お口の悩み コラム

むし歯の治療をしたのに痛みがあるのはなぜ?

2023.11.13

むし歯の治療を受けた後に歯が痛むと、「本当に治ったのかな?」「何か問題があったのかな?」と不安になりますよね。実は、むし歯治療後の痛みは決して珍しいことではありません。治療内容やむし歯の進行度合いによって、さまざまな原因で痛みが起こることがあります。

この記事では、むし歯治療後に痛みが続く主な理由を詳しく解説し、それぞれのケースにおける対処法、そしていつ歯科医院に再受診すべきかの目安についてご紹介します。この記事を読めば、あなたの抱える痛みの原因が明確になり、適切な行動をとるための手助けとなるでしょう。


むし歯治療後に痛みが残る主な原因と対処法

むし歯治療後の痛みには、いくつかの一般的な原因があります。それぞれの状況に応じた適切な理解と対処が重要です。

1. 治療によって歯の神経が敏感になっている場合

むし歯治療では、高速で回転するタービンという器具を使ったり、むし歯が深くまで進行している場合は神経に近い部分を削ったりすることがあります。この治療行為によって、歯の神経が一時的に刺激を受け、敏感になることがあります。

なぜ起こるのか?

  • 機械的刺激と熱: タービンの振動や摩擦熱が歯の神経に伝わり、刺激を与えることがあります。
  • 象牙細管の露出: むし歯を削り取ることで、歯の内部にある象牙質(ぞうげしつ)の細い管(象牙細管)が露出し、外部からの刺激(冷たいもの、熱いもの、甘いものなど)が神経に伝わりやすくなります。
  • 神経への物理的影響: 特にむし歯が深く、神経に近い場合は、治療によるわずかな刺激でも神経が一時的に過敏になることがあります。

対処法

このタイプの痛みは、通常、時間の経過とともに自然に和らぎます。

  • 刺激を避ける: 治療後しばらくは、冷たいものや熱いもの、極端に甘いものなど、歯に刺激を与える飲食物を避けましょう。
  • 安静にする: 治療した歯に過度な負担がかからないよう、硬い食べ物を避けたり、反対側で噛んだりするなど、安静を心がけてください。
  • 歯磨きは優しく: 治療した部分の歯磨きは、いつも以上に優しく行いましょう。
  • 市販の鎮痛剤: 痛みが気になる場合は、市販の鎮痛剤を服用するのも一つの方法です。

歯科医院への受診目安

数日〜1週間程度で痛みが徐々に引いていくようであれば、心配はいりません。しかし、痛みが悪化したり、1週間以上経っても改善しない場合は、歯科医院に再受診することをおすすめします。


2. 歯の神経が炎症を起こしている場合(歯髄炎)

むし歯が深く進行し、歯の神経(歯髄)にまで細菌感染が及んでいる場合、たとえむし歯を取り除いても、神経の炎症が残ることがあります。これを**歯髄炎(しずいえん)**と呼びます。

なぜ起こるのか?

  • 細菌感染の残留: むし歯菌が歯髄の奥深くまで侵入し、完全に除去しきれなかった場合や、治療が遅れてすでに神経に強い炎症が起きていた場合、治療後も炎症が続くことがあります。
  • 不可逆性歯髄炎: 神経の炎症が非常に強く、自然には回復できない状態になっている場合、持続的な痛みやズキズキとした拍動性の痛みを伴うことがあります。この場合、神経が死んでしまうこともあります。
  • 感染物質の刺激: 治療中に神経に刺激が加わったり、ごくわずかな細菌が残ったりすることで、炎症が引き起こされることがあります。

対処法

神経の炎症が疑われる場合、自己判断での対処は困難です。

  • 歯科医院での診察: 早めに歯科医院を受診し、正確な診断を受けることが最優先です。
  • 根管治療: 炎症がひどい場合や不可逆性歯髄炎と診断された場合は、歯の神経を取り除く**根管治療(こんかんちりょう)**が必要になります。根管治療は、歯の根の中にある感染した神経組織や細菌を徹底的に除去し、洗浄・消毒することで、痛みを鎮め、歯を保存するための治療です。

歯科医院への受診目安

  • 持続的な強い痛み: 治療後も痛みが一向に引かない、むしろ悪化している。
  • 拍動性の痛み: ズキズキと脈打つような痛みがある。
  • 冷たいものだけでなく、温かいものにもしみる: 熱いものが特にしみる場合は、歯髄炎の可能性が高いです。
  • 顔が腫れてきた: 炎症が進行し、周囲の組織に広がっている可能性があります。

これらの症状がある場合は、すぐに歯科医院を受診してください。


3. 金属の詰め物が原因の痛み

保険診療で使われる金属の詰め物(いわゆる銀歯)は、プラスチックやセラミックと比較して熱を伝えやすいという特性があります。

なぜ起こるのか?

  • 熱伝導性: 金属は熱や冷たさを非常に良く伝えるため、冷たい飲み物や熱い食べ物が直接神経に伝わり、しみたり痛んだりすることがあります。これは、治療によって象牙質が薄くなり、神経との距離が近くなっている場合に特に顕著です。
  • ガルバニック電流: 異なる種類の金属が口腔内で接触することで、微弱な電流(ガルバニック電流)が発生し、神経を刺激して痛みを感じることがあります。

対処法

  • 刺激を避ける: 冷たいものや熱いものを直接詰め物に当てないよう、意識して避けるようにしましょう。
  • 様子を見る: 通常、このタイプの痛みは2〜3日で落ち着くことが多いです。時間が経つにつれて、歯の神経が環境に適応し、痛みが軽減していくことがあります。

歯科医院への受診目安

  • 痛みが続く: 2〜3日経っても痛みが改善しない、または悪化する。
  • 日常生活に支障をきたす: 食事や会話が困難になるほどの痛みがある。

痛みが長引く場合は、詰め物の種類を変更したり、神経の保護処置が必要になる可能性も考えられます。


4. 詰め物が神経を圧迫している場合

むし歯を削った部分に詰め物をする際、神経が露出している部分があったり、詰め物の厚みや形態が適切でなかったりすると、神経を圧迫して痛みが生じることがあります。また、詰め物の噛み合わせの高さが合っていないことも痛みの原因となります。

なぜ起こるのか?

  • 神経への直接的な圧迫: むし歯が深く、神経が露出している状態で詰め物をすると、詰め物が神経を直接圧迫し、痛みが生じることがあります。この場合、神経の保護処置が不十分だった可能性も考えられます。
  • 噛み合わせの不具合: 詰め物の高さが他の歯と合っていないと、その歯にばかり強い力がかかってしまい、歯やその周囲の組織(歯根膜)に過度な負担がかかります。これにより、噛んだ時に痛みが生じたり、ズキズキとした痛みにつながったりすることがあります。

対処法

  • 噛み合わせの調整: 噛み合わせに違和感がある場合は、迷わず歯科医院に相談し、詰め物の高さを調整してもらいましょう。わずかな調整で劇的に痛みが改善することもあります。
  • 詰め物のやり直し: 噛み合わせの調整だけでは改善しない場合や、神経への直接的な圧迫が原因と判断された場合は、詰め物のやり直しや、神経の保護処置を再度行う必要があるかもしれません。

歯科医院への受診目安

  • 噛むと痛い: 特に治療した歯で噛んだ時に強い痛みがある。
  • 噛み合わせの違和感: 詰め物をしてから噛み合わせに明らかな変化や違和感がある。
  • 持続的なズキズキとした痛み: 噛み合わせが原因でなくても、詰め物による神経圧迫で痛みが続く場合もあります。

これらの症状があれば、早めに歯科医院を受診し、詰め物の調整や再評価を依頼しましょう。


5. 神経がすべて取り切れていない場合(根管治療後)

根管治療は、歯の内部にある感染した神経組織や細菌を徹底的に除去する非常にデリケートな治療です。歯の根は非常に複雑な形状をしており、細い管が枝分かれしていたり、湾曲していたりするため、すべての神経組織や細菌を完全に除去するのが難しい場合があります。

なぜ起こるのか?

  • 根管の複雑な形状: 歯の根管は非常に細く、複雑な形状をしているため、すべての感染源を完全に除去することが困難な場合があります。
  • 未発見の根管: 肉眼では見えにくい副根管(補助的な根管)が存在する場合があり、そこに感染が残っていると痛みの原因となります。
  • 感染の再発: 治療中に細菌が再侵入したり、詰め物の精度が不十分で細菌が侵入したりすることで、感染が再発し痛みが生じることがあります。
  • 治療後の刺激: 根管治療によって根の先端の組織が一時的に炎症を起こし、数日間痛むこともあります。

対処法

  • 歯科医院での再診察: 根管治療後に痛みが続く場合は、必ず歯科医院を受診し、レントゲン検査やCT検査などで詳しく診てもらいましょう。
  • 再根管治療: 残存する感染源や未発見の根管が原因であると診断された場合、**再根管治療(さいこんかんちりょう)**が必要になります。これは、以前の根管治療をやり直し、感染源を徹底的に除去する治療です。
  • 外科的歯内療法: 再根管治療でも改善しない場合や、根の先端に大きな病変がある場合は、外科的に根の先端を切除し、感染源を取り除く処置が必要になることもあります。

歯科医院への受診目安

  • 根管治療後も痛みが続く: 治療後数日経っても痛みが改善しない、または悪化する。
  • 根元がズキズキ痛む: 歯の根のあたりに持続的な痛みや圧痛がある。
  • 歯茎が腫れている: 感染が根の周囲の骨や歯茎に広がっている可能性があります。

根管治療後の痛みは、放置すると感染が拡大し、最終的に抜歯につながる可能性もあります。早急な対応が求められます。


むし歯治療後の痛みの持続期間と受診の判断基準

むし歯治療後の痛みは、その原因によって持続期間が異なります。

  • 一時的な敏感さや軽度な炎症: 2〜3日で落ち着くことが多いです。麻酔が切れた後の痛みや、治療による一時的な刺激によるものであれば、この期間で改善が見られるでしょう。
  • 金属の詰め物による刺激: こちらも2〜3日で慣れてくることが多いですが、個人差があります。
  • 神経の炎症(歯髄炎)や根管治療後の痛み: 1週間以上続くことが多く、痛みが悪化したり、持続的にズキズキとした痛みがある場合は、歯科医院への再受診が必要です。

歯科医院に再受診すべき具体的な状況

以下のいずれかの症状が見られる場合は、できるだけ早く歯科医院に連絡し、診察を受けることを強くおすすめします。

  1. 痛みが悪化している: 治療直後よりも痛みが強くなっている、または耐えられないほどの痛みがある。
  2. 痛みが1週間以上続く: 2〜3日程度の軽度な痛みであれば様子を見ても良いですが、1週間経っても痛みが引かない、または変わらない場合は、何らかの問題が起きている可能性があります。
  3. ズキズキと脈打つような痛みがある: 特に夜間や横になった時に強くなる場合、神経の炎症が強く疑われます。
  4. 冷たいものだけでなく、熱いものにもしみる: 熱いものがしみる場合は、神経の炎症が進行している可能性が高いです。
  5. 何もしなくても痛い(自発痛がある): 噛んだ時だけでなく、何もしなくても痛みがある場合は、神経に強い炎症が起きているサインです。
  6. 顔や歯茎が腫れてきた: 感染が周囲の組織に広がっている可能性があります。
  7. 噛み合わせに強い違和感がある、噛むと痛い: 詰め物の高さが合っていない可能性が高いです。
  8. 発熱を伴う痛み: 感染が全身に影響を及ぼしている可能性があります。

痛み止めを服用してもいい?

一時的な痛みを和らげるために、市販の鎮痛剤を服用することは問題ありません。しかし、それはあくまで対症療法であり、根本的な治療にはなりません。痛み止めを飲んで痛みが和らいだからといって、歯科医院への受診を先延ばしにすることは避けましょう。痛みが続く場合は、必ず歯科医師に相談してください。


むし歯治療後の痛みを防ぐための予防策

むし歯治療後の痛みを完全に防ぐことは難しい場合もありますが、リスクを減らすためのいくつかの予防策があります。

  1. 適切な歯科医院選び: 経験豊富な歯科医師がいる歯科医院を選ぶことが重要です。精密な診断と丁寧な治療は、治療後の痛みのリスクを軽減します。
  2. 治療前の十分な説明: 治療内容やリスク、治療後に起こりうる症状について、事前に歯科医師からしっかり説明を受けましょう。疑問点は遠慮なく質問し、納得した上で治療に臨むことが大切です。
  3. 治療後の指示に従う: 歯科医師から指示された注意事項(食事制限、歯磨きの方法など)をしっかり守りましょう。
  4. 定期的な歯科検診: むし歯が小さいうちに発見・治療することで、神経にまで達する深いむし歯になるのを防ぎ、治療後の痛みのリスクを大幅に減らすことができます。定期検診は、むし歯の再発予防にも繋がります。
  5. 適切な口腔ケア: 日々の丁寧な歯磨き、フロスや歯間ブラシの使用、デンタルリンスの活用など、適切な口腔ケアを継続することで、むし歯の予防、ひいては治療後の痛みのリスク低減につながります。

まとめ

むし歯治療後に痛みがある場合、その原因は様々です。一時的な神経の敏感さであれば心配いりませんが、神経の炎症や感染、詰め物の不具合などが原因であれば、追加の治療が必要になることもあります。

大切なのは、痛みの種類、程度、持続期間をよく観察し、不安を感じたらすぐに歯科医院に相談することです。自己判断で様子を見すぎると、症状が悪化し、より複雑な治療が必要になるケースもあります。

あなたの歯の健康を守るためにも、少しでも気になる症状があれば、かかりつけの歯科医師に相談し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。

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