • ペングリップで持つ: 歯ブラシを鉛筆のように軽く握ることで、自然と力が入りにくくなります。
  • 歯と歯ぐきの境目を意識: 歯周病菌が潜む歯周ポケットを狙い、歯ブラシの毛先を45度の角度で当て、小刻みに動かします。

歯ぎしり・食いしばりには「マウスピース」が効果的

無意識の歯ぎしりや食いしばりは、自分ではコントロールが難しいものです。そこで有効なのが、歯科医院で作製する「ナイトガード」と呼ばれるマウスピースです。就寝中に装着することで、歯や歯ぐきにかかる過剰な圧力を分散し、ダメージを防ぐことができます。

マウスピースの効果と注意点

  • 歯や歯ぐきを保護: 強い噛みしめから歯を守り、歯ぐきへの負担を軽減します。
  • 専門家への相談を: 市販のマウスピースもありますが、ご自身の歯並びに合わないと逆に負担になることもあります。必ず歯科医院で相談し、ご自身の噛み合わせに合ったものを作りましょう。

今日からできる!「歯科医院」の活用術

歯ぐき下がりの進行を防ぐには、セルフケアだけでは限界があります。専門家による定期的なケアを習慣にすることが、将来の健康な口元を守る上で欠かせません。

歯科医院でできること

  • プロによるクリーニング: 歯磨きだけでは除去しきれない歯垢や歯石を、専門の器具で徹底的に除去してもらいます。これは歯周病予防の基本中の基本です。
  • 正しいセルフケア指導: 歯科衛生士が、ご自身の歯磨きの癖や、磨き残しが多い場所を教えてくれます。自分に合った正しいケア方法を学ぶことで、日々の歯磨きの質が格段に向上します。

定期的な検診は、歯周病の早期発見にもつながります。症状がないうちから「予防」のために歯科医院を活用する意識を持つことが、若いうちから歯ぐきを守るための最も確実な方法なのです。


根面被覆術とは?下がった歯ぐきを回復させる治療法

歯ぐきが下がってしまった場合、自己ケアだけでは元の状態に戻すことはできません。しかし、審美的な問題や知覚過敏がひどい場合には、「根面被覆術」という歯科治療で歯ぐきを回復させることが可能です。

この治療は、上顎の口蓋(こうがい)などから採取した健康な歯ぐきの組織を、歯ぐきが下がった部分に移植することで、歯の根面を覆い、歯ぐきのラインを改善する外科的な処置です。米国歯周病学会(AAP)のガイドラインでも、歯肉退縮の治療法の一つとして有効性が認められています。

根面被覆術を行うことで、以下のような効果が期待できます。

  • 見た目の改善: 露出した歯の根元が覆われ、歯が長く見える状態が改善されます。
  • 知覚過敏の軽減: 露出した象牙質が覆われることで、冷たいものが歯にしみる痛みが和らぎます。
  • むし歯のリスク減少: 象牙質はエナメル質よりも柔らかく、むし歯になりやすいため、歯ぐきで覆うことでむし歯の予防にもつながります。

よくあるご質問(FAQ)

  • Q1:歯ぐき下がりは自分で治せますか? A:残念ながら、一度下がってしまった歯ぐきが自然に元の位置に戻ることはありません。しかし、正しいブラッシング方法を身につけ、歯ぎしりや食いしばりなどの原因を改善することで、進行を食い止め、これ以上悪化させないことは可能です。専門家による定期的なケアで、状態の維持・改善を目指しましょう。
  • Q2:歯ぐきが下がると、知覚過敏は必ず起きますか? A:必ずしも知覚過敏が起きるとは限りません。しかし、歯ぐきが下がり、象牙質が露出すると、知覚過敏が起こるリスクは非常に高くなります。冷たいものがしみるようになった場合は、放置せずに早めに歯科医院で相談することをお勧めします。
  • Q3:若くても歯周病になることはありますか? A:はい、若年層でも歯周病になることはあります。「若年性歯周炎」は、自覚症状が少ないまま進行することが多く、気づいたときには歯ぐきが大きく下がっていることも珍しくありません。早期発見・早期治療のためにも、定期的な歯科検診が重要です。

参考文献

  • American Academy of Periodontology (AAP). (2017). The American Academy of Periodontology’s 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. Journal of Periodontology, 88(2), 112-124.

当院のご案内

当院は、今回解説したような歯ぐき下がりや歯周病をはじめ、お口の健康に関するお悩みに幅広く対応しております。最新の知見に基づいた専門的な診断と、患者様一人ひとりに合わせた丁寧な治療計画をご提案いたします。

泉岳寺駅前歯科クリニック

  • 住所: 東京都港区三田3−10−1アーバンネット三田ビル1階
  • アクセス:
    • 都営浅草線・京急本線「泉岳寺駅」A3出口より徒歩1分
    • JR「高輪ゲートウェイ駅」より徒歩10分
    • JR各線「品川駅」高輪口より徒歩15分

お口のことで少しでも気になることがあれば、お気軽にご相談ください。皆様のお越しを心よりお待ちしております。

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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