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「もう歳だから」と諦めないで!更年期が引き起こす口元の異変と「女性の歯周病」戦略

2025.09.20

 

はじめに:50代女性の健康を脅かす「隠れた敵」

50代以降の女性の約70%が経験するとされる更年期。体のさまざまな変化は知られていますが、実は「歯」も例外ではありません。「仕事と家庭、そして歯周病。 30代・40代を蝕む「隠れたリスク」にどう向き合うか」というコラムでもお伝えしたように、女性のライフステージごとに歯周病のリスクは変化します。もし「最近、歯ぐきが下がってきた」「歯がグラつく」と感じているなら、それは加齢だけが原因ではないかもしれません。

このコラムでは、更年期に特有のホルモン変動が、お口の健康、特に歯周病にどのように影響するのかを解説します。そして、単なる治療にとどまらない、これからの人生を豊かにする**「口元の戦略」**を提案します。


なぜ?更年期に歯周病が加速する「骨」のメカニズム

ホルモン変動が引き起こす「骨」の危機

女性の体にとって、エストロゲンという女性ホルモンは非常に重要な役割を果たしています。特に、骨の新陳代謝を調整し、骨密度を保つ上で欠かせません。しかし、閉経前後の更年期には、このエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンが不足すると、骨を作るスピードよりも壊すスピードが上回り、全身の骨量が減少していきます。これにより、骨がもろくなる骨粗鬆症のリスクが高まります。

歯周病と骨粗鬆症の意外な共通点

歯周病」は、歯周病菌が引き起こす細菌感染症です。この病気の最も恐ろしい点は、歯を支えているあごの骨「歯槽骨」を溶かしてしまうことにあります。驚くべきことに、エストロゲン減少による歯槽骨の弱体化は、全身の骨粗鬆症と同じメカニズムで進行します。つまり、もともと歯周病を持っている方が更年期を迎えると、エストロゲン不足による歯槽骨のもろさが加わり、骨の破壊が加速してしまうのです。この時期に特有の急速な歯周病の進行を、私たちは「更年期歯周病」と呼んでいます。


あなたは大丈夫?見逃しがちな更年期歯周病のサイン

「自分は更年期歯周病かもしれない」と感じても、具体的にどのようなサインに気を付ければ良いか分からない方も多いでしょう。ここでは、ご自宅で簡単にチェックできるサインをリストアップしました。一つでも当てはまる項目があれば、注意が必要です。

歯周病セルフチェックリスト

  • 歯磨きの時に歯ブラシに血がつく
  • 歯ぐきが赤く腫れて、ブヨブヨしている
  • 歯ぐきが痩せて、歯が長くなったように見える
  • 歯と歯の間に隙間ができてきた
  • 冷たいものが歯にしみるようになった
  • 硬いものが噛みにくくなった、噛むと違和感がある
  • 口の中が乾燥しやすくなった

これらのサインは、更年期によるホルモン変動が背景にある歯周病の典型的な症状です。早期に気づき、適切な対策を講じることが、ご自身の歯を守る上で非常に大切になります。


「もう諦めない」今日から始める口腔と全身の骨活戦略

「もしかして、自分も更年期歯周病かもしれない」。そう感じた方も、決して諦める必要はありません。医療と日々のセルフケアを組み合わせることで、進行を食い止め、ご自身の歯を守ることが可能です。

歯科医院でできる専門的なアプローチ

徹底的な歯周病治療と骨の再生療法

セルフケアでは取り除けない歯周ポケットの奥深くにある歯垢や歯石は、専門的なクリーニング(PMTC)で除去します。これにより、歯周病菌の活動を抑制し、炎症を落ち着かせます。さらに、進行した歯周病によって溶けてしまった歯槽骨の再生を促す治療法も存在します。エムドゲイン法やGTR法といった外科的処置は、特定の条件下で骨の再生を助けることが研究で示されています。これらの最新治療法は、失われた歯周組織を回復させ、歯を再び強固に支えることを目指します。

一人ひとりに合わせたセルフケア指導

日本歯周病学会認定医である歯科医師や歯科衛生士による正しい歯磨き方法の指導も欠かせません。更年期で歯ぐきがデリケートになっている場合、適切な歯ブラシの選び方や、歯間ブラシ、デンタルフロスの効果的な使い方を学ぶことが、日々のケアの質を大きく向上させます。

栄養と生活習慣で体の内側から整える

骨の健康を支える食事戦略

骨を強くするためには、食事からのアプローチが不可欠です。

  • カルシウム:骨の主要な成分であり、乳製品や小魚、緑黄色野菜に豊富に含まれます。
  • ビタミンD:カルシウムの吸収を助ける役割があり、鮭やキノコ類に多く含まれます。また、日光を浴びることで体内でも生成されます。
  • ビタミンK:骨の形成を促す働きがあり、納豆やほうれん草に多く含まれています。

ホルモン補充療法(HRT)と生活習慣

婦人科で受けるホルモン補充療法(HRT)は、全身の骨密度を保つ効果が期待できます。アメリカ国立衛生研究所の論文などでも、HRTが骨粗鬆症のリスクを軽減することが示唆されており、結果として歯槽骨の保護にも役立つ可能性があります。また、ウォーキングやジョギングなど、骨に程よい負荷をかける運動も骨密度を高めるのに有効です。


まとめ:残りの人生を豊かにする「口元の戦略」とは

更年期という時期は、女性の体にとって大きな転換期です。この時期に歯周病が悪化するメカニズムを知ることは、単なる病気の知識ではありません。それは、これからの人生を健やかに、そして豊かに生きるための「戦略」を立てることなのです。ご自身の歯で、大好きな食事を心ゆくまで楽しみ、心からの笑顔を交わす。そんな当たり前の幸せは、健康な口元があってこそ成り立ちます。

「もう歳だから…」と諦めずに、このコラムが提案する「口元の戦略」をぜひ実践してください。


よくあるご質問(FAQ)

Q1. 更年期による歯周病は、通常の歯周病と治療法は異なりますか?

A. 歯周病の基本的な治療法(クリーニングや歯周外科治療など)は同じですが、更年期によるエストロゲン減少が原因である場合は、その影響を考慮したアプローチが必要です。必要に応じて、全身の健康状態やホルモンバランスについてもご相談いただくことで、より総合的な治療計画を立てることが可能です。

Q2. 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?

A. 治療期間は、歯周病の進行度合いやお口の状態によって大きく異なります。軽度の場合は数回の通院で改善が見られることもありますが、重度の場合は数ヶ月から年単位の治療が必要になる場合もあります。初診時に丁寧な検査を行い、患者様一人ひとりに合わせた治療計画と期間をご提示します。

Q3. ホルモン補充療法(HRT)と併用することは可能ですか?

A. はい、可能です。婦人科の担当医と連携を取りながら、全身の骨粗鬆症対策の一環として**ホルモン補充療法(HRT)**を検討されることは、歯槽骨の保護にも良い影響を与える可能性があります。


泉岳寺駅前歯科クリニックのご案内

当院は、東京都港区高輪に位置し、泉岳寺駅A3出口から徒歩1分と、駅からのアクセスが非常に便利です。また、高輪ゲートウェイ駅品川駅からも徒歩圏内で、多くの方にご利用いただいております。更年期のお悩みや歯周病の進行についてご不安な方は、ぜひ一度ご相談ください。


参考文献

  • The effects of menopause on periodontal health: a systematic review. (Journal of Clinical Periodontology, 2021)
  • Oral Health in Menopause: a Narrative Review. (International Journal of Environmental Research and Public Health, 2022)
  • Role of Estrogen in Bone Homeostasis and Disease. (Endocrine Reviews, 2020)
  • Effects of Hormone Replacement Therapy on Periodontal Tissues: a Review. (Journal of Periodontal Research, 2019)

監修

院長

山脇 史寛Fumihiro YAMAWAKI

  • 略歴

    2009年
    日本大学歯学部卒業
    2009年
    日本大学歯学部附属病院研修診療部
    2010年
    東京医科歯科大学歯周病学分野
    2010年
    やまわき歯科医院 非常勤勤務
    2015年
    酒井歯科クリニック
    2021年
    泉岳寺駅前歯科クリニック 開院
  • 所属学会・資格

    • 日本歯周病学会 認定医
    • 日本臨床歯周病学会
    • アメリカ歯周病学会
    • 臨床基礎蓄積会
    • 御茶ノ水EBM研究会
    • Jiads study club Tokyo(JSCT)
    • P.O.P.(歯周-矯正研究会)
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