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むし歯なのに「様子見」?歯医者さんの新しい常識を徹底解説!

2025.06.09

はじめに

歯医者さんで「むし歯ですね。でも、今回は削らずに様子を見ましょう」と言われて、びっくりした経験はありませんか?「え、むし歯なのに削らないの?」「昔はすぐ削ってたのに…」「このままで本当に大丈夫?」と不安に思うのも無理はありません。

実はこれ、歯医者さんの治療が古くなったわけではなく、むしろ最新の「歯を守る」ための方法なんです。このコラムでは、なぜ歯医者さんが昔と違うことを言うようになったのか、むし歯の進み具合をどう見分けているのか、そして「様子見」と言われた時に私たちが何をすればいいのかを、誰にでもわかる言葉でじっくり解説します。

特に、お子さんの歯やご高齢の方の歯に特有のむし歯予防のコツ、もしむし歯を削ることになった場合の治療の選び方まで、あなたの歯の健康を守るためのヒントが満載です。これを読めば、歯医者さんとの会話がもっとスムーズになり、安心してご自身の歯と向き合えるようになるでしょう。


「むし歯ですね。でも、今回は削らずに経過観察しましょう。」

もし歯医者さんでこう言われたら、あなたはきっと戸惑うことでしょう。「え?むし歯なのに削らないの?」「昔はすぐに削ってたのに…」「このままで本当に大丈夫?」そんな疑問を抱くのは当然です。

でも、ご安心ください。この**「様子見(経過観察)」**という判断は、現代の歯の医療が進化し、科学的な根拠(確かなデータ)に基づいて、あなたの歯をできるだけ削らずに守るための、一番良い方法として行われているものなんです。このコラムでは、そんな素朴な疑問に寄り添いながら、むし歯の診断基準がどのように変わり、なぜ「様子見」という判断が下されるのかを深く掘り下げていきます。


1. 「昔はすぐ削ってたのに…」むし歯治療の考え方が変わったワケ

昔の歯医者さんでは、むし歯が見つかると、たとえほんの小さな黒い点でも、すぐにドリルで削って詰め物をするのが当たり前でした。あなたも子どもの頃に、ちょっとした黒い点があるだけで「むし歯だね」と言われ、ドリルの音にドキドキした経験があるかもしれませんね。

なぜ、そんな治療が主流だったのでしょうか?主な理由は次の通りです。

  • 診断基準がアバウトだったから: 当時は、むし歯がどれくらい進んでいるかを細かく分ける全国共通のルールがありませんでした。そのため、歯医者さんの経験や「これくらいなら削っておこう」という判断が中心になりがちでした。特に、先の尖った道具で歯の溝などを触り、引っかかりがあるかどうかでむし歯を見つける「フックテスト」が広く使われていました。
  • 「穴があいたむし歯=治療」という単純な考え: 多くの人にとって「むし歯」とは「歯に穴があいた状態」というイメージが強く、穴があけばすぐに治療、というシンプルな考え方でした。
  • 道具が歯を傷つける危険性: 先の尖った道具で歯を触るフックテストは、実は健康な歯の表面(エナメル質)を傷つけてしまい、そこからかえってむし歯ができたり、進んだりする危険性も指摘されるようになったんです。

しかし、歯の医療の研究が進むにつれて、**「一度削った歯は二度と元には戻らない」という大切な事実と、「削った部分から、また新しいむし歯(二次むし歯)ができるリスクがある」ということがハッキリしてきました。こうした背景から、「できるだけ歯を削らずに、自分の生まれ持った歯を長く健康に使い続ける」という考え方、つまり「最小限の介入(MI: Minimal Intervention)」**が世界中で広まっていったのです。MIの考え方は、必要以上に歯を削らず、歯が自分自身で治ろうとする力(自然治癒力)を最大限に活かすことに重点を置いています。


2. 「ICDAS」ってなに?――むし歯の診断が「見える化」されたことで安心感アップ!

「先生が『ICDASのコード1だから大丈夫』って言ってたけど、ICDASって何のこと?」

まさに、この**ICDAS(アイシーダス)**こそが、あなたの疑問を解決するカギです。2005年に世界で使われるようになったICDASは、むし歯の診断を、歯医者さんの経験や感覚に頼らず、確かなデータに基づいた、客観的な評価へと大きく進化させました。

ICDASは、世界中の歯の専門家が協力して作った、むし歯の進み具合を目で見て詳しく分類するための、共通のルールです。その診断の正確さや信頼性は、たくさんの研究で「確かなものだ」と認められています。

ICDASの登場で、診断や治療はどう変わったの?

  • 初期のむし歯が「見える化」され、早めに手を打てるように: ICDASでは、これまでの診断では見つけにくかった、歯の表面にまだ穴があいていないごく初期のむし歯(ICDASコード1コード2)をハッキリと見分けられるようになりました。
    • 患者さんの疑問に応える: 「痛くないのにむし歯って言われた」のは、多くの場合、このICDASコード1や2の初期むし歯だった可能性が高いです。目には見えにくい小さな変化も、専門の目で見つけられるようになったのです。
  • 「削らない」という選択肢がハッキリした: 初期むし歯を正確に分類できるようになったことで、歯医者さんは自信を持って**「まだ削る必要がない」**と判断し、患者さんに「様子見」や「むし歯の進行を止める処置」を提案できるようになりました。これにより、ムダに歯を削ることが大幅に減り、あなたの生まれ持った歯を最大限に守ることが可能になったのです。
    • 患者さんの疑問に応える: 「削らずに進行止めを塗ってくれた」のは、まさにこの**「削らない治療」**の一つです。フッ素(歯を強くする成分)を塗ることで、歯が自分で治ろうとする力(再石灰化)を助け、むし歯の進行を食い止める効果が期待できます。
  • 診断が誰が見ても同じに、ズレが少なくなった: ICDASは、歯の見た目の特徴に基づいてむし歯を分類するため、歯医者さんによって診断が大きく変わることが少なくなりました。つまり、どの歯医者さんに行っても、同じむし歯であれば、より同じような診断と治療の考え方が示される可能性が高くなったわけです。

3. ICDASの各段階と歯医者さんの判断ポイントを詳しく解説!

「むし歯を『CO』って言われたけど、本当に大丈夫なの?進まない?」

ICDASは、むし歯の進み具合を0から6までの7つの段階に分けています。この分類は、むし歯の進み具合を目で見て客観的に評価し、それに合わせた一番良い治療方針を決めるためにとても重要です。ここでは、それぞれの段階の具体的な特徴と、それに応じて歯医者さんがどう判断するかを、もっと詳しく見ていきましょう。

ICDAS コード0: 健康な歯(どこも悪くない歯)

  • 特徴: むし歯のサインが全く見られない、きれいで健康な歯の表面です。歯を風で乾かしても、白い斑点や茶色いシミ、表面のザラつきなどは一切ありません。
  • 見た目のイメージ: ツヤがあって、なめらかで、色も均一な歯の表面。
  • 歯医者さんの判断: むし歯になる危険性は低いと判断されます。引き続き、しっかり歯を磨いて、定期的に歯医者さんで予防を続けることをおすすめします。

ICDAS コード1: 歯の表面(エナメル質)に最初の変化が見える(ごく初期のむし歯)

  • 特徴: 歯を風で5秒以上乾かすと初めて見える、歯の表面(エナメル質)だけの白い斑点や薄茶色のシミです。唾液で濡れていると、見えにくかったり、全く見えなかったりすることが多いのが特徴です。歯の表面のツヤはまだ残っています。
  • 見た目のイメージ: 歯の溝の奥や、歯と歯の間、歯ぐきとの境目などに、乾かすとうっすらと白く濁る部分や、ごく薄い茶色のシミが見える状態。鏡で見てもなかなか気づきにくいことが多いです。
  • 歯医者さんの判断: これは**「初期むし歯(CO:Caries Occlusalisの略。COと呼ぶことも多い)」の最も軽い段階です。まだ穴があいていないため、削る治療は基本的には必要ありません。代わりに、フッ素(歯を強くする成分)をしっかり使ったり(フッ素入りの歯磨き粉を毎日使う、歯医者さんでフッ素を塗ってもらうなど)、歯の汚れ(プラーク)をしっかり取る歯磨きをしたり、甘いものの食べ方・飲み方を見直したりといった「削らない治療(予防)」**がすすめられます。定期的に歯医者さんでむし歯が進んでいないか確認することがとても大切です。必要に応じて、リカルデント(CPP-ACP)のような、歯が自分で治ろうとするのを助ける成分が入った製品を使うことも考えられます。

ICDAS コード2: 歯の表面(エナメル質)にハッキリした変化が見える(少し進んだ初期むし歯)

  • 特徴: 歯が唾液で濡れている状態でもハッキリと見える、歯の表面(エナメル質)だけの白い斑点や茶色いシミです。歯の表面のツヤは失われていることが多く、触ると少しザラザラした感触があることがあります。しかし、先の尖った道具で触っても、穴があいているような引っかかりはまだありません。
  • 見た目のイメージ: 歯の表面に、いつも白っぽく濁っている部分や、ハッキリとした茶色いシミが見える状態。特に、歯の溝や歯ぐきとの境目に多く見られます。触ると少しザラザラした感触があることがあります。
  • 歯医者さんの判断: これも**「初期むし歯(CO)」の段階です。コード1と同じように、削る治療は基本的には必要なく、フッ素の使用、歯の汚れを取る歯磨き、食生活の改善といった「削らない治療(予防)」**が中心になります。コード1よりも少し進んでいるため、より積極的に予防の処置が必要と判断されることがあります。むし歯が今も進んでいるかどうか(「活動性」があるか)も重要で、活動性があればもっとこまめな「様子見」や予防処置がすすめられます。場合によっては、電気抵抗診断やレーザーを使った診断器(ダイアグノデントなど)といった、目で見るだけでは分かりにくい初期むし歯を数値で客観的に判断する機械を使って、歯の内部の溶け具合を評価することもあります。

ICDAS コード3: 歯の表面(エナメル質)が部分的に壊れ始めた(ごく小さな穴あきむし歯)

  • 特徴: 歯の表面(エナメル質)に、むし歯によって**「ごく小さな破壊(マイクロキャビテーション)」**が見られる状態です。肉眼ではごく小さな穴に見えることもありますが、まだ象牙質(エナメル質の内側にある層)までむし歯が達しているサインは見られません。先の尖った道具で軽く触ると、ハッキリとした引っかかりを感じることがあります。
  • 見た目のイメージ: 歯の溝の奥や、歯と歯の接触面に、小さな黒い点や、わずかに表面が崩れたような欠けが見える状態。表面のツヤは完全に失われ、見た目にもむし歯と判断できることが多いです。
  • 歯医者さんの判断: この段階からは、むし歯菌が歯の内部に入り込みやすくなるため、**詰め物をする治療が検討されることが多くなります。**ただし、むし歯のごく小さく、今も進んでいるわけではない(活動性が低い)と判断された場合は、引き続きフッ素の使用や徹底した歯磨きで「進行を止める」ことを試みることもあります。最終的な判断は、むし歯が今進んでいるか、患者さんがむし歯になりやすいか、歯磨きでむし歯の部分をきれいにできるか、そして歯医者さんの専門的な見解に基づいて行われます。この段階であれば、できるだけ歯を削らない「最小限の介入(MI)」を重視し、歯と同じ色のプラスチック(レジン)を直接詰める「ダイレクトボンディング」という方法が選ばれることが多いです。

ICDAS コード4: 象牙質(エナメル質のさらに内側)が黒く影になっている(歯の内部に進んだむし歯)

  • 特徴: 歯の表面は、一見すると穴があいていないか、ごく小さな穴しかないように見えますが、その下にある象牙質がむし歯によって変色し、黒っぽい影として歯の表面から透けて見える状態です。この影は、歯が唾液で濡れている状態の方がよりハッキリと見えやすいことがあります。
  • 見た目のイメージ: 歯の表面、特に溝や歯と歯の間に、黒っぽい、あるいは青みがかった暗い影が透けて見える状態。エナメル質自体はまだ完全に壊れていないように見えることもあります。
  • 歯医者さんの判断: この段階では、むし歯が象牙質まで進んでいる可能性が非常に高いです。象牙質はエナメル質よりも柔らかく、むし歯の進行が速いため、基本的には詰め物をする治療が必要となります。レントゲン写真による確認も重要で、象牙質の中のむし歯の広がりを評価します。むし歯の深さや広がりによっては、部分的な詰め物(インレー)ではなく、歯全体を覆う被せ物(クラウン)が必要になることも検討されます。

ICDAS コード5: 象牙質(エナメル質のさらに内側)が見えるハッキリとした穴あきむし歯

  • 特徴: むし歯によって歯の表面(エナメル質)が大きく壊れ、象牙質がむき出しになったハッキリとした穴ができています。象牙質は、むし歯によって、通常は黄色から茶色、黒色に変色しています。
  • 見た目のイメージ: 歯の表面に、はっきりと目で見てわかる穴があいており、その穴の底や壁に茶色や黒に変色した歯質が見える状態。食べ物が詰まりやすいと感じることもあります。
  • 歯医者さんの判断: むし歯が象牙質にまで進んでおり、詰め物や被せ物をする治療が絶対に必要です。この段階になると、冷たいものがしみたり、食べ物が詰まるなどの自覚症状が出始めることもあります。むし歯の深さによっては、歯の神経に炎症が起きている可能性も考えて、慎重に治療計画を立てます。詰め物で対応できる範囲であれば、歯の形や噛み合わせ、見た目を考えて適切な材料が選ばれます。

ICDAS コード6: 歯が大きく壊れた広範囲の穴あきむし歯

  • 特徴: むし歯がさらに進み、歯の表面の半分以上が壊れ、広範囲にわたって象牙質がむき出しになっている状態です。歯の構造が大きく傷んでおり、残っている歯の部分が非常に脆くなっていることが多いです。
  • 見た目のイメージ: 歯が大きく欠けており、広範囲にわたって黒や茶色に変色したむし歯が広がっている状態。歯の形がほとんど残っていないこともあります。
  • 歯医者さんの判断: むし歯が非常に大きく進んでおり、歯の神経の治療(根管治療)が必要になる可能性が高いです。歯を残すことが難しい場合は、抜歯も考えなければならないこともあります。治療は大がかりになり、時間も費用もかかる傾向があります。

4. むし歯治療の具体的な選び方:あなたの歯を守るための詰め物と被せ物

むし歯が進んで、ICDASコード3以上の治療が必要と判断された場合、失われた歯の部分を補い、歯の働きと見た目を元に戻すために、様々な治療法があります。ここでは、主な治療法である「詰め物」と「被せ物」、そして「神経の治療」について、それぞれの特徴と、使う材料による違いを詳しく解説します。

4.1. 詰め物(インレー、ダイレクトボンディング)

比較的小さなむし歯や、歯の溝の部分のむし歯に対して使われる治療法です。

  • ダイレクトボンディング(直接詰める方法):白いプラスチック(コンポジットレジン)
    • どんな治療?: むし歯を削った後、白い歯科用プラスチック(コンポジットレジン)を直接歯に詰めて光で固める方法です。
    • 良い点:
      • 見た目: 歯の色に合わせることができ、見た目がとても自然です。
      • 歯を削る量: 削る量が少なくて済むので、歯への負担が小さいです(「最小限の介入」の考え方にピッタリ)。
      • 治療期間: 基本的に1日で治療が終わります。
      • 費用: 多くの場合は保険が適用されます。
    • 注意点:
      • 耐久性: 奥歯の大きなむし歯や、噛む力が強くかかる部分では、割れたり、すり減ったりしやすいことがあります。
      • 変色: 時間が経つと、コーヒーやお茶の色素などで色がつく可能性があります。
      • ピッタリ感: 複雑な形のむし歯や、歯と歯の間のむし歯では、歯にぴったり合わせるのが難しい場合があり、そこからまたむし歯(二次むし歯)ができる危険性もあります。
    • 「最小限の介入」の考え方: 小さなむし歯であれば、この方法が一番歯を削らずに済むため、この考え方から最初に選ばれることが多いです。
  • インレー(部分的に作る詰め物):保険と自費で選べる材料
    • どんな治療?: むし歯を削った後、歯の型を取り、歯科技工所で患者さんの歯に合わせて作った詰め物を歯に接着する方法です。強度が必要な場合や、少し広めのむし歯に適しています。
    • 保険適用(銀歯:金銀パラジウム合金など)
      • 良い点: 費用が安く、保険が効きます。
      • 注意点:
        • 見た目: 銀色なので目立ちます。
        • 金属アレルギー: 金属アレルギーの原因になることがあります。
        • 歯や歯ぐきへの影響: 長く使うと、金属が少しずつ溶け出して、歯や歯ぐきが黒っぽく変色する「メタルタトゥー」というシミができることがあります。
        • ピッタリ感: 接着剤が劣化するなどして、歯との境目に隙間ができやすく、そこからまたむし歯(二次むし歯)になる危険性があります。
        • 熱さ・冷たさ: 熱が伝わりやすいので、冷たいものや熱いものがしみることがあります。
    • 自費診療(セラミック、ゴールドなど)
      • セラミックインレー(e-max、ジルコニアなど)
        • 良い点: 歯の色にそっくりなので、見た目が非常に自然です。金属を全く使わないので、金属アレルギーの心配がありません。表面がツルツルしているので、歯の汚れ(プラーク)がつきにくく衛生的です。時間が経っても色が変わりにくいです。
        • 注意点: 保険が効かないので費用が高くなります。強い衝撃が加わると割れる可能性があります。
      • ゴールドインレー(金合金、白金加金など)
        • 良い点: 体との相性が良く、金属アレルギーを起こしにくいです。歯に非常にぴったりと合いやすく、境目に隙間ができにくいです。適度な柔らかさがあるので、噛み合う相手の歯を傷つけにくいです。
        • 注意点: 見た目が金色で目立ちます。保険が効かないので費用が高くなります。
    • 「最小限の介入」の考え方: 広範囲のむし歯であっても、できるだけ自分の歯を残せる場合はインレーが選ばれます。特に、歯にぴったり合うセラミックやゴールドは、二次むし歯になる危険性を減らし、歯を長く使う上でこの考え方に合った選択肢と言えます。

4.2. 被せ物(クラウン)

むし歯が広範囲に及んだ場合や、歯が大きく欠けてしまった場合、あるいは神経の治療を行った後などに、歯全体を覆って保護する治療法です。

  • 保険適用(銀歯:金銀パラジウム合金など)
    • 良い点: 費用が安く、保険が効きます。
    • 注意点: インレーと同様に、見た目が銀色で目立つ、金属アレルギーの心配、歯ぐきの変色、熱が伝わりやすいといった問題があります。
  • 自費診療(セラミック、ジルコニア、メタルボンドなど)
    • オールセラミッククラウン
      • どんな材料?: 歯全体がセラミック(陶器)だけでできています。
      • 良い点: 自分の歯と見分けがつかないくらい見た目がきれいです。金属を一切使わないので、金属アレルギーや歯ぐきが変色する心配がありません。表面が非常にツルツルしていて、歯の汚れ(プラーク)がつきにくいです。
      • 注意点: 保険が効かないので費用が高くなります。強い力が加わると割れる可能性があります。
    • ジルコニアクラウン
      • どんな材料?: 人工ダイヤモンドにも使われるほど非常に硬い材料「ジルコニア」を内側の骨組みに使い、その上にセラミックを焼き付けたもの、または全体がジルコニアでできたものです。
      • 良い点: 非常に丈夫なので、奥歯など噛む力が強くかかる場所でも安心です。見た目もきれいで、金属アレルギーの心配もありません。
      • 注意点: 保険が効かないので費用が高くなります。硬すぎるため、噛み合う相手の天然歯を少し削ってしまう可能性がゼロではありません(最近はもっと柔らかいジルコニアも開発されています)。
    • メタルボンドクラウン
      • どんな材料?: 金属の骨組みにセラミックを焼き付けたものです。
      • 良い点: 金属で補強されているので丈夫で、セラミックで覆われているので見た目も比較的きれいです。
      • 注意点: 内側に金属を使っているので、金属アレルギーの危険性や、歯ぐきが黒く変色する可能性がわずかにあります。オールセラミックやジルコニアに比べると、光の透け具合が少し劣ります。
    • 「最小限の介入」の考え方: 広範囲のむし歯や、神経治療後の歯は、歯の質が弱くなっているので、歯を保護する目的で被せ物(クラウン)が選ばれます。見た目だけでなく、しっかり噛めることと、長く使えることを考えて、一番合った材料を選ぶことが「最小限の介入」の観点から大切です。

4.3. 神経の治療(根管治療)

むし歯が歯の神経(歯髄)にまで届いてしまい、炎症やばい菌の感染が起きてしまった場合に行われる治療です。

  • どんな治療?: むし歯菌に感染した神経や血管を取り除き、根っこにある細い管(根管)の中をきれいに掃除・消毒し、薬を詰めてしっかり塞ぐ治療です。
  • なぜ必要なの?: むし歯が神経にまで達すると、強い痛みや冷たいものがしみるなどの症状が出ます。感染したまま放っておくと、歯の根の先に膿がたまったり、あごの骨にまで炎症が広がったりすることがあります。根管治療は、ばい菌を取り除き、歯を抜かずに残すための最後の手段とも言える大切な治療です。
  • 治療の流れ: 感染した神経を取り除く → 根管の形を整える(拡大する) → きれいに洗い流し消毒する → 薬を詰めてしっかり塞ぐ → 上に土台を立て、被せ物をする。
  • ここが重要!: 歯の根っこの管は非常に複雑な形をしているため、高い技術と細かい作業が求められます。治療が不十分だと、またばい菌に感染して再治療が必要になったり、最終的に歯を抜かなければならなくなったりする危険性があります。最近では、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)やCTスキャンを使って、もっと精密な根管治療を行う歯医者さんも増えており、治療の成功率を上げるために非常に効果的です。
  • 「最小限の介入」の考え方: 根管治療は、歯の神経を抜くことで、歯そのものの寿命が少し短くなる可能性もあります。そのため、できる限り神経を残す治療(歯髄温存療法など)が優先されます。しかし、神経がすでに感染してしまっている場合は、歯を抜かずに救うために根管治療が絶対に必要であり、これもまた「歯をできるだけ長く残す」という「最小限の介入」の考え方に沿った治療と言えます。

5. ライフステージで変わるむし歯のリスクと予防の特異性

むし歯になる危険性は、年齢によって変化します。お子さんの時期とご高齢の時期では、むし歯ができやすい場所や原因、そして予防のポイントにもそれぞれ特徴があることを知っておくことが大切です。

5.1. お子さんのむし歯予防の「ここが違う!」

お子さんの時期のむし歯は、将来の歯の健康にとても大きな影響を与えるので、特に気をつける必要があります。

  • 乳歯と生えたばかりの永久歯の特徴:
    • 乳歯(子どもの歯): エナメル質(歯の表面の硬い層)や象牙質(その内側の層)が薄く、大人の歯に比べてむし歯がものすごく早く進む特徴があります。また、乳歯のむし歯は、その下にある大人の歯(永久歯)の成長に影響を与えたり、永久歯が生えてくるのを邪魔したりする可能性もあります。
    • 生えたばかりの永久歯(大人の歯): 生えたばかりの永久歯のエナメル質はまだ完全に強くないので、酸に弱いです。特に奥歯の溝は深く複雑な形をしているため、食べかすや歯の汚れ(プラーク)がたまりやすく、むし歯になりやすい場所です。
  • むし歯ができやすい場所:
    • 奥歯の溝のむし歯: 奥歯の噛み合わせる面の溝は、形が複雑で歯ブラシが届きにくいので、一番むし歯になりやすい場所です。
    • 歯と歯の間のむし歯: 隣り合った歯と歯の接触している面も、歯ブラシが届きにくく、汚れがたまりやすいので、むし歯の危険性が高いです。
  • 予防の特別なポイント:
    • おうちの方による仕上げ磨き: 小さいお子さんのうちは、おうちの方による丁寧な仕上げ磨きが絶対に必要です。特に寝る前に磨き残しがないように徹底することが大切です。
    • フッ素を使う: フッ素を歯に塗ってもらったり、フッ素入りの歯磨き粉(年齢に合ったフッ素濃度のもの)を使ったりすることは、歯の質を強くして、自分で治ろうとするのを助けるのに非常に効果的です。お子さんのむし歯予防でフッ素が効果的であることは、たくさんの研究で示されています。
    • シーラント: 奥歯の深い溝がある場合、そこにプラスチックを流し込んでむし歯を予防するシーラントという処置がとても効果的です。これは、物理的に溝を塞いで、むし歯菌が入り込むのを防ぐ方法で、その高い予防効果が報告されています。
    • 食生活の習慣指導: 砂糖がたくさん入った飲み物やお菓子をしょっちゅう食べたり飲んだりすると、むし歯になる危険性が劇的に高まります。おやつの時間や量を決めたり、ダラダラ食べを避けたりするなど、おうちの方への具体的な食生活の指導がとても重要です。
    • 定期的な歯医者さんでの検診: 歯医者さんでの定期的な検診は、むし歯を早く見つけるだけでなく、お口の中がどれくらいきれいかチェックしたり、フッ素を塗ってもらったり、シーラントをしてもらったりする機会にもなります。

5.2. ご高齢の方のむし歯予防の「ここが違う!」

ご高齢の時期になると、むし歯になる危険性が変わってきて、特に注意が必要になります。

  • 歯ぐきが下がることと、歯の根っこのむし歯:
    • 年を取ることや歯周病によって歯ぐきが下がると、歯の根元(歯ぐきに隠れていた部分)が露出することが増えます。歯の根元は、歯の表面(エナメル質)のような硬い層で覆われていないため、酸に弱く、むし歯になりやすいです。これを**根面う蝕(こんめんうしょく:歯の根っこのむし歯)**と呼び、ご高齢の方のむし歯の大きな特徴です。
  • 再発むし歯(治療した歯の周りのむし歯):
    • 昔治療した詰め物やかぶせ物の隙間から、またむし歯ができてしまう**再発むし歯(二次むし歯)**も、ご高齢の方によく見られます。長く使われた詰め物などは古くなってきて、その境目からばい菌が入り込みやすくなるためです。
  • お口の中の乾燥(ドライマウス):
    • 年を取ることや、飲んでいるお薬の副作用(血圧の薬、うつ病の薬など)によって、唾液の出る量が減る**お口の乾燥(ドライマウス)**が増えてきます。唾液には、歯が自分で治ろうとするのを助けたり、酸を中和したり、食べかすを洗い流したりする大切な働きがあるので、唾液が減るとむし歯の危険性が大きく高まります。
  • 手先の不自由さや、物忘れなど:
    • 年を取るにつれて、手先が不自由になったり、物忘れが多くなったりすると、ご自身で十分に歯を磨くことが難しくなることがあります。
  • 予防の特別なポイント:
    • 根面う蝕への対策: フッ素濃度の高い歯磨き粉を使ったり、歯医者さんでフッ素を塗ってもらったりすることは、根っこのむし歯の予防に特に効果的です。また、入れ歯を使っている場合は、入れ歯が汚れていると根っこのむし歯や隣の歯のむし歯になる危険性が高まるので、入れ歯の正しいお手入れ方法の指導も重要です。
    • お口の乾燥対策: お口が乾燥する場合は、保湿剤を使ったり、唾液腺マッサージをしたり、こまめに水を飲んだりすることがおすすめです。場合によっては、唾液の分泌を促すお薬の検討も必要になります。
    • プロによるお口のケアの強化: ご自身で十分に歯のお手入れが難しい場合は、歯医者さんや歯科衛生士さん、あるいは介護者による専門的なお口のケアが非常に重要になります。定期的な歯のクリーニング(PMTC)に加えて、お口の状態に合わせた歯ブラシ以外の清掃道具(歯間ブラシ、タフトブラシなど)の使い方指導も欠かせません。
    • 定期的な歯医者さんでの検診と治療した歯のチェック: 定期的な歯医者さんでの検診では、すでに治療してある詰め物やかぶせ物が古くなっていないか、早く見つけてもらうことが大切です。そうすることで、再発むし歯が進むのを防ぐことができます。

6. 「様子見」から「治療」へ変わるサイン――「これは歯医者さんに行かなきゃ!」と思う変化

「もし悪くなったら、自分でも何か気づけるもの?どんな時に『これは歯医者さんに行かなきゃ!』って思えばいい?」

ICDASで「様子見」とされた初期のむし歯でも、残念ながら、日頃のお手入れが不十分だったり、むし歯になりやすい原因が改善されなかったりすると、進んでしまうことがあります。次のような変化が見られたら、それは「様子見」の段階を超えて、「治療が必要だ」という確かなサインです。

  • 見た目の変化(穴があき始めたと感じる):
    • あなたの疑問に応える: 歯の表面に、前にはなかった小さな黒い点や、ザラザラしたくぼみ、あるいは小さな穴ができたように見える…。
    • 歯医者さんの視点: 初期むし歯が進み、ICDASコード3(歯の表面が部分的に壊れ始めたむし歯)以上になると、歯の表面に目で見てわかるような穴があき始めます。この穴からむし歯菌が歯の内部に入り込みやすくなるため、詰め物をする治療が検討されることが多くなります。さらに進んでICDASコード4以上(象牙質に達しているむし歯)となると、詰め物や被せ物をする治療が絶対に必要になる段階です。
  • レントゲン写真でむし歯が進んでいるとわかる:
    • あなたの疑問に応える: 歯の表面には何も見えないけど、レントゲンで「むし歯がある」と言われた…。
    • 歯医者さんの視点: 目で見ただけでは分からない、歯と歯の間や、歯の内部に隠れて進んでいるむし歯は、レントゲン写真で確認されます。象牙質にまでむし歯が達していることが確認された場合は、基本的には治療の対象となります。
  • 痛みやしみる症状が出てきた:
    • あなたの疑問に応える: 冷たいものや甘いものが急にしみるようになった。何もしなくてもズキズキ痛むことがある…。
    • 歯医者さんの視点: むし歯が象牙質の奥深くや、歯の神経にまで進んでしまうと、このような症状が現れます。これは、むし歯がかなり進んでいるという確かなサインであり、すぐに治療が必要です。症状が出た段階では、すでに神経に炎症が起きている可能性も高く、治療が大がかりになることもあります。

もし、これらのサインのどれかに気づいたら、**迷わずすぐに歯医者さんを受診してください。**早く見つけて、早く対応することが、歯の健康を保つための鉄則です。


まとめ:あなたの歯は、あなたの努力で守れる!

「むし歯なのに様子見」という判断は、決して「放っておく」ことではありません。ICDASのような世界共通の診断ルールと、「最小限の介入(MI)」に代表される、確かなデータに基づいた現代の歯の医療の考え方が表れた、「できるだけ自分の生まれ持った歯を削らずに、一生健康に使い続けてほしい」という歯医者さんたちの願いからくる、積極的で賢い選択肢なのです。

あなたの歯は、あなた自身の努力で守ることができます。歯医者さんや歯科衛生士さんと協力しながら、正しい知識と適切なお手入れで、健康な歯を長く保っていきましょう。

もし、ご自身のむし歯の状態や治療方針について、このコラムを読んでもまだ疑問や不安な点があれば、遠慮なく担当の歯医者さんに質問してください。あなたの歯の健康のために、納得のいくまで話し合うことが大切です。

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高輪ゲートウェイ駅からアクセス抜群の当院では、WEBもしくはLINEからのご予約も可能です。お電話でのお問い合わせも受け付けておりますので、ご不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください。
【当院へのアクセス】
[医院名] 泉岳寺駅前歯科クリニック
[住所] 東京都港区三田3-10-1アーバンネット三田ビル1階
[電話番号] 03-6722-6741
高輪ゲートウェイ駅から徒歩7分/都営浅草線・京急線 泉岳寺駅より徒歩1分

参考文献

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