一度下がった歯茎は、自然には元に戻りません。歯肉退縮は、歯周病や不適切なブラッシング、噛み合わせの問題などで進行し、放置すると歯の根が露出して知覚過敏や虫歯のリスクが高まります。ただし、歯周組織再生療法という専門的な治療により、条件が整えば歯茎や歯を支える骨を再生させることが可能です。治療の適用には、進行度や骨の状態、全身の健康状態などが関わるため、歯周病専門医による精密な検査と診断が欠かせません。
歯茎が下がる「歯肉退縮」とは何か
歯肉退縮とは、歯茎が本来あるべき位置から下がって、歯の根が露出してしまう状態を指します。本来、歯の表面はエナメル質という硬い組織に覆われていますが、歯茎が下がると、エナメル質のない「根」の部分が直接外界に晒されます。この部分は象牙質という柔らかい組織でできており、細菌や刺激に対して非常に弱いのが特徴です。
鏡を見たときに「歯が長くなった気がする」「歯と歯の間に黒い三角形の隙間ができた」と感じるなら、それは歯肉退縮のサインです。さらに、冷たいものを口にしたときにキーンとしみる知覚過敏も、根の露出によって引き起こされます。見た目の印象だけでなく、歯の健康そのものを脅かす現象であることを理解しておく必要があります。
日本歯周病学会の疫学調査によれば、30歳以上の約8割に何らかの歯周組織の異常が認められており、その多くが歯肉退縮を伴っているとされています。歯周病が進行すれば、歯を支える骨そのものが溶けていき、その結果として歯茎が下がるという構造的な問題が生じます。つまり、歯肉退縮は単なる加齢現象ではなく、背後に明確な原因が存在する病的な変化なのです。
なぜ歯茎は下がるのか|歯肉退縮の4つの主要原因
歯茎が下がる原因は一つではありません。複数の要因が重なり合って、歯肉退縮を引き起こしています。まず最も多いのが「歯周病」です。歯周病菌が歯と歯茎の間に侵入し、慢性的な炎症を引き起こすことで、歯を支えている歯槽骨が徐々に溶けていきます。骨が失われれば、その上に乗っている歯茎も下がらざるを得ません。
次に挙げられるのが「不適切なブラッシング」です。硬い歯ブラシで力を込めて横にゴシゴシ磨く習慣は、歯茎を傷つけ、少しずつ削ってしまいます。特に犬歯や小臼歯など、歯茎が薄い部分では顕著に退縮が進みます。歯磨きは清掃のためのものですが、やり方を間違えれば歯茎を失う原因にもなるのです。
さらに、「噛み合わせの異常」も見逃せません。特定の歯に過剰な力がかかり続けると、その周囲の骨や歯茎にダメージが蓄積します。夜間の歯ぎしりや食いしばりは、無意識のうちに歯肉退縮を促進する要因となります。最後に、「加齢と遺伝的要因」も一定の影響を与えます。もともと歯茎が薄い体質の方や、家族に歯周病が多い方は、他の人よりも歯肉退縮が起こりやすい傾向があります。
歯茎が下がると何が起こるのか|放置できないリスク
歯肉退縮を放置すると、複数のリスクが連鎖的に発生します。まず、歯の根が露出することで知覚過敏が生じ、食事や歯磨きのたびに痛みを感じるようになります。この痛みが原因で歯磨きを避けるようになると、さらに汚れが蓄積して歯周病が悪化するという悪循環に陥ります。
また、根の表面は虫歯になりやすい構造をしています。エナメル質に守られていた歯冠部と異なり、露出した根面は「根面う蝕」という虫歯に非常にかかりやすく、進行も早いのが特徴です。痛みを感じたときには既に神経まで達しており、抜歯を余儀なくされるケースも少なくありません。
さらに見逃せないのが、審美的な問題です。歯が長く見える、歯と歯の間に隙間ができる、笑ったときに歯茎が見えすぎるといった変化は、自信の喪失につながります。ビジネスやプライベートの場面で口元を気にして笑えなくなる、会話中に口元を隠してしまうといった心理的な影響は、QOL(生活の質)の低下に直結します。詳しくは「歯茎からの出血を放置すると「骨」まで溶ける──進行度別に見る歯周病の実態と、手遅れにならないための境界線」で解説しています。
自力で歯茎を戻すことは可能か
結論から申し上げると、一度下がった歯茎を自力で元の位置に戻すことはできません。歯茎の組織は、一度失われると自然に再生する能力を持っていないからです。骨折であれば骨が自然に修復されますが、歯周組織の喪失は不可逆的な変化であり、何もしなければ現状維持が精一杯です。
ただし、「これ以上下がらないようにする」ことは可能です。正しいセルフケアと定期的な専門的クリーニングによって、歯周病の進行を止め、現在の歯茎の位置を維持することができます。ここで重要なのは、歯茎が下がる原因をしっかりと特定し、それに対応した対策を講じることです。
セルフケアで進行を止める3つのポイント
まず第一に、正しいブラッシング方法を身につけることです。歯ブラシは「やわらかめ」または「ふつう」を選び、力を入れすぎないように注意します。歯ブラシの毛先を歯と歯茎の境目に45度の角度で当て、小刻みに振動させるように磨くのが基本です。一本一本の歯を意識して、丁寧に時間をかけることが重要です。
第二に、歯間ブラシやデンタルフロスを毎日使用することです。歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れは6割程度しか落とせません。特に歯周病が進行している方は、歯間部に歯垢や食べかすが溜まりやすく、そこから細菌が増殖します。歯間ブラシのサイズは、歯科医院で自分に合ったものを選んでもらうことをお勧めします。 「「言えない…」恋人の口臭で別れる前に!港区の歯科医が教えるカップル歯周病チェック」もあわせてご覧ください。
第三に、生活習慣の見直しです。喫煙は歯周組織の血流を悪化させ、免疫機能を低下させるため、歯周病を急速に悪化させます。また、ストレスや睡眠不足も免疫力を下げ、歯周病菌の活動を活発にします。栄養バランスの取れた食事と十分な休養は、口の中の健康にも直結しています。 「50代のストレスと睡眠不足が歯周病を悪化させる!自律神経を整える「健康寿命」戦略」もあわせてご覧ください。
歯科医院での専門的なケアが欠かせない理由
どれだけ丁寧にセルフケアをしても、歯周ポケットの奥深くに隠れた歯石や細菌のバイオフィルムを自分で取り除くことはできません。歯石は歯ブラシでは除去できない硬い沈着物であり、その表面はザラザラしているため、さらに細菌が付着しやすくなります。 「【歯科医師監修】30代の歯周病は「ポケットの深さ」で運命が決まる。3mm・5mm・6mmの治療ロードマップ」もあわせてご覧ください。
歯科医院では、専用の器具を使って歯茎の下の歯石を徹底的に除去する「スケーリング・ルートプレーニング(SRP)」という処置を行います。この処置によって、炎症の原因となる細菌を物理的に取り除き、歯周組織の環境を改善します。SRPを受けた後は、歯茎の腫れが引き、出血も減少し、歯周ポケットの深さが浅くなることが期待できます。
また、定期的なメンテナンスを受けることで、再発を防ぎ、長期的に歯茎の状態を安定させることができます。3か月から6か月ごとの定期検診と専門的なクリーニングは、歯周病治療の成功に不可欠な要素です。詳しくは「歯周病治療は何回通院が必要?重症度別の期間と治療ステップを認定医が解説」で解説しています。
歯周組織再生療法とは何か
歯周組織再生療法とは、失われた歯茎や歯槽骨を再生させるための専門的な外科治療です。歯周病によって破壊された組織は通常、自然には元に戻りません。しかし、再生療法を用いることで、特定の条件下では歯を支える骨や歯茎を人工的に再生させることが可能になります。
この治療は、歯周病が進行して歯周ポケットが深くなり、骨の喪失が認められる中等度から重度の症例に適用されます。再生療法にはいくつかの手法があり、それぞれ使用する材料や適応症が異なります。ただし、すべての症例で再生が可能なわけではなく、骨の欠損の形態や患者さんの全身状態、セルフケアの習慣などが治療の成否を左右します。
エムドゲインとリグロスによる再生治療
エムドゲインは、スウェーデンで開発された歯周組織再生材料です。主成分は「エナメルマトリックスデリバティブ」という、歯が形成される過程で重要な役割を果たすタンパク質です。このゲルを歯の根の表面に塗布することで、歯が生えてくるときと同じような環境を再現し、歯周組織の再生を促します。
エムドゲイン療法は、歯周ポケットを開いて歯石や感染組織を徹底的に除去した後、清潔になった根の表面にゲルを塗布し、歯茎を縫合して閉じます。その後、数か月かけて新しい骨や歯根膜、セメント質が再生されていきます。国内外の研究によれば、適切な症例選択と術後管理が行われた場合、約60~80%の症例で有意な骨の再生が認められたと報告されています。
一方、リグロスは日本で開発された世界初の歯周組織再生医薬品です。主成分は「塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)」で、細胞の増殖を促進する作用があります。リグロスもエムドゲインと同様に、歯周外科手術の際に歯の根に塗布して使用します。リグロスは日本国内で保険適用されており、患者さんの経済的な負担が比較的軽いのが特徴です。
骨移植とGTR法の役割
骨の欠損が大きい場合には、骨移植材を併用することがあります。自分の骨を他の部位から採取して移植する「自家骨移植」や、人工骨や他家骨を使う方法があります。骨移植は、再生のための「足場」を提供し、新しい骨の形成を助けます。
GTR法(組織再生誘導法)は、特殊な膜(メンブレン)を用いて、骨が再生するスペースを確保する技術です。歯茎の細胞は骨よりも早く成長するため、何もしないと欠損部分が歯茎で埋まってしまい、骨が再生する余地がなくなります。そこで、膜を設置して歯茎の侵入を防ぎ、骨が再生するための時間と空間を確保します。
GTR法は手技が複雑で、術後の管理も重要ですが、適切に行われれば骨の再生量を大幅に増やすことができます。エムドゲインやリグロスと併用することで、相乗効果が期待できる症例もあります。
歯肉移植術(FGG・CTG)による審美的回復
歯周組織再生療法とは別に、下がった歯茎そのものを補うための「歯肉移植術」という方法もあります。代表的なものに、FGG(遊離歯肉移植術)とCTG(結合組織移植術)があります。
FGGは、上顎の口蓋から歯茎の一部を採取し、歯茎が下がった部位に移植する方法です。移植された歯茎は生着し、退縮部分をカバーします。CTGは、歯茎の表面ではなく、内側の結合組織だけを移植する方法で、審美性に優れています。移植後の色調や質感が自然で、特に前歯部の審美的回復に用いられます。
これらの術式は、歯周病が安定している状態で行うことが前提です。炎症が残っている状態で移植を行っても、移植した組織が生着せず、期待した効果が得られません。そのため、再生療法や歯肉移植を行う前には、必ず歯周基本治療を徹底的に行い、炎症をコントロールすることが不可欠です。
再生治療を選ぶべき人、選べない人
歯周組織再生療法は画期的な治療法ですが、すべての患者さんに適用できるわけではありません。治療の成功には、いくつかの条件が整っている必要があります。適応の判断は、歯周病専門医による精密な診断に基づいて行われます。
再生療法が適用できる条件
再生療法が最も効果を発揮するのは、骨の欠損が「垂直性骨欠損」と呼ばれる形態をしている場合です。これは、歯の周囲の骨が部分的に深く失われている状態で、骨の壁が残っているため再生のための足場が確保しやすいのが特徴です。
また、患者さんのセルフケアが適切に行われていることも重要です。どれだけ高度な再生治療を行っても、術後に歯磨きが不十分で細菌が再び増殖すれば、せっかく再生した組織が再び失われてしまいます。治療前の段階で、患者さんが正しいブラッシングを習得し、モチベーションを維持していることが成功の鍵です。
さらに、全身状態も考慮されます。糖尿病が十分にコントロールされていない場合や、喫煙習慣がある場合は、組織の治癒能力が低下しているため、再生療法の成功率が大幅に下がります。特に喫煙は、血流を悪化させ、免疫機能を低下させるため、歯周治療全般において最大の阻害要因です。
再生療法が難しいケース
骨の欠損が「水平性骨欠損」と呼ばれる形態の場合、再生療法の効果は限定的です。これは、歯の周囲の骨が全体的に平らに失われている状態で、再生のための足場が乏しいため、新しい骨が形成されにくいのです。
また、歯の動揺が著しい場合や、歯根が大きく露出している場合には、再生療法を行っても歯を長期的に保存することが困難と判断されることがあります。このような場合には、抜歯してインプラントや義歯で機能を回復する方が、長期的な予後が良好であることも少なくありません。
さらに、全身疾患や服用している薬剤によっては、外科処置そのものがリスクとなることもあります。骨粗鬆症の治療薬である「ビスフォスフォネート製剤」を長期間服用している場合、抜歯や歯周外科によって顎骨壊死を引き起こす可能性があるため、慎重な判断が求められます。詳しくは「歯周病の進行度を正しく見極める|歯周病認定医が教える症状別セルフチェックと進行段階ごとの対処法」で解説しています。
歯周病専門医や認定医による精密検査の重要性
再生療法の適応を正確に判断するためには、レントゲンやCTによる画像診断、歯周ポケット検査、歯の動揺度検査など、複数の検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。さらに、患者さんの生活習慣や全身の健康状態、治療に対する理解と協力度も考慮されます。
日本歯周病学会認定医は、こうした複雑な判断を行うための専門的なトレーニングを受けています。再生療法を検討する際には、一般歯科ではなく、歯周病の専門に相談することが、治療の成功率を高める第一歩です。
再生治療の流れと術後の注意点
歯周組織再生療法は、一度の手術で完結するものではなく、術前の準備から術後の長期的なメンテナンスまで、一連のプロセスが治療の成否を左右します。ここでは、実際の治療の流れと、患者さんが知っておくべき術後の注意点について解説します。
治療前の準備期間が成功の鍵
再生療法を行う前には、必ず「歯周基本治療」を徹底的に行います。これは、歯周ポケット内の歯石や細菌を除去し、炎症をコントロールするためのステップです。スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を数回に分けて行い、歯茎の状態を改善します。
この段階で患者さんのセルフケア能力を評価し、正しいブラッシング方法を指導します。プラークコントロールレコード(PCR)という指標を用い、磨き残しが20%以下になることを目標とします。炎症が残っている状態で再生療法を行っても、感染によって治療が失敗するリスクが高まるためです。
準備期間は通常2〜3か月程度かかります。この期間中に、患者さん自身が歯周病と向き合い、生活習慣を見直す機会にもなります。喫煙者には禁煙を強く推奨し、糖尿病がある方には血糖コントロールの改善を依頼します。
手術当日から治癒までの過程
再生療法の手術は、局所麻酔下で行われます。歯茎を切開して歯周ポケットを開き、歯の根の表面に付着している歯石や感染組織を徹底的に除去します。その後、エムドゲインやリグロスなどの再生材料を塗布し、必要に応じて骨移植材や膜を設置します。最後に歯茎を元の位置に戻し、丁寧に縫合します。
手術時間は、処置する歯の本数によって異なりますが、1〜2時間程度です。術後は痛みや腫れが出ることがありますが、通常は処方される鎮痛剤でコントロール可能です。抗菌薬も併用し、感染を予防します。
術後1〜2週間は、手術部位を刺激しないように注意します。歯磨きは手術部位を避けて行い、うがい薬で口をすすぐ程度にとどめます。硬いものや刺激物は避け、柔らかく栄養バランスの取れた食事を心がけます。縫合糸は通常、術後1〜2週間で抜糸します。
組織の再生には数か月から半年程度かかります。この間、定期的に歯科医院でチェックを受け、治癒の経過を確認します。再生が順調に進んでいるかどうかは、レントゲンや歯周ポケット検査で評価されます。
長期的なメンテナンスが再生を守る
再生療法が成功しても、その後のメンテナンスを怠れば、再び歯周病が再発し、せっかく再生した組織が失われてしまいます。術後は3〜4か月ごとの定期的なメンテナンスが不可欠です。
メンテナンスでは、歯周ポケット検査や歯石の除去、セルフケアの再評価などを行います。また、噛み合わせの変化や、新たな問題が生じていないかをチェックします。患者さん自身も、毎日の丁寧なブラッシングと歯間清掃を続けることが求められます。
再生療法は「一生モノ」の治療ではなく、「再スタートを切るための土台作り」です。治療後の生活習慣とメンテナンスによって、再生した組織を長く維持できるかどうかが決まります。詳しくは「歯周病治療は何回通院が必要?忙しい人が知るべき治療期間と通院回数の現実」で解説しています。
50代経営者が再生療法で取り戻したもの
ある50代の経営者の方が、当院を受診されたのは2024年の春でした。他院で「重度の歯周病で、複数の歯を抜歯するしかない」と告げられ、セカンドオピニオンを求めて来院されました。その方は、週に数回の会食があり、硬いステーキや歯ごたえのある食材を楽しむことが何よりの楽しみだったそうです。 「【50代からの健康戦略】完全ガイド:免疫力低下と歯周病の危険な関係を断ち切る!病気に負けない体をつくる口腔ケア」もあわせてご覧ください。
精密検査の結果、下顎の奥歯を中心に垂直性の骨欠損が認められましたが、歯の動揺は軽度で、再生療法の適応と判断しました。まず3か月かけて歯周基本治療を徹底的に行い、患者さん自身にも正しいブラッシングを習得していただきました。その後、エムドゲインと骨移植材を併用した再生療法を実施しました。
術後6か月の検査では、レントゲンで明確な骨の再生が確認され、歯周ポケットの深さも4mmから2mmに改善しました。患者さんは「また硬いものが噛めるようになった」「会食が心から楽しめるようになった」と喜ばれました。現在も3か月ごとのメンテナンスを継続され、安定した状態を保っておられます。
60代女性が歯肉移植で取り戻した笑顔
60代の女性の方は、前歯の歯茎が下がって歯が長く見えることに悩んでおられました。笑うときに歯の根が見えてしまい、人前で笑うことに抵抗を感じるようになったとのことでした。また、冷たいものがしみる知覚過敏にも悩まされていました。 「60代の「物忘れ」は歯周病のせい?噛む力と脳の血流、認知症予防の意外な関係」もあわせてご覧ください。
診査の結果、歯周病は軽度で、主な原因は不適切なブラッシングによる機械的な歯肉退縮でした。まず正しいブラッシング方法を指導し、やわらかめの歯ブラシに変更していただきました。その後、CTG(結合組織移植術)を用いて、口蓋から採取した組織を前歯部に移植しました。
術後3か月で、移植した歯茎は自然な色調で生着し、歯の根の露出が大幅に改善されました。知覚過敏もほとんど消失し、患者さんは「鏡を見るのが楽しくなった」「久しぶりに思い切り笑えるようになった」と話されました。審美的な回復だけでなく、心理的な負担が軽減されたことが、何よりの成果でした。
歯茎を守るために今日からできること
歯茎が下がってしまう前に、日常生活の中でできる予防策があります。再生療法は有効な手段ですが、最も大切なのは「歯茎が下がらないようにすること」です。予防こそが、最も確実で経済的な選択です。
正しいブラッシングの基本
歯ブラシは、毛先がやわらかめで、ヘッドが小さいものを選びます。力を入れすぎず、150〜200g程度の軽い力で磨くことが理想です。目安としては、歯ブラシを指で軽く持ち、毛先が広がらない程度の力です。
磨く角度は、歯と歯茎の境目に45度の角度で毛先を当て、小刻みに振動させます。一本一本の歯を意識して、10〜20回ずつ丁寧に磨きます。歯ブラシを大きく動かすと、歯茎を傷つけるだけでなく、汚れも十分に落とせません。
歯磨きの時間は、少なくとも3分以上かけることが推奨されます。忙しい朝でも、夜寝る前には時間をかけて丁寧に磨く習慣をつけることが大切です。電動歯ブラシを使う場合も、正しい使い方を守り、力を入れすぎないように注意します。
歯間ケアの重要性
歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れは十分に落とせません。歯間ブラシやデンタルフロスを毎日使用することで、歯周病のリスクを大幅に減らすことができます。歯間ブラシのサイズは、歯科医院で自分に合ったものを選んでもらうことが重要です。
使い方は、歯と歯の間にゆっくりと挿入し、前後に数回動かして汚れをかき出します。無理に押し込むと歯茎を傷つけるため、抵抗を感じたら無理をしないことが大切です。デンタルフロスは、歯と歯茎の境目まで丁寧に入れ、歯の側面をこするようにして汚れを取り除きます。
生活習慣の見直し
喫煙は、歯周病の最大のリスク因子です。タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、歯茎の血流を悪化させ、免疫機能を低下させます。禁煙することで、歯周病の進行を大幅に抑えることができます。禁煙外来の利用も検討してください。
また、ストレスや睡眠不足も免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる要因です。適度な運動やリラクゼーション、十分な睡眠を心がけることが、口の中の健康にもつながります。栄養バランスの取れた食事も重要で、特にビタミンCやカルシウムは歯茎や骨の健康に欠かせません。
歯茎が下がる歯肉退縮は、自然には元に戻りません。しかし、歯周組織再生療法という専門的な治療により、条件が整えば失われた組織を再生させることが可能です。最も重要なのは、早期発見と適切な対処です。正しいセルフケアと定期的な歯科受診によって、歯茎の健康を守り、一生自分の歯で食事を楽しむことができます。歯周病専門医による精密な診断と、患者さん自身の継続的な努力が、歯茎と歯を守る最善の方法です。
泉岳寺駅前歯科クリニックでの取り組み
当院では、日本歯周病学会認定医として、歯周病治療と歯周組織再生療法に力を入れています。精密検査には、デジタルレントゲンやCT、歯周ポケット検査、細菌検査などを組み合わせ、患者さん一人ひとりの状態を正確に把握します。
再生療法の適応判断は、画像診断だけでなく、患者さんの全身状態や生活習慣、治療への理解度などを総合的に評価して行います。適応と判断した場合には、エムドゲイン、リグロス、骨移植、GTR法、歯肉移植術など、症例に応じた最適な方法を提案します。
また、治療後の長期的なメンテナンスにも力を入れています。再生した組織を長く維持するためには、定期的なプロフェッショナルケアと、患者さん自身の日々のセルフケアが不可欠です。当院では、歯科衛生士が患者さん一人ひとりに合わせたブラッシング指導を行い、モチベーションを維持するサポートを提供しています。
「他院で抜歯と言われた」「歯茎が下がって悩んでいる」といったご相談にも、丁寧に対応いたします。セカンドオピニオンとしてのご来院も歓迎しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
一度下がった歯茎は自然に元に戻りますか?
自然に元に戻ることはありません。歯茎の組織は一度失われると自己再生する能力を持っていないため、放置しても現状維持が精一杯です。ただし、歯周組織再生療法や歯肉移植術といった専門的な治療によって、条件が整えば失われた組織を回復させることが可能です。早期に歯周病専門医に相談することが重要です。
歯周組織再生療法はどのくらいの費用がかかりますか?
使用する材料や術式によって費用は異なります。リグロスを用いた再生療法は保険適用で、3割負担の場合、1か所あたり数千円から1万円程度です。一方、エムドゲインや骨移植を併用する場合は自費診療となり、1か所あたり5万円から15万円程度が一般的です。詳細は歯科医院で精密検査を受けた上で、見積もりを確認してください。
再生療法の成功率はどのくらいですか?
適切な症例選択と術後管理が行われた場合、約60〜80%の症例で有意な骨の再生が認められるとされています。ただし、成功率は骨欠損の形態、患者さんのセルフケア、喫煙の有無、全身状態などに大きく左右されます。特に喫煙者や糖尿病が管理されていない方は、成功率が低下します。事前の精密検査と専門医による判断が不可欠です。
歯茎が下がるのを防ぐために日常生活で気をつけることは?
正しいブラッシング方法を身につけ、力を入れすぎないようにすることが最も重要です。やわらかめの歯ブラシを使い、歯と歯茎の境目に45度の角度で当てて小刻みに磨きます。歯間ブラシやデンタルフロスも毎日使用してください。また、禁煙、ストレス管理、十分な睡眠、バランスの取れた食事など、生活習慣全体を見直すことが歯茎の健康につながります。
歯周病が軽度の場合でも再生療法は必要ですか?
軽度の歯周病であれば、まずは歯周基本治療(スケーリング・ルートプレーニング)と正しいセルフケアで炎症をコントロールします。再生療法は、中等度から重度の歯周病で骨の欠損が認められる場合に適用されます。軽度の段階で適切な治療を受ければ、再生療法が必要になる前に進行を止めることができます。定期的な検診を受けることが予防の鍵です。
再生療法後、どのくらいの期間でメンテナンスが必要ですか?
再生療法後は、3〜4か月ごとの定期的なメンテナンスが推奨されます。メンテナンスでは、歯周ポケット検査、歯石除去、セルフケアの再評価などを行い、再発を防ぎます。再生した組織を長期的に維持するためには、プロフェッショナルケアと患者さん自身の日々のセルフケアの両方が欠かせません。術後の生活習慣とメンテナンスの継続が治療の成否を決めます。
他院で抜歯と言われましたが、本当に抜くしかないのでしょうか?
抜歯と診断された場合でも、セカンドオピニオンで残せる可能性が見つかることがあります。骨の欠損の形態や歯の動揺度、全身状態などを総合的に評価し、再生療法の適応があるかどうかを判断します。ただし、すべての歯が残せるわけではなく、長期的な予後を考えると抜歯が最善の選択となる場合もあります。まずは精密検査を受けることをお勧めします。
